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「Hello, My future.」

頬を撫でる、真冬の風。

眼下に見えるは大小様々なビルや道路を走る車の数々。

クラクションや電車の走る音などが風と共に耳に届く。


僕は今、とあるビルの屋上にいた。


皆んなはこんななぞなぞを知っているかな。

「ものすごく遠い所だけど、行こうと思えば2秒で行けるところってど〜こだ?」

僕は今、その答えである場所に行こうとしている。

幸い、この屋上には柵がない。

靴を脱ぎ、事前に書いた手紙を置き靴で押さえる。

そして屋上の淵に足をかけ、そのまま……

「ダメーーーー!!!」

○○「っ!?」

誰か来た…!?見られていた…!?

振り返ると、そこには息を切らし、肩で呼吸をする十代中ほどの少女。

子ども…?

○○「どうしたんだい、こんなところで。ここには何もないよ。さぁ、お戻り。」

??「死んじゃダメ!死なないで!お願い!」

あぁ、見抜かれている。

だが、ここでこの少女の前で決行に踏み切れるほど人間性は終わっていない。

ごまかそう。

○○「あぁ…そう見えちゃった?フフッ、そんなことしないよ。心配しないで。」

??「お願い!死なないで!」


??「お父さん!!」


…は?

○○「僕に子どもはいないよ。人違いしてない?」

??「ううん、そんな事ない。あなたは私のお父さん。私は未来から来たの。」

○○「…映画の見過ぎじゃないかな?」

??「本当なの!じゃあ今お父さんの色んなこと全部言ってあげようか?」

○○「えっ…。」

??「名前は小川〇〇、年齢は…えっと…この時代は21歳!好物はカレー!腕には子供の頃に負った大怪我が痕になって少し皮膚が黒ずんでる!」

〇〇「子供の頃の怪我まで…。どうしてそこまで知ってるの…?」

彩「私は小川彩!正真正銘、未来から来たお父さんの娘!」

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場所は移り。〇〇の自宅。

〇〇「ほえー…君本当に僕の娘なのか〜…。」

彩「うん、彩って名前もお父さんが、病院の窓の外がいろんな花で溢れてたから、彩りある人生にして欲しいってので名付けてくれたんだって。」

〇〇は目の前の椅子に座る彩をまじまじと眺める。

彩「そ、そんなに見ないで…なんか恥ずかしいよ…///」

〇〇は不意に彩の手を取ると、指を上下に動かしたり、手首をクニクニと回してみたりして質感や動きを確認しはじめる。

彩「むぅ…あやはお人形じゃないっ!!」

〇〇「あぁ…!ごめんごめん!なんかまだ実感が湧かなくてさ…。」

〇〇はコホン、と一つ咳払いをする。

〇〇「それで、彩ちゃんはどうしてこの時代に?」

彩は急に顔を曇らせる。

彩「それはね…彩の存在を守る為なの…。」

〇〇「存在…どゆこと?」

彩「お父さんはね、本当は自殺なんてする人生じゃないんだよ?」

〇〇「…えっ?」

彩「将来結婚をして、お母さんと私を産むのが、正しい歴史。」

〇〇「じゃあどうしてさっきまで僕は自殺なんか…?」

彩「時間犯罪者が動いたんだよ。」

〇〇「時間犯罪者?」

彩「あやと同じようにタイムマシンを使って時間を移動して、そこで過去を変えて悪いことをする人たち。」

〇〇「それに僕が狙われたの?何で?」

彩「ううん、多分狙われたのは全然知らない人。でもねお父さん、『バタフライエフェクト』って知ってる?」

〇〇「バタフライエフェクト?」

彩「蝶が一回羽ばたいただけでそれが巡り巡って遠い海の向こうで台風に発展してしまうように、あるところで発生した些細なことが、巡り巡って全然関係ないところで大きな影響に変わっちゃうってこと。」

