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【漫画】ちいかわの好きなバトル語ろうや

※本稿では、『ちいかわ』Twitter最新話のネタバレを含みます。

 ネット漫画、ネット漫画家という言葉が世に出てからはや数年以上、ネット漫画界のトップに上り詰めた名作『ちいかわ』。完結済長編のセイレーン編(仮称)では、ネームドキャラのほとんどが大集結し、怒涛の伏線回収と先の読めないバトル、突然加入したクソ強味方キャラ「しまじろう(島二郎)」、劇中初の「なんとかなれ」無効という激アツの展開に、空前の盛り上がりを見せた。Twitter連載でありながら、誰がどこからでも読めるメリットを半ば放棄し、新規読者置き去りで一年弱の大長編をやってのけたナガノ先生の本気が見てとれる。
 一つのストーリーの中で、陸上戦、水中戦、空中戦の全てをごく自然に盛り込んだ技量は、一流漫画家のそれと言わざるを得ない。セイレーン編で、ナガノ先生の脚本構成力と魅せ方は、漫画史に残るA級作品と肩を並べた。
 本稿ではそんなちいかわの、個人的に好きなバトルを、順不同で三つほど語っていきたい。最初に言っておくと三つなのはキリが良いからで、名バトルはもっとたくさんある。本当に語りきれず、全部拾うと膨大な文字数になるため断腸の思いで選別させてもらった。皆さんの好きなバトルも教えてください。
※画像はすべて、『ちいかわ』(ナガノ先生)からの引用です。


黒い星戦

ちいかわ@ナガノ

 ヤホー
 おそらくちいかわ史上初の長編バトル(定義によるが)だろう。「フ!!(絶望)」はあまりにも有名。タイムループの中に閉じ込められた主人公が孤独に戦うという展開をこの絵柄で見ることになるとは思わなかった。タイムループからの脱出、解決を目指す展開は映画や漫画では「ジョジョの奇妙な冒険」「まどか☆マギカ」などでも描かれており枚挙にいとまがない。この頃から読者層が増え、連載当時は「面白い」と「意味不明」に二分されていた印象がある。
 このバトルは難解な印象があるが、毎回ほぼ1ページでありながら読者が頭を使う展開であるため、前回以前の話を記憶しておく必要があったことと、ヒーロー(ちいかわ)とヴィラン(黒い星)のどちらも、ほとんど喋らないキャラであったことにも起因しているというのは、考察勢の間でも見解が一致しているだろう。
 実際のところ、一挙に読んでみると「黒い星の能力(呪い?)によって同じ一週間をループしている」ということさえ理解できれば、話の流れは分かる。単行本で一気読みしたときのスッキリ感は異常。
 一度、ちいかわがハチワレちゃんとうさぎに全てを説明して理解してもらい、三人での協力路線が見えただけに、そのあと結局またループしてちいかわだけが記憶保持していた展開には誰もが絶望しただろう。その後の「フ!!」だけに、インパクトが強烈すぎて絶句した。本来意味のない「フ」という言葉に、ちいかわの悲壮感をこれほど込めることができるのか。今でこそネタにされているが、到底笑えるシナリオではない。なお、ネタ化しているのは、公式でこのシーンが度々グッズ化されているせいもあるだろう。公式スタッフに人の心がなさすぎる。
 途中まで僕は「最終的にはハチワレちゃん、うさぎとトリオで解決するのかな」と思いながら読んでいたが、基本的に「ちいかわVS黒い星のタイマン」という構図が崩れなかったのも良い。本作、少年漫画にありがちな突然のパワーアップや、強キャラ(例えばラッコ先生)のお助けなどはまずない。絵柄の割にシビアすぎるだろ。
 クライマックスの、必殺アイテム「オキシ」を泣きながら持ってきたちいかわと黒い星が対面し一騎打ちに繋がる流れは、西部劇さながらの緊張感である。ここで本編が完結する可能性も十分にあると思わせられたほどの出来上がりだった。未読の方は決着をご自身の目で見ていただきたい。

でかい鳥戦

どれもこれも命がげすぎる。

 公開順的に黒い星戦と前後するが、でかい鳥戦は主人公トリオの結束が描かれる名勝負だ。パジャマパーティーズ編といえば伝わるだろう。現在(2024年3月)、絶賛アニメ化中のストーリーだ。でかい鳥、固有の名称がなかったので、僕は個人的に「ガンギマリの鳥」「キメラバード」とか読んでいたのだが、公式グッズが出るにあたって(なんで出た)、でかい鳥という名前であることが判明した。目が怖いよね。
 パジャマパーティーズを連れ去ったでかい鳥との戦いでは、咄嗟に武器を取ってくるうさぎの機転、ハチワレちゃんとちいかわのなんとかなれクロスアタックなど見どころ盛りだくさんだ。というか序盤の敵にしてはでかい鳥が強すぎるだろ。
 個人的には、耳を咥えられて真顔で引っ張られているうさぎが好き。三途の川まであと一歩でもいつもの涼しい顔が崩れていないのは、仲間への信頼の表れか、それともうさぎの生まれ持った度胸ゆえなのか。

