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昭和的実録 海外ひとり旅日記        予測不能にも程がある トルコ編 12


日記_014  見つけたよ 永劫の地

 28/apr 1978 Kiz kalesi 1

Silifke〜Kiz kalesi minibüs 0.5hs 7.5TL
Kiz kalesi〜Narlikuyu 〜Kiz kalesi hitch
Cennet & Cehennem magarasi

Kiz kalesi〜Mersin Taxi 1hs 20TL
Mersin〜Nığde otöbüs 4.5hs 50TL


ホテル50TL

今日もまた昨日までと同様禿山だけの車窓かと高を括っていると、小さくそして深く切れ込んだ変化に富んだ入江の連続が出現し始めた。
水深は浅く葦も茂っているようであった。

んんっ、水底に人工的な白い石肌様が夥しい。
見渡せば崩折れた石肌があちこち水面に顔を出している。
エンタシスだぁ!

( Stop! Stop! )

息を呑む程の感動が強すぎて、声を発するタイミングを逸っしてしまったのだが、不思議なことにminibüsはこの小さな入江を迂回したところで止まった。

Kiz kalesiに到着したのだ。

地球上にこんなファンタジーなトコロがあるんだ・・・。

抜ける様な空と澄んだ海に眩い光を浴びる孤島の城はセルジュクのスルタンの憧れ(多分?)の具現化。
そう「冒険者たち」(1967年 仏映画)の俯瞰シーンそして演じられるドラマそのままを彷彿とさせる。

今は鏡の様に透ける波打際には、ギリシャ・ローマ時代の大小長短に崩折れたエンタシスや柱頭がひしめき合って眠っている。
漣がたつ頃には大欠伸をして長い眠りから、目覚めるというのか。

足りないモノを足して良いと言うなら、突き出した岩場にテント庇のあるレストランのテーブル下に寄せるさざ波に脚を浸しながら食べるオリーブオイル料理・・・。

これで万全・・・ヘブンさ。

(自然を満喫することができる地は少ないわけではないが、加えて何百・何千年もの歴史・文化を体現したなまの史蹟を普段着に纏える地なんて、何処を探してもあり得ないだろう)

(小さな小さな村として以外、未だ開発もされていないKiz kalesi

その村で10才位の少年に、ラクダを見せてもらった。

赤土混じりの地面に50cm程の穴が隠されていた
「チョット待ッテテ。」と手真似して戻ってくると、ランプを携えていた。

そしてその穴に入れ!と言う。赤土だらけになりながら逆懸垂をする様に底に着地したら、少年もぴょんと飛び降りて来て、ランプに灯を入れた。

ぽっかり抜けた地中空間は、明らかにランプの灯りの届かないさらに奥までも続いていそうだった。

灯りが定着すると合点がいった。
(成程、なるほど、鍾乳洞か)
(パムッカレと言い、トルコはこういう地勢が多いのか)

得意そうな少年の後を追ってかなり奥深くまで行くと、一段と鼻を鳴らすように指差すものが現れた。

ランプが灯すその石筍は、明らかにラクダのシルエットを映し出していた。

外に出ると、少年は改めてランプを指差し、「Twenty Five TL .」とはにかむように言った。

ポケットを弄って、30TLを手渡した。
そして一緒に、俺の目一杯の「Teşekkürler ederim(ありがとう)」を返したのだ。

 28/apr Kiz kalesi 2


この地は自分にとって永劫の地だ、と強く期するものがあった。
この陽光と空気と時間を可能な限り満身に浴びておこう。

しかし結局、村の周辺にホテルらしきを見つけることはできなかった。

必ずやこの地に戻ると決意して・・・。

Mersinから一気に北上する山間の道筋は一転険しさを増し、それは正に次の幕間へのフェイドインを意味することとなる。


 コラム_19  夢のKiz kalesi


現なのである。

ソラ・ウミ一連のブルーキャンバスに浮かぶkalesi(城)、
乳白色の崩折れるエンタシスに漣の囀り、
葦の鋭角なアニス色がキャンバスを縁ドル。

ヘブン・・・果てのない空間・止まっている時間・・・

(ここより 2023.11 記す)


