【英語】仮定法なんてなかったら(2)
仮定法の話は何度も記事にしているので、流石にそろそろ終わりにしようと思います。
学校英語では、「直説法」(直「接」法ではない)という言葉を学ばないのに、「仮定法」という言葉だけが急に出てきます。
「法」とは、大雑把に言えば、「動詞の活用形」のことです。
「直説法」と「仮定法」は対立概念と言っても過言ではないのに、学ぶのは何故か難しいほうだけ。
しかも、学ぶ割に、この用語には学習面での意味があまりありません。
「仮定法」という言葉を使わなくても、学ぶべき表現は説明できるからです。
「法」は、英語の「ムード」を訳した文法用語です。「方法」という意味はなく、「話し手の、自分の発言内容に対する態度」のことです。
主な基準は、次の2つ。
話し手が、自分の言うことの中身が事実だと思っているのか、
事実ではないと思っているのか。
ざっと、前者が「直説法」、後者が「仮定法」となります。
「私はお金持ちだ」(I "am" rich)は、話し手(私)は自分が金持ちであることが事実だと思った発言です。
「私がお金持ちならなあ」(I wish I "were" rich) は、話し手(私)が自分が金持ちであることは事実ではないと思った発言です。
この「事実」は、あくまで話し手の主観に基づくもので、客観的基準である必要はありません。億万長者が「金持ちだったらなあ」と言ってもOK。
で、日本語だと「ならなあ」といったフレーズを文末に付けるのですが、
英語を始め欧米の言語の多くは、動詞の形を変えて表現するんです。
これが「直説法」「仮定法」と言われるもの。
ところが、厄介なことに、英語では動詞の活用がかなり退化してしまったせいで、「直説法」と「仮定法」の区別がほぼつかなくなりました。
「have」の直説法過去形は「had」。
「have」の仮定法過去も「had」。
しかも、仮定法なんて面倒だから直説法に置き換えてしまおう、という単純化の動きは更に進む一方です。
そのため、欧米の教本には、もはや仮定法過去を「仮定法」という言葉を使わずに説明するものもあります。
いわゆる「反実仮想」には「動詞の過去形(過去完了形)」を使う。
後は、便宜的に、それっぽい理由をつけて、学習者を納得させればOK。
曰く、現実から距離を取るために、時制を1つ昔にずらすのだと。
僕からするとあまり腑に落ちない説明ですが、便宜上なら仕方ない。
文法の勉強の目的は、真実を知ることではなく、使いこなせるようになることです。
それに、形がそっくりなんですから、正直、ネイティブだってどこまで「直説法」と「仮定法」を意識しているか怪しいものです。
一方で、もう1つの仮定法があることをご存じでしょうか?
日常的にも使用頻度が増えている、異様な形の「仮定法現在」です。
●They demanded that he not come to the conference as well.
●The international community requests that the population be protected from bombardments.
仮定法過去が現在を意味するのなら、仮定法現在は未来を意味するのか?
そうではありません。上の文の「demanded」は過去形ですよね。
時制という概念を超越しています。現在ですらありません。
しかも、「現在」と言いながら、使われる動詞の形は、動詞の原形です。
「仮定法現在」と「仮定法過去」は、用法からして全くの別物です。
この2つを「現在」「過去」という紛らわしい名前で呼ぶと、一層混乱を招くだけです。
ちなみに仮定法現在は近年、特にアメリカ英語でむしろ使用頻度が増えているらしく、アメリカ英語の影響でイギリス英語でも使用が再び増えてきているそうです。
そのため、欧米の文法書でも、仮定法過去は抹消されても、仮定法現在には「仮定法(subjunctive)」という別の章が設けられるくらいです。
ただ、個人的には、これさえも別に「仮定法」という言葉を使わずに学ぶことができると思います。
動詞の原形の用法にまとめてしまうのも手だと思います。
「仮定法」には「叙想法」という美しい別名があり、それを推す向きもあるようですが、
用語の名付け方どうこうより、僕としては、英語でわざわざ「仮定法」「直説法」なんて概念を学ぶ必要はないと思っています。
1つ前の記事にも書きましたが、英文法は何故か難しく説明されてしまう気がします。どうしてなんでしょう…。
僕がドイツ語やフランス語を学んだ時は、複雑で覚えることは英語よりずっとたくさんあって大変でしたが、「腑に落ちない」ということは英語よりも少なかったです。
複雑というのは、説明が充分にされているということなのかもしれません。
この英文法の教え方、どうかなんないのかなと思いながら英語を勉強している毎日です。
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