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甲州街道を歩く


はじめに

2020年3月にコロナ禍が始まり緊急時代宣言が発令されて運動しなくなったため体重が増えてしまい、重症化リスクを下げるためにその年の9月末からウォーキングを始めた。最初は夕食後に60~90分ほど家の周りを歩くくらいだったが、すぐに飽きてくるので遠出することになった。知らない街を歩くことが楽しくなってきた。
2023年の夏のある日、YouTubeを見ていたら甲州街道歩きの動画がおすすめ一覧に現れた。

興味を惹かれた。東京から下諏訪まで歩くことが大変だということは言うまでもないが挑戦したいと思った。8月にアマゾンで甲州街道歩きのガイドブックを買ったがそのまま放置していた。

2024年3月初旬、毎年恒例の健康診断の日程が決まった。3月22日に受診する。付け焼き刃では意味がないことはわかっているが、それまでに体重を落としたい。週末を使って甲州街道を歩くことにした。

1日目: 東京日本橋から東府中駅まで

スタート地点の日本橋は自宅から近く地理がわかっているので気楽なものだった。その後の苦難などはこの時点で知る由もない。

日本橋

東京駅、皇居を経て新宿通りをひたすら歩き内藤新宿の追分へ。その後は甲州街道をただただ歩く。初日なのでできるだけ距離を稼ごうと思い、30kmを目標とした。この日の最大のメリットは公共交通機関が充実していてどこでギブアップしても駅が近いし、コンビニが多く水分や食料調達に事欠かないこと。京王の東府中駅をゴールにした。

  • 1日目のデータ

    • 2024/3/2土曜日 7:27-13:37 6時間10分

    • 距離: 30.0km

    • 消費カロリー: 1966kcal

2日目: 東府中駅から高尾駅まで

前日のゴールだった東府中駅まで電車で移動し2日目をスタート。南多摩地域も栄えていて商業施設は数多いのであまり心配はない。日野には本陣跡が残っていて中を見学したかったが、寄り道をしているときりがないので足早に立ち去る。

日野宿本陣

八王子に入ると徐々に都会の雰囲気が戻ってくる。八王子駅前は初めて訪れたが都心のターミナル駅と変わらない賑やかさだ。しばらく歩くと高尾駅が近づいてくる。登山で何度も訪れている駅なので見慣れた光景だ。
高尾駅を越えるとその先には小仏峠があり、次の相模湖駅まで少なくとも2時間はかかる。2日目は高尾駅で終えた。

  • 2日目のデータ

    • 2024/3/3日曜日 7:40-12:23 4時間43分

    • 距離: 23.1km

    • 消費カロリー: 1639kcal

3日目: 高尾駅から藤野駅まで

次の週末、高尾駅まで電車で移動し3日目の行程をスタート。駒木野宿跡を越え、小仏バス停に到着したところで一休み。ここでスニーカーから登山靴に履き替える。景信山登山口を過ぎ、小仏峠に登る登山口が現れる。本格的な山道が始まった。登山道とはいえ比較的歩きやすいので30分もすれば峠に到着する。少し雪が残っている。何度も訪れている場所なので早々に下山を開始して都県境を越えて神奈川県の相模原市に入る。

小仏峠

底沢の谷に降りるルートはすぐに終わる。小原宿の立派な本陣跡を横目に相模湖駅を過ぎ、国道20号線がJR中央本線の下をくぐるヘアピンカーブが現れる。この先に貝沢橋という丸太橋があるらしい。林道から沢に降り、橋を渡るのが本来の旧道らしいのだが、降り口が見つからない。しばらくうろついたあと諦めて車道を行くことにした。与瀬の一里塚跡から逆行するとなんとなく貝沢橋を見つけられそうだったが渡渉は断念して先を進むことにした。
相模湖を見下ろす道を歩きしばらくするとJR藤野駅が近づいてくるので3日目はここで終了。

