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ロシアウクライナ侵攻 興味深い河東哲夫氏の視点。インタビュー勝手な要約|videonewscom

もう一ヶ月半前に見たビデオなのだが、非常に面白い見方だったのと、いまの時点でも参考になる内容だったと思うので、わたしなりにまとめてみました。50分近いビデオを観るのも大変なのでさくっと以下にまとめたつもりです。※ビデオのリンク先は記事の最後に記載しました。

※もともとFacebookのグループ用に要約したのですが、アクセスが少なくもったいないので、わたしのnoteのコンテンツとは異質ですが、掲載することにしました。

なお私自身は、西側東側にどちら側に立ち位置を置こうとするものではありません。二項対立的なものの見方をしてしまうと、どうしてもいたずらに近視眼的になってしまいます。また単純化された構図では説明しきれないものが多くあることも過去の歴史から鑑みて明らかでしょう。どちらかが良い、悪いを判定するよりも、なるべく巨視的にこの複雑化し混沌とした状況とその後に待ち構える世界の変容について考察することが大事だと感じています。もちろん批判精神が必要なことは云うまでもありませんが。国際条約を破り侵攻したプーチンにはそれ相応の批判があってしかるべきだと思いますが、お茶の間のワイドショーは、余りに西側に傾斜しているようなので、わたしとしてはなるべくテレビは観ないようにしております。そのため知らない情報も多いことは先にお伝えしておきます。

以下、ロシア専門家である河東哲夫元駐ウズベキスタン大使のインタビューの内容です。外務省にいたわけだから、神経質な方は西側からの見方に依拠しすぎていると見る方もいるかもしれませんが、彼の話は実に機知に富んで興味深く感じます。自分の気になったところだけ抜粋しておりますし、私なりに纏めたものなので正確なものではありません。ご了承下さい。

Q.ロシア側に好ましい結末はあるのか。

もしそれがあったとしても一瞬の喜びにしか過ぎないだろう。その後はゲリラ戦という混沌がながく続くはずだ。あの大きな国のロシアに軍隊は40万人しかいない※冷戦終結後激減。守るべきはウクライナだけでなくコーカサス(アルメニア、アゼルバイジャンなど)にも中央アジアのタジキスタンやカザフスタンのほうもあるわけであり、ウクライナに集中できる訳ではない。ロシアはあちこちで手が回らなくなる可能性が出てくるだろう。トルコ・アベルヴァイジャンも実質的な同盟関係にあることも、ロシアとしては大きな懸念材料である。

Q.多くの専門家の予想を裏切り、なぜこの状況でプーチンは侵攻したのか。

たぶんプーチンはいましかチャンスがないと思ったのではないかと思う。日本も戦前に八方塞がりとなり、「もうやるしかない」ということで戦争に踏み切ったが、あれとよく似ている気がする。ミンスク合意を嫌ったウクライナと西側が、ロシアへの抵抗を近年つ読みていったことが大きい。ウクライナは、ミンスク合意前は実質的に強い軍隊をもっていなかった。ミンクス合意以降に、米国の強力な支援もあり20万人へと膨れ上がり軍力を強め、この半年ドネツク、ルガンスクに対しての攻勢を強めていたのがロシアを刺激していた。さらに米国の圧力も加わっていく。ノルウェイやバルト三国やポーランドからの要請を受けてミサイルなどの軍事練習などを現地で行ったことは、相当にロシア、プーチンを強く刺激したのではないか。そこまでやられたらロシアもキッとなるしかない。ほっといておけばウクライナはどんどんと強くなる。プーチンとしては「いましかない」と思ったのだろう。ウクライナだけはどうしてもキープしておきたいという考えがあったで、プーチンとしてはやらざるを得なかったのではないだろうか。ウクライナは地政学的にも経済的にも非常に重要だし、ミサイルや軍艦などの生産地としてもロシアにとっては非常に重要な場所である。それが西側に流れてしまうことはどうしても避けたいという気持ちが強かったはずだ。

