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早咲きのくろゆり プレイ感想

久しぶりに百合ゲームがやりたくなったので、最近steamでリリースされたという「早咲きのくろゆり」をプレイしてみる事にした。メーカーは1000‐REKA(センレカ)というところで、恐らく本作がデビュー作の新興メーカー(公式Twitterには「ユニット」と書かれていたが)だと思われる。難易度はカジュアル(一般的なノーマル相当)でプレイした。エンディングまでのプレイ時間は13時間強。コンパクトにまとまっているが物足りなさは感じず、思い付きでプレイするには程よいボリューム感だった。


〇斬新なゲームシステム

本作を一言で言い表すなら「斬新なゲーム」だ。本作が斬新たるその最たる所以は、本作最大の特徴である「割り込み選択肢」のシステムにある。一般的なノベルゲームでは、特定のタイミングでいくつかの選択肢が画面上に提示され、その中からプレイヤーが選択することで物語が分岐する形式が多い。しかし本作は予め作られた選択肢を選ぶのではなく、プレイヤーが任意の語句を入力し、それをシナリオに割り込ませる形で反映させることができるのだ。この割り込み選択肢は、本作の謎解きの要素を含むシナリオとは非常に相性が良いように思えた。語句を入力させることによって、プレイヤーが能動的に謎解きに参加できるようになっているのだ。これが案外面白く、気が付けばシナリオを読んでいる最中も次の割り込みに使えそうな言葉やエピソードを探しながら読んでいた。

それを補助してくれるメモライズ機能やバックログやシナリオチャートからのワープも充実している。これらの補助機能のおかげで、謎解きという場合によってはプレイヤーに負荷がかかりかねない要素を、非常にシームレスに楽しむことができた。

また、セーブシステムも斬新だと感じた要素の一つだ。実は本作には通常のセーブコマンドが存在せず、基本的にはオートでしかセーブができない(クイックセーブあり)。まだゲームに慣れていない序盤は「いやいや、通常セーブ無しとかあり得ないでしょw」とか思っていたのだが、そのことがセーブ&ロードの繰り返しであてずっぽう気味に謎解き部分を突破する強硬策を抑制している事に気づいて、非常に理にかなっていると感心した。

総じてシステム面は斬新かつシームレスで、概ね文句無しと言っていい水準だろう。


〇シナリオ(百合ラブコメ)

本作のシナリオは大きく分けて百合ラブコメ部分とループもの部分の2つの軸で構成されている。そして、この2つの軸が主人公である花の葛藤やそれに伴う自身の変化や人間関係の進展を通じて、全体として上手く噛み合っているように感じられた。

シナリオが全体的に綺麗に纏まっていたことは前提として、そこから敢えて個人的な好みの話をさせてもらうと、この2つの軸では百合ラブコメ部分の方を特に面白いと感じた。花の丁寧な心理描写に加えて、イベントの描写が具体的で細かいのが特に本作の素晴らしいポイントだと思っている。例えば、花、樹、青の3人でフランス料理店に行ったときなど、コース料理1品ずつに対して料理の描写や会話が設定されているくらいには細かい。それでいて、文章はクセがなく読みやすい。個人的にラブコメは、2人がくっつくという結果よりもその過程の方が100倍重要と思っているので、このくらい細かく関係性を描くべきだと思っている(細かすぎると退屈してしまうプレイヤーも多いと思うので、この塩梅は難しいのだが)。

また、女と男が女を取り合って恋敵になるという恋愛の構図もこれまた斬新で面白かった。個人的には観覧車で花が蛎崎君に啖呵を切るシーンがお気に入り。

どうでもいいが、こういうシーンでの盛り上がりや臨場感を考えて、百合ゲームの主人公の性格は控え目にし得だと思っている。


本作のラブコメ部分でもう一つポイントになるのが世界観だ。本作は百合ゲームであるのにも関わらず、ゲーム内の世界観の設定が真っ向からその思想に反するものである。この世界では、はぐくみ政策のもと男女間での恋愛(というよりは婚姻と出産)が奨励されており、同性愛の疎外感や肩身の狭さは現実世界よりもさらに強力なものになる。普段から百合ゲームを嗜む紳士淑女の皆様はご存じかと思うが、百合作品において、同性愛者の社会規範からの逸脱やその葛藤についての問題は、作品単位で一切無視するケースも少なくはない。そんな中、本作は同性愛者にとってよりシビアな世界観にすることで、この問題に真っ向から切り込んでいったと言えるだろう。そういった意味で本作は「百合作品:王道」と言えるかもしれない。


〇シナリオ(謎解き)

シナリオの謎解き部分、要するにループの真相に関しては概ね予想通りだった。五十嵐先生の本職が保険医ではないこと、笹本父は花がループしていることを知っている事(そのうえで少なくとも黙認以上のことをしていること)、真夜さんなんて人は現実世界には存在しないこと、蛎崎君が樹ちゃんを本心から愛してはいないこと、最終的にループから引き戻してくれるのは教育実習生であること――この辺りは2章~3章くらいの段階からおおよそ見当がついていた(大体の人はそうだろうが)。そのため、割り込み選択肢で「父を問い詰める」みたいなワードを入力できれば一発で解決できそうなんだけどなあとか思っていたが、そんな無法は許されないし、何よりゲームとして破綻している。それに、この辺りの大雑把な真相に見当がついていたとしても、個々の割り込み選択肢まで正解できるわけではないので、謎解きゲームとしては最後まで楽しむことができた。

自分は難易度設定は「カジュアル」でプレイしたのだが、ゲームの難易度としてはちょうどいい~やや簡単くらいに感じた。カジュアルモードでは基本的に要点は赤字で表示されるし、割り込みのタイミングも心音で教えてくれるので、解こうという気があれば2~3択くらいには絞れるように誘導してくれる。逆に赤字心音無しのエキスパートモードは結構歯ごたえがありそうだ(正直自分でやったら途中で挫折しそう)。個人的にはカジュアルとエキスパートの中間に、赤字無し心音ありの難易度を作るとちょうどいい塩梅になるような気がする。

〇BGM

パターンは少なめだが、全体的にノベルゲームっぽい無難なものが揃っていたように思う。そんな中、「微笑み」1曲だけは強く自分の耳に残った。特に鏡が割れるような音が一瞬入る場所がとても印象的で、これを聞きたいがために度々テキストが1分程止まっていた。

〇総評

ただでさえ百合というニッチ寄りのジャンルにも関わらず、斬新なシステムを導入した挑戦的な作品だったと思う。個人的には非常に楽しめたのだが、そこそこ人を選ぶ作品なのは確かだろう。

作中でお気に入りのキャラは花。目が泳いでいる時のカタコト言葉とお洒落な私服がやたらと可愛かった。当たり前の話ではあるが、結局主人公が1番登場回数が多くなる為、主人公が魅力的なことはノベルゲームにおいて非常に大きなアドバンテージだと思う(だから僕は百合ゲーを辞められないのかもしれない。百合モノはどうあがいても女の子が主人公になる為)。なんにせよ、定期的に補給したい百合成分を良質な形で摂取できたので満足。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
また次回の記事でお会いしましょう。






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