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【アマチュア大喜利プレイヤー列伝】ギャル-本気なのは最初から-

はじめに

気が付いたら、毎月のようにその大喜利会の様子がTwitterのタイムラインを賑わせるようになっていた。撮られた写真や添えられた文面を見ても、参加者がどんな企画の中でどんな大喜利をしているのか、全貌はつかめない。それでも、皆全力でその場を楽しもうとしていることだけはわかる。

そんな参加者の様子を見て、その場の誰よりも楽しんでいるのが、今回の記事の主役、ギャルである。

彼女は2018年から生大喜利を始めたプレイヤーで、層が厚い関東の中では、新人と中堅の間くらいの位置にいる。歴は短く、獲得タイトルも少ないが、実力の面でも申し分ないうえに、大喜利への熱意は、それはもう肉眼で見えるくらいある。

今回取材に至ったのは、私が彼女に話を聞いてみたいと思ったのはもちろん、とある人物からリクエストがあったことも理由の一つ。直接会ったのは2度だけだが、オファーのDMを送ると、快く引き受けてくれた。嬉しい限りだ。

2022年8月22日22時、インタビュー開始。

大喜利との出会い、とデレマス

Discordを繋ぎ、録音を始める。オンラインでの大喜利に頻繁に参加している、広島在住の筆者は、東京での生大喜利が主戦場のギャルと、言葉を交わしたことがほぼない。

「感覚で話してしまう」と、自分の会話の特徴を語っていた彼女は、事前に過去のインタビューを読んで、自分も上手く話せるかどうか不安になっていた。私はそれを受けて「これまで11人の話と一つの座談会をまとめた実績があるから大丈夫です」と返した。この言葉はギャルに向けた安心材料だが、これからインタビューを受けるであろう人達にも届いて欲しい。

まずは現在までの経歴の最初を話してもらう。ギャルが初めて生大喜利を行ったのは、2018年7月の「第5.5回アイドルマスターシンデレラガールズ大喜利会」(通称デレマス大喜利)である。デレマス大喜利は、7人目に取材した星野流人主催の、アイドルマスターシンデレラガールズに特化した、デレマス好きは参加するしかない大喜利会。この第5.5回は特別企画で、みくもと戯念という二人の人物が主催した、大喜利初心者に向けたデレマス大喜利の会だった。

元々ギャルは、第5回のデレマス大喜利を観覧していた。さらに遡ると、「転脳児杯予選」「大喜利千景」「大喜利3on3トーナメント」などの、芸人以外の一般人も出演・出場する大喜利ライブを、客として観に行っていた時期がある。そういったライブに通うにつれて、徐々にアマチュア大喜利の存在を知っていく。

ある時から、商業的なライブとは違う、杉並区の会議室で行われた六角電波主催の大喜利イベント「Free Style Oogiri Dungeon」の観覧に行くなど、自らアマチュア大喜利の場に飛び込んでいくようになる。その流れがあっての、第5回デレマス大喜利の観覧、第5.5回の参加に繋がるのだ。ちなみに、とあるお笑いライブの会場で、みくもに直接誘われたことも、参加の要因になっている。

第5.5回のデレマス大喜利は、大喜利初心者に向けた会ではあったが、最初から普通の大喜利会で出題されるようなお題は一切出ず、徹頭徹尾デレマスに特化したお題が出た。この会に、当時使用していたハンドルネーム「臨終」で参加したのが、ギャルの生大喜利デビューだ。

「最初のお題で、初めて前に出た時に、手が震えすぎてペンの蓋も開けられないみたいな感じだったのをめっちゃ覚えてます。自分が大喜利やるとは思ってなかったので。ずっと信じられない感じでやってましたね」

デレマスが関与しない、デレマスの知識が不要な通常の大喜利は「できるわけない」と思っていたが、デレマス大喜利に関しては「憧れが凄かった」とのこと。大喜利には尻込みしていたが、デレマス及び登場アイドルに対しては、強い愛を持っていた。「デレマスという引き出しがあれば、自分も(大喜利)出来るかな」という気持ちで参加を決めた。「デレマス」というコンテンツは、”美しい沼”だとつくづく思う。

