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隣の鳥は青い25話

  5年後
聡見が結婚することになった。
「聡見、おめでとう!」
章が聡見に祝福の言葉を贈る。
聡見は婚約者のゆいかと連れ子のもなかと一緒に、章の家にあいさつにきていた。
「聡見、おめでとう!」
口では祝福しているよう見えるが、表情は冷めた様子の沙知美。
「お義姉さん、ありがとう」
「お義姉さん、ありがとうございます」
少し、顔を引きつりながらも、社交辞令で返答するゆいか。
「聡見は初婚なのに、何も離婚歴のある女を選ばなくてもいいのにねぇ・・・」
思わずぽろっと、本音を言ってしまう沙知美。
「お前、そんな言い方すんなよ」
珍しく沙知美に注意する章。
「ゆいかは離婚したといっても、前夫とは死別なんだ」
「ふ~ん」
聡見はゆいかの離婚の事情を説明するが、ふてくされた様子の沙知美。
聡見とゆいかにお茶も出さず、ドカッとソファに座る。
「おい!理子!お茶とお菓子を持ってこい!」
何もしない沙知美を注意せず、理子にお茶を出すように言う章。
「はい・・・」
理子は急須におちゃっぱを入れ、ポットからお湯を出してお茶ウィ入れる。
お茶菓子を盆に入れて、居間に持っていく。
「どうぞ・・・」
お茶をゆいか、もなかに出すと、
「ありがとう」
とお礼を言う、ゆいかともなか。
ゆいかは瀬利名とひとつ違いの6歳。
「お母さん、瀬利名もおやつ~」
昼寝から起きてくる瀬利名。
「瀬利名、聡見おじさんが来ているから、あいさつしなさい」
章が瀬利名に言うが、瀬利名は全く聞いておらず、聡見たちに出したお菓子なのに黙ってあけて食べていた。
唖然とする聡見とゆいか。
「瀬利名は仕方ないわぇ~」
と全く怒らず、注意することもしない沙知美。
瀬利名は聡見の膝に座った。
瀬利名は章と沙知美が高齢になってから生まれたので、甘やかされて育った。
「いや~まいったなあ~」
どうしてよいかわからず、困る聡見。
ゆいかが、聡見の腕を肘でつついている。
「私、帰りたいわ、もういやだ」
章と沙知美に聞こえない小さな声で訴えた。
「そうだな、何とか理由をつけて帰るか」
聡見も小声で返事をする。
「あ、兄貴、俺たち結婚式の話し合いがあるから、そろそろおいとまするよ」
ゆいかともなかの肩を抱き、帰る準備をする聡見。
「あ~あ、聡見、結婚するなら、もう私とお酒飲んでくれないんだね~寂しいわ~」
玄関まで追いかけてきて、沙知美がいった。
「え?一緒にお酒って、2人きりで?お義姉さんと2人で?」
ゆいかが聡見の袖をつかんで問い詰めている。
「あはは・・・昔の話だよ、やましいことなんかないから」
苦笑いして、ゆいかをなだめる聡見。
そして、もなかを右腕に抱き、ゆいかの肩を左手で抱いて車に乗りこむ。
章は沙知美の意味深な発言を聞いていたが、全く無関心であった。
「あんたが酒飲むとすぐにつぶれるから、聡見と飲むの楽しかったのに、あの女と結婚するなら、もう一緒に飲めないじゃん。つまらないわ~」
章をチラチラ見ながら、再び同じことを言う沙知美。
章も変わらず、無関心で無言であった。
瀬利名を抱いて、家に向かう章。
「何で、何もいわないのよ~」
章は瀬利名と、リカちゃん人形で遊び始めた。
「とーさん、おそとからかえってきたら、手を洗うのよ」
時々、一人前の口をきく瀬利名。
「はいは~い、瀬利名ママ、わかったよ~」
デレデレとした態度の章。
その姿を上から見下ろす沙知美。
「瀬利名が腹に入っていたときは、無関心だってくせに」
ぼそっと捨て台詞を吐いて、隣の家に愚痴を言いに出かけた。

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