面談【前編】
鷹月マリアはルイボスティーを飲みながら、
来客を待った。
デスティニーグループの統括マネージャーに就任して5年になる。
かつて鷹月も巨蟹宮 ルナの源氏名で
平成のトロピカルを支え、スカウト、講習員を経て、この地位まで昇りつめた。
時代は平成の終わりが近づき、オリンピックも控える。
この産業はいつまで許されるのか。
人間に性欲というものがある限り、形を変えて
国とイタチごっこをするにしても、
もう少し緩やかにしてもらいたい…
為政者のパフォーマンスの為に後先考えず取り締まるから、ネットの海に売買交渉が向かい、
治安はかえって悪くなる。
近年の若者の梅毒の増加などがその最たるものではないか…
ノックが聞こえ、促すと、天秤宮 麗菜が
姿を現す。
「お疲れ様。大したものね、上位ランカーの常連じゃない」
「ありがとうございます」
心地よい声色に少し色気がついてきた。
この娘は売れる。星代表も鷹月も確信に近いものがあった。
「早速だけど、こないだの一件、佐竹弘様とのことを聞いていいかしら」
「すみません。コンドームをつけたくないと
しつこくされたので、ついカッとなってしまって」
「榮倫太郎様を常連にしていて、それだけで
あなたがカッとなるかしら」
榮倫太郎はトロピカルきっての太客であるが
かなりの問題人物で、鷹月も現役時代、頭を悩ませた。現在、彼にNGをだしていないのは麗菜を含め3人しかいない。
「すみません。あの人だけはダメでした」
「咎めているわけではないの。佐竹様は今後出禁にしているし、ただ生の強要以外にもなにかあったんじゃないかと思ってね」
「言動に不快感を感じました」
「よかったら話してくれると嬉しいんだけど。溜め込むと色々ときついし、今後のフォローもできるしね」
「奥様が悪阻で苦しんでいるのに、ほったらかして来店してきたようで、
その上で自分のことは棚にあげて母親の自覚が足りないとか…正直生理的に受け付けなくなってました」
感覚がすれてないとキツイわなとやはり感じる…
「今後、そういうお客様はどんどん来るわねぇ
妊娠中の奥さんをボロクソに言う父親の自覚ゼロのお子ちゃまが」
ふっと笑みをこぼす。
「お子ちゃま…ホントそうですね」
「私はここは大きなお子様がやってくる託児所と思ってやってたわ。まあ私は巨蟹宮にいたから、幼児プレイのお客様が大半だったからねぇ」
「大変ですね」ため息もいい…
「あなたなりの対処方法は今後模索した方がいいかもね。相談はいつでも乗るわ。
電話やメッセージでも対応するから」
「ありがとうございます」
5分にも満たない面談は終了した。
次が問題だ…
【後編へ続く】