ヘビ戦(拾魔戦)

 やはりちいかわを語る上で避けては通れない(突然の批評家気取り)。うさぎの「ツツウラウラ」という名言を生み出した回であることは、ちいかわファンには周知の事実である。そのあと突然のうさぎフェードアウト、ハチワレちゃんVSヘビ、ちいかわVSヘビの連戦は続きが気になって夜も眠れない。
 「有能な味方キャラが突然戦闘不能になる」という展開は少年誌ではよくあることだが、ナガノ先生はこういった技法を取り入れるのが上手すぎる。一切の戦闘や敵への手がかりもなしに突然ピンク石になったうさぎを見て、絶望した読者は数知れない。この歳になって、中高生のときに味わった、ドランゴールラディッツ戦の悟空退場、ジョジョ一部のツェペリ師匠退場みたいな、「どう考えても味方が足りないだろ」という心境にさせられるとは思っていなかった。
 ヘビ側の、「一度に全員を相手にせず、一人ずつ石化させていく」という戦闘スタイル(?)によって作中の緊張感がグッと上がっており、僕もいつ「ちいかわ 完」という字面を見てもおかしくはないという心構えで読み続けていた(今でもそうである)。ハチワレちゃんも石化するといよいよ絶望感は深まり、友人との会話でも「冗談抜きでちいかわバッドエンド完結あるやろ」と言っていた。
 そしてちいかわVSヘビ、ちいかわの「ン」「ウッ…!!」という少ない言葉から、「ハチワレちゃんもうさぎも救出してやる」という悲壮と決意を感じさせるナガノ先生は、間違いなく漫画の達人である。
 はっきり言って僕はヘビ戦までちいかわというキャラ自体はあまり好きではなく、特に泣き虫なところが同族嫌悪的に好ましくなかった(可愛くない分僕の方が敗北している)。ちなみにちいかわが孤立した後のリプ欄も「ヘビ、最後に一番弱いやつを残す有能」「ドッジボールで、弱いのに避けるのだけ上手いから最後に残っちゃってるやつ」「次ちいかわ最終回だろ」とボロカスであった(もちろん応援コメントもたくさん)。
 だがこのヘビ戦を見るとちいかわがこれまでの苦難を乗り越えて心身ともに成長していることが分かるし、誰にも頼らずヘビ討伐を目指す姿には胸が熱くなる。終始ちいかわ頑張れ、ちいかわ負けるなと心の中で思っていたし、ちいかわという主人公が大好きになる名バトルだった。
 ラスト、ピンク石は結局何だったのか、ヘビがいつからこんなことをしていたのか、詳細が語られることなく雨の中決着を迎えるのも、文学的な余韻があり素晴らしい。本作ではしばしば、決着の喜びよりも、戦いのあとの不毛な虚しさや、怪奇現象の不気味さが描かれる。本来、凌ぎを削り合う戦いとは悲壮なものであり生産性がないということを、ちいかわは我々に教えてくれるのだ。ちいさくてかわいい話はどこ行ったんだよ!(賞賛)

ちいかわ@ナガノ
「ンウッ…!」本当にかっこいい

いろんな戦いと、今後への期待

 その他にも、というかその他では片付けられないほど濃いバトルが盛りだくさん。すでにアニメ化された、なんとかバニア戦のいきなり感も怖いし、呪いのステッキや呪いのハニワ(木彫り人形?)など、呪いアイテムの事件もまだまだ語りたい。この世界、危険が多すぎる。主役三人はここまで五体満足な時点で相当強く、運もあると言える。実際、パジャマパーティーズメンバーは顔や体に傷ができてしまったし、「あの子」の捕食シーンもしばしばあるよね。山姥戦も激アツなんだけど、それはまた別の機会に。

 今後のちいかわはどうなっていくのであろうか。既出のヴィランズで今後再登場の可能性が高いキャラとしては「あの子」「でかつよ」が挙げられる。別に本作はバトル漫画ではなく、大きい討伐がちいかわの生きる目的というわけでもないので、ちいかわたちと接触なく最終回を迎える可能性もあるが、ナガノ先生がこの二大キメラをどう料理するのか今後に期待したい。個人的な願望でしかないが、オデとちいかぶは出てこなくて良い。出てきても悲しいだけだから……ウッ!(ちいかわ風)
 でかつよはネーミングからしてちいかわの対義語であるし、設定的にも平和的解決がまずあり得ない以上、展開が楽しみすぎる。

 ともあれ、ちいかわを読んでいると、「次のページ、次の回を予想することがいかに無意味か」と思い知らされる。常に読者の予想の上をいってやるというナガノ先生の意気込みが感じられる。僕らに笑いと涙、ワクワクとドキドキを提供し、その上で何歩も先をいく、それがナガノ先生と『ちいかわ』なのだ。

おわり
皆様の好きなバトルも教えてください!

サポートいただいたら本を買ったりご飯食べたりします。