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【上海電力】橋下氏を問題にすることが悪手であると考える理由

今回は私の考えが中心にはなりますが、今回の一連の騒動について、少し議論を整理してみたいと思います。

上海電力問題で訴訟に発展か?

上海電力について大きなニュースが飛び込んできました。


なんと橋下氏が、訴訟するとのことです。対象は出版社とのことなので山口氏が直接訴えられるかは分からない状態ではあります。
番組内でその意向を語られていましたので、詳細は下記の番組にて
(私はAbemaの回し者では無いので見たくない人は見なくて結構です)

なお、本件訴訟は「侮辱罪」「名誉棄損」の2パターンがあると考えられ、後者の方が罪は重たいとされています。

ネットリテラシーの基本として、これらは大変重要なのですが、意外とこのあたりに無頓着で無邪気にネットをされている人をたくさん見かけます。
皆さんも、それから今後お子さんにネットを使わせる際にも、次の点は必ず知っておいた方がいいと思いますので、本論とは少し逸れますが、この点簡単に説明しておきます。知ってるよという方は読み飛ばしていただいて結構です。

侮辱罪とは

刑法第231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

非常に簡単にいうと、人前で「アホ」「ボケ」「カスなどと罵倒することです。「公然と」という文言があるため、かつてはこの法律が適用される場面は少なかったのではないかと思いますが、今はインターネットの時代です。Twitterでのつぶやきはまさに「公然と」発せられるものであるため、ここで誰かに対し、上記のような言葉をかければ侮辱罪に問われる可能性があります。
記憶に新しいのは、2020年4月「テラスハウス」という番組に出演されていた、木村花さんという方が、Twitter上で中傷されて自ら命を絶たれるという痛ましい事件がありました。具体的には報道ベースでは「死ねや、くそが」「きもい」「かす」「生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などという書き込みがあったとのことです。

しかしこの侮辱罪、これまでは刑罰が弱く(拘留(30日未満)か科料(1万円未満))、またかなり悪質なケースで無ければ起訴されるようなことも無く、これまでは事実上野放し状態でした。
さらにこの犯罪は刑法にかかるものですが「親告罪」と言って、被害者が訴えて初めて成立する犯罪であり、起訴されることが稀で、訴えても自身の訴訟コストの割に加害者のダメージが少なく、割に合わないことが問題となっていました。
この事件を受けて、先日の国会において「1年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」と厳罰化され、この夏くらいから施行される予定となっています。

名誉棄損とは

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

侮辱罪との最大の違いは「事実を摘示するか否か」と言えます。
事実の摘示とは聞きなれない言葉ですが、要は具体的に「事実」を挙げて人の名誉を傷つけることです。
例えば
「〇〇さんは不倫をしている」 「〇〇は泥棒をした犯罪者だ」
といった具合です。ここで重要なのは「事実」というのが真実か否かは関係無いという点です。不倫が嘘であれば言うまでも無くアウトですが、仮に本当に不倫をしていたとしてもそれを無暗やたらと公にして他人を中傷してはいけないのです。
名誉棄損は刑事事件となった場合、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」と非常に重たい罰則となっています。

しかし名誉棄損については、違法とならない例外があります。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

色々書いていますが、ざっくり言えば、「公共目的のためにきちんと真実であることを証明した場合」は名誉棄損になりませんよ、ということです。
例えば「〇〇議員が賄賂を受け取っている!」と言った場合を考えましょう。議員は皆さんの税金でご飯を食べている公職者です。「その人がどういった方なのか」という情報は選挙で選ぶ上で、皆さんにとって非常に重要なものです。
従って、「賄賂を受け取っていること」をきちんと証明すれば、それは名誉棄損に問われる可能性はかなり低いでしょう。

では、議員が賄賂を受け取っていなかったのに、証明はできないけどなんとなく怪しいので「〇〇議員が賄賂を受け取っている!」と発言した場合はどうなるでしょうか。
この場合は、それを言った人が賄賂の存在を信じてしまうのに仕方ない状況であったか否かがポイントになります。例えば