恐る恐るGoogle Street Viewを覗く。

(あった!)記憶の小さな入江を見つけ出す。

しかし葦はない、エンタシスも見当たらない。

焦る思いで周辺の入江も探す、小綺麗なキャノピーを纏ったペンションが至る所にあった。

Silifkeの街まで戻って、「View」をスクロールして試る、何度もなんども


結局最初の入江が、記憶の入江だったのだろう。

もちろん少年と巡り合った何もなかった小さな村も正真正銘跡形もなく、
大きな海水浴場に造成された砂浜を持つリゾート地となったようだ。

キャンバスのスケールを縮めて試れば、沖合の城が唯一の当時の証のようである。

現在のヘブン・・・縮んだ空間・動き続ける時間・・・

まさに 「夢の」Kiz karesi  となった・・・

永劫は とどかないモノ 手に入らないモノ



 29/apr 地下闇の世界

Nığde〜Derinkuyu minibüs 1hs 10TL
Derinkuyu〜Kaymaklı minibüs 0.5hs 5TL
〜Nevşehir hitch 0.5hs
Nevşehir〜Ortahisar minibüs 20ms 10TL
〜Ürgüp hitch 10ms

ホテル30TL

Derinkuyu、Kaymaklıは、昨日までの地中海の開放的だった陽光の元から一変、地下闇の世界に真っ逆さまとなる。

ヘブン&ヘル、既に俺の思考回路は対極の落差に、オーバーヒートし始めている)

何が起ころうとしているのか?この語らない地下都市は。

蟻の巣のごとく細く、低く、深く(地下7層)潜行する20kmにも及ぶラビリントス地下都市を作る理由は何。
伝えられることはキリスト教徒が”アラブ人の脅威から逃れるため ”と言われるが・・・。

空気孔、水、ワイン棚、教会、サロン、墓・・・あらゆる生活機能を作り上げ、最後に内外両面からは動かすことが不能な直径2M、厚さ0.5M程はあるだろう車輪のような岩の扉をゴロンと溝に転がしたが最後、世界とは分断して・・・生きる・・・?

(あーあ、ああ〜あ・・・思考回路断裂

 30/apr 超現代アパルトマン

Ürgüp〜Göreme minibüs 15ms 10TL
Avcılar|Zerve|Çavuşin|Uçhisar walk

Uçhisar〜Nevşehir minibüs 30ms 2.5TL
Nevşehir〜Ankara 〜Istanbul otöbüs 12hs 75TL

奇っ怪という以外ない、Göreme/Kapadokya。

突然、バスの車窓全てがパノラマとなり無数の男根の群れ「妖精の煙突」と形容するのが正しいらしい)に取り囲まれ、襲撃されるのだ。

自然の景観としても、勿論この奇妙奇天烈さは抜きん出ているが、その岩肌を完璧にくり抜こうという着想こそのヒトの化け物さには、果てのない崇敬の念さえ抱かなければならないだろう。

それ程に前触れもなく現れる超絶の、超現代のアパルトマン群。

(知らない、情報を持たない、ということは一旦の世界の端までたどり着いていることで、それ以上でも以下でも無い勝手気儘の世界なのだが、一旦知ってしまうと自分に嫌気がさす程世界は再び膨張し始めて、果てが見えなくなってしまう

(だからとりあえず驚かない訳にはいかないのだ。心臓には悪い)

そんな想いに発奮したか、あっちの村、こっちの空き家(今だ住んでいる家族もいた)、ここは教会らしい、と穿たれた穴居を覗き込むのに、今日は歩き過ぎたか

何も無い、車も人も現れそうも無い荒野に迷い込み、「まだ今日の宿も決めていない」ことに気付き、乾いた喉が一段と引き攣る。

山岳の気象なのだろうか夕刻の冷え込みも急でハラハラと雪の気配までして来た。たまたま買った羊のベスト(これから夏を迎えるというのに)が役に立った。

幸い最終便だろうミニビュスに出くわせて、街までたどり着いたのはよかったのだが、唯一つしかないホテルは穴居を改造した超高級そうなリゾートホテル、(とても泊まれそうにない)と怯む思いに襲われた瞬間、何故か(イスタンブールに電話しなくちゃ)という(緊急避難的)アイディアが頭に浮かんでしまったのだ。

(領事館には2週間以上連絡もしていない)

見渡すとロビーに電話ボックスがある、急き立てられるようにフロントに申込み、領事館をコールした。

「知らんぞっ!」載っけにガツンと御出でなさった。

(領事の声裏に、やっと捕まえた、イイニュースだぞという安堵の気分のあることも見過ごしてはいない)

「パスポートが下りそうだ。」

イスタンブール直通のオトガルのあるNevşehirに向かう。

オールナイトで走れば明日の朝にはIstanbulに着く。

(Ankaraも通るが今回はパスかな)  

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