Q.プーチンにとっての好ましい落とし所はどこにあるのだろうか(3/1現在`において)。

プーチンは非常に難しいところに追い込まれている。ウクライナ軍が奏功した場合、どうやって面子を保って退却できるだろうか。ロシア国民は見ているのだ。退却すれば、2024の選挙への大きく影響をするだろう。彼の好ましい落とし所は、現政権を潰しオーストラリアやスイスなどのような中立国、ロシアの息がかかった傀儡政権による中立国をつくることだろう。しかし現状は多難だ。

Q.第二次世界大戦以来の欧州における大きな戦争だという報道についてどう思うか。

それは、多分にヨーロッパ側の報道のレトリックを感じる(3月1日時点民間で300人の死者などの報道)。2014年のほうが多くの死者が出たと思う。市民だけでも1万人ぐらい亡くなっていたように思う。それ以上にドイツが国防費を2倍に引き上げようとしているほうが歴史的な観点でみると大きな話のように感じる。すでにドイツは兵器をウクライナに送っている。これはロシアが自らの行動で、ドイツを、再び、ロシアにとってリアルなパワーにしてしまったといえる。皮肉な話だが非常に大きな話だと思う。

※筆者注釈
第二次大戦におけるドイツ(ナチス)のロシアへの侵攻は、ロシアに多大な損害をもたらしました。死者数をみても尋常ではない数にのぼり、その死者数は第二次世界大戦全体においても突出しています。皮肉なことに今回のロシアのウクライナ侵攻で、この眠れる獅子を起こすことになったのではないかという懸念を河東氏は伝えています。また普仏戦争から第一次世界大戦、第二次世界対戦に至るまで、なんどもドイツに散々苦しめられきたフランス人にとっても、このドイツの軍事費2倍への動きは、芳しいものには映らないかもしれません。

Q.米軍が動かなかったことについて。

ウクライナと米国は同盟国ではないので動くことは通常ないと考えられる。米国が動かなかったことで、最終的にNATOの結束が強めることにつながった。

Q.仮の話だがNATOがウクライナをNATOに入れないと言ったら解決になるだろうか。

可能な話だと思う。2008年のときのジョージアをNATOに入れないと結論した件を考えれば可能な話に感じる。同盟というのは健康状態のいい人と結ぶもの。紛争のある地域とは普通結ぶものではない。もちろん中立を謳う国とも結ばない。

Q.冷戦が終わったのに何故NATOは拡張し続けようとしてきたのか。

ロシアの拡張主義、大ロシア主義というものがあるからではないか。バルト三国やポーランドなどロシアの周辺諸国はとても怖がるので。それが根っこにあるのではないだろうか。自由とか民主主義とか言われますが、そんなものはトランプ以降、相対化されてしまった。日本は、そうした言葉で動かされる必要なないのではないか。日本は自分の民主主義、自由主義のために動けばよいので、ウクライナの民主主義云々で動く必要はないと思う。

Q.中国はどういう風に思っているのか
(3月1日時点では中国は沈黙していた)

A.中国は実に面白く興味深い。中国はクリミアの併合にも賛成していなんですよね。ウクライナ侵攻という国際法を破る行為になってしまうと、ロシアとの協調路線にあったはずの中国としても話が変わってくる。状況によって米国側にすり寄ることも計算に入れているのかもしれない。

台湾への軍事侵攻へと動くことは当面考えられない。習近平としては今年の秋の共産党の大会で終身国家主席を狙っているのでそれまでは安穏でいきたいはず。いまのところの戦略では、台湾の政権を倒す方向にシフトしているので、いますぐウクライナ情勢の影響で台湾に侵攻するということは考えられないと思う。

ロシアの孤立化が進めば、無情にもロシアを捨てるということもあるのかもしれない。もう現状ロシアは完全に孤立してしまっている。中国には、「水に落ちたイヌは叩け」という格言があるでしょ。手のひらを返したようにロシアを叩き始めるかもしれない。

Q.「ロシア・中国の台頭、米国の衰退」とは真逆に展開するのではないかという河東さんの逆張り的な考えを教えて欲しい。

A.ひとつはヨーロッパを目覚めさせたということ。アメリカだけに任せておく訳にはいかないとヨーロッパが目覚めた。結局アメリカと一緒にやるわけだが、西側の力は倍増したことになる。軍事力を二倍にしようとするドイツの動きは極めて大きい。

