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YCAでの1年間について

序文


 最早隠すべくもないが、昨年5月からよしもとクリエイティブアカデミー(YCA)というところに通っていた。そろそろ検討しだす人もいるのかなと思ったので、少し早いがこの1年間にどんな生活を送っていたかをなるべく細かく書いてみようと思う。やや記憶にないところもあるのでその辺りは勘弁してほしいが、覚えている限りで引っ張り出してみる。

※この記事の初稿は2月末に上がっているが、3月以降の内容は後からちょこちょこ加筆されている。

前提


 大事なことなので先に書くが、そもそも私は週5勤務定時出勤みたいなガチガチの会社員ではなく、自分で申請した時間数に合わせて仕事を回してもらえるタイプのフリーランスで働いている。つまり、勤務時間の融通が非常に効く。これはどのくらい効くかというと、仕事はほぼ在宅だし、この1年間はYCAの授業がある日の作業時間を「3時間」で申請していたし、1週間前に申請を更新しておけば完全に休みにすることも可能だった。しかもこの作業時間を1日のどこに持ってくるかはこちらの裁量なので、昼間に出かけて夜は授業を受けて帰ってきてから作業、みたいなこともできる。勿論その分収入は減るが、一応貯蓄があったのと実家暮らしなので、緊迫した事態に陥ることはなかった。
 このように、言わば「金と時間に余裕がある」人間だからこそこのスクールを満喫できている、という側面は結構否定できないと思う。そもそも学費が総額50万円とかなりなものだし(これは母校大学の年間学費と変わらない)、研修という名目で行われる完全持ち出しでのイベント手伝いや、私が勝手に「社会人殺し」と呼んでいた「3日前くらいに突如持ち掛けられる平日の真昼間の稼働要請」なども結構あったので、そこをフォローできる金銭的・時間的余裕はあった方がいい。
 授業を受ける時間と課題を処理する時間が捻出できていれば最低限問題はないと思うが、学費の元を取ろうあわよくば骨までしゃぶってやろうという気持ちなら、急に言われても平日の日中を空けられるようなゆるゆるのスケジューリングをおすすめする。

YCA豆知識①
 YCA生はネックストラップをつけていないとアカデミーに入ることができない。最初はみんな様子を見ているが、徐々にこのネックストラップの裏面を推しのアイテムでデコり始め、今や携帯の背面くらい個性的になっている。


1年間の流れ


 1年間と言いつつ、私は遅れて入学したので昨年5月から今年3月にかけての話になるが、ざっくりとまとめてみる。授業は原則平日の19時から21時である(科目によってはよう伸びる)。
 なお、私が所属しているのは構成作家コースだが、同時に東京校ではリモートで開催されている脚本家コースの授業も受講していた。この2つのコースは「ライターコース」というひとつの枠の中に入っているので両方を受講することができるが、一部授業は脚本家コース生のみ受講可だったりするので、気になる場合は説明会などで確認するとよい(構成作家コース以外の生徒も申請すれば受講できる)。なお、基本的に脚本家コースの授業は月火、構成作家コースとコース共通の授業は水木金なので被ることは少ないが、特に9月までの間は平日の19時から21時がほぼフルで埋まる状態になるので注意したい。
(アーカイブ映像での受講も可能だが、質疑や課題の講評などリアルタイムでやり取りしたい内容が多いと思われるので、現地参加かオンラインでのリアルタイム参加がおすすめ。特に好きな先生の授業はなるべくリアルタイムがよいと思う。)

・4月……入学式、ガイダンス、コンプライアンス講義など。5月入学なので、後者2つに関してはアーカイブ映像を見るように言われた。

・5月……マナー講座、コミュニケーション講座など、ぼちぼち授業が始まる。各授業で自己紹介を求められ1年分名を名乗る。脚本家コースの授業もぼちぼち始まるが、まだ余裕がある。

