映画「きっと、うまくいく」感想:3バカの4人目もいい味出てる。
映画「きっと、うまくいく」原題「3 Idiots」の感想。
とりあえず先に言っておくと、この映画は大傑作でした。
コメディ寄りヒューマンドラマ作品としては、僕の中で最高は
「最高の人生の見つけ方」というのは不動ながらも
次点についてくるだろうと思えるほどの、素晴らしい作品です。
そんな映画の感想文。
未見を損なわない程度のネタバレあり。
あらすじ
本作の舞台であるインド、でインド人の青年、ファルハーンとラージューは
「3 Idiots (3バカ)」の示す通り、3人目の親友である
ランチョーが帰ってきたという報告を、かつての学友である
すげぇスカシっ屁をたれることからサイレンサーと不名誉なあだ名を持つ
チャトルから受け、かつて全員が通っていた、エンジニアの大学へ急行
しかしそこに、ランチョーの姿はなく、居たのはサイレンサーのみ。
サイレンサーは、10年前にランチョーとした約束を果たすために
ランチョーを見つけ出し、3人でランチョーに会いに行くと話します。
その道すがら、全員がまだ大学生だった10年前、ランチョーという
青年の武勇伝を思い返すところから始まります。
さてそんなこんなで、まず第一のポイントに、この時代
映画が公開されたのが2009年、を現代として、10年前、1999年頃のインドが
主舞台になるわけですが、インドでは自殺者数が増加している問題や
社会的に高度成長を迎えている頃で、男はエンジニア、女は医者になる
それが名誉で、生まれてすぐ「お前はエンジニアにするぞ!」と親が
期待を込めて、子供の将来を決めてしまうことが、割と普通にある時代。
主人公のひとりファルハーンも、その一人です。
エンジニアではない夢を持っていますが、それを言い出せず
エンジニアの名門大学に進学し、しかしそこでも本気になれず常に成績下位
もうひとり家が貧乏だけどエンジニアとして仕事に就けば家族を助けられる
と考えている青年ラージュー、彼は優秀ではあるものの気が弱く
大きな声で意見を出せない部分が災いして、同じく成績は伸び悩んでいる。
そこへ現れたのが、同じ大学に入学してきた青年、10年後に皆が会いたがっている破天荒な天才型青年、ランチョーです。
ランチョーは自由な発想を持っていて
ただ暗記するだけの授業、既知のことに捕らわれ、新しい発想を
阻害する、頭の固い老人の教師。
これらのものをとても嫌っていて、常に苦言を呈しています。
同級生で優等生の、すかし屁が臭すぎる青年、チャトルは
何でも丸暗記、頭がいいフリをしていれば勝ち組になれると考えており
そんなランチョーが気に入りません。
また学長も厳格な人間で、自分の教育方針が絶対だと考えており
同じくランチョーを嫌っています。
この二人が基本的には「3バカ」である主人公3人組と敵対する
「敵キャラ」になっていくわけですが、そんな最中事件が起きます。
現実すぎる社会
学長に留年を言い渡されたとある青年。
彼はエンジニアとして最短で卒業出来なければ人生が終わってしまう
そこまで深刻に考えています。
でもおそらくこの時代のアジアってそうだったんでしょうね。
日本でも浪人生の自殺が多発した時代もあったように
学歴、職歴が全てイコールだった時代がありました。
彼は、自由な発想で新しいことに熱心でしたが
学長はそんな彼に対して「そんなくだらない研究をやめろ」と言い渡し
留年を宣告、本人の目の前で父親に「おたくの息子さんはダメ」とまで
言い放ってしまう始末。
そして、そんな彼は、学内で自殺します。
しかしこの問題は、苦学生のストレスによる自殺だと考えられていて
学長も「あー、疲れてたんだな」くらいにしか捉えていませんでしたが
ランチョーだけは、この問題に「これは他殺と同じだ」と学長に言い放ち
教育の在り方について再度問うて行きます。
また、ラージューの家はとても貧乏で、父親を病院に連れていくことすら
出来ません、お金がないため、姉も婚約者がありながら結婚することが出来ません、この問題については、ラージューが大人になるまで解決されません。というよりは、当然出来ません。
この作品は、そういった現実の過酷さを、隠さずに描くので
そういった、リアルさ、それがまた一つの魅力になってきます。
人が人の精神を犯せることを理解しているランチョーと
自己責任で、己の弱さが問題だとしているチャトルと学長
この二人が基本的には「3バカ」である主人公3人組と敵対する
「敵キャラ」になっていくわけですが、この作品の魅力は
相反する立場ながら、ランチョーは彼らにも影響を与えて行くこと。
全ての人間が成長できる物語
ランチョーの破天荒さは、友人である二人
親に反抗できず、エンジニアになりたくないと言えないファルハーン
優秀な自分に自信を持てず、素直になれないラージュー
この二人に多大な影響を与え、親友になります。
しかしながら、同時に初孫を迎える時期にあり、初老の学長
全てを丸暗記でクリアしてきた、サイレンサーのチャトルなど
本来相反する人間もランチョーに影響されていきます。
しかしながら、その影響は「ランチョーが言うことが正しい」
という流れではなく、ランチョーの行いから自分の行いを鑑みて
「自分で成長してく」という部分。
ランチョーが成長させているのではなく、彼を見て成長していく。
この物語のすごいところは、近くにいる友人だけではなく
完全に理解しあうことが結局10年後も出来ていない同級生チャトルや
ランチョーの何倍も歳を取っていて頭の固い初老の男性である学長。
どんな人間も、成長したいと思わされる出来事があれば成長できる。
それをテーマにしていることが、すごく良いんです。
きっと、うまくいく(All is well.)