また中国の経済はみんなが言うほど良くない。毎年50兆円の財政赤字を出していて、これを国債で賄っている。その国債の30%は外国人が買っているのだから。これを外国人が一斉に売ったならば人民元暴落になる。中国の3兆ドルの外貨準備も一兆ドル割ってる可能性がある。そのため中国が対外的にできることは限られているのが現状。

ロシアはいうまでもなく孤立化を深めてしまい酷いことになることは疑う余地がない。

Q.自暴自棄になったプーチンがこちらの想像を超える暴挙に出る可能性はあるか。

A.あると思う。それを止めるのはプーチンの側近たちではないか。ナポレオンといまのプーチンがすごく似ている。ナポレオンは、フランス革命を鎮めようと当時のエリートたちが担ぎ上げた。プーチンも全く同じ。当初は快進撃だったが、モスクワでコテンパンに負けて帰ってきたところ、側近やエリートたちにこのままじゃ国がもたないとして、エルバ島に送られた。

プーチンを支えているのは、シロビキという諜報機関とか軍の連中なんだけど、彼らとしてはプーチンを担いでいたら国が持たなくなるかもしれないということで神輿を変えようとするかもしれない。まだ次の候補は分からない。プーチンが出てきたときも、その人選はかなり意外なものだった。

以上です。

世界史という巨視的な視点によって考察する河東哲夫氏の見解は、わたしにとって非常に興味深いものでした。

ロシアのウクライナ侵攻を知ったとき、わたしには二つの懸念が頭にのぼりました。ひとつは、米国民主党の支持率の低下です。バイデンの無責任な厭戦感覚(実は意図的なのかもしれませんが)には、ほとほと呆れるばかりですが、とにかく次期選挙に向かってのトランプのこれ以上の浮上は見たくないという気持ちが強いのです。しかし今回の件において物価の異常な値上がりによりバイデンの支持率は落ちるばかりのようです。

もうひとつの懸念は、ロシアの孤立化が、強欲な米国覇権(ヘゲモニー)を更に強めることになるのではないかという懸念です。ロシアは今後取り返しのつかないほどに孤立化を深めることになるでしょう。それに乗じて米国はさらに覇権を強めるのではないかということです。今回のロシアの侵攻は、冷戦後90年代において、西側がロシアを見殺しにし救いの手を伸ばさなかったことに起因したと云っても言い過ぎではないかと思います。今後ウクライナ情勢がどのように決着するかは別としても、ロシアは孤立化を深め、行き場を失いことになるでしょう。西側はまたもよロシアを助け舟を出すことなくロシアをつぶすがごとくに大きく流れていきそうな気がします。大国主義のロシアの低迷は西側、とくに米国にとっては望ましいように映るかもしれませんが、長い歴史でみれば、またいつの日か大きなしっぺ返しが繰り返されることになるように思えて仕方がありません。それがわたしの杞憂です。

※河東哲夫氏について Wikipediaより。
東京都出身。私立武蔵高校を卒業後、1970年(昭和45年)東京大学教養学部を卒業して、外務省に入省する。ハーバード大学大学院ソ連研究センター、モスクワ大学文学部への留学を経て、外務省東欧課長、在スウェーデン日本国大使館参事官、外務省文化交流部審議官、ボストン総領事、ロシア特命全権公使を経て、2002年(平成14年)から2004年(平成16年)までウズベキスタン駐箚特命全権大使兼タジキスタン駐箚特命全権大使を務めた。外務省退官後は、日本政策投資銀行設備投資研究所上席主任研究員となり研究、評論活動に入った。東京大学客員教授、早稲田大学の客員教授、東京財団上席研究員などを務めている。

興味のある方は以下よりYoutubeのコンテンツを御覧ください。
より詳細に河東氏の解説を聞くことが出来ます。
(41) 河東哲夫×神保哲生:ウクライナへの合理性を欠いた軍事侵攻はプーチンが追い詰められていることの裏返しだ - YouTube

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