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「世界恒常性」バーチャルと現実の  接続、そしてVRイベントの未来

はじめに

このnoteは、2020年5月1日にclusterで開催された、引退したバーチャルYouTuber「薬袋カルテ」さんの限定復活ライブ、「世界恒常性」に関するまとめである。
筆者は、カルテさんのファン=患者であり、今回の「世界恒常性」のライブの同時実況を行った者の一人である。
前置きはここら辺までにして、「世界恒常性」のレポートをここに残して置きたいと思う。

1、薬袋カルテとは

そもそも、このライブを行った「薬袋カルテ」とは何者なのか。もはや知らない人もいるかもしれないので、改めて押さえておこう。
薬袋カルテは、2018年2月に自己紹介動画を投稿し、バーチャルYouTuberとしてデビューした。その個性的で癒される声は「聴く鎮静剤」とも呼ばれ、瞬く間にファンを獲得した。
ビジュアルは、「世界恒常性」のポスター画像を見て欲しいが、黒のゴシックなナース服という感じで、動画の色使いが全体的に暗い感じだった。ややダウナーな雰囲気を纏っていたといえよう。

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また、いわゆる動画勢であり、個性的な動画を投稿していた。個人的に印象に残っているのは、名作フリーホラーゲーム、「Ib」の実況である。Ibそれ自体のダウナーかつ退廃的・芸術的なトーンと薬袋カルテの暗い色彩、トーンが調和していた。
ちなみに、流行りものも意外と抑えており、プーさんのホームランダービー、通称プニキもやっていた。

しかし、筆者がもっとも薬袋カルテの尊敬し、憧れていて、紹介したいポイントは、「クリエイターとしての能力の高さと意欲」である。
薬袋カルテの動画投稿ペースは、正直なところ早くはなかった。だが、動画のたびに新しい「なにか」を作成し、薬袋カルテの世界観を広げていた。例えば、楽曲、ED曲、体のモデルの新調(白いナース服、半袖服など)…。3Dモデルの作成も行っており、「クリエイター」というのが、薬袋カルテを表す最も適切な言葉であると、筆者は考えている。

そんな彼女は、2019年2月、くしくもデビューからちょうど1年目に引退することを発表した。その理由は「薬袋カルテを含んだ創作物を作成するため」とのことで、バーチャルYouTuberという立場にとらわれない新しい「物語」を始めるための発展的な引退であったといえよう。

もはや引退してからの方が日が長くなり、これほど才能に溢れた「薬袋カルテ」を知らない人も増加していたが、バーチャルYouTuber黎明期を知る者なら100人中101人が知っているような、記憶に残る人であった。
そんな彼女が、唐突に1日限定での復活を試みると表明したときは、一部では大変な話題になった。そしてその理由が「COVID-19に立ち向かう医療関係者へのチャリティーを行う、チャリティーライブである」と示された時、筆者は、「実に薬袋カルテらしいな」と思ったのであった。
実際、今回のライブの収益は国境なき医師団や赤十字といったところに寄付されることになっていた。

以上が、今回の「世界恒常性」の前置きである。ちなみに「恒常性」とは、生物が自分の体を一定に保とうとする機構のことである。
今世界は明らかに「恒常性」を失っている。バーチャルの彼方から薬袋カルテは、世界の恒常性を取り戻すために、再び我々の前に顕れてくれたのである。

2、世界恒常性

さて、ここではライブ本番の振り返りを記述していこう。
まず、開演前の待機所であるが、以下のような形だった

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巨大な十時に「世界恒常性」という文字が浮かび上がり、白とクリーム色で構成された空間。シンプルながらも実に「薬袋カルテ」らしい洗練された空間である。
ここで待機していると、突然ワールドが転移し、大都市のビルの上、といった風景のなかに、スマホが直立しているという不思議な場所に移動した。

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何が始まるのか!と思っていると、ピアノアレンジされた「pretender」が流れ始める!そして、筆者が、「患者」が、バーチャルYouTuberファンが、「世界」が待ち望んだ声が聞こえてくる。聞こえてきた。
久しぶりに耳にするその声は、確かに「薬袋カルテ」であった。
演出として、pretenderの歌詞がスマホの画面上に、lineのトーク履歴のような形で表示されており、MVのような雰囲気があったといえよう。
曲を歌い終わり、トークタイム。ここで明かされたのは、「曲ごとに、曲に合わせてワールドを創った」ということ。なんと手間のかかる、凄いことをやってのけたのだろうか!
次の曲に移るということで、ワールドも転移。今度は桜が満開のワールドへ。

