私を構成する42枚 pt.1
今年の5月頃、SNS上で、 #私を構成する42枚 というハッシュタグとともに、好きな音楽アルバムやCDを選んで一つの画像にする、というような企画(?)が一部の界隈で流行った。
普段トレンドワードをあまり見ていない私にとってもこの企画は魅力的で、好きなイラストレーターや漫画家がこの企画に参加していたこともあり、自分も便乗して画像を作っていた。
良い。とても良い。好きな音楽のジャケットが並んでいるのはとても良い。
どれも自分が音楽を聴く上で、かなり大きな影響を受けた作品ばかりだ。この画像を作ってから現在に至るまでの約半年で影響を受けた音楽作品はかなり増えていったが、それでもなおこれらの作品の影響や存在というものは、かなり大きい。
ということで、今回はこれらのアルバムについて軽い紹介をしながら、趣味の押し付けをしていきたいと思います。少しでも興味を持ったアルバムがあれば、是非聴いてみてほしいです。
1.楽しいね - 神聖かまってちゃん
(2012)
インターネットポップロックバンド、神聖かまってちゃんの5thアルバム。一部層のリスナーから根強い人気を博し、アニメ『進撃の巨人』のOPで話題になったことは記憶に新しい。
本アルバムでは、最初期のアルバムの特徴であるローファイな音源から、ハイファイな音源へと変化している。そして、の子(Vo/Gt)が制作し、YouTubeにアップロードしたデモ音源を進化させたものが多い。
サウンド面では大きく進化したと言えるが、ローファイでも良さが出せる、寧ろローファイの荒々しさが似合った楽曲もあるので、ファンの中では賛否両論らしい。
このアルバムは、それまでのアルバムに比べて前向きな歌詞の楽曲が多い。道中に聴いている側も苦しくなるような、鬱屈した感情や情景が登場する楽曲もあるが、暗い歌詞に対してサウンドが極端に明るかったり、ハイテンションだったりする。逆に前向きな歌詞でもかなりダウナーなサウンドだったりするなど、独特な表現が見られる。
神聖かまってちゃんというバンドは、鬱屈した感情を表現することに関してはピカイチだと思うが、このアルバムではそれだけではないのだ。不器用な人間でも、人生どん底でも、最悪な気分でも、このアルバムを聴いていると少し気持ちが和らぐ気がする。
このバンドの楽曲の良い所は、苦しい人や辛い人へのメッセージを送るわけでもなく、かといって見放すわけでもない。ただただ、の子(Vo/Gt)が自らの想いや感情を赤裸々に晒し、爆発させ、誰にでも分かるような簡単な言葉を使い、誰にも思いつかないような表現で歌い、ギターをかき鳴らし、もがいている。その姿を見て、私たちリスナーが勝手に救われていく。他者を救うためのバンドではなく、自分を表現する為に作られたバンドであるからこそ、リスナーは自らを救うためにこの音楽を聴く。そんなバンドが作った、傑作アルバムだと思う。
やはり、歌詞の世界観やボーカルの声質が合わないということはあるかもしれないが、一度先入観なしに聴いてみてほしい。
余談だが、最初は「お薬くださいね」というタイトルにするつもりだったらしい。ダメだろ。
特にすきな曲
M1 - 知恵ちゃんの聖書
シングルカットもされている楽曲。イントロが神々しい。歌詞の一部が権利に引っかかって消音処理されている。
M3 - 友達なんていらない死ね
タイトルの時点でヤバそうな感じがするが、中身もかなりヤバい。ボコーダーでピッチが変えられたボーカルと、歌い出しの歌詞が頭から離れない。
M8 - らんっ!