  • 3日目のデータ

    • 2024/3/9土曜日 8:28-13:23 4時間55分

    • 距離: 21.8km

    • 消費カロリー: 1754kcal

4日目: 藤野駅から猿橋駅まで

翌朝、電車で藤野駅まで移動して4日目をスタート。開始間もなく境沢を越えて山梨県上野原市に入る。上野原自動車教習所の近くで、「甲州街道歩きですか?」と男性に声をかけられた。まさかの同士だった。お気をつけて、と別れて再出発して10分ほど歩いていたが気になったので先程の男性に声をかけた。
「お邪魔じゃなければしばらくご一緒しませんか?」
先方に快諾いただき上野原市と大月市の一部を同行した。長い甲州街道の中でも上野原市内の旧道は国道20号線から離れた場所が多いせいか、往時の面影の里山風景が残っていて気持ち良い。立派な塚が残る恋塚一里塚跡や座頭ころがしなど変化に飛んでいて見どころも多い。もしどこかを切り取るとしたら野田尻宿、犬目宿を経て鳥沢に下るルートを推したい。

恋塚一里塚跡

鳥沢宿を越え、国道20号線を歩いていると日本三奇橋の一つ猿橋が見えてきた。動画では見ていたが実物は大迫力だ。

日本三奇橋 猿橋

程なくしてJR猿橋駅を示す標識が見えてくるのでここをゴールに決めた。長い行程を同行頂いた男性にお礼を告げ、猿橋駅に向かい東京に戻った。

  • 4日目のデータ

    • 2024/3/10日曜日 8:22-13:38 5時間15分

    • 距離: 25.5km

    • 消費カロリー: 1957kcal

5日目: 猿橋駅から笹子駅まで

この甲州街道旅も5日目になり、東京の自宅からの移動距離が馬鹿にならなくなってきた。土日の時間を有効に使うため、宿泊して移動の時間と交通費を節約することにした。猿橋駅から歩き始めてすぐに大迫力の東京電力駒橋発電所の水路管が見える。100年以上前の1907年にここから東京まで電力供給していたと思うと昔の人の苦労に頭が下がる。

駒橋発電所

大月駅周辺の市街地を越え、下初狩宿を越えたあたりで日本橋から100kmの地点に到達。まだ全行程の半分にも満たない。

下初狩

このあと車道脇の歩道のない道があったり若干危ないところもあるが基本的に国道20号線沿いに歩くルートなのでひたすら前進あるのみ。笹一酒造が見えてくると笹子駅は近い。この時点で17kmも歩いていないがこの先は笹子峠を越えなければならないので笹子駅をゴールに決めていた。ただ、近くに宿泊施設がないので都留市の宿を予約していた。笹子駅から大月駅までJRで戻り富士急で田野倉駅まで移動しチェックイン。

  • 5日目のデータ

    • 2024/3/16土曜日 11:43-15:12 3時間29分

    • 距離: 16.8km

    • 消費カロリー: 1483kcal

6日目: 笹子駅から勝沼ぶどう郷駅まで

都留市の宿から笹子駅まで電車で移動し6日目の行程をスタート。笹子峠越えを控えたクライマックスといってもよい。開始後早々に緩い登り坂が続き高度を上げていく。黒野田宿を過ぎてしばらくすると矢立の杉の案内看板が現れる。ここからが本番。スニーカーから登山靴に履き替えて山道に入るとところどころに雪が残っている。とはいえ矢立の杉までの旧道は観光地として整備されているので歩きやすい。

矢立の杉

問題は矢立の杉から先の道だった。道標が少ないのでどちらに進めばよいのかわからない。15分ほどうろうろしていたら沢筋に降りる道を見つけたので下る。旧道とはいえ参勤交代で使われていたとは思えないくらい荒れている。おそらく笹子川の源流の沢筋ではないかと思う。しばらく進んで尾根筋に切り替えて登る。距離は短いが急登だ。間もなくして小ピークを越えると山梨県道212号の日影笹子線に合流する。しばらくアスファルト道を登っていくと笹子隧道が見えてきた。

笹子隧道入口

結構な量の雪が残っているので駐車場で一休みしてチェーンスパイクを装着する。山道に入って10分程度で標高1096mの笹子峠に到着。意外にあっけなかった。矢立の杉から先のルートのほうがハードだった。

