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KATATONIA - Sky Void Of Stars


スウェディッシュ・ロックの生き証人であるKATATONIAの長きにわたる歴史は、大きく4つの章に分けられる。まず、後のポスト・ブラックメタルにも多大な影響を与えた最初期のデス/ドゥーム・メタル期が第一章、ドラマーのDaniel Liljekvistが新加入した全盛期から問題作の9thアルバム『Dead End Kings』改め『死の王』リリース後のDaniel脱退までが第二章、新たなフィンランド人ドラマーを迎え復活の兆しを見せ始めた10thアルバムから11thアルバムまでが第三章、そして長年連れ添ったレーベルのPeacevilleから老舗メタルレーベルのNapalm Recordsに移籍して心機一転、このたび12thアルバム『Sky Void Of Stars』を発表し第四章の幕開けを飾った。

KATATONIAといえば、某ファンタジー小説「八咫烏シリーズ」さながらの「鴉」をバンドの化身として、すなわち象徴=シンボルとしてアルバムのアートワークをはじめ、ビジュアル面において一貫して「鴉」をモチーフにしてきたバンドだ。本作の『Sky Void Of Stars』は、前々作の10thアルバム『The Fall Of Hearts』のジャケットにおける「逆さ鴉」が暗喩する不吉な予兆、そのドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で言うところの冥夜の守人(ナイツウォッチ)の陥落を暗示するアートワーク以来の鴉シリーズで、七王国の支配者である9thアルバム『死の王』が「冬来る」と恐れられる「夜の王」を前に絶望した前作の11thアルバム『City Burials』から約三年ぶりとなるオリジナル・アルバム。

前作に引き続きヤコブ・ハンセンをエンジニアとして迎えた本作は、幕開けを飾る#1”Austerity”からして、いわゆる「イントロすっ飛ばして直ヨナス」のトラウマをフラッシュバックさせ、その現代音楽シーンのトレンドでもある「イントロすっ飛ばして直ヨナス」の元祖にあたる歴史的駄作『死の王』という名の悪夢の再来を覚悟した次の瞬間、同郷のメシュガーよろしく変拍子マシマシの強靭なキザミ/リズムと、唸りを上げる叙情的なソロワークとともに、盟友Opethの名盤『Still Life』に肉薄するエクストリーム/メロ・デスばりのデレッデレデレッ風バッキングを目の当たりにした僕は、気づくと「KATATONIA is Back…」と囁きながら高らかにメロイック・サインを掲げていた。

その後の「夜の王」の爆誕を暗喩していた、KATATONIAが最もオルタナティブで革新的だった全盛期の傑作『Night Is The New Day』のポストメタル路線への回帰を促す#2”Colossal Shade”、現代ゴスロッカーの生き証人でもあるヨナスの憂愁な歌声をフィーチャーした#3”Opaline”、まるで『ゲーム・オブ・スローンズ』のドラゴン扮する八咫烏が闇夜を薄明るく照らし出すような曲で、何かが吹っ切れたようなメタルならではの疾走感がKATATONIA第四章その始まりを暗示する#4”Birds”、いわゆるBサイド的なアレンジを効かせたアトモスフェリック~ドゥーム・ロックの#5”Drab Moon”、近作におけるモダンな側面を前面的に押し出した#6”Author”、同郷Soenのアンディ・エケロフをゲストに迎えた#7”Impermanence”、『死の王』唯一の名曲である”The Racing Heart”や前作の”The Winter Of Our Passing”に通う叙情の血統を正統に受け継ぐシングルの#9”Atrium”、ある意味では『死の王』の”Dead Letters”に対するカウンターパンチと解釈できるTOOLリスペクトな曲で、特定のジャンルにとらわれない流動的な音楽的変遷を遂げたバンドならではのポストメタルを提示する#10”No Beacon To Illuminate Our Fall”まで、さながら「俺こそが吉村卓を師(グランドメイスター)と仰ぐ”夜の王”だ!(そっちじゃない)」と厨二病を拗らせた八咫烏扮する「夜の王」のシンボルと元祖「夜の王」の加藤「鷹」のゴールドフィンガーが激突する・・・ッ!(バサバサッ)

本作のサウンド・プロダクト的には、メシュガーをオルタナティブ・ヘヴィおよびポストメタル的な視点で再解釈した名盤『Night Is The New Day』を、過去二作を通過した上でより現代的なアプローチを以ってワンランク上のサウンドにアップデイトしている印象で、なんというか数々の苦難を経てたどり着いた一つの境地というか、本来の正しい世界線の『Dead End Kings』が本作の『Sky Void Of Stars』のような気がしてならなかった。厳密に言えば、「夜の王」こと『Night Is The New Day』と、「冥夜の守人」こと『The Fall Of Hearts』の間に生まれた、それこそ『ゲーム・オブ・スローンズ』的な解釈を通して例えるなら”落とし子”、要するに本来は戸籍上(ディスコグラフィー上)この世に存在しない幻の作品的な位置づけみたいな。


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