欧米に知れ渡ることとなったドイツ鉄道の遅延
上の写真は、私が先日フランクフルト中央駅で撮ったものです。
一番右に白帯に青字で表示されている列車が遅延列車、そしてその1つ左の白帯に青地で表示されているものが、到着ホームに変更があった列車です。
ドイツ鉄道(DB)と遅延。
ドイツにいらしたことのある方であれば、周知の事実ではないでしょうか?
それが、現在ドイツで開催中のサッカー欧州選手権を機に、ドイツ鉄道の惨状がドイツ国境を超えて、はるか大西洋の向こうのアメリカにまで知れ渡ることになったようです。
ファンの中だけでなく有名人の中にも電車の遅延や運休のために試合に間に合わなかった人がいたそうです。フィリップ・ラーム元サッカー・ドイツ代表選手のもその1人だった模様。
あまりの混乱ぶりに、電車を諦めて徒歩でスタジアムまで移動した人もいたようです。
ドイツ鉄道は、お客さんの期待を裏切ることを、決して裏切りません。
いつも予想の斜め上を飛び、変わらぬ日常にスリルを与えてくれます。
5分遅れかな?と思ったら、そもそも列車が運休。
目的地は終着駅だから遅れても安心・・・と思ったら、突然の行先変更。
指定席なんて取るもんじゃありません。
指定席のある号車がなかったらどうするんですか?
一方で、遅延に対する期待にはちゃんと応えてくれる、乗客思いのところもあります。
少々電車の出発時間に遅れそうになっても、「多分遅延しているだろう」と思ったら「ちゃんと」遅れている。
列車が遅れていて接続列車に間に合うかひやひやしたけれど、「案の定」接続列車も遅れていたので間に合った。
遅れて職場についても、「DBのせいで」と言えば納得してもらえる。
信頼と実績の遅延があればこそ。
DB、いつも遅延してくれてありがとう。
・・・そのため、私は日本に帰る旅行計画を立てるとき、ついつい一本か二本予定より早い列車を予約してしまおうとしてしまいます。
時間通りに着くということが信じられないし、5分乗り換えなんてまず無理だとはなから諦めているためです。
ドイツで暮らしていると徐々に慣れてくる(諦めがつく)のですが、欧州選手権のような一大イベントのために一時的にドイツを訪れる人からすると、たまったものではないです。
上のニューヨークタイムズの記事にもこう書かれています。
別にヨーロッパ全体が日本より酷いわけではありません。
お隣の国スイスでは、2023年の定時運行率は「92.5%」でした。
しかも、「遅延」の定義がスイスでは「定時から3分以上の遅れ」なのです。それでこの成績は本当に素晴らしい。
対するドイツ鉄道はと言うと、2024年5月の成績はこんな感じ。
注目すべきは右2つの数字。一番右は長距離列車の定時運行率で、わずか「63.1%」。しかもドイツ鉄道の「遅延」の定義は「定時から6分以上の遅れ」ですので、スイス基準に直すと成績は更に悲惨なものとなるでしょう。
右から2つ目は「乗客の定時到着率」。お客さんの多くは乗り換えをするので、乗客が自分の目的地まで定時でたどり着けたかどうかを示す率です。
これも「68.9%」と悲惨な数字ですが、更に追い討ちをかけるのが「定時到着」の定義。なんと「定時から14分59分以内」であれば「定時到着」と見なされるのです。
更に先月(2024年6月)には、長距離列車の定時運行率は「55%」にまで落ち込んだようです。
「ビルト」紙では「52.5%」という数字も出ています。
要するに悲惨ということです。
長距離列車の約2本に1本が遅延。
「定時性」は鉄道が他の輸送機関に対して持つ長所の1つのはずですが、
この惨状は目も当てられません。
なお、ドイツ鉄道は「定時運行70%」を目標にしています。
目標を達成したところでスイスには全く届かないのです。
なお、スイスの遅延の多くは「外国からの列車の遅延」だそうです。
きっとドイツなんだろうなあ。
理由は色々と言われています。長年にわたり鉄道に充分な投資がなされてこなかったこと、人員不足、貨物列車・長距離列車・近郊列車が同じ路線を共有していることなどです。
確かに、ドイツと言えば世界有数の自動車大手の名前がいくつも挙がるくらいの自動車大国ですし、これまでドイツ政府が線路ではなく道路に投資をしてきたのはある意味自然なことと言えます。
ただ、気候変動対策を考えると、これからは「エコな輸送手段」である鉄道に更に投資をすべきですが、今のドイツ鉄道にはとても気候変動対策の旗手を担う力があるとは思えません。
ドイツ鉄道は資金難により、今後更に一部の区間で長距離列車の運行を減らしていくようです。もともと不便な鉄道が更に不便になる…。
でも、今回の欧州選手権で「ドイツ鉄道の遅延」はドイツ在住者だけでなく欧米の多くの人にも周知の事実になったわけですから、DBは開き直ってマイペースに目標に取り組んでいくのもありかもしれませんね。
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