見出し画像

生産財マーケティング ニーズの分類と強みのマッティング

1.生産財(対組織販売)のニーズとは

生産財というよりも対組織販売のマーケティングにおける顧客ニーズは、一般的な消費者のニーズとは異なります。
まず、この点を再度整理します。
(1)経済性の追求
生産財で言う顧客ニーズは消費財とは異なり、可愛いとか好きという感情的な要素は当然ありません。
基本は経済性の追求です。
顧客にとっての経済性の追求の基本は「QCD+S」になります。
Q(Quality)C(Cost)D(Delivery)は、ご存知の通り不良低減やコスト削減、生産性向上や短納期対応などですが、+SのSとは、新製品開発、Safety(安全)の語呂合わせです。
それによって、顧客の新製品の開発が進むとか現場の安全性が向上することもニーズに含まれます。
(2)潜在ニーズと顕在ニーズ
ニーズは表に出ていない潜在ニーズと既に表面化しており解決すべき課題として認識されている顕在ニーズがあります。
しかし、状況によって潜在ニーズは顕在化しますし、顕在化ニーズも状況が変われば優先順位は変わります。
古い話ですがわかりやすいところでは。東日本震災の際には、原発が稼働しないことから省電力が最優先課題となり、LEDが一気に拡大しました。
円安で資材が高騰し利益が圧迫されている企業でしたら、安い代替資材の探索やコストダウンが最優先となります。
一方、市場で致命的なクレームを出した顧客だと、クレームの対応が最優先事項となります。
このように状況が変われば、顧客ニーズの優先順位が変わるだけでなく潜在ニーズも顕在化します。
そうしますと、ある時点で顧客にニーズはないと言ってもそれが状況変化によって変わる可能性もあり、この顧客はニーズがないと決めつけることはできません。

2.ニーズと自社の強み

(1)顧客ニーズと自社の強みのマッティング
売れるということは、顧客ニーズと自社の強みが合致しているからとも言いかえることができます。
従って、必要なことは顧客ニーズにあわせた自社の強みを構築するか、自社の強みを発揮できる顧客を見つけるかの2点となります。
(2)レッドオーシャンとは
競合がひしめき合う激しい競争状態にある既存市場のことを「レッドオーシャン」と呼びますが、これは、同じ顧客の同じニーズに対して仕入先が競争し合うことです。
重要なのは競合よりも強いということですが、差がなければ最終的には価格勝負となります。
(3)ブルーオーシャンとは
ブルーオーシャンとは、これまでとは異なるカテゴリーのニーズを掘り起こす、新しい価値提供のことです。
最近では、チョコザップなどが例として上げられるでしょうか。
顧客さえも気がついてない新しい提案であり、これができればベストですがそう簡単に行えるものではありません。

3.顧客ニーズの分類

顧客ニーズは、潜在ニーズなのかそれとも顕在ニーズなのかというニーズの分類とすべての顧客に共通するものなのかそれとも一部の顧客に限定されるものなのかという二軸で整理することができます。
このニーズに対して自社の強みを発揮できれば良いのですが、ここでは強みの話は横において、顧客ニーズという視点で整理します。

(1)  象限A―顕在ニーズ+業界共通ニーズ
業界本などに記載されているようなもうすでに明らかになっているニーズです。
自動車産業の全固体電池開発や運送業界の労働問題などがこれに該当します。
明らかになっているということは、当然すでに激烈な競争になっているということになります。
したがって、この分野に手を出すかどうかは経営としての意思決定の問題になります。
ものすごい強みがあるのであれば別ですが、基本後発では手は出さないほうが良いでしょう。
ただし、自動車の全固体電池開発というようなものすごく大きなテーマではなく、小さな業界の共通テーマもありえます。
最近面白いと思ったのは、クラウド型のアルコールチェッカーです。
法改正により支給日確認の記録保存。アルコール検知器のメンテナンスが義務化されるそうですが、これをクラウドで行うという発想はありませんでした。
 
