病原体の名前

久しぶりに記事を書いている。

COVID-19が世を賑わわせている今日このごろであるから、それに関連したことを書こうと思った次第だ。

さて、実を言うと、筆者は感染症医の卵である。ここ数年はすっかり語学のことを考える暇は無くなり、感染症の勉強に明け暮れている。今日の話は感染症の原因となる病原体の名前の話だ。(感染症の話はしない。)

COVID-19を引き起こすコロナウイルス(Coronavirus)のコロナ(Corona-)の由来を知っている人は多いだろう。流行が始まってから半年経ち、(くだらぬ)ワイドショーなどで取り上げられている。

言うまでもなく、太陽のコロナに似ていることからきている。このcoronaとは、ラテン語で「冠」という意味である。初めてこれを知ったときには合点がいかなかった。これのどこが冠なのだろうかと。しかし、Chambers MurrayのLatin-English Dictionaryを引いてみると、「冠」に加えてgarlandやwreathという意味があるようだ。これをgoogle検索してみると、嗚呼なるほどと腑に落ちた。私のイメージする冠とは違ったようだ。もし、私と同じように納得のいかぬ者がいればwreathを調べてみるとよい。

さて、病原体の名前にはこのように形態学的特徴をもとに名付けられるものや、その性質をもとに名付けられるもの、また発見者の名前に由来するものなどがある。

たとえば、サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)というウイルスがある。なんだか強そうな名前で私は好きだ。綴りから想像できる方も多いであろう。これはcyto-とmegalo-とvirusがくっついてできた単語である。生物学に疎い方のために解説すると、cytoとは細胞を意味する。すなわち、サイトメガロウイルスとは、「細胞が大きくなるウイルス」を意味する。文字通り、サイトメガロウイルスが感染した細胞を顕微鏡で覗くと、細胞が大きくなっているのである。極めて単純な命名だ。

性質をもとに名付けられるものとしては、例えばライノウイルス(Rhinovirus)が挙げられる。これは典型的な風邪の原因ウイルスである。これはrhino-とvirusがくっついてできた単語だ。rhinoは、ご存知の通り、「鼻」を意味する。つまり、平たく言えば、鼻に感染して鼻水をダラダラと流させるようなウイルスなのである。実に明快だ。ちなみに、rhinocerosのrhinoと由来は同じであるようだが、私はギリシャ語に明るくないので、深入りはしない。

もう1つくらい何か紹介しておこう。

リンゴ病をご存知だろうか。これは医学的には伝染性紅斑という。その原因となるウイルスがパルボウイルス(Parvovirus)である。これはラテン語を学んだ者であれば想像がつくであろう。parvo-というのは、ラテン語で「小さい」を意味するparvusから来ている。すなわち、「小さいウイルス」である。これは、ウイルスの中でも比較的小さいことからそう名付けられたようである。命名法もここまでくると短慮ではないかと思うが、個人的には人名や地名を利用するよりはマシであろうと考える。

私の感覚では、特に細菌の命名は人名から採っているものが多いような気がする。一方で、ウイルスでは地名が多い。そして、真菌(いわゆるカビのこと)はどちらでもないように感じる。無論、統計をとったわけではないから実際のところどうかはわからぬ。

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