・6月……実際にコーナー企画やYouTube用の動画を制作する講義が2つ同時進行で始まる。だが序盤なのでまだ余裕がある。脚本家コースでネタ台本の授業が始まり、初めて漫才を書く。
(ここから今日までで、他の授業や趣味も含めて漫才を5本とコントを1本書いた。クオリティを問わなければ書けるは書けるということが分かった、というのもひとつ収穫である。)

・7月……YouTube収録のひとつが月末にあり、それまでの講義の回数を数えて俄かに慌てだす。授業外でも打ち合わせを行ったりする。脚本家コースでは11月に行われる朗読劇の脚本づくりが本格化し始める。
(この月は何故か趣味で演劇の脚本を1本こさえていたので尚のこと忙しかった。またこの辺りで某劇場のスタッフ募集などがあり、エンタメ業界の入口に触れているらしいことを実感する。なお面接で落ちた。まだ納得していない。)

・8月……夏休みがあるが、次の収録が9月頭な上、10月の学祭で行うライブの準備が同時進行で始まるので気が気ではない。

・9月……月初に収録を終えるが、来月頭の学祭の準備で気が気ではない。学祭の告知やプロモーション用の撮影も行わねばならないが、かなりの高確率で「社会人殺し」だった。グループワークによるストレスで月末に一旦情緒が終わる。脚本家コースも授業科目が増え、当然課題も増える。
(この辺りから新喜劇を作る授業が本格化していたが、正直テレビで2、3回見たかどうかという程度のインプットしかなく、これは歯が立たないと思ってフェードアウトした。本番は3月にあるので関西圏の方は見に行ってはどうか)

・10月……学祭本番を乗り越え一段落。ここからコースごとに分かれての授業が始まり、週3からほぼ週2になる(脚本家コースと合わせると週3~4)。朗読劇の脚本もほぼほぼ脱稿し、短い期間だが余裕が出る。

・11月……構成作家コースでは番組の企画案を出す、漫才・コントのネタを書くなどの「これこれ~!」的な授業が始まる。月末に脚本家コースの朗読劇本番。脚本が上がってからは正直できることがなく、告知・プロモーションを考えつつ比較的余裕をもって迎えた。結構感動する。

・12月……書いたネタをNSCの現役生に実演してもらう、という座付き作家体験的な授業が本格化。1月のネタバトルに向けて授業外でもネタ合わせを行う。NSC生のアグレッシブな挨拶との温度差にビビる。比較的ゆったりした時期。

・1月……月末にネタバトル。個人的に声をかけてもらい、3月頭に行われるライブプロデューサーコースの卒業公演に作家として噛ませてもらう。急に8月の感じがパワーアップして戻ってくる。
(何故かこの月も趣味の脚本を1本書いていた。この脚本はそのまま脚本家コースの授業課題として提出したり、何人かの先生に個人的に頼んで見てもらったりしている。マジで凹むが凹んだ分タメになる。)

・2月……ネタバトルと同じチームで特技バトル。猶予が2週間しかなく大急ぎで仕上げる。同時にライブPコース卒業公演の台本のリテイクを何度も上げ、告知・プロモーションの「社会人殺し」案件を引き受けるがストレスがマッハになり案の定本番1週間前で派手に体調を崩した。ぼちぼち各科目の「最終講義」も出始め、卒業の予感がしてくる。
(この文章は2月末に台本のリテイクをほったらかして書いている。最悪だ。仕事をしてほしい。)

・3月……月初にライブPコースの卒業公演。終わるとすぐさま月末にある第2回ネタライブの打ち合わせが始まる、と身構える間もなく突如幕張の劇場で行われるライブの企画案が採用されメンタルのスケジュールが終わる。とはいえ順調にいけばこのまま卒業。