越後屋「〇〇先生、こちらが山吹色のお菓子でございます」
議員 「グヘへへ、お主も悪よのぉ」

とかいう光景を目撃したとしたとします。実際は本当に山吹色のお菓子(〇ーベラなど)を受け取っていただけ(それも厳密にはアウトかも知れませんが・・)だとしても、これは「やってるな」と思ってしまうのも一定仕方ないかもしれません。こういう場合はセーフになる可能性があります。
しかし、どう考えても一から創作したような作り話であれば、いかに公益目的だと主張してもアウトになってしまう可能性があります。


また、名誉棄損で注意したいのは「単純リツイート」です。
これまさに橋下氏が判例を出されたお話です。

過去に「橋下氏がパワハラで部下を自殺に追いやった」という趣旨のツイートをあるジャーナリストの方が単純リツイートされたところ、それが名誉棄損として認められたというものです。
これ、しっかり「事実を摘示」しており、元ツイートは言うまでもなく完全にアウトなのですが、なんと単純リツイートするだけでもアウトだというのが判例です。
こういったものを避けるためには、そもそも怪しい情報をリツイートしない、するとしても、せめて「引用リツイート」で自身の見解を付して書き込むようにする、など注意が必要でしょう。

なお、「いいね」については名誉棄損にはならないとされています。
(これも山口氏と民事等で紛争関係にあった方絡みの判例だというのが興味深いですね)


さて、中学生から学ぶネットリテラシー講座はこのあたりまでしておきます。

そのうえで先日私は、今回の上海電力の件について、次のようにツイートしました。

橋下氏が、侮辱罪の厳罰化に言及されたものを受け、「今回の上海電力騒動が名誉棄損になる可能性もあるかもしれませんね」という趣旨の発言です。

先ほどの名誉棄損の説明を踏まえると、例えば山口氏及び出版社の

日本人の知らないうちに音もなく上海電力が参入する「侵略スキーム」を作り上げた者こそ、2014年当時の橋下徹大阪市長である。

https://hanada-plus.jp/articles/1024?page=6

という発言が「グレーだなあ」というのがご理解いただけるかと思います。

ただし、上記で述べたとおり、橋下氏は当時公職者でした。山口氏や出版社の指摘が専ら公益目的であり、真実であると信じるべき正当な理由や根拠があるのであれば、山口氏や出版社の違法性は阻却されます。
もし仮に今回「名誉棄損」で争うとなれば、まさにこの点が争点となりそうです。


なお、侮辱罪で争われる可能性もありますが、そのあたり橋下氏も大概Twitter上で「上品な表現」をされていますので、このあたりがどうなるかといったところでしょうか。

橋下氏の上品なツイート例

なおこの点、氏は「やられたらやり返す」というストロング半沢スタイルを地で行かれているとのことですが、法律家として諸々分かった上でやるのと、一般人が真似するのは違います
個人的には我々一般人は氏の半沢スタイルを安易に真似するのもやめておいた方がいいかとは思います。変なのは即ブロックが一番でしょう。


なぜ上海電力問題はここまで拗れてしまったのか?

さて、訴訟にまで至りそうな上海電力騒動ですが、何故ここまで上海電力問題はややこしくなってしまったのでしょうか?私が考える理由を考察してみました。

議論は「橋下氏個人の政治関与問題」と「行政の手続き問題」に分けるべし


私が今回強調してお伝えしたいのは、「橋下氏が政治的に咲洲メガソーラーへ関与したのか」といった話と「行政手続きとしてどうだったのか」という論点は分けて考えないといけないということです。議論が混乱している最大の原因はここにあるのでは無いかと考えています。
本当にあれこれ問題点が提起されていますが、つまるところ上記の2パターンに分類されると思うのです。それぞれいくつか例を挙げます

【橋下氏個人の政治関与疑惑(例)】

  • 橋下氏が何らかの関与をして、特定事業者に有利になる形の咲洲メガソーラー事業を無理矢理進めた。

  • 橋下氏が上海の行政幹部と会合し、上海電力へ便宜を図った。

  • 橋下氏が入札において、特定事業者に便宜を図るよう指示を出した。

  • 橋下氏が当該事業を田中副市長に押し付けて自身は責任を逃れられるようにした。

例えば上記のようなことでしょう。ここまでハッキリ言いきっている言説はネット上でも少ないかも知れませんが、仮に山口氏が提唱した「橋下氏の闇」というものがあったとして、文脈等から論理的に考えると上記のようなプロセスが起こっていたと考えるのが自然ではないでしょうか。
なお、念のため断っておきますが、これらは当然私の主張ではありませんし、特定の人物がこれらを主張していたと私が断言するものでも無く、あくまで論理的帰結として導かれる「疑惑」を言語化したものです。

【行政手続きに関する疑義(例)】

  • 事業はなぜ始まったのか(副市長案件?)