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お花見が出来なかったので、バーチャル世界でのお花見ができるようにと、こうしたワールドにしたようだ。
仮想のサクラは、かくも満開に咲く。
ここで歌われたのは、つじあやの「風になる」。日の当たる坂道を自転車で駆け上る曲である。
曲調、ワールド、そして白を基調とした衣装が実にマッチしていた。
そして再びワールド転移。今度はなぜか●×クイズのような場所へ。

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ここでは、「バーチャルYouTuberらしいこと」をするとの名目で、COVID-19の「感染予防二択クイズ」(+1)で●×クイズが行われた。設問と回答は以下の通り。

1、手を洗うことで予防ができるが、どちらの方がより効果的な手洗いか

A:30秒てをあらい、流す

B:15秒手を洗い、流すのを2回する。

→正解はB。手洗いを2回するのがよい。

2、アルコール消毒のような効果を持つのはどちらか

A:エタノール

B:オキシドール

→正解はA。エタノールで消毒しましょう。

3、ライブ会場でもある「cluster」英単語の意味は?

A:民

B:房

→正解はB。房という意味。


このパートをうけて、やっぱり手洗いは効果抜群なんだなぁ…と思った次第。読者の皆さまも、二段階で手洗いをしましょう。
次のワールド転移は、水の中。クラゲや魚が泳いでいた。

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持ちネタ(?)として「おさかな天国」を歌うつもりでこのワールドを作成したものの、音源の権利などから歌うことが難しかったため、とりあえずワールドの紹介、という形でした。
うーん、残念です。
とはいえ、こちらのワールドでは、魚が回遊していて、海の底にいるような気分になれましたね。
そして、最後。

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薬袋カルテがかつて動画を撮影していた「診療所」の屋上である。いくつかの動画で背景となっていた、診療所。VRでこれを見ていれば、まさしくその診療所に「入り込む」ことができたということである。
そして歌うのは、イメージソング「Stardust finding you」。また、これを聞くことが出来るとは、思っていませんでした。なんて良い日だったのでしょう!しかも、診療所の屋上でこれを聞けるなんて!
ちなみに、私の視界では、バグなのか、実は薬袋カルテさんの姿が映っていませんでした。最初はそういう演出なのかな、と思っていたのですが、Twitterを見ていたら初期服のカルテさんがおられて…すこしそれは残念でした。が!正直そこは重要じゃないのです!筆者が、薬袋カルテさんの構成する動画の世界、その一部に入りこめたということ自体が、とても嬉しいのです。
そして、最後の挨拶は、動画と同じく「それでは、よい現実(夢)を」。

3、「世界恒常性」の総括とVRイベントの未来

以上述べてきたように、今回の「世界恒常性」は薬袋カルテの復活ライブであり、それはそれだけでバーチャルYouTuber界の歴史に刻まれる出来事であると断言できます。
しかし、それにとどまらず、「世界恒常性」を経て、VRライブの敷居がグッと下がり、これからどんどん増加していくのではないかと思います。
現に、才能ある方とはいえ、今回のライブは4つのワールド作成からモデル作成など、全て1人で運営されておりました。「やろうと思えば一人で運営できる」ということは、参入障壁を限りなく低くするでしょう。それはまさに、大人数のプロが集まらないと映像を作れなかったテレビに対して、1人でも動画を構成、放送できるYouTuberの方が参入障壁が低いことと同じです。
特に、世界が恒常性を失い、人と人とが物理的に接触できない昨今、こうした在宅で鑑賞できるイベントの存在は極めて価値が上昇すると思われます。さらに、VRにより没入感が向上しているので、家にいながら「現地」に行く事が出来る、ということで、一体感も高めることができるでしょう。
一方、ワールド転移などで物理の干渉がおかしくなる、イベント中音声トラブルが発生するなど、抱えている問題も複数あります。筆者は●×クイズでは見えない壁に阻まれましたし、最後のワールドではカルテさんのお姿をみることができませんでした。こうした技術的な問題は、ノウハウの蓄積によって解消されるものと思います。
結論的にいえば、今後需要が高まるにつれてVRライブはその数自体が増加し、それに伴いノウハウが蓄積され、技術的な問題は解決されるだろう、ということです。

おわりに

長々とまとめてきましたが、単純にファン目線からいえば、「ありがとう」「最高でした」「またどこかでお会いしたい」の3文に集約されます。
このライブ自体は録画などされておりませんが、同時実況者が40名近くいたそうなので(露骨に宣伝すれば筆者もそうです)、是非残されているアーカイブをご覧ください。繰り返し見ればそれだけ、発見があるはずです。
そして、こちらの主目的である、募金やチャリティーについても、無理のない範囲で協力(できる/意欲のある人は)しましょう!
それでは、よい現実を。良い夢を。そして薬袋カルテさんの行く道に幸いがあらんことを。

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