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「目が覚めたら乃木坂4期生の○○でした」 第13話

ある朝、目が覚めると女の体に、乃木坂4期生の17人目になっていた××(現世名:○○)。
西野七瀬、中田花奈とのレッスンを経て、いよいよお見立て会への準備も佳境へと迫っていた。

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《木曜日 AM 7:00》

○○はこの日学校を休んで支度をしていた。

今日から本番までの3日間、会場でのリハーサルに望む為である。

支度を済ませ、家に迎えに来たマネージャーの車に乗り込む。

いつもの黒いワゴン車。

○○「ふぁ〜…なんたってこんな朝早い時間から集合なのさ…。」

遠藤「うん、まだ眠い〜…。」

○○の隣では遠藤が目をこすっていた。

○○「リハーサルなのはわかるけどこんな早いもんかね…。」

マネージャー「ハハ、まあ仕方ないよ」

マネージャー「それに、今日はどのみちレッスンよりは踊らないと思うから」

○○「ん…?」

清宮「それ、どういうことですかぁ!?」

柴田「こんなに朝早く集まるのに練習あんまりしないって、何するんだろ?」

後列の座席にいた清宮と柴田が身を乗り出して言ってくる。

その隣には掛橋も座っている。

賀喜「ほら、2人とも危ないから座って」

遠藤とは逆隣になる形で○○の横に座る賀喜が、体を捻って清宮達を注意した。

清宮「シートベルトしてるもんね〜」

賀喜「そういう問題じゃない」

清宮「は〜い」

大人しく座る清宮。

○○「フフッ…。」

賀喜「○ちゃん、笑うようになって来たね」

○○「ん…え?」

賀喜「ほら、ついこないだまで記憶なくしてオドオドしてたのに」

××(そりゃ、朝急に体が別人になって自分が乃木坂になってる世界に来てたらね…。)

掛橋「うんうん、それに比べたら打ち解けて来たっていうか、良く笑うようになったよね!」

○○「…そうかな?」

柴田「記憶は戻っていってるの?」

○○「ううん、それはまだ。でも、皆んながいてくれるから、戻さなきゃって焦る事はなくなったよ」

○○「ありがとう、みんな」

半分は嘘である。

元々ない記憶が戻る事はないので、正確に言うなら
「皆んながいてくれるから、まだ不慣れなこの世界でも自分はやっていけている」
といったところだ。

だが、もう半分は本意だった。

皆んなが優しいから、皆んながいなかったら、あるいは自分が乃木坂じゃなかったら、自分はこのわけのわからない事象に頭を抱えるのみとなっていた事だろう。

××は4期生の仲間達に感謝していた。

賀喜「私たちは何もしてないよ」

○○「ううん、そんなことない。皆んながいてくれてよかった」

清宮「えへへ〜、なんか照れるなぁ」

○○「…レイちゃんからは何もされてないかも?」

清宮「えっ!?ガーン…。」

賀喜「ところでさくはさっきから何も喋らないけど…」

○○「そういえば…。」

と、○○が遠藤の方を向こうとした時、車がカーブを曲がる。

その拍子に、○○の肩に遠藤の頭がコツンと乗っかってきた。

○○「!?」

遠藤「zzz…」

柴田「…寝てるね、さく」

××(遠藤さくらが俺の肩に頭を乗っけて寝てる…!?)

○○(中の××)は遠藤を起こさないためと体こそ動かさなかったものの、軽くパニックになっていた。

賀喜「朝早かったから仕方ないかもね、着くまで寝かせとこうか」

○○「え!?」

××(向こうに着くまでずっとこのまま!?)

遠藤「zzz…。」

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○○「さく、着いたよ、起きて」

遠藤「う〜ん…あ、○ちゃん、おはよう」

至近距離で目を細めて笑う遠藤が可愛くてまたドキッとさせられる○○。

○○「お、おはよう」

遠藤「うーん…!よく寝たぁ」

伸びをして起き上がる遠藤。

××(やっと離れた…心臓持たないって)