  • 入札手続きは適正だったのか(期間、審査、公告など)

  • 契約は適切だったのか(履行確認など)

  • 上海電力が途中から参入するのは問題なかったのか


他にもいろいろあるかとは思いますが、概ねこういったところでしょう。要は行政上の手続きに瑕疵や不備があったのでは無いか?という話です。


上記は明確に異なるものです。これらを峻別せずに議論を進めるから、おかしな議論になってしまうのではないか、と私は思います。これらを順番に説明します。

【橋下氏個人の政治関与疑惑の場合】


これに関しては、仮に疑惑があるのであれば、絶対的に橋下氏に説明責任が生じます。なぜなら、これらは違法である疑義が濃厚であり、当事者であるのであれば当然に認知していたであろう話であるからです。
しかし、上記のような疑惑については、橋下氏がそのような行為に及んだという証拠は現在のところ何もありません。
したがって以前の記事でも述べましたが、「何かが無い」ことを橋下氏が証明することは不可能(悪魔の証明)なので、これらの「疑惑がある」という側がまずもって証拠を突き付ける必要があります。そのうえで橋下氏が弁明するというプロセスになるでしょう。
ちなみに、前後関係から「そのように見える」というだけでは証拠として全く不十分であり、この状態で橋下氏に説明しろと言うのは無理筋です。
橋下氏が知っているのに嘘をついていたのであれば別ですが、本当に橋下氏が何も知らないのであれば、説明しようが無いからです。
だからこそ、決定的な証拠をしっかり突き付けなければいけません。

なお、この点、本当であれば、間違いなく百条委員会モノでしょう。
百条委員会」とは、議会が調査を行うものであり、疑惑の証人を呼び出して公開質問を行う場であり、出頭は拒否できず、そこで嘘をつけば、罪に問われる場合があります。議会の最終カードとも言うべき武器ですね。

(参考)地方自治法
第百条
 普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(略)に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。
(略)
 第一項後段の規定により出頭又は記録の提出の請求を受けた選挙人その他の関係人が、正当の理由がないのに、議会に出頭せず若しくは記録を提出しないとき又は証言を拒んだときは、六箇月以下の禁錮又は十万円以下の罰金に処する。
(略)
 第二項において準用する民事訴訟に関する法令の規定により宣誓した選挙人その他の関係人が虚偽の陳述をしたときは、これを三箇月以上五年以下の禁錮に処する。
(略)

森友学園騒動では、国会で「証人喚問」として、籠池氏が呼ばれて質問されていましたが、あれの地方議会版だと思っていただければ分かりやすいかと思います。

さて、今回、大阪市会では自民会派を中心に舌鋒鋭く、追求がなされていましたが、結局百条委員会は設置に至っていません。最大会派である維新は設置要求があれば応じるとしており、橋下氏も呼ばれれば応じるとおっしゃっていますが、結局他会派は設置を求めませんでした。

つまり、他会派においても、そもそも橋下氏の関与という議論は無理筋だという結論になっていたのでは無いかと推察します。
実際、紛糾した先日の議会においても、追求する議員からは橋下氏の「は」も出ていなかったと思います。先日の議会での追求事項は専ら次に述べる「行政手続きに関する疑義」だったわけです。


【行政手続きに関する疑義の場合】


この説明責任はどこにあるのでしょうか?これは間違いなく「現大阪市長」にあります。私はそもそもこの点を橋下氏に説明させようとすることに無理があると考えています。理由は以下の通りです。