 ……と、おおよそこのような流れになる。整理すると、基本週3(私の場合は週5)の授業の合間に、グループワークごとの打ち合わせ、ライブの演者さんや技術さんとの打ち合わせ、会場下見、告知撮影、オープンスクールの聴講や特別授業、それに付随する企画提出、YouTube収録や外部イベント等へのスタッフとしての参加、各種コンペ、ライブの観覧などの募集が突如来る、という感じだった。
 こう見てみると基本的に毎日何かしらの〆切や集合時間に追われる生活を送っていたようだが、上に書いたスケジュールはかなりなんでもかんでもやろうとした人の例なのでそこまで怯える必要はないというか、だいぶ外れ値だと思うので他の人の証言も参考にしてほしい。恐らく相当イレギュラーな「クソ忙しい」人のスケジュールを皆さんは見ている。
 ただ、これらの「合間に来る募集」の数々もYCAというスクールの重要なコンテンツだと思うので、「働きながらでも通える」に関しては一旦疑念を向けておくのがいいと思う。2日前に「水曜11時にオンライン会議いける?」と言われて現在準備中であることを例として書き添えておく。こういうものに対応できる環境で挑むと上に書いたようなスケジュールを満喫することができるはずだ。

YCA豆知識②
 東京校は池袋サンシャインシティにあり、おなじみサンシャイン水族館や、YCAと同じフロアの古代オリエント博物館、展望台にプラネタリウムとその他さまざまな施設へのアクセスがある。が、集まる時間が時間過ぎてYCA生で遊びに行ったという話はほぼほぼ聞かない。


特筆すべき授業

・学祭

 昨年10月に開催されたYCAの学祭では、池袋の「あうるすぽっと」という劇場でライブを2本打った。どちらも芸人さん7組のネタとコーナーのライブである。
 ライブ本体の制作の流れで言うと、まず生徒全体を8つの班に分け、各班1つずつ10分尺のコーナーを考える。お笑いライブでやっている「合わせましょう」とか「ジェスチャーゲーム」とかそういう類いのものだ。分からない方は「バラエティ番組でやっているようなゲームをなるべく低予算で考える」みたいなことをやっていると思ってもらえればいいと思う。
 みんなで案を出し合い、実現性や面白さを加味しつつひとつに絞って、ルールや尺などを調整していく。客席から見えるか、舞台の広さは十分か、スタッフの人手は足りるか、プレイヤーはちゃんと「オイシイ」感じになるのか、みたいなところも考える。これは夏前に行っていたYouTube企画でも似たようなことをやっているので、ある意味では慣れた作業だ。ここで考えたコーナーのうち、1~4班のものが初日公演、5~8班のものが2日目の公演に組み込まれる。
 続いて、ライブのタイトル案を募集し、投票で2つに絞って各公演に割り当てる。
 そしてキャスティング。各班から5組程度の希望を出し、スケジュールOKな組から投票で選出する。ただ、コーナーの内容的に女性が必要とか、全体のバランス的にMCを務められる人が欲しいとかは当然出てくるので、そういう調整は後から行う。
 ライブが近づいてきたら会場の下見をする。コーナーを作る際に考えてはいるものの、実際に見てみると袖が狭くて大道具が置けないとか、プロジェクターが弱くて小さな文字が見えにくいとか、そういう問題は実際に確認しないと分からないのでここで得る情報量はめちゃくちゃ多い。
 これを踏まえて、台本、使用する画像・映像、音源などを揃える。権利関係は事務局に確認してもらう。
 そして本番当日。会場設営、楽屋準備、技術リハ、演者さんへの説明、演者さん込みでのリハなどを行い、本番中は舞台上の転換やカンペ出し、得点計算なども行う。終演したらお客様をお見送りして、撤収。この辺りは実際に経験してのお楽しみということで。

 学祭は1公演に50人近い生徒が関わるので、コーナーの担当以外の「班」も兼任で存在した。広告・プロモーション担当の班とか、学祭の場合は会場の前にホワイエがあったので、そこに置く装飾担当の班とか。他にもフライヤー(ライブのチラシ)のデザインとか、オープニングからエンディングまでの全体台本の作成とか、その辺りは代表の個人が請け負ったりしていた。プロモーション用の写真・動画撮影は各班で手が空いている人が行くなどして、結構細かく役割分担があったと思う。

