小川洋子 - 「薬指の標本」
君を一言で表すと、アンビバレントな人間。
生命力に満ち溢れた一面と、実存的空虚に覆われた一面という、非常にアンビバレントな感情の中で生きている。
相反する感情の波の中で正気を保ち続けることは、とても辛く、想像を絶するほど困難なこと。
だけどそんな状況でも君は必死に舵を取り、船を正しい方向へ導こうとする。
まるで風の中のキャンドルのように、嵐が吹き荒れても、雨に打たれても、陽が沈んでも、その灯火は決して消えゆくことはない。
その姿に、僕らは美しさや強さを感じる。
小川洋子さんの書く小説も、水晶のように透き通った文体なのに、読後には形容し難い重さが残る、独特なアンビバレントさを含んでいる。
彼女の小説を読んでいるようで実は君を見ているような、君を見ているようで実は彼女の小説を読んでいるような、全くリンクしない二人がリンクし合う、そんな虚実の皮膜を感じた。
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