  1. 橋下氏は現在公職には無く、当時の行政手続きを説明するだけのリソース(資料・マンパワー)にアクセスできず、その権限もない。

  2. 行政上の瑕疵や疑惑といったものに過去に遡及して説明責任を求めるのであれば、あらゆる瑕疵について歴代首長全てに遡及して説明責任が求められることとなるため。

1点目ですが、現在橋下氏には行政職員の部下がおらず、情報も一般公開されている情報にしかアクセスできません。従って、公開情報のみで当時を説明するのは非常に困難であり、氏はかつての私のような実務を行う行政マンでも無いため、HP情報についても熟知しているわけでは無いかと思います。

余談ですが、私はこの点をもって、TVで橋下氏がこの点を北村氏と討論されていたのは、そもそも無理があったと考えています。そして案の定、例えば入札のHP掲載の件について、お互いが事実関係がわからないままの議論になってしまっていました。
私は番組にケチをつけるつもりは毛頭ありませんが、行政の細かい手続き論の議論はかなり難しいと思います。こういうものは現役の行政マンが丁寧に事実経過を追っていかないと分からないからです。
無論私とて同じで、限界があります。



2点目については、読んでいただいたままではありますが、要はそんなことを言っていたらキリがないという話です。例を挙げましょう

かつて大阪市では「阿倍野再開発事業」という悪名高き事業がなされました。
これは4,800億円もの事業予算をかけて再開発を行った結果、2,000億円もの収支不足に陥るという杜撰な結果に終わった事業です。これは昭和51年に始まり、平成29年にいかに失敗であったのかが検証されています。
仮に遡及して責任追及をするのであれば、事業を行っていた当時の市長や助役、議会など全員に説明責任を求めなければならないでしょう。
しかしそのようなことはなされず、結局平成29年に在職していた市長及び以下職員がその説明責任を負うこととなりました。つまりそういうものなのです。

あってはならないことですが、行政上の瑕疵というのは人間がやっている以上、細かいことを含め必ず何かしら発生する可能性は常にあります。実際不適切事務というものは日々発生し、報道発表されています。

要はそれが後から発覚したときに、その全てをいちいち当時の市長に説明しろと迫るのか?という話です。
この点、「この上海電力の件は特に大事だから遡って説明が必要」と主張する方もいるかも知れません。しかし、それが大事か否かというのは個人の感覚に拠るものであり、必ずしも客観的基準で明確に線引きされるものではありません
もし、橋下氏に説明を求めるのであれば、どういう基準に基づいて橋下氏に説明責任が生じるのか、ということを根拠を挙げて主張すべきでしょう。

私自身は、原則的に市長が過去に遡及して説明責任を負う必要は無いという立場です。ただし、これは例外もあるかと思います。例えば市長自身がその何らかの行政手続きにおける瑕疵について、知っていたにも関わらず、それをあえて是正せずに放置した、といったような場合でしょう。
ただ、この場合においても、ネットやSNSで説明を求めるのではなく、きちんと百条委員会のような公式の場において、説明責任は果たされるべきであると考えます。

以上より、私は行政手続きについては、現大阪市長が説明責任を負うべきであるという立場であり、実際にそのとおりに議会において、追求され、答弁があったものであると考えています。

なお、行政手続きに瑕疵がある疑義がある場合、どうやって解決すればいいのでしょうか?この点はまたいつか記事にできればしたいと思います。


さて、まとめます。
今回の一連の騒動における「疑惑」とは、私が上記でまとめた2パターンに分けられるという話をしました。
何故、上海電力騒動に関して橋下氏を問題にすることが悪手であるのか、わかっていただけたかと思います。
つまり、橋下氏を問題にしようとするのであれば、行政手続き以外のことで疑惑があったことを客観的事実をもって証明せざるを得ず、行政手続きに関することであれば現在氏に細かい説明責任は問えないから、です。

ここは私の感想ですが、一連の騒動で橋下氏を糾弾されている方は、「橋下氏が中国に都合の良い話ばかりをする」という前提があり、その仮説を補強する形で上海電力も橋下氏に絡めてしまったものではないかと考えます。
氏が中国寄りなのか否かは私には分かりませんし、興味もありませんが、一般に、起きているある現象について無理に別の現象と結び付けようとすると、事実を見誤ってしまうことがあります。