 なお、ライブPコースの卒業公演ではこれらすべてを10人の班で担っている。えらいこっちゃである。

・構成作家コース卒業制作

 これは割とシンプルだ。まずネタを書く。先生に提出してコメントをもらう。このネタ台本を基に、YCA側で2~4人の作家チームが組まれる。このチームに対してというか、そのチームのメンバーが提出したものから先生がピックアップしたネタに対して相性のよさそうな現役NSC生と、この作家チームがタッグを組む。
 タッグを組んだら、全員でピックアップされたネタをブラッシュアップしていき、咄嗟に出たいいボケを組み込んだり、削ったり、演者さんの特性に合わせて台詞や身振りを調整したりして仕上げていく。そうして仕上がったものをネタバトルでぶつけ、観客投票で順位を決める。3月に予定されている次回は、メンバー内の別の作家が作ったネタで同じようにネタバトルをすることになる。

 これがまあ、よくも悪くも予想を裏切ってくる。
 いい意味で言うと、自分で書いている時には考えもしなかったボケや展開がチームメイトの口からわんさか出てくる。これが楽しい。そして、ネタ台本という文字列のかたちで見ていると「これ面白いのか……?」となることも結構しばしばなのだが、演者さんが動いてみると自分でもくすっと笑えたりして面白い。演者さんのほんのちょっとした仕草だけで格段に面白くなったりするので、芸人さんはやはり凄いんだなと思う。
 悪い意味で言うと、こんなにかと思うくらい台詞の意図が伝わらないことが多かった。ここちょっとつながりが分からない、この言葉知らないんだけど何、などなど。そして本番では自分が面白いと思ったところが全然ウケないという非常に心を折られる結果ともなった。逆に全く予期しないところで笑いが起こっていたのもよく分からないが、それについては一旦真面目に分析した方がいいんだろうと思う。ちなみにこの件を母に愚痴ったら「それもう自分でM-1出たら?」と言われた。なるほど。

 そしてこの授業を受けて結構劇的に変わったと思うのが、テレビやライブで芸人さんのネタを見る時の感覚だ。
 まず尋常じゃなく面白い。そらもうどう考えてもそうなのだが、本当に尋常じゃなく面白い。伝わる。まとまっている。テンポがいい。間がいい。そういう数多の「上手いなあ」が痛感される。
 と同時に、このボケはもう少し溜めてから言った方がウケるのではないかとか、このツッコミはお客さんが一旦考えてから笑っているから少し難しいのかもしれない、直前に何かフラグを立てたりできないだろうか、みたいなことが、極めてぼんやりとだが感じられるようになってきた。だからと言って偉そうに講釈を垂れたり、ましてやネタに口出しをしたいなどとは一切思っていないので特にどこかで言うこともないが、これはこれで面白い見方を手に入れたかもしれないなと思っている。
 なお、作家コースの卒業制作については昨年度と異なる内容になっているらしく、どうもその年の生徒の希望に合わせて変動するらしい。仮にこの記事を読んで入学を決めたとしても、同じ内容の卒業制作にはならない可能性があることをお断りしておく。

 ……というように、ここに挙げたのはたったふたつだが、他にも山ほどの個性的な授業がある。どれもここへ通わなければ受けられないものだし、自力でおいそれと手に入れられる知識や情報、経験でもないと思う。その他のおすすめの授業については他のYCA生もnote内で記事を書いていると思うので探してみてほしい。

YCA豆知識③
 構成作家コースは夏くらいからずっと「卒業したらどうするんですか?」とコース内外の人に訊かれ続けるが、結構多くの人がこの時期になっても首をかしげて「さあ……?」と言う。作家になりたいと言っても正直どこへ行ってどう仕事に繋げたらいいのか誰も知らない。なんなら先生方も自分が作家になったルート以外は知らないらしいので、生徒は余計に「さあ……?」としか言えない。


