一時間で書く お題 ボーイッシュ

 セミの鳴く声が、変わっていた。暑さを示すアブラゼミの声から、ヒグラシのものへ。

 その瞬間はわからないが、日差しの角度が、青色のバス停ベンチへ朱を落としていた。

「もう六時か」

 すこし野太い声。浅黒く日焼けをした腕で、シャツを仰いで風を送っている。空いた手には、水色のアイスが握られていた。

「まだ明るいじゃんね」

 老朽化した板屋根がかろうじて作った日陰にもう一人。
少年と同じアイス――二つ割りだったものの片割れを持った少女がいる。

 短めにそろえた髪と、日に焼けた肌は、まるで彼と同世代の少年のようにも見える。しかしはっきりと『少女』とわかるのは、彼女が学校指定のスカートを履いているからだろうか。

「あっちぃ……」

 彼女は、真似するようにシャツを開けて仰いだ。
そこから覗く焼けていない白い肌を、少年は直視できない。

――できなくなったのはいつ頃からだったのか。

「何で立ってんの。座れば?」

「……おお」

 腰を下ろし、プラスチックのベンチに手を置いた時――。
少年の小指に、何かが触れた。それが、彼女のどの指か確認する間もなく、指をずらす。

 ヒグラシの鳴き声が、強くなった。

「手……」

「いや、わりぃ」

 咄嗟に謝る少年の手――アイスを持つ左手を少女が指さした。

「……溶けてるけど」

 言われ、気づく。その手には、水色の雫がついていた。慌てて舌で迎える。

「……わりーって何?」

「いや……」

 アイスを歯で削る音が、虫の声と重なった。

「謝んなよな」

 そう小さくつぶやいたのを、少年は気づいていたのか。

 赤く染まったベンチには、バスはまだ来ない。

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