この手の議論をする方はよく「状況を見ていると〇〇だとしか思えない」という言い回しをされることがあります。
「自分がそうとしか思えないこと」と「事実がどうであるのか」は、しっかり分けて冷静に思考することが出来ないと、いわゆる「陰謀論」というものにハマってしまいます。
しかし何度も述べていますが、無数の人が無数の意思を持ち、無数のプロセスを経て組織や世の中は動いています。そんなに単純に個人の意思や思惑が成就するということは非常に難しいことなのです。

もちろん世間で「陰謀論」とされるものが全て嘘だとは言いません。厳密にいえばそれらのものは「よくわからない」としか言えないものが大半です。逆に言えば「よくわからない」としか言えないようなものを真実であるという前提で、物事を見ることはやめておいた方が良いでしょう。
日本の司法には「推定無罪の原則」という考え方があり、要は「有罪で無い限りどんなに怪しくても無罪とみなす」、というものです。疑惑がある、というだけではその人が有罪だとは言えず、あくまで客観的証拠をもってして初めて有罪だと推定されるのです。
こういう考えはある意味ストレスフルではあります。しかし、こういう思考をしなければ、常に自身の持つバイアスに振り回されることになるでしょう。

山口氏の最新記事について

最後に6/18に出た、山口氏の最新記事を少しご紹介しておきたいと思います。

「副市長会議」と「副市長案件」について

もうこの言葉は食傷気味ですが、一応述べておきます。例によって記事を引用させていただきます。

ところが、6月10日の市議会の質疑で、松井市長の主張の矛盾が次々と明らかになった。まず、木下市議の追及で、大阪市で「副市長会議」という制度が始まったのは、2013年4月1日だということを、大阪市側がはっきりと認めたのだ。
一方で咲洲メガソーラーの実施を決めた会議が行われたのは2012年10月10日。だから松井市長の「咲洲メガソーラーの実施を決めたのは副市長会議」という説明そのものが、まったくの虚偽だったのである。
木下市議は、目の前に座った松井市長に対してこう啖呵を切った。
「どこにも副市長会議と書いてない。そりゃそや。平成25年4月1日から副市長会議がたちあがるんです。ありもしない副市長会議で副市長案件としてものが決まることはないんですね」
こういう時の大阪弁は本当に迫力がある。咲洲メガソーラーの実施を決めたとされる2012年10月10日に行われた「コスモスクウェア海浜緑地計画地における民間太陽光事業の活用について」という会議は、大阪市の行政手続き上の「副市長会議」では決してなかった。

https://hanada-plus.jp/articles/1060


まず、副市長会議ですが、例によってHPを見てみましょう。

以下は2012年8月13日時点のアーカイブです。

これは紛れもなく2012年8月13日に取られたアーカイブです。
はっきりと「副市長会議」という言葉は明記されており、この冒頭には次のような言葉があります。

市政運営の基本方針、重要施策、その他の市政の重要事項について、関係者意見の聴取や重要な政策判断を要する事項に関する情報や課題認識の共有化の場として、開催しています。
メンバー(平成24年6月20日現在):副市長・都市改革監・市政改革室長・人事室長・政策企画室長・総務局長・財政局長・計画調整局長・区長代表(東成区長・港区長)

さらにこのページから一階層戻ると2012年6月21日付で「大阪市副市長会議の運営について」というページが見当たります。

この中で、会議をどのように運営するのかということが決められているのがわかります。これは橋下氏が番組中で述べられていた「号令をかけて副市長会議をフルオープン化した」といった趣旨の発言とも符合します。

では「2013年4月1日までありもしない副市長会議」とはどういうことなのでしょうか?この副市長会議のページ、アーカイブ日を進めていくと見えてきます。
2013年5月24日アーカイブで、次のようなページが見つかります。

