父を踏み台にして翔ぶ
私の父は多才だ。
喋りが上手い。
頭が良い。
手先が器用。
雑学王。
読書家。
情報機器に強い。
賞をとるほど落語が上手い。
美大を志したほど絵が上手い。
プロ並みに口笛が上手い。
地方に勤めているが、全国的な仕事をしたこともある。
学生時代はテニスで国体に出る一歩手前までいったらしい。
1聞けば10返ってくる。
たまにうるさいなと思うこともある(私が質問したくせに)。
書いていると段々腹が立ってきた。
大体なんでも出来るのである。
小さい頃から自慢の父だ。
彼が様々なものに触れるとき、私はよく隣にいさせてもらえた。
一緒に映画を見たり、美術館に行ったり、小難しい話を聞いたり。
仕事場に連れて行ってもらったこともある。
私の根幹には、紛れもなく父の感性がある。
いま私が好きだなと思うものは、父が好きなものに似ている。
私の知見を広げてくれたことに、とても感謝している。
でも、私は同時に悔しいのである。
いつも勝てない。
父よりもすごいものを作りたいのに、いつだって上にいる。
私が発した企画を膨らませてくれたことがある。
彼のフィルターを通すと、それは何倍も面白くなった。
口から飛び出すアイデアは新しくて、私の脳内では構成し得ないほど斬新で、論理的に考えられているものばかりだ。
悔しい。
実家に住んでいる時も感じていたことだが、一人暮らしをして父から離れて、尚更そう思った。
経験と知識の量が違うから当たり前であると言われればそれまでかもしれないが、私は負けず嫌いなのである。
父から「お前すごいな」と言われたいのである。
でも多分それはとても高いところにある。
今の私では見えないところ。
日本で、世界で、新しいとされるもの。
それを私は作りたいのである。
父でさえ見たことのないほど高い場所からの景色を見たい。
だから私は父を利用することに決めた。
彼が経験したくさんの本を読み作品に触れて蓄積した知識を聞く。
そして効率よく吸収してやるのだ。
自分でもいろんなものをいろんな所に必死に掴みに行って、出来るだけ早く追いついて、追い越して、高く飛ぶ。
青臭い綺麗事で結構。
夢物語で構わない。
今のこの愚かなほど純粋な気持ちを忘れないでいたいから書く。
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