第11話「教師が本気で歌うこと」
主な登場人物(実在する人物と関係ありません)
新任教諭(音楽専科)長谷川先生
担任の先生(音楽部 長谷川先生の先輩)鈴木先生
指導教官(ベテラン教務主任)村上先生
斎藤先生と同期の音楽専科(他校に配属)岩倉先生
研究会の主宰者(ベテラン音楽専科)日村先生
第11話「教師が本気で歌うこと」
卒業式に向けた合唱の練習をしている場面。金曜日・5時間目だからなのか、子どもたちはいつもよりも集中力に欠けていた。長谷川は(このまま練習を進めていても上手にならないな。むしろ、適当に歌うクセがつくだけかもしれないな・・。)と感じていた。長谷川は子どもたちの様子を見ながら、次の一手をどうするか考えていた。
「集中しているAさんを褒めようか。それとも全体的に集中力に欠けていることを指摘するべきか。ただ、残りの授業時間を考えると課題を指摘している時間はあまりないし、指摘して空気が悪くなる可能性もある・・。それなら、ここでストレッチなどリフレッシュできる活動を1~2分して気持ちを切り替えさせたほうがよいか・・。」
長谷川は、いろいろと考えながら、まず黒板に図を書くことにした。
長谷川は、「この図は何を表していると思う?近くの人と話をしてみよう。」と問いかけた。
「なんだろう??」「強弱のことじゃない?」などの呟きが子供たちから聞こえてくる。
「この図は強弱の変化を表しているんだよ。」と伝えた。そして、「先生が強弱を意識して本気で歌ってみるから、強弱がどう変化しているか感じ取ってね」と声をかけて歌ってみた。
歌い終わったあとに、子供たちから自然と拍手が起こった。そのあとの子供たちの歌声は、いつもよりも集中した素晴らしい合唱になっていた。
作者コメント
今回は、合唱指導において教師自身が教材なのだと感じた瞬間を文章にしてみました。教師自身が本気で歌う姿を見せることが、歌い方を言葉で説明するよりも効果的な場合もあるのではないかと考えています。
また、長谷川先生は子どもたちが集中に欠けている様子を察知して、以下のように考えを巡らしています。
私も合唱指導中は、子どもの様子を見ながらその場に適した手立が何か考え続けています。今回の手立ては、➀発問をする②教師が歌って示すというものでした。様々な手立てがあるなかで、なぜ上記の2つの手立てをとったのか振り返ってみます。また、よりよい手立てが他にもなかったのか考えてみます。
発問をすること
吉川廣二 編著「音楽の授業・騒乱状態の克服法50のアイデア(法則化・楽しい音楽指導のアイデア)」には、騒乱状態の授業には発問がないと述べられています。
当書が示すように、子どもたちが思考することを促すことで、歌うときの集中力が変わってくると思います。だからこそ、指示を繰り返すだけの歌唱指導になってはいけないと思います。黒板に図を描く➨図が何を表しているか考えさせるというのは、「後半は盛り上げなさい」と指示するよりも効果的だったのではと考えています。
教師が歌って示すこと
これは明確な根拠はありませんが、教師が本気で歌う姿を見せることが、子供のやる気を高めるかもしれないと思って行いました。子どもたちの歌声が変わったことは事実ですが、なぜ変わったのかはわかりません。ただ、授業終わりに子どもに「授業終わりで歌った合唱が素敵だったね。どうして素敵に歌えたの?」と尋ねたところ、「みんなが一生懸命に歌おうとしていたから」と答えてくれました。いつでも通用するかはわかりませんが、今回は教師が本気で歌うことが効果的だったようです。
他の手立てはなかったのか
子どもたちがいつもよりも集中力に欠けているとき。どのような手立てが考えられるでしょうか。まず、「卒業式に向けて本番が近いのに集中力がない!」と指導をすることは避けたいなと考えています。それよりも、集中しにくいときに気持ちを切り替える方法を実践してみる・歌ってみたくなるような言葉がけをするということを行いたいです。
具体的には、
・〇人組をつくって声を聴き合ってみる。
➨つくる過程で教室を動き回るため気分転換になる。また、歌う目的がはっきりする。
・思いきって水飲み休憩をする
➨ダラダラと練習をするよりも休んだほうが良いのでは。休憩をしたあとに、ストレッチをして気持ちよく練習できるようにしたほうが、子どものためになるのではないか。
・録音して聴いてみる
➨本番のリハーサルをしようと伝えて録音する。このときに、本番通りに並ぶところからはじめれば「よし!やろう!」という気持ちになるのでは。
上記のような手だても考えられたのかなと思いました。
おわりに
合唱指導は本当に難しいですよね。先生方が授業で工夫されていることなど教えていただければ嬉しいです!ここまで読んでくださったみなさん、ありがとうございました!
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