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「星は微かに光り」 第7話

○○たちの所属するバイオレット学園で開かれた魔法大会、バイオレットグランプリ。予選から本選へと駒を進めたのは、○○と和の二人。
本選一回戦目、1VS1の魔法対決に○○は勝利。次は、和の番。

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レイ『さぁ!続いては本選一回戦最終試合!井上和選手!バーサス!切崎舞選手!』

高等部2年、清宮レイのその実況の声とともに、大きな歓声が上がる。

そして、その歓声に迎えられながら、二人の女子生徒が闘技場に入場する。

咲月「なぎ~!頑張れ~!」



桜「ファイト~!なぎちゃ~ん!」

その観客席の一端には、○○、奈央、桜、咲月。

咲月たちの応援に気が付いた和は○○たちの方を見ると、笑顔で手を振って見せた。

和「見ててね冨里くん。私も勝って決勝に進んで見せるから。」

切崎「ずいぶん余裕なんだね。井上さんとやら。」

その声に和は顔色を変えて対戦相手の方をにらむ。

切崎「どうも、切崎舞です。」

和「…井上和です。」

切崎「えぇ、知ってますとも。今年の入学生首席の優等生だってね。」

和「どうも。」

切崎「でも安易に勝てるとは思わないほうがいいわよ。先輩の怖さ、教えてあげる。」

和「私も先輩だからと容赦するつもりはありません。」

そうして正面を向き合った彼女らだったが、途中で切崎が表情を変える。

切崎「あら?」

和「?」

切崎「あなた、なかなかカワイイわね。」

和「はい…!?」


レイ『ではでは~、《空間魔法展開!》

レイが宣言すると、○○たちが戦った時と同じように、闘技場内が光で包まれ、仮の空間が展開されていく。

和が気がつくと、そこは背の低い草が生い茂る草原だった。




レイ『ready~~~!FIGHT!!』


試合開始の合図が流れた瞬間、両者の体に力が入る。

和「《炎魔法!炎獅子!》

和が手から炎を出すと、その炎がたちまちライオンの形をとり、まるで生きてるかのように動き出し、切崎のもとへと走っていく。

レイ『おーっと!いきなり井上選手の猛攻!』

切崎「フッ。」

チョキン。

切崎は腕を一振りすると、炎のライオンは真っ二つになり、炎は切崎の左右へと広がって終わってしまった。

井上「何!?防御魔法!?」

切崎「違うわ。『切った』のよ。」

井上「切った?」

よく見ると、切崎の手が大きなハサミへと変わっている。

切崎「私の魔法は《切断》。私のこのはさみは、炎だろうがこんにゃくだろうが、物理さえ無視してあらゆるものを切断するわ。」

井上「切断…厄介な…。」



桜「物理を無視して!?なにそれ!?」

奈央「日常生活便利そう…。」

○○「なんでも切れるってなると、井上さんの炎はほとんど切られてしまうな…。大丈夫かな井上さん…。」

咲月「なぎは勝つよ、絶対。私は信じてるから。」

○○「咲月…。そうだね。信じよう。」


和「《火炎弓》!」

和の手元が燃えたかと思うと、炎の中から弓矢が出現する。

和「《ファイヤー・アロー・レイン!!》

和が上空に向けて矢を放つと、上空で花火のように弾け四散し、火の粉が雨となって降り注ぐ。

和「これなら簡単には切れないはず!」

切崎はハサミを巧みに使い、いくつかの火矢は弾いたものの、いくつかは命中してしまう。

咲月「よし!いいよ和!」

だが、切崎の様子がおかしい。

火矢を浴びた状態から動かない。

和「…?」

切崎「…違う。」

和「…え?」

切崎「ちっっっっがあああああああああう!!!!!」


ちっがーーーう……

ちっがーう…

がーう…。


「「え…?」」


切崎「こんな戦いはエンタメ性に欠けるわ!!」

和「あなた何を言ってるの!?」

切崎「見なさいこの構図を!古代ローマのエンタメ、コロシアムを彷彿とさせる闘技場!ギャラリー!今の私たちは魔法使いであり戦士であり、『エンターテイナー』なのよ!」

和「は、はぁ…。」

切崎「私たちはギャラリーを楽しませる義務がある!私たちの戦いはもっと華やかでなければ!」