〇〇「あー…何となくわかるような…わからないような…。」

彩「つまりね、時間犯罪者がお父さんもあやも全く知らない人に何かしたけど、それが巡り巡ってお父さんとあやの歴史を変える影響に変わっちゃったってこと。」

〇〇「…なるほど。」


彩「未来で過去を変えることが禁止されてるのはね、このバタフライエフェクトで、行動一つが何百人何万人って人の人生に影響しちゃうからなの。」

〇〇「納得した。」

彩「あやが学校から帰ったらね、お母さんに『あなた誰?』って言われちゃって。違う人と結婚してたし、私じゃない子どもがいたしで…。」

彩の声が震えはじめる。

〇〇「彩ちゃん…?大丈夫…?」

彩「そしたらそのうちね、あやの体が薄くなって消え始めちゃったの…時間が歴史に基づいて色々と矯正する力が働いて、あやの存在が消えようとしてて…。本当に怖かった…。グスッ…。うぅ…。」

とうとう彩は泣き始め、肩はガタガタと震えている。

〇〇はその背中をさすり、彩を落ち着ける。

〇〇「辛かったね…もう無理して話さなくていいから…。」

それでも、彩は横に首を振った。

そして顔をギュッと引き締めると、〇〇に向き直る。

彩「それで、タイムマシンを使ってお父さんの歴史を調べたら、お母さんと出会う前に、あそこで自殺したことになっちゃってたの。」

〇〇「だからあそこに現れて止めたわけか…。じゃあもう未来は変わったの?」

またしても彩は横に首を振る。

彩「あやがあやの生まれた歴史を取り戻す為には、お父さんがお母さんと出会うその日を、あやが確実に見守る必要がある!そうしないとあや、帰れない!帰ったらまた消えちゃう!」

〇〇「…そっか。でもね、自殺しようとした手前なんだけど、もう多分あやちゃんのお母さんとは会ってるんだよね…。何なら今いい感じ。」

彩「…えっ?」

〇〇「つい1年ほど前に、△△さんって人と付き合い始めたんだ。その人すごく優しくていい人だから、結婚も考えててさ。まぁ仕事が上手くいかなすぎて鬱になっちゃったから、あそこで自殺しようとしたわけだけど…。」

彩は何も答えない。

〇〇「とにかく!彩ちゃんの話を聞いて、自殺しないって決めた!これからは△△さんのことを大切にして、絶対に彩ちゃんの生まれる歴史を作るから!」

そこで〇〇はようやく気づいた。

彩は顔を硬直させて絶句していた。

〇〇「…彩ちゃん?」

彩「それ…お母さんの名前じゃない…。」

〇〇「…えっ?」


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翌日の夜。

あれから彩は〇〇の家に泊まった。

その次の日。

〇〇「…△△さん、その筋では有名な男たらしで、浮気しまくりだったって…。一部じゃ結婚詐欺師の噂も出てたらしい…。」

彩「そうだったんだ…。」

〇〇「1年も付き合ったのになぁぁぁ…はぁ〜あ。」

彩「でもそんな酷い人ってわかってよかったじゃん!そんな人と結婚してたらもっと不幸になってたよ…。てかあやのお母さんじゃないし。」

〇〇「それにしても…その彩ちゃんのお母さんで僕の奥さんになる人?は僕の連絡先にいなかったんでしょ?」

彩「うん…。あやしょぼん…。」

〇〇「てか、何でその人と出会う日も名前さえ教えてくれないのさ?」

彩「だって、それ知っちゃったら、お父さんその名前と日付、意識しちゃうでしょ?それじゃまた歴史が変なふうに変わっちゃう。」

〇〇「時間の話って難しいんだなぁ…。てか、その出会う日までこの家に住むの?」

彩「うん…そうなっちゃうかな…。ごめん…。」

〇〇「いや全然いいよ。存在かかってるんだもんね。好きなだけ居な。ただ、一人暮らしの僕の家に年頃の女の子が急に住み始めたり、しかも未来の娘と一緒に暮らすってのが、少し落ち着かないなぁって…。」

彩「フフッ…なんか変な感じだね?」

〇〇「アハハッ、ほんと、変な感じ。」

そこで彩は〇〇に悟られないようにしながらカレンダーを見る。

彩(明日なんだけどね…。)


お父さんとお母さんが出会うのは明日…バレンタインの日!