笹子峠

笹子峠を越えると大月市から甲州市に入る。雪が多いので慎重に下る。県道から外れた峠道は雪のために不明瞭で先人の踏み跡だけが頼りだった。途中何度か迷いながら歩いていると木橋が現れる。路面が凍結していて滑るのでしゃがみこんで氷を割り安全を確保してから渡った。その後県道沿いに歩いていると駒飼宿が見えてきた。峠の雪道とは景色が一変していて里に降りてきたと安心する。
再び国道20号線に合流。東に折れるとJR甲斐大和駅に着くが西に折れて勝沼に向かう。鶴瀬宿を過ぎてしばらく歩くと長柿洞門(おさがきどうもん)が見える。


長柿洞門入口

旧道は洞門入口の右側にある山道らしい。登ってみるが荒れていて国道側が切れ落ちている。脚が震える。分岐を間違えて墓地で突き当たってしまったので諦めて国道まで降りた。本来の旧道を進み観音堂まで行ったとしてもそこからの下りはかなり危険だったようなので断念して正解だった。

ぶどう販売の看板が増えてくると勝沼。勝沼宿を訪ねたあと、急傾斜の登り坂を進みながら勝沼ぶどう郷駅に向かう。ここで登山靴からスニーカーに履き替えて東京の自宅まで帰宅。

  • 6日目のデータ

    • 2024/3/17日曜日 7:06-12:33 5時間27分

    • 距離: 22.4km

    • 消費カロリー: 2180kcal

7日目: 勝沼宿から甲府駅まで

自宅から勝沼ぶどう郷駅まで電車移動したあとは勝沼宿まではタクシー移動。天気が崩れることがわかっていたの旧道とは関係ないところは省略することにした。基本的に下り道だし、国道411号沿いのコンビニが多いルートなので食料調達に事欠かない。
栗原宿、石和宿を越えたあたりで雨が降ってきた。天気に恵まれた甲州街道旅だったが初めてレインウェアが役立った。甲府市街の賑やかな町並みが見えてくるとゴールも近い。これで甲州街道の表街道も終わり。
予定よりも速いペースで歩けたので14時台に予約していた甲府駅前出発の高速バスを12時台に変更。徒歩だと7日かかった行程もバスだと新宿まであっという間。

  • 7日目のデータ

    • 2024/3/20水曜日 8:17-12:02 3時間45分

    • 距離: 18.7km

    • 消費カロリー: 1308kcal

8日目: 甲府駅から上三吹まで

3月に表街道を歩き終え、甲州街道のことはしばらく忘れていた。とはいえこのまま梅雨の時期や真夏に入るとロングウォークをしている場合ではない。ゴールデンウィークを逃すと次はいつになるかわからないので長期連休を使って裏街道に行くことにした。しかし甲府を越えるとスタート地点までの移動距離が馬鹿にならない。時間もかかるし交通費もかかる。そこで2泊分の宿を取って行程を組むことにした。
8日目は甲府駅から出発し、まずは韮崎宿を目指す。ここまではコンビニも多く休憩する場所もあるので心配はないが韮崎駅を過ぎたあたりから途端に沿道の商業施設が少なくなる。右手には八ヶ岳から続く大迫力の七里岩の崖が見える。

七里岩

韮崎駅以北の甲州街道はJR中央本線から離れた位置にある。そもそも線路が七里岩の崖の上にあるので諦めて電車に乗ることは難しい。自ずと街道沿いを走る山梨交通バス頼みになる。
当初は穴山三ツ石のバス停をゴールにするつもりだった。甲府駅から22~23kmに位置するからだ。でも実際に穴山地区に到着するとまだ行けそうな気がする。結局韮崎宿の次の台ケ原宿の手前の三吹地区まで歩いた。上三吹下バス停でバスに乗り韮崎まで戻る。安宿を取っていたのでそこで一泊。ひとっ風呂浴びて翌日に備えた。

  • 8日目のデータ

    • 2024/4/30火曜日 10:55-17:16 6時間20分

    • 距離: 27.9km

    • 消費カロリー: 2201kcal

9日目: 上三吹から青柳駅まで

全行程のうち最も天候に恵まれない日になった。朝から晩まで雨だった。韮崎駅近くの宿から山梨交通バスで上三吹で下車し、スタートする前にレインウェアを着る。国道20号線に合流するがすぐに脇道にそれる。

