ずっと待っていた~キャロル・オコンネル 「修道女の薔薇」

ネタばれになるから、読んでない人は読まないで下さいね。

女刑事キャシーマロリーシリーズは、死ぬほど好きで繰り返し繰り返し読んでます。

その待ち焦がれていた新作。

いなくなっても気付かれにくい、それくらいの理由で選ばれ殺される人達。
しかも、それはプロによる犯行。

多額の金を使って、殺す理由もない人達を殺しているのは誰なのか?
そして、たまたま犯行現場に居合わせていたために殺された修道女と、殺し屋に連れ去れることになった修道女の甥である少年。

殺し屋に監禁された少年は盲目で、彼は自分の中にいる死んでしまった大好きな叔母の助言に耳を傾けながらなんとか生き残ろうとします。

マロリーは脈絡がない殺人の目的と犯人、少年の行方を追うため「狩り」を始めます。

金融屋?っていうんですか?
なんか投資とかのバイヤー出身だった市長の過去の詐欺とか、まぁそういうのも出てくるんですが、キャシーマロリーシリーズのそういうところは話の枝葉でしかないんですよ!!!!!!!

ぶっちゃけ殺人を命じてた犯人が誰とか、動機とかどうでもいいんですよ!!!!

今回私がやられたのは・・・・。

殺し屋イギーでした。

ネタばれになるよ?
気をつけてね。

やられたわ。
イギーにとって修道女になってしまった娼婦アンジーがそれなりに特別だったことはずっと書いてあったけれど。

どれほど愛していたかは最後の最後に溢れるばかりに咲く薔薇が語るんですよ。

で、もう一回読み直すと、わかるんです。

イギーにはアンジーが特別だった。
邪魔にならない娼婦であるとか以上に。
だから少年と語り、少年と食事し、時に自分を殺そうとする少年を褒め称えたさえする。
噛まれた傷に抗生物質さえ塗っている。
もうすぐ殺すのに。

アンジーと同じ目をしていて、それを自分にむける少年にその手では酷いことができなかった。

アンジーを殺せてしまったのは、アンジーだと気付かなかったから。
アンジーは殺し屋を恐れて彼から逃げ出したけど、殺し屋はおそらく・・・正体を知ったアンジーを殺すことなどできなかったのだと思う。
他の誰を殺しても。

殺し屋には人間は肉でしかなかった。
でも、彼の孤独な世界で、アンジーだけは違った。

だから彼女が去った理由を知りたかった。
だから「神と結婚した」と少年が言った時動揺した。

多分、アンジーと殺し屋の過ごした時間は少年と過ごした時間と似ていたのかもしれない。
車に乗り、運転を教えて。
話をし、食事をして。

アンジーが本当は何を考えていたのかは誰にもわからない。
でも、皆がアンジーから削りとった。
狂った母親、無力な兄、幼い甥、それらのために彼女は自分の身体を売った。

幼い甥を愛していたのは本当だろう。
本当だろうけど。
その愛のために自分を削り続けた。

彼女は魅力的で沢山の男たちが彼女に魅了された。
彼女が娼婦であることに同情や罪悪感を抱きながら。

彼女は誰かを愛しただろうか。
心を許しただろうか。
それは語られることはない。
彼女が本当に神を信じていたのかさえも。


そして甥ですら諦めていたのだ。
彼女が世俗から逃げてしまったことを。
誰もが彼女を諦めていたのだ。
もう帰ってこないと。
仕方ないと罪悪感さえ持って。

でも。
一人だけ待っていたのだ。
彼女の薔薇を世話し続け、増やしながら。
沢山の手間を毎日毎日かけて。
帰ってくるはずがない少女を。
カップさえ捨てずに。

待っていたのだ。
ずっと。
願いさえせずに。

彼女の薔薇を育てながら。

冷たい孤独な男が。

絶対に幸せになるはずなどない恋物語なのだけど、なんか無償に泣けてしまった。
アンジーの亡霊と対峙した彼の心は描かれることはない。
でも。
そこにあったのは恐怖だけだっただろうか。

そして、今回わかったことというより、分かっていたことを再確認させられた。

チャールズは幸せになる。
でもその相手はマロリーじゃない。

でもチャールズはマロリーが生きてる限り彼女を追う。
だから、マロリーは死ぬ。
それ程遠い先じゃない。

ライカーにマロリーの養父が言ったように。
「あの子は早く死ぬだろう。だけどあの子を責めないで欲しい」
マロリーはやりすぎて死ぬ。
チャールズに、皆に愛されたまま。
残酷に皆の心に傷跡をのこして。
いつも通り優しくはなく。
その傷跡さえ皆は愛するだろう。

マロリーはそんなこと気にもとめないだろうけど。
でも、彼女は彼女のやり方で彼女の愛する人達を最期まで愛し続けるだろう。
愛しているなんて絶対に認めないまま。

マロリーの愛もマロリーを愛することも一方通行で、でもそれは交わらないからこそ、変わらない色を持ち、特別なのだ。

マロリーだけは常に全ての彼岸に立っている。

今回もマロリーは「勇敢な娼婦」のための騎士であり、復讐者だった。
マロリーはいつだって、愛する者のために戦った人間の味方で、迷える子供の守護者なのだ。

マロリーの愛は正しい。
そうは見えなくても。

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