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隣の鳥は青い35話

 マンガ大賞の結果ー
当然だが、そんな甘い世界ではなく入選は出来なかった。
「やっぱり、そんな甘い世界ではないよねー」
グズグズとこどものように泣きながら、美久子から借りた漫画雑誌を返す理子。
「私は理子の漫画好きだよ。お父さんへのイタズラ漫画、良い線いってるよー」
と理子を慰める美久子。
「あ、ありがとう。」
「あの漫画って、お父さんにイタズラしているのを想像して描いてるの?」
「え!?」
ーまさか、本当にやっているとは言えないな。
「そっ、そうなんだよーあのクソおやじを仕返ししてるんだ。心の中でね!」
理子が慌てている顔をみて、なにかに気が付いた美久子。
「そっ、そーよね。」
相槌をうち、気付かないふりをする美久子。
「あのまんがが実話なら、理子も、理子の両親と同じ虐待してるってことだよね?」
ーヤバイ、あんなやつらと同じレベルにはなりたくない!!
「別のネタを考えよう。」
ーそれにしても、お金が足りない、バイトするしかないかなー?
そう思っていると、高校の先輩からスーパーのバイトの紹介がきた。
早速応募すると、あっけなく採用された。
数日後、学校が終わってからバイトにいった。
「とにかく原稿用紙や漫画を描く道具が欲しい。」
自転車を持っていないので、はじめのうちは歩いてバイトにいっていた。
学校が終わってからの、バイトは想像以上にキツかった。
そのせいもあり、仕事の覚えも悪く先輩からネチネチと嫌みを言われていた。
「こんなに覚えが悪いのは、なかなかいないわよ。」
「はあ、すいません。」
16時から19時までバイトして、家に帰るのは20時近くでクタクタであった。
この頃、家庭は更にバラバラになっていて、奈々子は家を出て彼氏と同棲中、剛は中学の時に非行に走り父親ともめて高校へ行かず働いて飲み歩いていた。
章は泊まりばかりの仕事、沙知美は理子とは違うスーパーで夜遅くまでパートし、そのまま飲みに行き朝帰りも珍しくなかった。
瀬利名は小学3年生だったが、家でひとりでテレビを観ていた。
夕飯は沙知美から千円を渡されており、スーパーで弁当や菓子パンを買って食べていた。
理子が家に帰ってくると、家の中は酷いありさまだった。
「ただいまー」
ヨタヨタと玄関をあがる理子。
食べかけのおやつや、飲んだ牛乳パック、脱いだ服やストッキング、床には生クリームがついた包丁まである。
当然、ご飯も炊かれてなければ、おかずもなし。
瀬利名は、テレビの前で親父のように寝転がりアニメを観て笑っている。
「あーはははー」
幼少期は人形のように可愛かった瀬利名だったが、段々と沙知美に似てきて男勝りになっていた。
「瀬利名!家の片付けくらいやってよ!!」
イライラしながら、理子は瀬利名に注意した。
聞こえていないのか、瀬利名は変わらずテレビを観て笑っている。
怒りが頂点に達し、ついに怒鳴る理子。
「瀬利名!返事しなさいよ!」
瀬利名の背中の近くにある、カップラーメンの食べ終わった残骸を蹴りあげる。
「うわ!お姉ちゃん?」
「お姉ちゃん?じゃないわ!!少しくらい部家を片付けなさいよ!私は疲れてるんだよ!」
頭をポリポリかきながら、ふてくされる瀬利名。
「瀬利名だっていそがしいんだから、お姉ちゃんがやればいいじゃん。」
その時、理子の腹の虫がなった。
「あんたに言っても無駄だわ!」
諦めて米をとぐ理子。
米をとぎながら、涙が出た。
「大人になったら、社会に出たら、今まで辛い思いをした分、幸せがくるのだろうか?」
ご飯を炊いている間に、ゴミを集めて片付けて、掃除機をかけた。
風呂掃除をして、ご飯を食べて風呂に入り自分の部屋にいく。
明日の学校の準備をして、
「やっと、休める」
と布団に入ろうとすると、布団が膨らんでいることに気が付いた。
布団を捲ると、瀬利名が寝ていた。
生意気な口をきくが、瀬利名はまだ9歳だ。
夜に親もきょうだいもいなく、一人で寂しく恐い時間を過ごしていたのだ。
理子は布団に入り、瀬利名の頭を撫でた。
「親になってはいけない人間が、親になった結果がこれだ。」
その夜、理子は瀬利名と一緒に眠った。
暖かくて、優しい時間だった。





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