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詩・小説

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思いついた言葉の倉庫です。 たまに深夜のテンションで小説も書きます。
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#金魚

【短編小説】ブラックホール病

ねぇパパ 「ねぇパパ、私はいつまでここにいなくちゃいけなの?」 娘のシルビアが曇りガラスの向こうに何か絵を描きながら言った。 「そうだね、もう少し、かな」 「もう少し?もう少しってどのくらい?」 屈託のない目でこちらを見てきた娘を見て唇を噛み締めた。 「そうだな…」 考えるふりをして下を向いた。いろんな感情が私を襲ってきたのを娘に悟られたくなかった。 「ねぇパパ!」私に考えがあると言わんばかりにシルビアが声を上げた。 「パパのいた場所で一緒に暮らせばいいんじゃない?」 「パ

雪に沿って舞う夏の金魚

その日の朝、今年初めての雪が降る。 彼女は靴を履きながらこれからのことを考える。 空には私が舞っている。 雪は冷たく、彼女の息が白く霞む。 私は今年死んだ金魚。 彼女の家の庭に埋まった。 でも今はこの静かな明け方の空で雪と一緒に遊んでいる。 彼女は毎日、庭で手を合わせる。 私はそんなことしなくてもいいのにと思いながら、彼女のそばまで行く。 彼女の頬が赤く染まっていた。 私と同じ色だった。