清宮「ねー2人とも早く降りて〜!」

柴田「ゆな達が降りられない〜!」

○○「ごめんごめん、今降りるから」

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○○「でっっっか!!」

××としても直接の武道館は初めてになる○○は声をあげて驚く。

賀喜「わぁ、私たちこんな立派なとこでデビューするんだね」

柴田「うぅ、今から緊張してきたかも…。」

清宮「大丈夫大丈夫!レイ達なら出来るって!」

遠藤「ポジティブだねぇ、レイちゃんは」

などと会話してる横で○○は口をあんぐりと開けたまま驚いていた。

すると突然横から顎を持たれてそのままスッと上に持ち上げられる。

○○「!?」

突然の出来事に驚いて横を見ると、そこには掛橋がいた。

○○「沙耶香、何…?」

掛橋「いや、口開いてたから、閉じてあげようかなって」

○○「私のことお人形か何かだと思ってない…?」

掛橋「確かに○はお人形みたいに可愛いよね〜」

○○「え、いや別にそんなこと…!」

○○「ってそうじゃなくて!」

掛橋「ホント○って可愛いって言葉に弱いよね」

などと話していると、近くに別のワゴン車が停まる。

金川「みんな〜おはよ〜!」

田村「あ、さくちゃん達だ!おはよ〜!」

早川「ここが武道館か〜!大きい〜!」

矢久保「よ、酔った〜…。」

北川「大丈夫?酔い止めいる?」

筒井「ゆりちゃん準備いいね〜」

矢久保「え、ゆりちゃん持ってたの…?乗ってる時に言ってよそれぇ…。」

北川「ごめんね…窓の外見てて…。」

などと話しながら後の6人が降りてきた。

迎えのコースを二分割して6人ずつ迎えに行ったらしい。

○○「…大丈夫か矢久保は」

賀喜「…さぁ?」

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中に入る一同が目にしたもの、それは…。

○○「ひっっっっっろ!!!」

ヒッッッッッロ…ロ…

○○の叫びはたちまちこだまする。

早川「うわぁ、めっちゃ響く〜!やっほ〜!」

田村「山じゃないんだから笑」

早川「でも言いたくなるやん!」

内部では既に機材を持ったスタッフ達が慌ただしく動いていた。

何人もいるにも関わらずこの広い会場ではスペースがありに有り余っている。

遠くの方で歩いている人間なんてもはや視界では豆粒でしかない。

一部では大道具のセッティングをしているのか、トンカントンカン、ギュイーンなどと工事現場を彷彿とさせる金属音が聞こえる。

そしてそこに入った○○達4期生。

ワイワイガヤガヤと盛り上がるメンバー達の後ろでパンパンと手を叩く音がする。

マネージャー「はいはい、まず皆んなは着替えてきてね」

マネージャー「この後8時半からリハーサル開始だから、それまでに準備を済ませて集合!」

4期生「はい!」

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《10:30》

スタッフ「乃木坂さーん!一旦「立ち」お願いします!」

マネージャー「よし行こうか」

4期生「はい」

一同が動き出しステージに立つ。

床には色とりどりの数字が書かれたテープが貼られており、一同はそれを見ながら自分の立ち位置を確認していく。

いわゆるバミリというやつだ。

××(こんなん見たの幼稚園のお遊戯会以来だな…。)

普段ライブを見ている側からすれば床に貼ってあるテープなんて一切見えもしないが、いざ演者側になってみると、何番に立て、この時は誰が何番だ、などと指示がいく。

これを頭に入れることさえ一苦労だった。

特に2週間前にして何も知らなかった○○には。

全員がステージに立つとたちまちステージ以外の照明が消えた。

田村「うわぁ、なんかライブって感じ!」

そして4期生達を差す照明のみが点灯する。

スタッフ「右端写ってないでーす!」

スタッフ『ジジッ…照明操作室、もう少し右お願いします』

メガホンでアナウンスがかかるとたちまち照明が少し右にズレる。

スタッフ「OKでーす!」

スタッフ『ジジッ…はい、これでぐるカーの時の照明は終わりでーす、一旦通して確認します、4期生さん、スタンバイお願いします』

そして4期生達が最初のポーズを取ったところで『ぐるぐるカーテン』のイントロが流れ出す。

この2週間幾度となく聞いた、タンバリンのようなあの音が。

チャッチャッチャッチャッ…

スタッフ「4番スピーカー動いてませーん!!」

スタッフ『ジジッ…機材トラブルでーす、一旦止めまーす、4期生さんそこで待機お願いしまーす』

そのアナウンスがかかると何人かのスタッフが急にものすごい速いスピードで移動し出し一方向に駆け出す。

恐らくトラブルがあった4番スピーカーの方だろう。

××(ほとんど踊らないってのはこういう事ね…。)

これまで編集された一部分を映像でしか見たことがなかったが、言われてみればメイキングやライブの裏側はこんな感じだったし、毎回ライブを作り上げるというのはこういうものだ。

調整してる中で唐突に『制服のマネキン』のサビが流れ出す。

すると、4期生達の一部は誰に指示されたわけでもないが、そのサビの部分のダンスを踊り出した。

もう、音楽が聞こえたらその動きをするという動物的習性がついてしまっている者がいるのだ。

中には立ち位置を移動し4人ぐらいで集まりながらお互いの動きを確認している者達もいる。

××(俺が何気なく見てたライブも、この4期生のお見立て会も、こんな風に作られてたわけか…。)

