初恋



隣の席の斜め前、君の横顔を見ながら似顔絵を描いている。別に絵が上手いわけじゃない。何日かしたら描いたことも忘れちゃうだろう。でも無性に君を描きたくなった。

頭の中では君をストリーミングしていて、いつでも好きなところから君のたくさんの表情を引き出せるのに、全然似てない。何度も描いて何度も消して。



今、君を見ているこの時間も、脳内に取り込んでいると思うと、言葉では上手く表せない感情になる。もっと君を知りたいし、知りたくない部分だったりもあるかもしれない。こんな気持ちは生まれて初めてだ。


ふと、隣の席の吉崎と目があった。昨日パーマをかけたらしく、一日中整髪料とパーマかけたての髪をいじくってる。机の上にはGATSBYと筆箱しか置いてない。眉毛だけ上に動かして、「どうした?」みたいな顔をしてきたが鬼のスルー。

そこで吉崎の似顔絵を、描いてみた。ほぼ消す事なく上手く描けた。特徴も掴みパーマかけたての髪も描いてやった。

君の似顔絵はあんなに苦労してるのに。吉崎にイラッとした。

気を取り直して君をまた描き直す。描いている時に不思議に思ったことがある。

ふと何もない時に君を思い出す時があるのはなんでだろう。朝起きて顔を洗ってるときや、靴を選んでる時、学校に着く少し前の駅、スーパーでお使いを頼まれた時や、友達とめちゃくちゃ遊んでて爆笑してるのに脳にカットインで思い出す。

その時はとてもとても嬉しい気持ちになる。そして単純に元気になる。みぞおちの辺りから全身にかけて身も心も軽くなる。君のどんな表情でもだ。喜怒哀楽全てが僕を元気にしてくれる。

また吉崎と目があった。一つ前の授業が体育でバスケだったが「吉崎」こいつは、なめたプレーばっかしやがってた。難しいプレーばかりを選択し、ノールックパスやダブルクラッチ、バックビハインドパスみたいなやつばっかしてた。下手なのに。テニス部なのに。

さらには疲れたところを見せたくないのか口を閉じたまま息を整えるタイプのやつ。

じっと見つめあって話掛けてこようとしたところで前を見てまた鬼のスルーをかます。

また君に視線を戻す。どんな音楽が好きなんだろう。思春期で音楽の話でお喋りするのはとてもイージーでキッカケを作りやすい。

まして君を想い出した時、そんな時に掛かっている音楽ってなんだか耳にスッと入ってきて君のテーマソングになってしまう。どんな音楽でも馴染んでしまうのはなぜなんだろう。激しいパンクでもそれこそ優しいバラードだったり。

まるで、この音楽を一緒に聞いていたような気持ちになる。曲で悲しい気持ちも、高揚する気持ちも同じなのかなーと思ってしまう。

でもそんな気持ちは隠したくて、バレてしまいそうだし、話合わせてるって思われたくないし。結局何も進展もない話で終わってしまう。何故かうまく話せない。たかが音楽の話なのに。

吉崎はバックストリートボーイズが好きって言ってたな。

吉崎が飽きたのか寝ようとして机を前にずらした。

「あ、吉崎。寝ないで。」

「え、、なんで?」

「いや、ちょっと邪魔なんだよね」

「!?、邪魔!?」

「うん。ごめん。寝ないで。」

「お、おう。」

こんなにも吉崎には気持ちを伝えられるのに。君がたまたま隣にいるだけでも、とてつもない信頼と安心感はどこからきてるのかな。気持ちを伝えるにはどういう言葉が合ってるのか。考えても難しくて。

「好き」って言葉は軽くて。

「愛してる」は嘘っぽくて。

何が1番伝わるのだろう。

「おれ、今、君に恋してます。」


「吉崎、吉崎、パーマいいじゃん。似合ってるよ」



※この物語はフィクションです。

※吉崎はノンフィクションです。

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