(2)象限B―潜在ニーズ+業界共通ニーズ
これは今現在ニーズとして明らかにはなっていないが、何かのきっかけで顕在化するニーズのことを言います。
このきっかけは何かというと、外部環境変化です。
既に記載していように、円安で資材が高騰し利益が圧迫されている企業でしたら、安い代替資材の探索やコストダウンが顕在化する等がこの事例です。
PEST分析で言うところの、政治、経済、社会、技術の四つの外部環境の変化ですが、ご自身の対象顧客の実態に合わせて、外部環境の項目は設定することが必要です。
ただし、この外部環境の変化も二つに分類することができます。
一つはパラダイムシフトで、一つは単なる循環です。
パラダイムシフトとは、それまで当たり前だと考えられていた価値観や概念が大きく変化することを指します。
ChatGPT等の生成AIの出現と活用などは、パラダイムシフトであり遅かれ早かれそのような時代になります。
先日、コストコでイーロンマスクが率いる宇宙ベンチャーのスペースX社が提供している衛星インターネットサービスである「スターリンク」の販売が開始されましたが、これだと、空が開けた場所ならどこでもインターネットが利用でき、光回線や携帯電話の電波が届かないエリアでもネットに接続できます。
いずれ音声通話やデータ通信ができるようになると思いますが、そうなると通信のキャリア自体が不要になるかもしれません。
これはある意味流れを読むしかありません。
もう一つは、パラダイムシフト的要素を取り除いた循環的な変動です。
これについては、この変動に合わせて顧客がどのような対応をとるのか、これを蓄積して対応策を考えることが必要となります。
必要なのは、対象の業界で常に収集すべき外部環境は何で、その外部環境が変化したときに顧客がどのような動きを見せるのかを予測し対応策を準備することです。
特に循環的な変動であればこれまでの変動と顧客の動きを体系的に把握しデータベース化することです。
その上で、対応策=解決策の提案を準備することが必要です。

(3)象限C―顕在ニーズ+企業固有ニーズ
これは特定の顧客で顕在化しているニーズのことです。
これもデータベース化して共有することが望ましいですし、対応策=解決策の提案を準備しておきたいところです
この場合必要なのは、なぜそのニーズが顕在化したのかを明確にすることです。
顕在化の理由が明確になれば、同業種の顧客への横展開が行える可能性が高まります。
あるダンボールメーカーでの話ですが、長尺なダンボールの見積もりをしたところお客様から安いと言われ即採用されました。
調べてみると、自社の設備が他社にないもので長尺物が安く作成できることがわかりました。
そうなると、狙うのは長尺なダンボールで、花・野菜など横展開を行ったという事例があります。

(4)象限D―潜在ニーズ+企業固有ニーズ
外部環境変化が業界共通の潜在ニーズを顕在化させるのに対して、固有の顧客の内部環境変化と顧客を取り巻く競争環境が潜在ニーズを顕在化させます。
顧客の内部環境とは、経営方針・購買方針・組織変更・人事情報・販売状況・技術開発動向などを上がることができます。
例えば、当たり前ですが、顧客の組織変更によって自社に対して好意的ではい方が部門の責任者いなれば、悪影響が出る等のリスクがあげられます。
また、顧客を取り巻く競争環境とは、対象顧客の競合が動くことによって顧客に影響をもたらすことを指します。
顧客の競争相手が、低価格の新商品を販売し大幅にシェアを伸ばしているという状況になれば、当然顧客も対抗する手段(新商品開発OR既存商品のテコ入れ)を講じるという変化が発生する可能性が高まります。

いずれにしても、顧客内の内部環境変化と顧客を取り巻く競争環境の変化は、潜在ニーズを顕在化させる可能性があるので、外部環境同様に収集すべき内部環境の項目の明確化と対象顧客の競争の情報を収集し、変化に対する対応策を考えることが必要です。
これも変化内容とその影響をデータベース化しておきたいところです。

外部環境・内部環境・顧客の競争環境変化項目例

4.顧客ニーズのまとめ

業界共通顕在ニーズ及び顧客固有顕在ニーズは、既に明確になっているのでここでのポイントは以下の2点だと言えます。
(1)小さな内容でも良いので顧客ニーズを個人のノウハウにするのではなく、まずは共有化する。
(2)ただし、その内容は なぜそのニーズが生まれたのか(背景)とどのようなニーズなのかをデータベース化し、横展開できるようにしておく。

業界共通潜在ニーズ及び顧客固有潜在ニーズは、外部環境や内部環境、顧客の競争環境の変化によって、顕在化する可能性があるとしか言えない。
そうすると、ポイントは以下の2つとなる。
(1)収集すべき外部環境、顧客内部環境、顧客の競争環境の具体的な項目を自社の状況に応じて明確にして、収集と共有化を行うこと。
(2)変化がある場合に、その変化によって顕在化するニーズにどのようなものがあるのかを、過去データから想定する。
その想定に対する対応策を準備する
 
以上は顧客ニーズが分からみた整理です。
実は潜在ニーズを顕在化させる方法がもう一つあります。
それは、強みの発揮です。
問題を認識していない顧客に問題であることを認識させる。
これは次回整理してみます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?