この要綱の最後に、「この要綱は、平成25(2013)年4月1日から施行する。」と記載しています。

要綱」とはなんでしょうか?
行政における最高法規は「憲法」です。憲法に基づき国で「法律」が作られます。地方自治体では更にその法律の範囲内で「条例」が作られますが、この条例改正には議会での議決が必要になります。さらにこの下には「規則」という概念がありますが、ここから先は議会を通さずに行政内部で勝手に決めている「内規」になります。
内規と言えども「規則」の制定や改廃は少し大変です。これは市の全体を統括する法規部門のチェックが入り、施行までに公報に掲載されます。少し大掛かりな内規ですね。
そしてその次にあたるのが、「要綱」であり、これは原則局長や区長の決裁で作成が可能です。法律や条例が議会が行政に対して「守りなさい」と制定されたものに対し、「内規」行政が自分で決めて自分で守る、という一種自作自演のようなものです。
なぜこのようなものを作成するのかと言いますと、「内規」は予め定めて公開しておけば、後々トラブルになることを防ぐ効果があり、行政の公平性を担保するためには、決めておくことが望ましいものではあります。


話を戻しますと、つまり、「副市長会議」自体はもともとあったが、会議の「要綱」が制定されたのが2013年4月1日だったというのが、答えになります。要綱は必ずしも法的な拘束力を担保するものでは無く、要綱が無かったからと言って、過去に開催され公開されている会議が無かったものになるものではありません。もちろん、要綱は予め作っておく方が望ましかったでしょうが、それ以前に「副市長会議」と銘打って公開されているものがあるにも関わらず、要綱が無いことを理由に「副市長会議は存在しなかった」というのは個人的には少し言い過ぎな気がします。
なお、これは同委員会で市長も同じようなことを答弁されています。


次に、「副市長案件」です。

そして、木下市議が暴いたもう一つのウソが「副市長案件」という松井市長の説明だった。木下市議は、大阪市の政策全般を統括する政策企画室政策企画課長から、決定的な答弁を引き出していた。

木下市議 今日は政策企画室にも来ていただいております。小林課長、あなた、副市長案件という言葉を聞かれたこと、耳にされたことがありますか?
小林課長 政策企画室政策企画担当課長小林です。お答えいたします。副市長案件という言葉を聞いたことはございません。

松井市長は、咲洲メガソーラー疑惑について、市長の権限を使って調査したと述べた。そしてその結果、咲洲へのメガソーラー導入は「副市長案件」であって、橋下市長は一切関与していないと説明していた。
ところが、その調査を担当した大阪市の幹部連中は誰一人として「副市長案件」という単語を使ったことも聞いたこともないというのである。

https://hanada-plus.jp/articles/1060?page=2

これは副市長会議を所管する政策企画室の課長が「副市長案件」という言葉を聞いたことが無い、と答弁したものです。
さて、これ仮に私が同じことを聞かれたとしても多分同じ答弁すると思います。何故なら行政用語としての「副市長案件」なる言葉は確かに存在しないであろうからです。ここで「聞いたことある」と言えばすかさず「それはどういう意味ですか?」と問われるに決まっています。行政として明確に定義されている用語ならまだしも、「こういうことであろう」という個人の意見を述べることになるため、副市長会議を所管する政策企画室の課長としては当然そんなことは避けたいでしょう。
これはそういう正式名称の言葉が存在するというわけでなく、副市長会議で決定されていたものをもってして、「副市長案件」と市長が呼称された、というだけの話でしょう。
実際この答弁の直前、同じ質問をされた港湾局総務課長は「副市長会議で議論されたもの、副市長マネジメントで決定されたものであると理解している」という趣旨の発言をされています。聞いたことがあるかという質問に対し、そういう概念があることを認めています。わざと正面から答えずに「〇〇と理解している」とボカして答弁しているところに苦心が見え隠れしますね。
これについては、ただそれだけの話です。「副市長案件」という行政上の言葉が存在しないということと、「副市長案件」という概念が存在しないことは同義ではありません。以上です。