邦題になっている「きっと、うまくいく」はランチョーの口癖である
All is wellから来ています。
ランチョーも人間です、破天荒で、自由を愛していても、不安になるときがあり、そのときは決まって自分にこの言葉を言い聞かせて行動に移します。
そしてこの言葉自体を唱えることは無いものの
成長した人間たちの行動自体にこの言葉が見え隠れします。
頭の固い老人も、子供の教育に失敗した父親も、丸暗記で勝てないと知った同級生も、勉強をしたことがない使用人の少年も。
この言葉が意味する、勇気を出して一歩を踏み出す。
上手く行かないかも、後悔するかも、最悪死ぬかも、そういう不安を全て
ひとまとめに、難しいことを考えずに「きっと、うまくいく」
死を選んでしまった青年も死を選ぶ前に唱えていれば。
その気持さえあれば、新しい成長はかならず訪れる。
そういう、自分を強くすることが出来る言葉。
ファルハーン化ラージュー現象。
原題では3バカ、であり、3バカが小さい世界に大きな影響を与えた。と
そういう内容を意図してるんじゃないかと思いますが
ここまで書いてきたように、主題は「誰でも成長できる。」ということ。
特に日本人にとっては、この言葉のほうが効くと思ってこの邦題に
したんだと思いますが、これはほんとに良い案だと思います。
一歩前に出るの苦手ですからね、みんな。
3バカの4人目
そんなこんなで、成長の物語を描きながら、10年後の現代でも
ランチョーに会いに行く物語が進行していきます。
なかでも、すかし屁が臭い優等生チャトルは、富を築いており
自分のやり方が正しかった、丸暗記で上り詰めた。
これでランチョーを否定できると考えているため
会いに行って自慢したいだけで行動しています。ようするにスネ夫。
彼がまた重要なキャラなんですね。
友人であるファルハーンとラージューは感化され
自分を変えることで成長しましたが
チャトルは最後まで自分のやり方を貫くことで成長しました。
この物語で語りたいのは、天才がすごいという話ではなく
全員が「きっと、うまくいく」精神を持っていれば成長できるということ。
だからこそ、この「俺のやり方で上手くやる」で実際に
自分を変えたファルハーンとラージューには確実に勝っている
勝っている、とは富の話で、本人たちは負けてないと思ってると思いますが
チャトル本人が金で勝ってれば勝ちだと思ってれば勝ちでいいんです。
こういった、正解の成長方法は1つではない。
インドの教育方針は褒められたものではない。
だが、その教育から学び成長できるものもいる。
それを体現したキャラクターが、3バカにならなかった4人目
すかし屁がもの凄く臭いからサイレンサーってあだ名がついた男チャトル
僕はこのキャラ結構好きです。
おわり
というわけで、感想文を終わりますが
インド映画ということもあり、ミュージカル調でダンスを踊ったり
ちょっと行き過ぎのブラックジョークもあり。
単なる娯楽作品としてもバランスの非常に良い本作。
伏線はりからの回収も非常に丁寧。
ちなみに僕の一番好きなシーンは、パソコンを返してこい
パソコンの値段で、買えるか?足りなかった言いなさい。です。
興味を持った方は是非、チャトルとランチョーの勝負の行方を
自分の目で確かめてみてください。
オチもあまりに美しいので。
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