ブギーマンに捕まるな 3
家では無敵で傍若無人な少女だった私。
ワガママで無鉄砲。
興味の赴くままに動き続ける。
好奇心を止めることができないのだ。
気になることをずっと追い続ける。
それは通常の子供達のレベルではなかった。
日が暮れるまでアリの巣をみはるような、ボロボロになるまで百科辞典で植物の名前を調べ続けるような、母親のミシンをドライバーですべて解体するような。
電子レンジで何が爆発するのかをしらべるような
私に言うことをきかせられるのは、誰よりも優しい兄だけだった。
兄が宥めるように名前を呼べば、私は止まることができた。
しかし、融通のきかない父親は手を焼きながらもそんな私を愛してくれたし、厳しい母は厳しいなりに愛してくれていた。
弟も何度も私に泣かされながらも、私に懐いてくれていた。
私は良い子ではなかった。
でも、良い子にはなりたいと思っている、子供ではあった。
いろんなトラブルを起こしながらも。
まあ、普通よりちょっと手を焼くだけの。
しかし、学校となると。
私は別人になる。
無口どころではない。
言葉が出なくなるのだ。
何も言えなくなる。
親しい友達だけしかいない場所でなら話せるのに、友達じゃない、ただのクラスメート達がいたらだめ。
言葉は喉にひっかかり出てこなくなる。
話せない子。
私はそうおもわれていた。
だから、さきちゃんは私を親友にしたんだと今なら思う。
さきちゃんは綺麗な子で明るくて、楽しくて誰もが友達になりたがる素敵な子だった。
さきちゃんが笑うと周りの空気が明るくなった。
さきちゃんがいる場所は人が集まった。
さきちゃんが歌うとみんな思わず聞きほれた。
さきちゃんが歌手になるとみんな疑わなかった。
さきちゃんの歌には伴奏なんかいらなかった。
歌にリズムがすでに組み込まれていたのだ。
必要な場所で広がるきらめきも。
そんな風に歌える人を私はそれからも知らない。
教室の片隅でさきちゃんが歌う意味のわからぬ英語の歌にみんなで聞きほれたものだ。
でも、さきちゃんが特別な友達にしたのは私だった。
さきちゃんには必要だったから。
特別な友達が。
私がさきちゃんと親友になったのは、あの公園で化け物、そうブギーマンと出会った後のことだった。
すうちゃんとみかちゃんがそれまでは私の友達だった。
だが、すうちゃんとみかちゃんは私を切り捨てることにしたらしい。
新しい班分けで、私は誰にも班にいれてもらえなかったのだ。
私は傷つかなかった、と言えば嘘になる。
でもその時にはもう十分理解はしていた。
皆と楽しく遊ぶ才能は私にはないのだと。
ただ、言葉もなく騒ぐ遊びから、言葉での交流が主流になってきた年齢だった。
空気を読み、楽しいことが言える子が人気があり、そうてない自分が好かれないと言わないまでも、そう、邪魔になってきているのはわかっていた。
そっか。
仕方ないな。
痛みを感じながら私は思った。
面白くない子と一緒にいたくないよね。
その理屈は腑に落ちた。
でも、痛みは痛みであった。
だけど私は平然としてみせた。
いつも通り。
傷ついて、あわれまれてたまるものか。
プライドがあった。
滲みそうになる涙を止めて、何でもないかのように、自分の名前が書かれることのないグループ分けのメンバーかかかれた黒板をみつめた。
困ったように私をチラチラ見る先生がうざかった。
突然黒板に私の名前が書かれた。
進行役をしていた学級委員長のさきちゃんが書いたのだ。
誰もまだ何も言ってないのに。
ツカツカとさきちゃんが私の前にやってきた。
「あんた私の班だから」
さきちゃんが私の肩を叩いて当たり前のように言った。
そしていたずらっぽく笑った。
「拒否権ないから」
支配するみたいな口調が、同情を嫌う私の気持ちを消した。
そして、私はその日からさきちゃんの友達になった。
しかも、並みいるさきちゃんの友達を押しのけて親友に。
そう。
拒否権なんてなかった。
なくて良かった。
ずっとそう思っている。
でもさきちゃんが私を親友にしたのは、私が話せない子だからだった。
さきちゃんには秘密があったのだ。
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