さて最後です。山口氏は前回と同様の市会の議事を引用されたのち、こうおっしゃっています。

橋下市長が市議会で、大阪湾の再生可能エネルギー事業、特に咲洲でのメガソーラー事業に対する強い思い入れを示していたのである。
ところが松井市長は、鳴り物入りで大阪府知事から大阪市長に転身したばかりの橋下氏が力を入れていた咲洲でのメガソーラー事業が、本人からの一切の指示なく、本人に一切報告されることもなく、副市長によって「勝手に」推進され、決裁されていたと言い張っているのである。
もしこれが事実なら、当時の田中清剛副市長の暴走である。しかし、この人物は大阪市職員OBで、定年後に大阪市の関連団体に天下りしていたところを、2013年2月1日に橋下市長によって副市長に大抜擢された人物なのである。
当時は東北大震災の余波で再生可能エネルギーへの関心が全国的に高まっていた時期である。新任の橋下市長が咲洲へのメガソーラー導入に積極的に関与していたとしても、それは全く自然なことだ。
それなのになぜ、松井市長は副市長案件という言葉を「創造」してまで、橋下徹氏の咲洲メガソーラー事業への関与を全否定しなければならなかったのはなぜなのか。

https://hanada-plus.jp/articles/1060?page=3

ここについては前回の記事で私の考えは述べましたので、詳しくはそちらをご覧ください。なお本件、副市長は意思決定に加わったものの、書面上の決裁はしていません。


私からは、「【橋下徹研究⑧】咲洲メガソーラー入札の重大疑惑―「副市長案件」の闇を暴く!|山口敬之【WEB連載第8回】」において

ということは、咲洲メガソーラーの異常な入札に関与した可能性のある副市長は「村上龍一」と「田中清剛」の2名に絞られた。
そして私が注目しているのは村上龍一氏のほうだ。なぜなら、2014年2月に橋下徹氏が仕掛けた「出直し市長選」で、橋下氏が2月26日に市長を失職して3月24日に再選されるまで「市長代行」を務めたのが村上氏だからだ。
そして、わずか28日間の「村上市長代行時代」に行われたのが、3月16日の「咲洲メガソーラー着工式」なのだ。これこそが副市長疑惑の核心である。そして内容を精査すれば、実はこれは「副市長疑惑」ではなく、「橋下徹疑惑」そのものであることがはっきりするのである。
これについては、次回の「橋下徹研究⑨」に譲ることにする。

https://hanada-plus.jp/articles/1048?page=9

と言及され、山口氏が「異常な入札に関与した可能性がある副市長」の一人として名前を挙げられ、何かしら注目されていたと述べられている村上副市長がその後言及されないことだけが気がかりです。


終わりに

今回の記事は新たな事実関係より、私の考えでこれまでの議論を整理してみたかったということで書いてみました。
とはいえ、実は私が一番言いたかったったのは一番最初のネットリテラシーの部分かも知れません。といいますのも、Twitter上では私に対する誹謗中傷もたくさん飛んできます。
私は匿名なので、棄損される名誉はありませんが、他の方を名指しで「〇〇はジョリーで自作自演している」などと無邪気に書かれている方がいます。120%その方はジョリーでは無いので、その方から訴えられる覚悟をしてそういう書き込みはされた方がいいとは思います。
あなたが無邪気に悪口を浴びせているその先には必ずリアルな人間がいます。実際に会ったら初対面の人に同じような言葉をかけるでしょうか?それで人を傷つけたり最悪亡くなってしまう可能性を考えたことはあるでしょうか?
何も考えずに悪口を言って訴えられて初めて焦るような人はネット上にたくさんいます。私も自戒を込めて、この件は強調しておきたいと思います。問題のある発言があればご指摘ください。

今回こういう形で注目されて初めて分かったのですが、匿名であるということを良いことに、剝き出しの敵意や悪意を向けてくる人の多さにびっくりしています。私は考えが違っても話せば分かり合えると信じていたきらいがありますが、それは幻想でした。私は「〇〇グループ」とやらの一員で、無条件に石を投げてもいい対象であると本気で思っている人がたくさんいるようです。
また同時に、ネット上の政治言論がクラスタに分かれて互いにレッテル貼りや罵り合いをするという、非常にレベルの低い議論が横行していることがわかりやはり残念に感じています。
これから参議院選挙も始まりますが、民主主義のレベルを上げていくためにもこういう議論は早く卒業できるといいですね。

今回も長くなりました。お読みいただきありがとうございました。


じょりー

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