見出し画像

隣の鳥は青い33話

数ヵ月後ーー
「沼口~俺の鉄拳を受けてみろ!!」
「ギャー!」
少林寺部は、体育館の空きスペースがないので、緞帳の上がったステージで練習をしている。
今年の新入部員は、理子だけだった。
覚えが悪く、センスがない理子は、すっかり鬼先生の守口武に目をつけられていた。
守口の鉄拳をうまく避けられて喜んだのもつかの間、ステージというせまく高い場所で練習していたので、裸足のまま理子はステージから落ちてしまった。
守口は眉毛と口をへの字にして、理子をステージから見おろしていた。
「ステージから落ちたのは、おまえがはじめてや!」
と呆れている。
「あは、はは・・」
ヨロヨロと立ち上がり、苦笑いをするしかなかった理子。
「大丈夫?」
しほりがステージから降りてきて、理子の背かをさする。
「はい、体は丈夫ですから」
更に苦笑いをする理子。
守口が自分の手をパンパンと叩く。
「よし!今日はこれで、終了だ、おつかれさん!」
「ありがとうございました」
先輩たちは練習を終わりにして、片付けを始める。
それにくわわる理子。
「沼口!」
守口が理子の肩をポンと叩く。
ビクッと肩を跳ねらせる、理子。
「なっ、何でしょうか?」
すると守口は歯を出して、不気味な笑みをみせた。
「おまえ、ステージから落ちた初記念として、職員室の前の廊下の雑巾がけ10週な!!」
「えー!?」
半泣きしながら、裸足で職員室前の廊下を一人で10週、雑巾がけすり。
「いやーごくろうさん、沼口はせいがでるね!」
男性教師数人に、からかわれ笑われる。
「沼口さん、気の毒にねぇ・・・」
女性教師は、不憫そうな顔で通過していく。
雑巾がけが終わり、汗だくになり、かなりのスローペースで制服に着替える。
「自分の考えが甘かった。」
数ヶ月で少林寺部に入ったことを後悔する。
「あの先生怖い~」
結局、数ヵ月で少林寺部をやめてしまった。
「自分が情けない、本当にいやだ。」
泣きながら、自分の頭をポカポカ叩く。
そして、帰宅部を決めた。
高校生になっても、理子は小学生が読むような少女漫画雑誌を読んでいた。
ふと、漫画家募集のページに目が止まる。
「えっ?大賞100万円?ハワイ旅行が副賞?」
そこで妄想が始まる。
理子は幼少期から親の虐待に遭い、小遣いも貰えず惨めなこども時代をおくった。
だから、お金のない生活が本当にいやだった。
漫画は大好きだし、お金を貰えるなら漫画家になろうかなと考えた。
「よし!漫画に応募しよう。」
翌週、画材屋に美久子から自転車を借りて漫画を描く道具を買いに行った。
「げ!高い!!」
お正月に親戚などから貰ったお年玉の1000円では、買える物は限られた。
原稿用紙とペン一本と墨汁を買ったら終わり。
原稿を送る輸送代金を考えたら、これしか買えなかった。
仕方なく、買える物だけ買って帰る。
 まずは、ストーリーの元となる、原案なるものを考えなくてはならない。
しかし、異性への関心が薄い理子は、ラブストーリーは壊滅的にダメだった。
シリアス漫画も、余程の才能がなければ無理だろう。
ジャンルは4コマか、ギャグしかなかった。
4コマは、何個もネタを考えなければならず、この当時はあまり流行ってなかった。
となれば、ギャグ漫画一択しかなかった。
そのとき好きだった漫画家は、ギャグ漫画を描いていた。
「こういう漫画家になりたい!」
と目標を決めた。
「とにかく、主人公は目立たせて、変人にしなければならない。」
と思い、チラシの後の白い部分にキャラクターを描いてみる。
「まずは見た目から変人さをアピールしないと編集者の目に止まらない、と漫画雑誌に書いてあったし。」
サラサラと描き始める。
「まずは、チビで腹が出ていて、短足で、胸毛とすね毛がボーボーで頭は禿げているオヤジにしよう!」
ニヤニヤしながら、キャラクターを描き終える。
ーーあれ?
「・・・げ、これって!」完成したキャラをみて驚く理子。
「とうさんじゃん。」
そのキャラは父親の章にそっくりだった。
理子は背中に冷たい物が、流れる思いをした。







この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?