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小さな約束

去年の10〜12月、私は「東南アジア青年の船」プログラムの管理部員という仕事をしていた。

内閣府が毎年実施している国際交流事業で、日本とASEAN10カ国の青年たち300人くらいのサポートをする業務だ。

日本でのプログラム、船内生活、4ヶ所の寄港地での活動と、非日常の時間のオンパレードである。

管理部員は大体2〜3名で1つの国の青年たちを担当する。私の担当はフィリピンだった。

フィリピン青年たちと出会う前に、偶然にも私は別の内閣府の国際交流事業でフィリピンを訪問していた。その話はまた後日の記事にしたいと思うけれど、とにかく去年はフィリピンに縁を感じる機会が多くあった。

フィリピンで最も有名なファストフード店は「Jollibee(ジョリビー)」と言って、マニラだと日本のコンビニ並みにお店が並んでいる。マクドナルドより価格も手頃なので、家族みんなで食べに来ていたり、テイクアウトの人が訪れたりといつも賑やかだ。

私のニックネームは「Jolly(ジョリー)」。フィリピン青年たちには光栄にも、一瞬で覚えてもらうことができた。

50日余りのプログラムを無事終え、いよいよ明日は皆帰国…という日の朝、フィリピン青年のリーダーが、私に駆け寄ってきた。

彼が手にしていたのは、Jollibeeのおまけだった。僕からの感謝の気持ち、これを見て僕らのことを思い出してね!と言って、手紙と共に渡してくれた。

彼は船に乗る前の年に、大好きだったお母さんを亡くしていた。お母さんとの思い出の一つが、Jollibeeでの食事だったという。彼はリーダーでありながら、私にはちょっと甘えん坊な面も見せていた。私には言わなかったけれど、きっと私は母親代わりでもあったのかな、と思う。

手紙には、いつかフィリピンに遊びに来てね、Jollyと一緒にJollibeeでご飯食べよう、と書かれていた。

正直なところ、彼との約束は、すぐに果たせると思っていた。実際、私は一緒にフィリピンを担当した同僚と、この4月にフィリピン旅行を計画していた。しかし、現状を考えると、とても実現には程遠い。日本から飛行機でたった4時間で行けてしまう場所が、こんなに遠くなってしまうなんて。

この状況が終息するにはあと2年はかかると言われている。彼との約束を果たすためにも、今こうして家にいることは、意味があるのだと思っている。


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