視界に映るもの全てが貴重。

知っていたはずなのに、改めて身をもって知らされた事による驚き、感心。新鮮味。

○○は色々な方向、色々な光景を眺めながら一つ一つにふむふむと感心し、思考していた。

すると突然後ろから肩を叩かれる。

柴田「ねぇ、○ちゃんも一緒に振り付け確認しない?」

暇そうにしてるとでも思われてしまったのか、或いは単純な優しさか、柴田が振り確認に誘ってくれた。

○○「OK、やろうか」

○○はそれに答え、振りの最終確認を行なった。

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結局、音響やスピーカーにほとんど時間を取られ、時に一曲踊るなどを繰り返しながら、終わったのは夜の7時半だった。

スタッフ達はまだ作業を続けるとのことだったが、4期生達は筒井あやめが労働基準法の関係上1日7時間以上は働けないとのことで、まず15時過ぎに帰り出し、その後筒井に見立てたスタッフの代打を立てたりして手順を進めたものの、どうしても本人じゃないといけない場面にぶち当たり、結果4期生全員やることがなくなったので帰っていい、と言われたのがこの時間だった。

つまるところ、逆に言えば4期生一同が成長し年齢を重ねていけば、この辺の制限は軒並みなくなる。

今のように8時半に集合しては深夜までリハーサルなんて日も出てくるのではないか。

いや、実際××の頃に見ていた2021年、2022年あたりの彼女らはそれをこなしていたのではないか。

それを踏まえると、今の帰宅時間はかなり早い方なのかもしれない、などと○○は考えていた。

そんなことを繰り返し3日間。

翌日と最後の日にはお見立て会を全て通すのを2回ずつ繰り返す長丁場な日程が組まれていた。

より当日を忠実に再現するために、今まで着なかった4期生制服も着させてもらった。

どうやら採寸の時に軽く着たらしいが、それ以降初めて着るその制服にみんなテンションが上がっていた。

かくいう○○も、自分が乃木坂になったのだと改めて感じさせられた気がして、気分が上がっていた。

スカートの下には簡単な黒い半ズボン、いわゆる見せパンというものを履いているので、これなら最悪男らしい動作が出ても下着が見えるハプニングはないだろう。

××としても少し安心していた。

みんなで鏡の前でクルクルと回ってみたり、みんなで写真を撮ったりしていた。

田村「みんな〜!写真撮ろ〜!」

掛橋「わ〜!撮ろ撮ろ〜!」

○○「フフッ…。」

××(みんな楽しそうだな…。)

早川「あ、ちょっと待って!○ちゃーん!○ちゃんもおいでよ〜!」

○○「ん!?お、おれ、私も!?いいの!?」

柴田「いいに決まってるじゃん!」

筒井「はやく〜!」

○○は小走りでみんなのもとに駆け寄る。

田村「いくよ〜!ハイチーズ!」

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○○「はい!○○ ○○です!特技はアクロバットです!いきまーす!」

精一杯の笑顔をトーンの上げた声を出しながら○○は特技パートのリハーサルを行う。

○○が走り出し勢いよく飛び跳ねると、宙返りをしながら空中でクルクルと回りながら着地する。

「後方伸身宙返り4回捻り」成功だ。

賀喜からその単語を聞いたときは絶望に近い不安を感じたが、○○の体はそれをこなすために相当作り上げられているらしい。

今やその不安もほとんど消し飛んでいた。

着地した瞬間、スタッフ達から「おぉ…」と声が上がる。

これなら当日の会場ウケも申し分なさそうだ。

他のメンバーも当日の自分のプロデュースのリハーサルを淡々とこなし、時に修正を入れながら進んでいった。

前日最終リハーサル終了後。

今野『ジジッ…えーいよいよ明日お見立て会本番です。みなさんのスタートダッシュを飾る舞台になりますので、後悔のないように』

今野『では明日、寝坊遅刻のないよう集まってください。解散!』

4期生「はい!」

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柴田「いよいよ明日かぁ…。」

矢久保「緊張してきたね…。」

金川「私バスケにしちゃったけど、明日緊張でゴール入れられなさそう…。」

田村「今日はちゃんと入ってたけどね」

金川「今日はまだリハーサルだったから…。」

掛橋「今日眠れるかなぁ…。」

筒井「やれることはやったよ。あとは練習通りにやればいいだけだから」

田村「なんで一番年下のあやめんが一番落ち着いてて年上の人達慰めてるんだろう…。」

早川「まあまぁ、それがあやめんやから」

賀喜「さく、クラリネット直った?」

遠藤「うん、少しゴミが引っかかってただけみたい」

北川「明日晴れるといいなぁ。ファンの人たちが来やすいように」

北川「ね、○ちゃん」

○○「うん、そうだね、北…悠理ちゃんは優しいね」

北川「…まだ記憶、戻らないんだね?」

○○「ごめんね、呼び方の矯正も大方出来てきてるんだけど…まだ時々…。」

北川「無理しなくていいよ?ゆっくり、ね」

○○「ありがとう…。」

××(元々メンバーをニックネームで呼ぶのを避けてたのはやはり悪手だったな…。)

