村井(前)チェアマンのサッカー愛15
リスペクトコラムです。(元記事:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20230513)
またまた久しぶりの村井さんネタです。この「Jの金言」シリーズですが、今回は組織論とか、ビジネス色が強いものばかりになりました。なるべく内容をコンパクト化したいのですが、どうしてもボリュームが多いままになりますね。という事で、前回の続きを行かせていただきます。また4回分一気に行くので、ちょっと長くなっています。
【体力、技術、メンタルに大きな違いはない…120人のJリーガーを調査して判明した「世界に通用する超一流」の共通点】(第17回)
「(いったい、どういう選手がそういった世界に通用する超一流に育っていくのか。彼らにはどんな共通点があるのか)分析力、クリエイティブ力、想像力、計画力、規律性、柔軟性など50項目くらいについて、大きな成功を納めた選手とそうでない選手を比べてみたのです。すると成功した選手の中で圧倒的に相関係数が高い項目が2つ見つかりました。『傾聴力』と『主張力』です。」
〔「前のめり」に聞き、堂々と主張する力〕
「――聞く力と主張する力。一見、矛盾しているように思えます。
【村井】そこが面白いところですね。まず『傾聴力』。私はこれを『体を前のめりに傾けて聞くこと』と定義しています。聞くだけでなく、前のめりに、というアクションが入っているわけです。例えば、要点をメモするとか、『本当かな』と疑って調べてみるとか。」
「【村井】そう、傾聴の極みというのは『あなたはそう言うけど、僕はそう思わない。僕はこう思います』と主張することです。勇気を持って主張してみると、その倍くらいの答えが返ってくる。この傾聴と主張のサイクルを高速で回している選手が、成長していくのではないかと思います。
〔ミスをしないことより、どう立て直すかで決まる〕
「【村井】プロで10年以上活躍するような選手なら誰しも、絶対にどこかで一度や二度は挫折しています。けがをしたり、スランプになったり、代表から外れたり、出場機会が減ったり。大切なのはそれを乗り越える力。リバウンドメンタリティーです。そのリバウンドのために必要な要素が傾聴と主張と言うわけです。
成功する選手とはミスをしなかった選手ではなく、ミスで凹んだことを立て直しながらリバウンドしていった選手である。それが調査からわかったことでした。」
成功した選手で圧倒的に相関係数が高い項目が「傾聴力」と「主張力」で、そのうち傾聴力は当ブログでよく使う言葉で言えばやはり「リスペクト」ですか。言葉は違っても本質はほとんど一緒です。挫折を乗り越える力がリバウンドメンタリティーです。そのリバウンドのために必要な要素が傾聴と主張であると言われています。そして、ミスで凹んだことを立て直しながらリバウンドした選手が成功するですか。なるほどねぇ。
【だから開催国ブラジルはドイツに1対7で負けた…Jリーグ村井チェアマンが学んだ「関係の質」の重要さ】(第18回)
〔基本は「おはよう。ありがとう。ごめんね」から〕
「――ドイツ代表は個々の能力だけでなく、チームとしても頭ひとつ抜けていた気がします。決勝戦でもアルゼンチン代表のメッシにほとんど仕事をさせませんでした。
【村井】そこが選手同士、あるいは監督、コーチと選手の『関係性』ではないか。白金幼稚園のお母さん、お父さんに私はそう話しました。マサチューセッツ工科大学、組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キム教授によると、『おはよう。ありがとう。ごめんね』を幼稚園で教えることがとても大事で、これができると『関係の質」が上がります。
すると『僕はこう思う。私はこう思うんだけど』という『思考の質』が上がります。思考の質が上がると『じゃあ、一緒にやってみようか』と『行動の質』が上がり、最後に『できたね。よかったね』と『結果の質』が上がります。この順番が大事なのです。」
〔半径10メートルの「関係の質」を上げる〕
「――同じことが会社でも言えそうですね。
【村井】まったく同じですね。私はリクルートエージェントという転職支援の会社で社長をしていましたが、『今の会社を辞めたい』と言ってくる人の退職理由の8割はその人の半径10メートル以内に原因がある。要はその人と周囲の『関係の質』が低かった。会長派と社長派の対立みたいなことがある会社にろくなことはありません。半径10メートルで『おはよう。ありがとう。ごめんね』が普通に言えない可能性があるのです。
私がいたリクルートは1989年にリクルート事件という大変な事件を起こしますが、半径10メートルの『関係の質』がとても高かったので、『みんなで乗り越えよう』となりました。
Jリーグで私が心がけていたのは副理事長の原博実さんと将来を語り合うことでした。チェアマンの私と副理事長の原さんの関係がよければ、部長と課長の関係も良くなる。Jリーグ全体で『関係の質』の連鎖が向上するのです。