通ってみての所感

 ここまでも結構書いたが、ここからはかなり個人的な感想を述べていく。

⑴結構余裕がないと満喫できない
 これは「前提」の項からずっと書いているが、本当に金銭と時間に余裕がないと全コンテンツを享受することはできないと思う。仕事しながら、学校通いながらでも授業や課題はこなせると思うが、前述の「その合間に来る募集」までしゃぶりつくすのであればアドバンスのゆとりは必要なのではないか、という印象だ。

⑵というか満喫野郎がいないとギリギリなこともある
 特にライブやコーナーに関してだが、ライブに必要な動画の撮影なのに平日13時集合の「社会人殺し」案件、しかもギリギリで日程発表、みたいなことは結構あり、グループワークに真っ当な社会人と真面目な大学生しかいないと結構地獄を見る。そんな時に身軽なYCA満喫野郎がひとりいると便利だ。よく考えるとそういう存在がいないと回らないシステムになっているのはそれはそれで「アカデミー」としてどうなんだという気もしないではないが、これもまあ勉強なのだろう。
 その点では、逆に「社会人殺し」案件は結構貴重な経験であるにもかかわらず倍率が低い、と言うこともできる。満喫野郎になってそれらをコンプするのも乙である。

⑶理論は学べない
 これは非常に残念だったのだが、例えば漫才の構成の基礎とか、最初に何を持ってきてギミックにはどういう種類があってどう結ぶのが基本形なのか、或いはコーナーを考えるにあたってこういう内容は劇場から敬遠されるのでやめておけというような、そういう理論面は特に学べない。脚本家コースの授業については多少そういう創作理論的な話をしてもらえる一方、作家コースやその他コース共通の授業については多くのものが「取り敢えず書いてみな」スタートになる。しっかりロジックやルール、専門用語なんかについて教えてくれたのは台本の書き方の授業とYouTubeのチャンネル運用講座くらいかもしれない。
 正直入学時点で「フリオチは分かるけど二つめって何?」くらいの知識量だったのでその辺りも期待したのだが、特に解説はなかった(と思う。私がサボっただけだったら陳謝)。知ってて当然みたいな扱いなのだろうか。もしかするとお笑いにおいてはそういう面のルールやロジックが存在しないのかもしれない、とも思ったのだが、その辺りを解説している書籍があるにはあったので自分で読んで勉強した(注1)。
 或いはこの手の内容はNSCで教わるものだからそちらへ行けということなのかもしれないが、仮にも座付き作家を目指す人がいたりネタ作りを授業としてやったりするアカデミーならその辺りの概論くらいは取り扱ってくれてもいいのではないだろうか。もしくは参考文献リスト出してくれるとかしてほしいものだ。流石に大学過ぎか?

⑷実務も微妙に学べない
 先程学祭公演の作業内容について軽く書いたが、意外と肝心なところがブラックボックスである。例えば、「小道具や装飾、来場特典についてはなるべくコストを抑えて」という指示は来るのだが、具体的にいくらに収めればいいのか、どこまでなら使っていいのか、というのは明示されない。「告知もっと頑張って」とは言われるが、どこまでなら利用できるのか、どのメディアにいつまでに声をかければいくらで何ができるのか、ということは提示されない。「キャスティング考えて」とは言われるが、公演としてどのくらいの売り上げを見込めばよくて、キャスティングに割けるのがいくらで、普通こういう公演に出演してもらう場合のギャラはいくらになるのか、みたいな面は分からない。そういうところが全て事務局の中で処理されているので、本当に限られた部分しか学生の目からは観測できないのである。特にお金周りがもう本当に見えない。
 こちらとしても学費を払っていて、言ってしまえばその学費がライブの予算に化けているはずなのだから、それがどう使われているのかは知りたいし、予算会議というか決算報告というか、そういうかたちで「ライブにまつわるお金の動き」を学習する場があってもいいんじゃないかと思う。「正にそれを学びにきたのに!」と友人が憤慨していた。

