目が落ちた-2
目が落ちた契約社員の米倉三雄は市川市在住で築32年のアパートに住んでいる。職場が豊洲なので割と通勤時間は少なく、一人暮らしとしては特に不自由を感じていない。年齢は37才、彼女はネットで知り合った派遣社員の御手洗美恵。2人はどちらかと言うとインドア派であり、2人で会っている時にもお互いが携帯を見ている時間も長く、会話もSNSを介してと言うこともよくある。米倉の両親は千葉市で暮らしており、米倉が一生独身で通すとしても仕方が無いと割り切っている。
米倉の両親には、いや、米倉には姉がおり、春奈と言う名前だ。春奈は既に結婚して2人の子供がいる。米倉のアパートには来た事がない。米倉は春奈の家に数度遊びに行ったがアットホームな雰囲気に気押されて居心地が悪かった。
果たして、米倉の体に起こった変化は何なのだろうか。
米倉は拾った目を懐に仕舞い、左目のあった孔を左手で覆い、抑えたまま携帯を取り出した。通勤途中だったので会社に電話をかけて体調不良の為欠勤する旨を伝える。
体調不良とは何と都合の良い言葉だろう。今回は人生の中でも一位二位を争う体調不良であるが、普段は行きたくないと言う気分の事も体調不良という言葉で片付く。米倉はよく体調不良になる為、この言葉に対しとても感謝している。
うーん、眼科だろうな。
米倉は携帯で最寄りの眼科を検索し、十分ほど歩いてガラスのドアを開けた。
すいません。
受付「初診ですか?」
そうです。
受付「まずこちらにご記入をお願いいたします」
事務の方に言うのは難しいが、事務的な対応は病院ではやめて欲しい、緊急の時は尚更だ。と思いつつ、住所、氏名、年齢など記入し、持病の有無やアンケートにチェックを入れていく。そのアンケートの最後から2行目に気になる項目があった。
あなたは死んだ事がありますか。 はい いいえ
つづく
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