最近はパワハラとかの問題があるので『おはよう』くらいは言っても相手の心の中には踏み込まない。少し距離を置いて差し障りのない関係を保つことが多くなっていますが、これを良い『関係の質』だとは思いません。相手の心に土足で踏み込むのも良くないですが、相手の気持ちをしっかり理解した上で、本音で向き合うことが、すごく大事なんじゃないかと思います。」
選手同士、または監督、コーチと選手の「関係性」の話です。挨拶で「関係の質」が上がれば「思考の質」「行動の質」「結果の質」の順番で上がっていき、この順番が大事とか。日頃の挨拶は大事ですね。確かに一般的に職場の中で、日頃の挨拶がまともに交わせていないケースがあり、そういう職場は生産性が低いのかもしれません。
当時のJリーグでも正副理事長の関係は良かったようですね。原副理事長もJリーグチャンネルという違う媒体の方で貢献されていて、いいバランスが取れていたのではないでしょうか。
今の時代、若い人との関係性を構築するのは難しいのかもしれませんが、昔人間からすれば、膝を突き合わせて酒を酌み交わしながら「関係の質」を縮めたいという内容でした。
【2026年までに日本のサッカーは変わる…Jリーグ村井チェアマンが自信を持つ「重要プロジェクト」の中身】(第19回)
〔優勝を争う国の選手は、どこのクラブに所属しているか〕
「――吉田麻也選手、三笘薫選手、堂安律選手などW杯カタール大会で活躍した日本代表選手の多くは、10代をJリーグのジュニアユースやユースで過ごしています。育成の主体が学校の部活からJクラブに移りつつあるわけですが、そんな中でJリーグは2019年、ワールドクラスの選手を輩出することを目的にした『PROJECT DNA』を始動させました。」
「【村井】ロシアに滞在している間はわりと時間があったので、出場32チームの全選手の経歴をエクセルに入力して、どのクラブの出身なのか洗い出しました。」
〔ドイツもイングランドも自国リーグの選手が多かった〕
「W杯でベスト4以上に進むためには、まずJリーグがプレミアリーグやブンデスリーガと同じレベルにならなければならない。そこでクラブの育成能力を客観的に評価・採点しているベルギーのベンチャー企業に依頼して、Jリーグとブンデスリーガの育成力の比較をしてもらいました。」
〔ブンデスリーガを100点としたら、Jリーグは…〕
「日本にオーディター(調査員)がやってきて、ストップウォッチを片手にJリーグユースの練習を観察していました。何を測っているのか尋ねると『オーナーシップをもって練習している比率を見ている』と言います。
オーナーシップとは子供達が自発的に考案して練習することです。最初から最後までコーチが考えたメニューをこなす日本式の練習は『オーナーシップが足りない』と評価されます。試合のオーナーシップを握るのはピッチの選手です。ベンチが動かすわけではない。なので日ごろの練習からそうした自立性を求めているのです。結果的にブンデスリーガを100点とした場合、Jリーグは40点という結果が出ました。」
〔長期的な育成プランで若い選手への投資を〕
「(ドイツより強い関心を持ったのはイングランドでした)2017年のアンダー17とアンダー20のW杯で優勝しており、アンダー19も欧州選手権で優勝しています。若い世代がメキメキと力をつけ、その成果がW杯ロシア大会のベスト4という形で表れました。人材の底上げに成功した感じでした。
イングランドはいったい何をやったのか。調べてみると2012年にEトリプルP(エリート・プレーヤー・パフォーマンス・プラン)という育成プログラムを導入していたことがわかりました。」
〔技術だけでなく教育、栄養、分析力も〕
「【村井】誰が育成プランを作るのか。白羽の矢が当たったのが、ウェストハム・ユナイテッドの監督などイングランドで37年の指導歴を持つテリー・ウェストリーさんでした。
テリーさんが作った『EトリプルP』は、フットボールの技術だけでなく、教育、栄養、分析力などのスタンダードを作り、それをベースに各クラブが独自の育成に取り組むプログラムでした。」
〔秋田には秋田の、沖縄には沖縄のサッカーがあっていい〕
「(招聘した)テリーさん自身が日本に飛び込んで、全身どっぷり日本に浸かって、日本の文化を理解しようとされました。来て早々に全国の20クラブくらいを回り、その地域の風土や文化を学ぼうとしていました。フットボールというのはそういった地域の風土に根ざして発展するものだという考え方なのです。」
「秋田には秋田の沖縄には沖縄のサッカーがあっていい。それを育成や戦術に落とし込むために、まずは各クラブが自分たちの『フィロソフィ(哲学)』をしっかり持ちなさい、というのがテリーさんの教えでした。」
〔2026年までに日本サッカーは大きく変わる〕
「――イングランドのクラブがEトリプルPの活動を始めてからW杯でベスト4に進むまで7年かかりました。Jリーグの『PROJECT DNA』が始まったのが2019年ですから、結果が出るのは2026年ということでしょうか。
