mustと「『した』に違い『なかった』」
英語の助動詞「must」には、「~しなければならない」という義務の意味の他に、「~するにちがいない」という推測の意味もあります。
そして、それぞれの意味で、過去形の作り方が異なります。
「must」は昔はこの形が過去形として使われていたのを後に現在形として使うようになったため、「must」には「musted」のような形がありません。そのため、過去を表すには他の助動詞の助けを借りる必要があります。
「~しなければならかった」の場合は「have to」を使って「had to」、
「~したにちがいない」の場合は「must have+過去分詞」の形を取ります。
今回取り上げたいのは、mustの2つ目の意味「~するに違いない」です。
今、「過去形」と書いてしまいましたが、厳密に「~したにちがいない」という日本語を見ると、この表現は2つの要素から成っていることが分かります。
まず、「~した」の部分。つまり、動作の部分。ここは過去になっています。
そして、「~ちがいない」の部分。ここは話し手の推測の部分で、こちらは現在になっています。
つまり、
He must be scared.
(彼は怖がっているに違いない)
この文を「過去形」にすると、
He must have been scared.
(彼は怖がっていたに違いない)
のように、過去になるのは「怖がっている」の部分だけで、
「違いない」の部分は現在のままになるわけです。
現在の時点から、過去に起きたはずのことを推測しているのです。
では、ここで疑問が生まれます。
例えば小説など、地の文全体が過去形で書かれている場合、
「過去の時点から、それ以前に起きたはずのことを推測する」には
どうやって表現すれば良いのでしょうか?
要は、
「彼は怖がっていたに違いなかった」
という日本語に相当する英語はどのように作れるか? です。
実は、正解は
He must have been scared.
なのです。
つまり「同じ」。
考えてみると、確かにこれ以上形を変えようにもネタ切れなんです。
「must」自体には過去形がなく、「have to」には「~に違いない」の意味がなく、「have+過去分詞」は既に使ってしまっています。
もっとも、「過去のある時点からそれ以前に起きたはずのことを推測する」という状況は小説などの場面を除くとそこまで多くないかもしれません。
ですが、小説を読んでいる時に、ふと急に「must have…」という文が出てきたときは、これは「~したに違いなかった」の意味だということを押さえておけば、モヤモヤしないのではないかと思います。
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