⑸自主性がないと終わる
 上の「なんでそういうことを教えてくれないんだ」もそうかもしれないが、とにかくこちらから訊かないと情報が出てこないことが多い。授業自体も概論・基礎論ほぼなしでいきなり演習にブチ込まれている感が結構あり、且つ授業で分からなかったところを放っておくと永久に解決のチャンスがないので、可及的速やかに先生なり事務局なりに確認することがかなり大事になってくるような場だとは思う。逆に言うと、授業や募集以外でも「相談すると意外と対応してくれる」ことが結構多い。自分は高い学費を払っているんだ、という強い意志でなんでもかけあってみるのがいいと思う。
 これは語弊のある言い方になるかもしれないが、なんというか、「ここは教育機関ではないんだな」というのはしみじみと感じる今日この頃である。
 ライブ制作やネタ作家、番組制作企画などの第一線で活躍する人々が講師として招かれていて、そのことはもちろん歓迎すべきことだし、得られるものも非常に多いけれど、彼らは自分の仕事のエキスパートなのであって「それを他人に教えることのエキスパート」ではない、ということは常に覚えておくべきだと思う。これは文句や苦情ではなく当たり前の事実であり、向こうに教育スキルをつけさせろという話ではなく「自分から相手の経験や知識を吸収しに行く意識を持たないと中途半端になるぞ」という話でもある。大学の教授にも時々異常なくらい授業の上手い人がいたけれど、彼らの本分はあくまでも研究者であり、研究者という肩書が示すのは「自分の研究分野について膨大な知識を持っている」というところまでであって、その知識を他人に分け与えるのが上手いかどうかはまた全然別だ、というのと同じ構造の話である。
 という感じなので、養成所の名の通り実務経験や現場研修ではぐくまれるものは大いに養成するかと思うが、知識や情報を得て理解するという「学び」の側面においては結構ガンガンいかないと満足いく結果が得られない可能性はある。

⑹友達はできる
 これは間違いない。友達はできる。そもそもよしもとの(それも言わばわざわざNSC「じゃない方」の)養成所に入ってきている時点で同じ穴のなんとやらだし、大部分は何かしらお笑いが好きか芸人が好きかで入ってきているので会話のとっかかりも掴みやすい。その上で、お笑いや芸人の好みが人によって全然違うし、職業も志望も結構バラバラだし、年齢も10代から50代まで幅広くいるし、性格も結構様々で相当多様性がある。このメンバーからいくつも違う組み合わせでグループワークをやるので、自然と班の中で気が合う人が見つかるし、その班が解散した後も結構そのまま仲がいい(コースが分かれて物理的に顔を合わせなくなるなどはある)。
 こちらは少々タチの悪い話になるが、気の合う仲間との交友関係が広がれば自然と「要注意人物」の情報も入ってくるようになるので、これも結構馬鹿にできない。全く接触したことのないメンバーが揃ったグループに割り振られても、こんな感じと名簿を見せればひとりふたりは「この人は信用できる、仕事を任せていい」「この人はちょっと……」という事前情報が入ってくる。これがあるとないとではプロジェクトのスタートダッシュが相当違ってくると思う。そのためだけに全員と仲良くしろとは全く思わないけれど、気の合う仲間のそういった助言はかなりの高確率で的確であるということは言えるだろう。

(7)NSC生との絡みはほぼない
 我々の代は前述の卒業制作なり、もしくは卒業公演なり、あと先生方が気を回して色々とセッティングしてくださったりもしたので辛うじて数組の顔を覚える機会はあったが、実際に作家として組ませてもらおうとなると、自分からSNSをフォローするなりライブに通うなりしないと基本チャンスがない。タイミングによってはまさしく「群れ」といった感じのNSC生の集団に出会うこともできるが、そこで誰彼構わず声をかけていく度胸がないと特にチャンスにはならないと思う。
 同じくYDA、YPAといった他のよしもとアカデミーに関しても「通いさえすればコネができる」みたいなことは全くないので、そういうものを得たい場合は誰にでも突撃する心を持って通う必要がある。

