大腿骨近位部骨折の理学療法 ⑤ 表層の屈曲制限への対処

今回は、患側股関節可動域制限についての最後になる。これは最も分かりやすい制限だと思われる。手術で切った傷自体が痛いから動かない、というもの。


奥の筋肉に関しては組織の修復を待ちつつ他のリハビリを行うが、表面の皮膚や、皮膚の下(皮下)の筋膜自体が硬い、という問題に対してのアプローチも必要、という観点を今回は説明していきたい。


最初の腫れが酷い場合、炎症を抑えるため何をするか、といったらアイシングを思いうかべるだろう。あまり熱感があり、触れるだけで痛みが強い場合、痛みの閾値を下げないと組織への徒手的アプローチどころではない。

熱を持ち、感覚が過敏となっているところが、さらに腫れていて表面積まで大きくなっていては、患部外を動かしても連動したわずかな動きで痛みを拾いかねない。

そうなると、防御的に動作への抵抗をするように体を固めてしまい、可動域制限の改善を図るはずがより可動域を狭める結果を生む。

そのため、まずはアイシングにて過敏な感覚をやや鈍麻させる、というのは理にかなっている。


しかし、それ以外にも大切なことがあると私は考える。

それは、創や腫脹部位の周辺まで不動により伸張性が低下してしまうのを防ぐことだ。創自体を離開や伸張させないように、創の方向に徒手的に圧縮・短縮させる方向に抑えたまま、痛みのない範囲で上下左右斜めに動かす。

これを行っておかないと、創周囲の炎症が収まってきても周辺の幅広い部位まで硬く短くなってしまうため、柔軟性を高めなくてはならない範囲が増える。

創自体も硬いのに、更に周辺まで硬いと関節運動の際にそこだけに負荷が集中し、痛みが出てしまい制限因子になってしまう、というわけだ。


また、創自体も熱感が収まり、触れても痛みがなくなっていれば可及的速やかにつまんで動かすなどの硬化予防が必要だ。
もちろん創自体が開く可能性のある2週間程度は離開方向は避けつつだが、それ以上が経過した場合は創皮膚があらゆる方向に動ける様介入しよう、という考えで当たらなくては後遺症が残りやすいと思われる。


具体的な伸張の強さや何秒、何回行うかということを新人の頃の自分は知りたかったが、経験を重ねるうちにはっきり決めるものでもないことがわかった。

どういうことかというと、

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