××(いや、こんな事態を予測してニックネームで呼ぶようにしようなんて考える奴なんざいないか)

するとそこでトイレに通りかかる。

○○「あ、ちょっと私お手洗い寄ってからいくね、先行ってて」

賀喜(あれ…?)

早川「わかった〜」

矢久保「あ、私も行っとく〜」

ガッ! ゴツン!

矢久保「わ!ビックリした!急に止まらないでよ!?」

○○「ゴメンゴメン、ちょっとね!」

××(また手前の男子トイレに入りかけた…。)

そう思いながら矢久保と2人で奥に位置する女子トイレに入る。

2人がトイレに入るのを見ながら一同が歩を進める中、賀喜だけが立ち止まる。

それに気づいた遠藤が駆け寄る。

遠藤「かっきー、どうかした?」

賀喜「いや…。」


《1ヶ月前、××が○○の体になる前のこと》

賀喜「あ、○ちゃん、どこ行くの?」

○○「ちょっとトーイレ!」

賀喜「いってらっしゃ〜い」


《現在》

賀喜「…。」

遠藤「かっきー?」

賀喜(○ちゃんって…トイレのこと『お手洗い』っていう人だったっけ…?)

賀喜(いや、呼び方なんてコロコロ変わる人もいるし…考えすぎかな?)

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そのまま更衣室でリハ着、もといレッスン着から着替える一同。

××(はぁ…。)

以前、4期生達が下着姿になり着替える様を見て、特に性的反応などは覚えないとわかった○○。

なぜなら女の体になりそういった反応を示す器官も消滅しているから。

とはいえ、男性の意識が消えない以上、女子更衣室にいる、女子の着替えを、しかもあの乃木坂のメンバーの着替えを目の当たりにしているという背徳感と罪悪感は、依然として消えないままだった。

××(トイレもまだ慣れないし…。)

先ほど男子トイレに入ろうとした動作しかり、トイレに入った後のその後の動作然り、まだ要領を得ていなかった××。

女になって数日はトイレに入ることにさえ精神をすり減らしており、自分の食事や水分摂取量を減らし、トイレに行く回数を減らすことでなんとか凌いでいた。

故に少しだけ体調がすぐれない日もあったが…。

××は今日も精神をすり減らしながら着替えを済ませる。

誰かに咎められてるわけでもないのに、メンバーの方をあまり見ないよう意識しながら、端っこのロッカーを使用して。

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《PM 8:30》

外は既に暗くなっており、全員帰りの車に乗り込む。

金川「じゃあね〜また明日〜!」

早川「明日頑張ろうな〜!」

北川「美緒ちゃん、酔い止めは要る?」

矢久保「ううん、家にあったの持ってきたから平気」

筒井「眠い…。」

田村「あらあら、あやめんおねむですか〜?」

筒井「むっ…。」

田村「怒った顔も可愛いよ〜」

筒井「ほっぺた触らないで〜!眠いんだってば〜!」

ピピーッ ガチャン!

そこで車の扉が閉まる。

その様子を残りの6人で手を振りながら見送る。

○○「…大丈夫かあやめんは」

賀喜「さぁ…?」

清宮「バイバーーーイ!!」

柴田「レイちゃん元気すぎない…?」

掛橋「天真爛漫…。」

遠藤「明日頑張ろうね、みんな」

賀喜「うん、頑張ろう!」

清宮「おーーー!!」

○○「うん、頑張ろうね」

そこで○○は夜空を見上げて心の中で呟く。

××(○○、ごめん…。お前の代わりにお見立て会に出ることを、どうか許してくれ…。)



第13話 終

続く

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また長くなった…。

キリのいいところで終わらせようとしてもなかなか終わらないんですよ。

描写の省略とかもしたくないし…。

そうそう、それと、次回の更新はだいぶ遅れると思います。


理由としては、4期生のお見立て会を今一度映像で履修して来なければより精密な作品が書けないと考えたためです。

お見立て会の映像を履修して、そこにどうにか改変した歴史を盛り込んで、更にそれを執筆する。

どうか時間がかかることをお許しいただき、気長に待っていただきたいです…。

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