⑻たのしい
 ぐだぐだと書いては見たが、結局非常にたのしい。上手くいかなかったり何事かむかついてたまらんなどという時には友人と飲み屋へ入って暴飲暴食するもまた一興である。なお私は入学してから明らかに暴食が目立つようになり結果1年で3キロほど太ったので暴れ過ぎには注意したほうがよい。今日も食べ過ぎているし夜更かししすぎている。こうなってはいけない。



注1:ノートを確認したところ、以下の文献を参考にしたらしいので書いておく。ご参考までに。

・西条みつとし『笑わせる技術』
 内容的にイージーなのでとっつきやすかった。どちらかというとコミュニケーションにおける笑いの話だが、普段何気なくする「笑い」が何によって引き起こされたものかを分析的に認知しようとする上での基礎固めとしては有効だと思う。

・井山弘幸『笑いの方程式』
 実際に大学で行われた講義を元にしているらしく非常に分析的で、研究書として面白かった。本当に学術書っぽいというか、端的に言うとかなり小難しい感じなのであまり実践的ではない。年代的に少し古いが、オンバトやボキャブラを筆頭に次々と芸人やネタの話が出てくるので知っているとちょいちょい「あれなー!」となれると思う。あと多分著者がラーメンズのファン。

・元祖爆笑王『漫才の教科書』
 その名の通り、漫才作りの心得からネタ作りの手順、ボケツッコミの種類などかなり実践的な情報が盛り沢山でこれも読み応えがある。漫才とは銘打ちつつ、広くネタを作る上で前提知識として知っておくとよさそうなことが結構含まれているので本当に「教科書」としておすすめ。こういう内容をネタ作りの授業の初手でやってほしいのだが。

・東京大学×吉本興業『最強の漫才』
 お笑いを分析する上でそういう視点もあるんだな、という面白さ。すんごいコストかかると思うけど将来「人間工学的にめっちゃウケやすくなる客席」とか出てきたりするのかな、みたいなドリームが広がる一冊。全体に面白いのだけど、NON STYLE石田さん、マヂカルラブリー野田さん、笑い飯哲夫さんそれぞれのロングインタビューが特に勉強になる。これは本当に相当勉強になる。台本の書き手だけでなく演者も勉強になると思うのでNSC行く方にもおすすめ。

・オール巨人『漫才論』
 凄い本。マジで凄い。決して実践的というわけではないし、研究書や教科書としての情報量があるわけでもないけれど、とにかく凄い。本の中で「漫才は間と息」という言葉が出てくるけれど正にこれの凄みで、この「間と息」が文面での言い回しにも生きていて、読んでいると本当に声で聞こえてくる。言葉というだけに留まらない「語り」のプロフェッショナルが書いた文だというのがビリビリ伝わってきて興奮するし、「この人のやる漫才を見てみたい……!!」と心底思った。ぜひ読んでほしい。

YCA豆知識④
 普段何かしら我慢している大人が多いのか、特に作家コースは「酔っ払ってからが本番」という人も多い(私調べ)。そういう人を酔っ払わせて眺めると結構楽しい。お酒はほどほどに。


総括


 以上、YCAでの1年間とそれに関する所感について書いた。嘘を書いたつもりはないが、そもそもの前提としてまあまあ変な人間が書いている文なので適宜読み流してほしい。
 昨年通りであればそろそろ相談会やオープンスクールも活発になる時期かと思うので、気になった方は足を運んでみてはいかがだろうか。とはいえ、私はそういうものを全部すっ飛ばして〆切ギリギリに突如出願し勢いでそのまま入学したが、特にそれで困ったこともないので、腹を括っているようであればそのように飛び込んでみるのもよいと思う。よきアカデミーライフを。

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