陸上部のランナーをテーマにした、爽やかで明るいポップな曲。後半の加速地点が気持ち良い。
2.神聖かまってちゃん - の子
(2013)
アルバム名がバンドの名前という、謎タイトルのアルバム。前述した神聖かまってちゃんのフロントマンであり、ボーカル兼ギタリスト、の子のソロアルバムである。
収録曲はほぼ全て神聖かまってちゃんの楽曲のセルフカバーであり、バンドメンバーの代わりにサポートメンバーがの子以外のパートを演奏している。
実質、ベスト・アルバムのような立ち位置だが、このアルバムは神聖かまってちゃんの熱烈なファンやメンバーからの評価は著しくない。神聖かまってちゃんの特徴とも言える、荒削りで破壊的なサウンドボーカルは、このアルバムではかなり綺麗でクリアなサウンドへとアレンジされている。ここが一番賛否両論な部分であるが、個人的には入門にもってこいな一枚だと思っている。
このアルバムでは、神聖かまってちゃんのメロディの良さがよく味わえるアルバムだと思う。このハイファイなサウンドのアルバムを踏み台に、ローファイなサウンドのオリジナル・アルバムを聴くことで、より神聖かまってちゃんというバンドを楽しむことが出来ると思う。
一つ問題があるとすれば、この作品がサブスク配信やデジタル・リリースがされていないということである。(勧めにくいですね)
特にすきな曲
M3 - ベイビーレイニーデイリー
もとよりポップ路線な曲なのだが、聴きやすくなったことで一般ウケしそうなサウンドになっている。最後に原曲にはないピアノパートが追加されており、ここがすき。
M9 - Os-宇宙人
提供曲のセルフカバーなのだが、デモ音源以外の公式音源を聴けるのはこのアルバムだけである。イントロのドラムからテンションMAXで最後まで突き抜けていくのが気持ち良い。
M11 - おっさんの夢
原曲の立ち位置はシングルのカップリング曲という、かなり地味で過小評価されがちなポジションだが、このアルバム内での存在感は凄まじいものであると思う。とにかくメロディが良いし歌が上手い。あと歌詞も良い。
3.Beaucoup Fish - Underworld
(1999年)
イギリスのテクノ/エレクトリック・ユニットであるアンダーワールドの5thアルバム。カール・ハイド、リック・スミス、そしてこのアルバムを最後にグループを脱退するダレン・エマーソンによる、3人体制のアンダーワールドの最後のアルバムである。
上品でクラシックな音色から始まるこのアルバムは、ディープなサウンドや硬派なテクノサウンド、アンビエント的な優しいハウスや変化の激しいボーカル・ナンバーなど、様々な色に変化していく。一つのアルバムの中で、アーティストの様々な魅力を感じることが出来るのは良いアルバムだと思う。
最初のトラックから約12分あるアルバムは、現代人にとってはかなり抵抗が強いものなんじゃないかと思う。しかし、テクノやハウスの12分というのは意外と長く感じないんじゃないか、と私は思う。
テクノやハウスは基本的なメロディやビートに僅かな変化をもたらしながら、少しずつ展開していく。ミニマル的なサウンドであれば、全く変わらないこともある。テクノやハウスが大きな変化を見せる時、大体曲が中盤や終盤に差し掛かっていたりするので「聴き流してたら突然変化が起きたし、時間も割と経っていた」ということがよく起きるジャンルだと思う。数字だけ見れば長く感じるが、実際に聴いていると意外と時が経つのは早かったりする。
このアルバムはアンダーワールドの入門だけでなく、テクノやハウスをよく知らなくても楽しむことのできる、プログレッシブハウスやテクノの入門にも使えるようなアルバムだと思う。インスト楽曲だけでなく、カール・ハイドのボーカルがメインで入っている楽曲も多い。クールでオシャレなアンダーワールドの世界観を是非楽しんでみてほしい。
特に好きな曲
M1 - Cups
今まで聴いてきた電子音楽の中で一番イントロが素晴らしい。本当にそこだけでも聴いてみてほしい。最後の方は序盤とかなり曲調が変わってるのも面白い。
M4 - Shudder / King of Snake
カール・ハイドの歌声と力強いドラムマシンのビートがクセになる。「ディスコの女王」ことドナ・サマーの楽曲のサンプリングがされている。最後に明らかにぎこちなく英語を話すボイスが挿入されるが、恐らく日本人の声である。私はこれのモノマネができます。というか自分の声すぎてビックリしました。
M10 - Something Like a Mama
このアルバムの中ではかなりディープな楽曲。タイトルの「Something Like a Mama」というワードを繰り返す所がクセになる。女性ボイスの使い方は聴いていて少し不安な気持ちになる。
4.POINT - Cornelius
(2001)
渋谷系の代表格ともいえるバンド、フリッパーズ・ギターの元メンバーである小山田圭吾が、1993年より開始したソロユニット、コーネリアスの4thアルバム。このアルバムでは、前作までのサウンド・コラージュ的な作風から、アンビエント的でシンプルなサウンドへと変化したアルバムである。
このアルバム、とにかく音が良い。ピアノ、歌声、ギター、鳥の鳴き声、水滴の滴る音、虫の声、狼の鳴き声など……聴いていて気持ちの良い、ヒーリング効果のありそうな心地の良い音がたくさん詰まっている。それまでのコーネリアスのアルバムでは沢山の音楽的な要素が詰まっていたが、情報の多さに疲れてしまうこともあった。だが、このアルバムでは心地の良い音を組み合わせながら、シンプルなサウンドで楽曲が構成されている。
展開はシンプルになった訳ではなく、使う音の種類が減っただけで、実験的な音の組み合わせや展開が多く登場し、飽きがこないサウンドとなっている。