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翌日。2/14。

今日はバレンタイン。

〇〇「じゃあ僕は仕事に行くから。好きに過ごしててね。」

彩「う、うん…!」

〇〇「じゃあ、行ってきます。」

彩「いってらっしゃいっ!お父さんっ…!」

〇〇はクルリとドアに背を向けて歩き出す。

しかし、彩はそんな〇〇の背中を見送りながら、ドアを閉めようとはしない。

やがてアパートの廊下の曲がり角を曲が〇〇の背中が見えなくなると、そーっと、彩も家を出た。

彩「お父さんとお母さんが出会うのは今日だもん…!私が何としても成功させなきゃ!お母さんのバレンタイン!」

そう独り言で宣言すると、〇〇の数メートル後ろを尾行し始めた。


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〇〇の勤務先。

ピッ。

〇〇「おはようございます。」

警備員「おはようございます。」

〇〇が勤務先に入っていく。

彩「あっ…!」

彩もついていこうとすると、突如視界に写り込んだ警備員が手で彩を制する。

警備員「お嬢ちゃん?ここに何か用かな?入館証、ある?」

彩「えっと…えっと…。」

彩はおどおどと焦り出す。入館証などあるわけがない。

彩(あっ…!)

彩「あーーーー!!何あの人!刃物持ってる!👉」

彩は大声と共に明後日の方向を指差す。

警備員「えっ!?なんだって!?」

もちろんそんなことを言われては警備員としては黙っていられず、彩の指した方向を見る。

彩「よしっ!」

その隙に彩は警備員と機械の隙間を潜り抜け、入り口を通過する。

警備員「何だ、何にもいな…あれ?お嬢ちゃん?」



警備員「お嬢ちゃーん!?いるかーい!?うーん…やっぱり中には入ってないのかなぁ…。」

警備員が廊下をキョロキョロとしながら通り抜けていく。

その物陰には…彩。

彩「よしっ!潜入成功!」


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彩「ここがお父さんの職場…!」

コソコソと物陰から〇〇のオフィスを覗く彩。

と、そこに、何やらラッピングされた箱を持ちソワソワとしたOLが彩の真横に立つ。

「うーん…大丈夫かな…渡せるかな…。」

彩「うん?…あっ!?」

美波「小川さん…いるかな…?」

彩(お母さん!?)

彩が美波の持っている箱を見ると『小川〇〇さんへ』という宛名まで書いてあった。

彩(お父さんに一目惚れしたお母さんが、チョコと一緒に気持ちを伝えるのが…今日…!)

女性社員「あ、梅澤さん。どうされました?」

美波はサッと箱を後ろ手に隠し、反対の手に持っていたファイルを前に持ってくる。

美波「いえ!小川〇〇さんにお届けする資料を持ってきました!」

女性社員「小川は今席を外しておりますので、デスクの上に置いておけばいいと思いますよ。」

美波「は、はい…!では、失礼します…!」

そういって美波はオフィスの中に入り、一つの机の前に止まる。


そして、〇〇宛のラッピング箱、その上に資料ファイルを置いて、席を離れる。

美波「し、失礼しました!」

そして、照れ隠しなのかササッとその場を去る。

彩はその様子を見送った後、〇〇の机を見つめ続けるが…。

何と、美波が箱と資料を置いたその机に座ったのは、全く別の人間。

男性社員「これは…企画開発の資料か。んん!?これは!?」

よく見ると、隣の机に今朝〇〇が持っていたカバンが置いてあるのが見えた。

彩(お父さんのデスク隣じゃん!お母さんのバカーーーー!!!)

彩(いや、多分この勘違いがバタフライエフェクトの影響なんだ…!てことは本来の歴史ではお母さんはデスクを間違えなかったってことだから…。何とかしてあの箱をお父さんに渡さないと!)

