真夏のドリンク三本勝負

私は4年生(2回目)になってから、毎日のように歩き回っている。ある時は部室へ。ある時は研究室へ。ある時は図書館へ。ある時はカフェへ。ある時は文系総合館へ。ある時は……言い出したらキリがない。まるで亡霊のように、そして浮雲のようにあちらこちらへ歩き回っている。そんな日々にも夏がやってきた。

 夏場に歩き回るとどうなるかというと、めちゃくちゃ喉が渇く。自明だ。

 この日も、まずは図書館に行って卒論をすすめ、そのあと大学近くのカフェに移動して昼ごはんを食べ、そのままかき氷屋に移動して友人とかき氷を食べ、そこから家に戻り、そのあと家を出て電車に1時間揺られ話し合いみたいなことをしてきて、また1時間電車に揺られ家まで歩いた。なんかもうフラフラだった。しかもこの暑さ。汗でシャツはぐっしょりと濡れ、喉だけではなく全身が干からびていた。

 そんな時、唐突にオレンジジュースの映像が頭の中に浮かんだ。ああ、こんな乾ききった体にオレンジジュースなんてカチこんだらそれはもう最高だろうなぁ…………。

そう考えると、もうそうとしか思えなくなり、脳の容量の90パーセントがオレンジジュースによって占められた。もう他のことなど考えられない。オレンジジュースを求めさ迷う砂漠の旅人だと言わんばかりに私はコンビニに向かって歩き出した。駅の自販機は気が利かず、オレンジジュースなどと言うしゃれたものは売っていなかったから。

そして最寄りローソンに着いた。なんと午前0時である。


虹とローソン(公式)

しかし、そこには「清掃中」という看板が空しく立っていた。


清掃中の看板

冗談じゃない。こんな時間に清掃するなと言いかけたがよくよく考えたらこんな時間に訪れているこちらに責任がある。しかし、私は、ここまで死ぬような思いで歩いてきたのだ。それを、清掃中だかなんだか知らないが邪魔されてたまるものか。オレンジジュースは私のものだ。

……と思ったが、さすがに道徳に反することはできないので、コンビニの扉をさっと開け、近くにいた店員さんに声を掛けた。余談だが、ここのローソンにはオッドアイの店員さんが働いている(マジ)。私が声を掛けた店員さんはそのオッドアイの人だった。
「あの、すみません。今ってここは入れないですよね……?」
「入れないですね」
曇りなき眼でそう言われたら、仕方がない。しかも、オッドアイである。しかし、この店員さんはこのローソンで働く誰よりも優しいのだ。
「……何分後くらいに空きますか?」
「20分後くらいですかね?」
……20分!? こちとら、どれだけしんどい思いをしてここまでやってきたと思っているんだ。待てるわけがない。ありがとうございます、と一言言って店をでた。自宅からこのローソンの次に近いセブンに行くために。

 
……長々と書いたが、私がここで書きたかったことはこんなことではない。


ここに、三本のドリンクがある。


背景にある電子レンジがいい味を出している

セブンでHP0.1の脳みそをフル回転させ、この自分の身体を癒してくれるのはどれなのかを必死に探した結果選ばれた三本である。
 この乾ききった肉体を癒してくれるのは一体どれなのか? 真夏のドリンク三本勝負の戦いの火蓋が、今切って落とされた。

エントリーナンバー1
アクエリアス

アクエリアス

もはや王道。説明は不要である。そこら辺にいる運動会帰りのガキに今飲みたい飲み物は何ですかと聞いたら返ってくるドリンク名ベスト3には確実に食い込んでくるだろう。

エントリーナンバー2
ぎりっと果実


なんか前に飲んだ時はまずかったような気がするのだが、このパッケージを見て欲しい。
夏のこの信じられない暑さの中でこんなパッケージを見てしまったら、前飲んだ味がどうだったかとかそんなものはどうでもよくなるのは割と当たり前じゃないか? この澄み切ったオレンジ色、みずみずしい果実のイラスト……。誰がどう見ても、「喉の渇きを潤しますよ~」と言っているようなものだろう。あまりにも喉が渇ききっている人に見せるべきものじゃない。皆買いたくなってしまうから。

エントリーナンバー3

ゆずれもんサイダー

正直ゆずとかあんまり好きじゃないけど、まあサイダーだしなあ、ということで買ったやつ。正直言って、パッケージもそこまでそそられる訳ではない。なんとなく安っぽい印象を受けてしまう。本当に美味しいのだろうか? そこら辺は、神のみぞ知るというやつだろう。

さて、実飲タイムである。
まずは、期待が高いエントリーナンバー2から、いざ実飲!
 
 ごくごく……

 ………!?

 美味しく……ない……!?

 個人的には、もっとオレンジ!! という感じかと思っていたのだが、かなり水度合いが高い飲み物だった。おもっくそ水道水に味がする。水道水にオレンジを加えましたよ~~~という感じの味だ。まあそれもそのはず。ここをよく見て欲しい。


suntory 天然水!!!


そう。これはオレンジジュースなどではない。あくまで水なのだ。オレンジ味の水なのだ。だって天然水って書いてあるもの。サントリー側もこれは水として作っているのだから、水っぽいですとか言われて、「いや、水なのでね…笑」としか言えないだろう。というか、過去の私が言っていただろう。

 続いて、エントリーナンバー1。安定のアクエリアス様でエントリーナンバー2の口直しといこうではないか。これがまずくっちゃもうどうしようもない。

いざ、実飲!!

……うーん……? あんまり美味しくない……?

あんまり美味しくなかった。いや、まずいわけじゃない。ただ、この酷暑の中歩き回っていたものだからちょっとぬるくなっており、しかも、なんというかのど越しが甘くて猛烈なさっぱりしゅわしゅわ感、それこそ砂漠を何とかしてくれるオアシスを求めていた私としては微妙だった。なんか、ぬるっとしている。

もう、破れかぶれである。私の人生のようだ。欲しいものは手に入らず、期待は裏切られる……。こうなりゃ最後のエントリーナンバー3に賭けるしかない。でも、これゆず味だしなあ、私、ゆず味そんなに好きじゃないんだよな……しゅわしゅわ感を求めているとは言いつつ、炭酸強すぎるのはあんまり得意じゃないしな……なんで買ったんだろう……。そんなに期待はしないでおくか……そんな気持ちを抱きつつ……

いざ、実飲……
ごくごく……
えっっ……!?

美味しい……だと……!?

このゆずとれもんのさわやかさ、炭酸の心地よい刺激。そうだよ、これだよ、これ……!! 美味しい……!!

 美味しくってごくごく飲んでしまった。まさかの逆転優勝である。人生、期待していない方が意外と上手くいくのかもしれない。ゆずれもんサイダーを飲みながら、私はそんなことを思ったのだった。

 こうして、私の真夏のごくごく体験は終わった。喉の奥に潜む砂漠はしゅわしゅわによって消え、また、いつか生まれることだろう。

という訳で、真夏のドリンク優勝は、エントリーナンバー3のゆずれもんでした! 皆、盛大に拍手をしよう!

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