【村井】その頃には日本のサッカーも大きく変わっていると思います。しかしすでに今回のW杯でもある程度の効果は見えたのではないでしょうか。」
育成の改革の話ですね。育成プログラムでイングランドのEトリプルPを目標に、Jリーグが2019年から「PROJECT DNA」を始めていて、イングランドの例からすれば2026年に開花するという事ですが、あと3年で次のW杯でどうなるかですが、個人的にはそんなにトントン拍子に上手くいくのかなと思います。先のW杯でも結局ベスト8には行けず、強豪国に勝てたのもギャンブルに勝っただけという印象は残っています。育成部分の成果は置いておいて、W杯での成果が出るのはそんなに甘くないと個人的には思っています。ただ、テリーさんには頑張って欲しいですね。
【反対意見にこそ問題解決のヒントがある…全試合中止のJリーグから「世界最高の感染対策」が生まれた理由】(第20回)
〔試合も大事だが、お客さんがいることがもっと大事〕
「【村井】Jリーグは『豊かなスポーツ文化の振興』を目指しているわけですから、ずっと試合を止めているわけにはいきません。本来1シーズン34節であるところがチームによっては30節で終わっても構わないから、とにかく試合は継続したい。そうすると不公平による大きなリスクを避けるために、そのシーズンの降格はなしにしようとか、さまざまな緊急措置を考えました。
『文化』とは『主観』の集合体です。お客さんはスタジタムに強制されて来るのではなく、自らの主観でフットボールを楽しむために足を運んでくれます。その流れを止めてはいけない。お客さんのいない無観客試合では文化は育たないのです。」
〔「利益を上げるか、社会貢献か」松下幸之助さんの答え〕
「【村井】そうですね。幸之助さんが松下電器産業を発展させた頃に、企業の目的は利益を上げることなのか、社会に貢献することなのかという意見対立があったようです。どちらに重きを置くかは、そのレベルによって今でも議論があります。
幸之助さんは家電製品で日本に貢献しているのだから、事業であがった利益は社会貢献の証なんだ、とおっしゃいました。その証を使ってさらに製品を開発したり、社会に貢献したりしていくことが天の声なんだと。要は利益をあげることも社会貢献もどっちも大事なんだと。これをわかりやすく説明したのが幸之助さんだと私は思っています。」
〔嫌いな人、反対意見の中にこそヒントがある〕
「対立するものを議論して丁寧に見ていくと、対立する者同士の間に共通する要素が見えてくる。これを相互浸透と言います。」
「我欲の表面的なレベルで『俺がやる』と言っても誰も付いてきてはくれませんが、自分の心からの願いを表出させていくと、それが世の中に共通するものになり、やがて『世の中がそうなっていく」。そういう概念だろうと思います。つまり、一つ上の次元にアウフヘーベンしたいと望むなら、嫌いな人、反対意見を言う人の中にこそヒントがある。そんなイメージですね。」
出ました、松下幸之助さんの水道理論。昔、松下氏の伝記を読んだ事がありますが、当ブログでよく出てくるキーワードの「公共財」の考え方のルーツで、懐かしいです。現在のCSRの原点でもあるかもしれません。これは同時にJクラブなどプロスポーツクラブも同様であり、商業主義に走り、地域・社会貢献活動を軽視するという行為はお話になりませんね。
最後に反対意見の中にこそヒントがあるという事で、いい事を言われています。当ブログも日本代表などそういうシーンが多いですが、例えば地元Jクラブでもファン・サポーター全員が、万歳万歳では進歩しません。悪意を持った「文句」ではなく、おかしい所はおかしいと言ってもらってこそ、多様性が出て進化が図れるのではないでしょうか。
村井(前)チェアマン関連⑯:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20230422
〃 ⑮:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20230308
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〃 ⑬:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20221120
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〃 ③:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20150731
〃 ②:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20141225
〃 ①:https://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20140116
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