マガジンのカバー画像

詩・小説

55
思いついた言葉の倉庫です。 たまに深夜のテンションで小説も書きます。
運営しているクリエイター

#一節小説

【短編小説】ブラックホール病

ねぇパパ 「ねぇパパ、私はいつまでここにいなくちゃいけなの?」 娘のシルビアが曇りガラスの向こうに何か絵を描きながら言った。 「そうだね、もう少し、かな」 「もう少し?もう少しってどのくらい?」 屈託のない目でこちらを見てきた娘を見て唇を噛み締めた。 「そうだな…」 考えるふりをして下を向いた。いろんな感情が私を襲ってきたのを娘に悟られたくなかった。 「ねぇパパ!」私に考えがあると言わんばかりにシルビアが声を上げた。 「パパのいた場所で一緒に暮らせばいいんじゃない?」 「パ

「『幸せのお裾分けよ』ってあなたは言うけど、私にとっての幸せを知りもしないのによく言えたわよね。あなたの『幸せ』は私にとっての『クソ』なの。残念だけどね。これが価値観の違いってやつかしら?」

「守秘義務って知ってますか?あなたが今話している内容は、個人の情報です。家族だから言っても大丈夫だろうなんて思っていませんよね?それによく考えてください。知りもしない家族の間で自分の情報を話されているんです。気味が悪いでしょう?」

「私はそのままでいたはずだった。でも彼女は違った。 私を見つめる目が物語っていた。あなたは変わったんだね、と。 そうわかった瞬間、涙がこぼれ落ちた。もうあの頃のような関係には戻れないんだ。 彼女の見方が変われば、彼女が見る私の存在も否応なく変わってしまうのだ。」

「手を差し出せばきっとあなたは縋り付いてくるんだろう。 そして言うのだ。どうしてもっと早く助けてくれなかったの、と。 残念ながら私はあなたを助けようなんて考えていない。 どうやってまたあなたを突き落とそうか考えているのだから。」

「兄弟姉妹ってさ、絶対比べられるよね。  そう言った彼女は寂しそうに僕の顔を見た。  僕は一人っ子だから彼女の気持ちが分からない。  それでも寄り添いたいという一心で彼女の目を見た。  貴方は貴方だよ、僕は貴方だから好きになったんだ。  誰かと比べて恋に落ちたわけじゃないんだ。」