赤い胸像 [怪奇小品]
平生、町中の一軒に住んでいる私たち一家には、夏のひと月ふた月を、母方の祖父母がかつて暮らしていた田舎の洋館で過ごすという習わしがある。その田舎は谷底の川に沿って家々が点在するような村で、住民のほとんどは川漁と畑作とで暮らしを紡ぐ老人ばかり、旧来の慎ましい生活からか大方が信心深く、悪人は長生きせぬという句が戒めとして語られるほどであったが、実際その句を皆が体しているからだろう、沙汰という沙汰が起こらない長閑な土地柄が留められていた。祖父母はすでに他界していたが、残された洋館は