それを大声で宣言する切崎。棒立ちする和。

切崎「《空間魔法展開!!スーパーライブステージ!!》

和「!?」


咲月「空間魔法!?」

○○「あの対戦相手、そんな魔法まで使えたのか!」


先ほどと同じように、空間が光に包まれる。だが、今度は○○たち観客まで一緒に巻き込まれている。


一同が気が付くと、そこは基本真っ暗で和と切崎のいる場所はステージになっており、そこだけ明るくなっている。

まるでアイドルのライブ会場のような空間だった。


和「何が起こってるの…?」

切崎「この空間魔法の展開と一緒に、特殊なルールを設定したわ。」

和「特殊なルール?」

切崎「見てればわかるわ。」

そういうと、切崎はステージの真ん中に立つ。

切崎「みんな~!私は~みんなのことが~大好きだぞっ!♪」

その切崎の声はマイクが入っているように大声で拡散され、設置されたモニターにでかでかと映し出された。

和「あなた、いきなり何を…。」

すると、観客たちの体の中からパッとハートが出てきた。

そして出てきたハートは切崎の後ろのモニターに集まっていく。

モニターの横には何やらメーターのようなものがあり、そこにハートは吸い込まれていく。

メーターがたまり、それを示すライトがピ、ピ、ピ、と点灯していく。


その瞬間、

バチバチバチッッ!!という電撃が和に走った。

和「うああああっっ!!?」

○○「井上さん!!」

咲月「なぎ!!」

奈央「なになに!?何が起こったの!?」

桜「あのメーターと何か関係あるのかな…?」

○○「…!」


和「うぅ…。」

切崎「オーホッホッホッ!これで分かったかしら?これから始まるのは、観客たちを巻き込んだアイドル対決よ!」

和「アイドル対決…?」

切崎「これから私たち二人は観客たちにアピールし、どこまでキュンキュンさせられるかを競うわ。
そして、ときめいた観客からはさっきのようにハートが出る。そのハートはこのメーターにチャージされ、たまったメーター分のダメージが相手に降りかかるわ。先にメーターを100%にして相手を撃沈させた方の勝ちよ!」

和「な、なによそれ…!?」



それを聞いた観客席の〇〇達。

〇〇「そんなのアリか!?」

レイ『一応決着はつくようになってるのでこのまま試合を続行します!』

〇〇「えぇ…マジか…。」

咲月「これはやばいかも…。」

○○「え?なんで?」


切崎「さぁ、次はあなたの番よ、あなたのエンタメで、観客たちを魅了するのよ!」

和「うぅ…。」


咲月「なぎは…。」


和「うああぁぁぁ…。」

和はがっくりと膝をついてうなだれてしまった。

和「何も思いつかないぃ…。」



咲月「そういうアイドルっぽいことが全く1ミリもできない!」


和「ぐおぉぉぉぉ…。」

和は依然頭を抱えてうずくまっている。


○○「え!?」

桜「あー、でもなんかそれっぽいかも…。真面目ちゃん、って感じだもんね…。」

奈央「でも観客の人たちの心をつかまないとなぎちゃん負けちゃうんだよね…?」

苦々しい顔で見つめる一同。

○○「井上さん…。」

咲月「なぎ…。」



和「観客を魅了って、どうすればいいのよぉ…。」

切崎「まったく、まさかここまでとはね…。こんなにも可愛いのに、中身がこれじゃ宝の持ち腐れね……いいわ、わたしがあなたの才能を解放してあげる。」

和「えっ、それってどういう…。」


チョキン。


和「え?」

キョトンとする和。

和(今何が起こったの?この人がハサミで襲い掛かってきたと思ったら、特に何も切れてない…。)

和「あなた、今一体何をしたの?」

切崎「切ったのよ。あなたの『羞恥心』をね。言ったでしょ?私の《切断》の魔法は物理を無視して何でも切れるって。」

和「な、なんですって…。」

切崎「あなたは素晴らしい才能の持ち主にもかかわらず、羞恥心という壁がそれを邪魔していた。でも私がそれを切ったの。」

和「なんか…体が変…!」

胸の底から、何かが湧き上がってくる。

まるで、厳重に閉じ込めていた何かの扉が開放され、その何かが這い出てこようとしているかのように。

切崎「さぁ!自分を解き放ちなさい!」

和(何か出てくる…!ダメ…!出てこないで…!)


