JOG(1254) 石原慎太郎 ~ 優しさが生んだ強さ
すでに人気作家の地位を築いていた石原氏が、なぜ政治の道に足を踏み入れたのか。
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■1.強さと優しさと、どちらが本当の石原慎太郎氏なのか?
石原慎太郎氏が逝去されました。石原氏の足跡で、強く心に残っていることが二つあります。
一つは、2012年に尖閣列島を東京都が購入すると発表して、寄付金を募り、賛同する国民から10万件以上、15億円近い寄付を集めたこと。
その2年前に中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりしたのを国民からひた隠しにし、なおかつその船長を釈放してしまう、という民主党政権の法も国際常識も、そして一国の体面も無視したやり方[JOG(701)]に比べて、石原氏の強いリーダーシップを感じました。同じように感じた人が多かったので、これだけの寄付が集まったのでしょう。
もう一つは、東日本大震災で福島第1原発冷却のための放水作業を行って無事帰還した東京消防庁ハイパーレスキュー隊員139名の面前で深々と頭を下げ、涙声で「本当にありがとうございました。この国の運命を決めてくださった」と語った姿です。[TOKYO MX]
当時、隊員らに出動を命じた消防総監はこう証言しています。「知事は決して『やれ』とは命令しなかった。『本当に大丈夫か、できるならやってくれ。頼む』と。隊員への気遣いを感じた」[産経、R040201]
こういう点にも、石原氏の消防隊員たちを思う優しさを感じます。しかし、尖閣諸島を寄付金を募って東京都で買ってしまおうという強さと、隊員たちを心配する優しさとが、同じ人間のなかでどのように同居しているのか、が、もう一つ、ピンと来ませんでした。どちらが本当の石原氏なのか、と。
■2.「殺された若い警官に世間の同情が向かぬという風潮は狂っている」
『国家なる幻影 わが政治への反幻想』には、もう一つ、石原氏の優しさがよくわかるエピソードが語られていました。昭和44(1969)年の学園紛争の頃です。
10キロのコンクリートブロックを警官の頭上に落とす過激派学生の冷酷さは、「どんな危険で無謀な任務を強いられるか分からない」菅直人元首相の非情さと、根は一緒です。左翼思想が人間に対する思いやりを失わせる、というのは、世界の共産主義国で例外なく起こっている人民虐殺からも明らかです。
「新婚間もなく幼い乳飲み子を残して殺された若い警官に世間の同情が向かぬという風潮」も、それだけ世の中が左翼思想に染まっていたからでしょう。
■3.「働いている人間たちの努力を、国家のためなのだから使い捨てにしてもいい」!?
このエピドードには、続きがあります。
優しい心を持っているからこそ、こういう事も気がつくのでしょう。このエピソードを、石原氏は次の言葉で締めくくっています。
「働いている人間たちの努力を、国家のためなのだから使い捨てにしてもいい」どころか、反革命分子は殺してもよいとするのが、左翼思想の非人間性です。人情に厚い石原氏は、そういう思想、風潮を「狂っているとしか思えなかった」のです。
■4.「自分の国家と民族の未来についての無関心さにショックを受けた」
石原氏の政治家としての自伝とも言うべき『国家なる幻影』は、昭和41(1966)年当時、すでに「日本で一番高い原稿料を貰う流行作家」だった氏が、なぜ政治家の道に足を踏み入れたのたかを語るところから始まっています。
石原氏は、クリスマス休戦に入る前に、米軍のヘリで前線に出ました。まだ戦闘中で、石原氏の乗ったヘリも地上からの銃撃を受けましたが、無事でした。ヘリが目的地の町に近づくと、そこで思いがけない光景が見えてきました。
この無関心さは大衆国民だけでなく、迫り来る共産主義の非人間性を察知している知識人たちも共有していました。
この確信は7年後の1973年、米軍の撤退により、現実のものとなりました。その結果、共産軍の支配を逃れようと、30万人とも言われるベトナム人がボートピープルとなって南シナ海に逃げ出し、その多くが海の藻屑となってしまいました。
■5.「自分の国家と民族の未来についての無関心さ」は他人事ではなかった
石原氏がベトナム人に見た「自分の国家と民族の未来についての無関心さ」は他人事ではありませんでした。「私はそこに私の故国日本との強い類似を見た気がした」のです。
そう思って過去を振り返ると、石原氏には思い当たることが多々ありました。たとえば、1960年の安保改訂のおりです。
こういう経験を振り返ると、ベトナムのように日本が「案外にもろくも躓いてしまう可能性」が胸を占めていきました。そして石原氏はこう思ったのです。
これが、政治の世界に足を踏み入れたきっかけでした。
■6.子孫の運命への切実な情があるからこそ、卓越した戦略性も生み出されてくる
日本人の「自分の国家と民族の未来についての無関心さ」の典型が、占領軍によって制定された日本国憲法をいつまでもそのまま抱いていた事だったでしょう。
「醜い日本語で綴られた日本国憲法」とは、こういうことです。
憲法と言えば、一国を運営していくための国民が取り決めた政治の根基です。そして、その精神を述べたのが前文です。その前文が外国人に書かれた外国語の訳文として、おかしな文章になっている。これをほとんどの人が気がつかない、気づいても問題にしない。ということは、誰も憲法など、真剣に読んでおらず、信じてもいない、ということでしょう。
■7.日本の弱さは、子孫に対する切実な優しさがないから
これこそ「自分の国家と民族の未来についての無関心さ」の現れです。こういう状態では、自国の戦争をアメリカ人任せにしてしまって滅びた南ベトナムと同様、「この国が案外にもろくも躓いてしまう可能性」も否定できません。
自分たちの子孫に亡国の憂き目を見せてよいものか、という石原氏の優しさからくる切実な思いが、尖閣購入という捨て身のアイデアを生んだのでしょう。こう考えると、国民を切実に思う優しさがあるからこそ、行動面の強さも生み出されてくるのです。
これをひっくり返すと、現在の対中外交などでの弱さは、我々自身の子孫への切実な優しさがないから、ということになります。我々の子孫に、ウイグルやチベットの人々の悲劇を味あわてはならない、という切実な思いこそ、現在の日本人に必要なものではないでしょうか。
(文責:伊勢雅臣)
■おたより
■伊勢雅臣より
国を思って「一隅を照らす」存在となりたいものですね。
■リンク■
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
・TOKYO MX「東日本大震災 都知事、東京消防庁隊員らの活動たたえる」
・石原慎太郎『わが政治への反回想 国家なる幻影 上』★★、文春文庫(kindle版)、H13
・石原慎太郎『日本よ、完全自立を』★★★、文春新書(kindle版)、H30
・産経新聞、R040201「リーダーシップの裏の繊細さ、純粋さ 石原氏死去」
・産経新聞、R040203「福島苦しめる菅直人氏ら5元首相」
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