台ケ原宿手前の古道入口

はらぢみち(原路道)ではないのでは?という意見もあるらしい。

台ケ原宿は当時の面影がよく残っている。観光地として奮闘している様子もありいつかじっくり訪れたい。教来石宿を越えると釜無川を渡る新国界橋が見える。橋を渡ると山梨県も終わって長野県。国道20号線沿いの新国界橋は旧道から少しそれた場所にあるようだ。
朝からコンビニにも立ち寄っていなかったので空腹を感じてきたなと思っていたらドライブイン国界があった。休憩を兼ねてラーメンを食べた。

蔦木宿を過ぎてしばらく歩いたところで瀬沢大橋が見えるので西に進む。ここから次第に高度が上がっていく。ひたすら緩い登り坂が続く。最高地点では960mを超える。路面こそアスファルト舗装されているがここまで標高が高いと笹子峠とさほど変わらない。おまけに雨。

富士見町から茅野市へ

しばらくすると国道20号線に合流する。JRのすずらんの里駅が近いが頑張ってもう一駅先の青柳駅まで歩いたところで9日目はゴール。茅野市内に宿を取っていたので電車で移動。チェックインして一休みしたあと信州そばを食べた。

  • 9日目のデータ

    • 2024/5/1水曜日 9:14-14:53 5時間39分

    • 距離: 26.0km

    • 消費カロリー: 2080kcal

最終日(10日目): 青柳駅から下諏訪宿まで

前日の雨が嘘であったかのような快晴。茅野駅から青柳駅まで電車で戻り最終日となる10日目の行程をスタート。国道20号線を渡って旧甲州街道に戻る。金沢宿を過ぎ宮川に架かる橋を渡ると久々に大きなセブンイレブンがあるので朝食を調達。
そこから20分ほど歩くと右側に旧道を示す道標が現れる。中央本線の跨線橋を渡り国道20号線から離れてしばらく歩く。中央本線の高架下をくぐると茅野の中心街は近い。駅が近づくと電線が地中化されていて町並みが美しい。

茅野市街

茅野を過ぎて諏訪に入ると飛騨山脈らしき山々が見える。非現実感すら感じる迫力。

遠くに見える飛騨山脈

東京へ戻る電車は16時過ぎの特急あずさを予約していたが、このペースだと午前中には下諏訪宿に着きそうなので特急指定券を変更。国道20号線を離れ旧道を進む。あとはゴールまでこの道を歩くのみ。左手には諏訪湖が見える。

棚田越しの諏訪湖

富部地区にある最後の一里塚跡が現れるとゴールは近い。

富部の一里塚跡

ほどなくして諏訪大社下社が見える。ここまで来たら99%は終わり。参詣して10日間のお礼を告げ終了の地に向かう。

甲州道中・中山道合流の地

やっと終わった。感動よりもほっとした気持ちのほうが大きかった。2泊3日を見知らぬ地で過ごし、70km以上を歩き、前日の雨で靴の中が湿っていたせいで右足の小指の靴擦れが限界に達していた。

  • 10日目のデータ

    • 2024/5/2木曜日 6:17-11:12 4時間55分

    • 距離: 21.3km

    • 消費カロリー: 1359kcal

最後に

東京で暮らし山登りをする自分にとって上野原辺りまでは大まかな地図が描ける場所だったが、大月より西は頭の中で白地図に近かった。県庁所在地が甲府であることぐらいは知っていたが、自治体の並びは全く知らなかったし、似た名前の甲州市と甲斐市が離れているなんて考えたこともなかった。
特急あずさに乗ったことはあるが、電車と徒歩では街に対する解像度が全く違う。道路の一本一本、曲がり角の一つ一つを気にかけながら歩くというのは交通機関では得られない体験だった。
全行程の一部を切り取っておすすめはどこか。黒野田宿から笹子峠を越えて駒飼宿に下るルートがハイライトにはなるが万人にはおすすめできない。先に述べたように上野原市内の鶴川宿、野田尻宿、犬目宿辺りだと思う。このエリアは国道20号線からも中央高速道路からも離れていて開発の手が及んでいないためか往時の雰囲気が残っている。恋塚一里塚跡や座頭ころがし等見どころも多い。ここだけ切り取って再び歩いてみたい。

  • 総歩行距離: 235.7km

  • 総歩行時間: 50時間15分

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