このアルバムは曲全体がシームレスにつながっており、単体で曲を聴くというよりも、アルバムを通しで聴くことの方が楽しめるのではないかと思う。また、通しで聴くことでより楽しさが増すギミックがあるので、ぜひ一度シャッフルなどせずに、曲順通りで聴いてみてほしい。
余談だが、このアルバムに収録された楽曲をリミックスをする公募があり、そこで採用された音源をまとめた「PM」というアルバムがある。
このアルバムと同じくシンプルなアンビエント的なリミックスから、混沌としすぎて最早意味がわからないリミックス(?)のようなものが混ざった、かなり上級者向けのコンピレーション・アルバムが存在する。こちらも、面白い内容となっているので、是非聴いてみてほしい。なお、この作品もサブスク配信はされておらず、デジタル・リリースも無い。(なんならYouTube上に無断転載すらない)
なので、このリミックス集を聴く難易度は若干高い。しかし、聴けばトラウマもんになるくらい衝撃度の高いリミックスが収録されているので、この作品が気に入った方は是非取り寄せてみてほしい。
特に好きな曲
M3 - Smoke
最初のドラムの音の時点で良い曲なのがわかってしまう。サビの伸ばし方が気持ち良い。4曲目への繋ぎのギターも最高。
M5 - Another View Point
音の使い方がかなり面白い。ここでは、アンビエントの側面よりも、前作までのコラージュ的な要素が顔を出す曲になっているように思える。ライブだとバックの映像で遊びながらこの楽曲を演奏するので、テンションが上がる。
M9 - Brazil
映画「未来世紀ブラジル(1985年)」のテーマ楽曲のカバー。機械音的なエフェクトのかかったボーカルが、のどかな曲調を歌い上げていく。ボサノヴァの良さをコーネリアスの方法で引き出している。
5.META - METAFIVE
(2015)
Yellow Magic Orchestraのメンバーであり、ドラマーやソロでも活動していた高橋幸宏を中心に、前述したCorneliusこと小山田圭吾、電気グルーヴの元メンバーであるテクノミュージシャン砂原良徳、元Deee-Liteのメンバーであり、DJやミュージシャンとして活躍しているTOWA TEI(テイ・トウワ)、ユーフォニアム奏者であり、音楽監督なども務めるミュージシャンのゴンドウトモヒコ、自身の名前と同じ名義のバンドやをKimonosといったバンド活動を行いながら、作詞家としても活動するLEO今井の6人により構成されたバンドがMETAFIVEである。
メンバーの経歴が濃すぎて紹介するのも精一杯だが、かなり濃い経歴を持つメンバーであり、全員が高橋幸宏のサポートメンバーや合作の経験のある人物である。
また、Yellow Magic Orchestraのメンバーと、YMOに影響を受けた、所謂「YMOチルドレン」達のコラボユニットであり、YMOからの派生を楽しみながら音楽を聴く人にとっては垂涎もののバンドであろう。
このアルバムでは、メンバーの豊富な音楽経験とそれぞれの持つ個性を最大限に発揮しながら作られたテクノ・ポップが収録されている。メンバーがそれぞれ2曲ほどデモトラックを作り、それをメンバーで肉付けしながらバンド・サウンドに変えていく。大元となる作曲者の要素を尊重しながら、それぞれの良さが引き立たられているのが素晴らしい。
曲によってテンションや方向性がかなり変わるが、LEO今井の英歌詞ボーカルや小山田圭吾のギター、そして高橋幸宏のドラムなど、全編共通で聴きどころとなる部分もある。アルバムを通して聴き、好きな作曲者を探すのも一つの楽しみ方かもしれない。
2023年現在、公式なアナウンスは無いものの、METAFIVEは解散した状態と言っても良いだろう。今年の1月、バンドの中心である高橋幸宏氏(Vo/Dr)が逝去したのも大きな理由だ。
しかし、完全に離散したわけではない。メンバーのLEO今井と砂原良徳を中心に、相対性理論のギタリスト永井聖一、LEO今井のバンドでも活躍するGREAT3の白根賢一を加え、TESTSETとして現在バンド活動を行っている。つい最近1stアルバムが出たような新しいバンドなので、是非チェックしてみてほしい。
特に好きな曲
M1 - Don't Move
「メタ!」のボイスと共に始まるこの楽曲は、非常にトリッキーなサウンドで、このバンドの自己紹介のような曲である。LEO今井によるキレキレのボーカルや高橋幸宏のドラムソロ、ゴンドウトモヒコのユーフォニアムパートが特に好き。
M2 - Lov U Tokio
この楽曲のイントロを聴いた時にかなりの衝撃を受けたことを覚えている。砂原良徳による完璧なマスタリングや小山田圭吾のギターの巧みさ、テイ・トウワの遊び心あるサウンドに圧倒された記憶がある。中盤に入る女性のナレーションは、LEO今井の母親によるもので、終盤に差し掛かる時に鳴るとあるボイスは、砂原良徳が坂本龍一に直接許可を取って挿入したものである。YMOファンにも、そうでない人にも是非聴いてみてほしい一曲。
M7 - Disaster Baby
LEO今井による爽やかなバンドサウンド。他曲がエレクトリックサウンドとロックの融合だったり、トリッキーな展開を含む中、この楽曲はかなりストレートなロックナンバーとなっている。
本来であれば全てを紹介したい所なのだが、あまりにもアルバムや楽曲への思いが重すぎて、かなり文量が増えてしまった。
というわけで、今回は最上段のアルバムの紹介で終わろうと思う。次回以降もこのスタイルで少しずつアルバムを紹介して行けたらと思う。
間違いか何かあったら指摘して頂けたらと想います。直します。
ここまで見てくださった方、お疲れ様でした。
それでは。
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