男性社員「むふふ…今は少し時間に余裕あるし、中身の確認ぐらいは今しちゃいますか…。」

そう言いながら男性社員は箱を持ったまま彩の横を通り過ぎてオフィスを出ていく。

彩「あっ!待って!」

彩はトタトタと走ると、後ろからそのラッピング箱をパッとひったくった。

彩「返せっ。」

男性社員「あ!こら!俺のバレンタインチョコ!返せ!」

彩「あなたのじゃないんだって〜!💦」

彩はそのまま箱を持ち去って走る。



会社の廊下で起こる捕物劇。

だが男性社員の方が少し足が速いらしく、徐々に彩との距離を詰めていく。

彩「このままだと追いつかれちゃう!…うわっ!」

よそ見をしたのがいけなかった。

ちょっとした段差につまずき、彩は転倒してしまった。

その拍子にスーッとラッピング箱が床を滑っていく。

彩「あっ…!」



と。そこへ。


美波「あれっ…?あれは…私が〇〇さんに渡したチョコ…?」

〇〇「何だあの箱…?え、僕の宛名?」

そしてお互い手を伸ばして拾おうとした、その時。

不意に。2人の手が重なる。

〇〇「あっ…。」

美波「あっ…。」

〇〇(すごい…綺麗な人…。)

美波(小川〇〇さん…!)

そして見つめ合う、2人。



その一部始終を転んだ体勢をまま目撃する彩。

彩「やった…!お父さんとお母さんが…出会った!」

彩がバンザイをして喜ぶ。

だが、そんな彩の体が、キラキラと光りだした。

彩「あっ…。」

〇〇の方を見ると、ちょうど美波との会話を終え、チョコをもらったところだった。

彩「お父さん!」

〇〇「!」

〇〇が彩の方を見る。

〇〇「彩ちゃん!?何でここに!?いや、ていうか、彩ちゃん体が…!」

彩「未来に帰る時になったみたい。私の役目が達成されたって、時間がいってるんだと思う。」

〇〇「え、てことは…さっきの綺麗な人が、やっぱり…?」

彩はコクリと頷く。

そして、〇〇の手を両手でしっかりと握る。

彩「じゃあね、お父さん。彩が生まれるその時まで元気でね!あ、お母さんのことも元気で幸せでいさせてあげなきゃダメだよ?」

〇〇「うん。色々ありがとう。彩ちゃんにまた逢えるように、僕頑張るから。」

そうしてガッツポーズを作って意気込み、ニコッと笑う〇〇。

そしてその笑顔を見た彩は、キョトンとした後、彩もまた、にっこりと笑った。

彩「フフッ…お母さんがお父さんを好きになった理由、何となくわかったかも。」

〇〇「えっ?」

彩「バイバイ!お父さん!また未来でね!」

その言葉を最後に、彩の体は光の粉となって消えてしまった。

〇〇はその光のカケラを掴むような素振りをした後、今度は先ほど美波から貰ったチョコを眺めた。

〇〇「…よしっ!」

〇〇はネクタイを締め直し、歩き出した。

未来に向かって。明日に向かって。






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オギャー…オギャー…

美波「フフッ…なんか、〇〇そっくり。」

〇〇「そう…?目元なんか美波そっくりじゃん。これは将来はママに負けないくらいの美人さんでちゅかね〜?」

美波「やだ、もう…///」

美波「あ、そうだ、名前どうしよっか?この子の名前…。」

〇〇「名前か…。」

そこでふと〇〇の頭を、いつしかの娘の言葉がよぎる。

" 病院の窓の外がいろんな花で溢れてたから、彩りある人生にして欲しいってので名付けてくれたんだって。"

そして、窓の外を眺めると、ちょうど大きな花壇が見えた。

様々な種類の花が色とりどりに咲いている。

〇〇「…『彩』。」

美波「彩…。いいね。いい名前!」


泣き静まった目の前の赤ん坊に指を伸ばす。

小さい小さい手が、弱く、しかししっかりと、父親の指を握り返してくれた。


〇〇「…また逢えたね、彩ちゃん。」




「Hello, My future.」 終

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