大腿骨近位部骨折の理学療法 ⑥ 患側への荷重方法、歩行介助

長かったこの記事も、とうとう患側を使ってどう歩行を獲得していただくか、どう指導するか、いう話に入る。


大腿骨近位部骨折手術後の患者さんが歩けない理由は、おおむね患側に体重をかけられないことだろう。

中には前面の滑走障害から振り出しに痛みのある例もいるが、それは滑走操作をしつつ、痛いうちは股関節でなく、骨盤から挙上させればとりあえず振り出しはできる例が大半だ。


患側股関節に荷重した場合、痛みとともに股関節が屈曲、内転方向に崩れてしまい、健側を床から離せず、一歩目から進めないため歩行が成り立たないことが多い。

この崩れから来る破行への対処について、今回は記載していきたい。

これは、健側に荷重していれば股関節が軽度屈曲していようが、外転していようが、伸展していようがなんともない。

しかし、荷重して不安定になった股関節を筋活動を通じて支えようと思うと、後外側の筋や軟部組織が損傷しており、痛みもあり支えられず崩れてしまう、というわけだ。


ということは、後外側の筋や軟部組織の支持性をセラピストが補う様に支えてあげれば、それらは痛みを発さずに立位保持、歩行が可能になるのではないか。


臨床的に、前方か、側方か、後方か、どこからでもいいが、セラピストの手掌を開き、患者さんの腸骨稜、大転子、坐骨結節間をホールドして、そのまま前内側に手を押し付けておく。こうすると股関節の崩れを防止できることが多い。

注意点として、骨盤‐大腿骨頭間を安定化させたいがためにこの作業を行っているが、反対側から軽く抑えがないと患者さんの体を押してしまうことになるので反対側の上前腸骨棘付近に固定のため手を回しておいたほうがいいだろう。

要は後外側から骨頭を支える、というのは中殿筋の代わりをセラピストの手掌で行っているというわけだ。これは、市販の股関節サポーターなどでもある程度代用が効く患者さんの痛みに合わせサポートの強さを調整できる、という点が手掌のメリットだが、サポーターはご自身で装着可能、外的デバイスに頼れるため中殿筋のサポートをしたまま他へもアプローチ可能という点がサポーターのメリットだ。

話が逸れてしまったが、こうした方法で痛みが起こらず、崩れていない立位を経験してもらい、このまま少しずつセラピストの介助を緩めていく。もちろん崩れそうになったらすぐに介助を再会する。そうして自力で骨頭を後方から支えられるように、後方支持組織による股関節の安定を学習させていく。

徐々に静的立位だけでなく、健側の踵を上げてみたり、振り向き動作を行ってみたりと患側荷重をしたままさらにその中で重心を動かす、荷重を増やすなどの課題を取り入れ、動的なバランスや、片脚立位など荷重量を増やした状態でのバランスなども取れるようにしていく。


この場合の大きな問題として、後外側の支持機構がまだ破綻破綻しているため、骨頭の安定化以外に、骨盤の水平を保てずに結果として股関節が崩れてしまう、ということがある。

後外側支持機構の中心的役割をなす中殿筋は、以前の記事でも書いたが腸骨稜から大転子後方に付着する。つまり、骨盤を下からさらに下に引っ張っている。これがたるんでしまうと、骨盤は、運動学用語でいうところの挙上してしまい、反対側が下に落ち込んだ形となる。

これを制御するために中殿筋のトレーニングが必要となるが、中殿筋のトレーニングと聞いて、側臥位で行う大腿の外転をイメージする方もいるかもしれない。

しかし、これは腸骨稜側から大腿を引っ張るという形での起始→停止方向への収縮だ。もちろん筋腹へ負荷をかけて筋の総量を増加させる、という意味では有用かもしれないが、立位で骨盤を水平に保つという筋の使い方を練習する上ではあまり役に立たないと私は考える。

この場合に行うべきトレーニングは、

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