和「あ、あ、あああぁぁっっ!!─────」






和「にゃんにゃんにゃぎ~♡」





○○「えっ…。」

桜「えっ…。」


咲月「えっ…。」


奈央「…( ゚Д゚)」



ええええええええええええっっっっ!?!?!?!?



○○「おおお、おい咲月!あれ誰だ!あそこにいる井上さんの姿をしたのは誰だ!?(@_@)」

咲月「おおお落ち着いて○○くん!あれはなぎだよ!正真正銘あなたの知ってる井上和だよ!」


和「うふっ♡キラッ♪」


○○「いやいやいや!俺あんな奴知らない!あんなスーパーアイドルみたいな子知らない!」

桜「あれがなぎちゃんなの!?本当に!?」

奈央「なぎちゃん、かわいい…」


井上「みんなのはーとに~…ズッキュン♡」


うおおおおおおおお!!!

会場中から高鳴る大きな歓声。

切崎「な、なんというポテンシャル…!まさかこの子の魅了する力がここまでとは…!」

そして会場中のたくさんの人間の体からハートが飛び出してメーターの中に蓄積されていく。

ピピピピ……!!

そして、和が貯めた分のメーター分の電撃が切崎を襲う。

バチバチバチッ!!

切崎「ぎゃあああっ!!」

先ほどの和が食らった電流より強烈な電気を浴びた切崎は、よろよろと立ち上がる。

切崎「いいわ…!盛り上がってきたじゃない…!とことんやりあいましょう、どちらが観客をより高ぶらせることができるのか!井上和!!」

和「はい!頑張りますっ!!♡」


切崎「みんな~!お姉さんが恋愛がどういうものか、教えて、あ・げ・る♡」

うおおおおおお!!

和「私ね…あなたのことが…大好きだよ♡」コソッ

おおおおおおおお!!




○○「……桜、俺たちは今、何を見せられているんだろうか…?」

桜「一応、魔法対戦の競技、のはず…。」

○○「とてもそうは思えない光景が広がっているんだが…。」


切崎さま~!!

なぎちゃんカワイイよ~!!


切崎「サンキュー!センキュー!」

和「わ~!みんなありがとう~!♡」



桜「…💧」

○○「でも…。」

桜「でも?」

○○「あの井上さん、なんかかわいくて好きかも…。」

桜「!?」

咲月「え!?」

○○「ん?俺なんかまずいこと言った?」

咲月「べ、別に…!」

桜「なぎちゃん…ライバルとしておそるべし…!」

奈央「あーあ、お兄ちゃんってば本当に…。」

○○「?」



切崎「まずい…もうぶりっ子の引き出しがないわ…!」

和「みんなありがとうっ、お礼に…。」

和は胸の前に指で大きくハートを書くと…

和「…チュッ♡」

投げキッス&ウインクのコンボ。



おおおーーーーーっっっ!!!!

ピピピピピピピピっ!

『メーターMAX!ウィナー・井上和!!』



バチバチバチバチバチバチッッ!!

切崎「うわああああっ!!……ぐっ…完敗よ、いい勝負だったわ、スーパーエンタテイナー、井上…和…。」

その言葉を最後に、切崎舞は気絶してしまった。



レイ『えーっと…はっ!…ゴ、ゴホン!け、決着!勝者、井上和選手~!なんと今年はファイナリストに一年生が二人も出場だ~!』


和「ありがとう~!みんなありがとう~!♡大好きだよ~!♡…………へ?」

その瞬間、切崎の気絶により和にかけられていた羞恥心を切る魔法が解け、すべてが元に戻る。

湧き出ていた何かが厳重な扉の中に戻っていく。

そして、扉がガシャンと閉まる。

我に返った和。

その瞬間彼女を襲ったのは、つい数分前の自分の記憶だった。

(にゃんにゃんにゃぎ~♡)

(あっ、クリームついちゃった!てへっ♡)

(みんなのことが、だーいすきっ!♡)

和「あ、あ、あぁ…///」






和「いやぁぁぁぁぁぁっっ!!」




《バイオレットグランプリ・決勝戦進出者》
3年 山下美月
3年 久保史緒里
2年 賀喜遥香
2年 遠藤さくら
1年 冨里○○
1年 井上和



「星は微かに光り」 第7話 終

続く。

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