最初はかなり緊張していたが、会の最後に行う、アイドルになりきって大喜利をして面白さを競い合う「憑依大喜利」のトーナメントでは準優勝。上出来すぎる結果である。

「これまでデレマス大喜利を観覧していたのが役に立ったのか、憑依大喜利でこういうことしたいとか、こうやって動くのが良いかもみたいな考えが自分の中にあったので、そのおかげかもしれませんね」

きっかけの一歩からのめり込むまで

臨終として生大喜利を始めた彼女は、2018年12月に虎猫によって主催された「きっかけの一歩」で2回目の生大喜利を体験する。このきっかけの一歩は、デレマスとは無関係の、いわゆる「大喜る人たち」などで出るようなお題で、生大喜利初心者を迎え入れる会だ。

「デレマス大喜利初心者会で、良い成績が残ったっていうのと、その時初心者会っていうので虎猫さんとか羊狩りさんとか、手すり野郎さんとかが観覧で来てて、その人たちがTwitterで褒めてくださって。今まで自分が観る立場だったので、(自分が)観てた人たちが自分のこと褒めてくれてるっていうのが嬉しすぎて。あとやっぱり、ウケたことが忘れられなかったです」

通常の大喜利はできるわけないと思っていたが、葛藤の末、「ギャル」名義のTwitterアカウントを作成し、Twiplaの参加ボタンをタップした。参加者の中に、デレマス大喜利初心者会に参加していたメンバーがいたこともあり、少しだけ安心して参加を表明することが出来た。

その会には、主催の虎猫と、手本を見せる経験者ゲスト、そしてスタッフに、のちに女性限定の生大喜利初心者会を主催することになる、デリシャストマトがいた。デリシャストマトとギャルは、このきっかけの一歩が開催される前から、お笑いを介して繋がっていた友人だった。デリシャストマトがイベントに関わっていることは知っていたが、相談は一切しなかった。

「いざ受付で、(デリシャストマトからしたら)元々お笑いライブで会っていた友達が、『ギャル』を名乗って現れたので、顔を見た時に『あなたか』って言ってました。なんかそこでもう結構満足しましたね」

虎猫主催の初心者会「始めの一歩」「きっかけの一歩」では、初心者のための企画が用意されている。最後には初心者だけで大喜利のトーナメントを行うのが恒例となっているが、ギャルが参加した時のきっかけの一歩だけは、最後のトーナメントが無かった。要するに、初心者同士で競い合う企画が無かったのだ。当時、大喜利で勝ち負けを決める場に身を投じるのは厳しいと感じていたギャルは、その会の構成をありがたいと思っていた。

きっかけの一歩は良い思い出として残っているが、彼女はその後頻繁に大喜利会に参加することは無かった。潮目が変わったのは、2019年5月上旬に、デリシャストマト主催で行われた「つぼみの会」。女性限定の大喜利初心者に向けた会である。この時のつぼみの会には、大喜利の経験が全くない人が参加する「初心者枠」の回と、数回経験している人が参加する「ビギナー枠」の回の二つがあった。すでに生大喜利を経験しているギャルは、ビギナー枠に参加した。

その後、同じくきっかけの一歩に参加していた四つ葉の黒婆さん主催の「きっかけの一歩同窓会」や、きっかけの一歩出身のプレイヤーと、つぼみの会出身のプレイヤーが集まった、二つの会の合同の大喜利会などに参加する。このあたりから、もっと大喜利がしたいと思うようになったと語る。

EOT第6章

このシリーズで何度も登場している大喜利大会、「EOT-extreme oogiri tournament-」。o(ばらけつ)が主催、羊狩りがMC、動画のアップロードなどのその他の役割を星野流人が務めているこの大会。2022年9月8日現在、これまで特別なレギュレーションだった回も全部含めると、9回行われている。ギャルは、2020年3月に行われた第6章から出続けており、初出場で本選進出という記録も持っている。

今でこそ様々な大喜利大会に出場しているギャルだが、生大喜利を始めてしばらくの間は、大会に出る勇気が無かった。思い切ってエントリーした、デビュー3年以内のプレイヤーのみが出場できる「答龍門2020」は抽選で落ち、答龍門に出られなかったメンバー+αで行われた「大喜利バトルタワー」では結果が出せず、EOT第6章の数日前まで、かなり自信を無くしていた。

「次(EOT)出るぞって覚悟を決めながらも、これ不調だったらしばらく大喜利から距離取ろうって考えながら参加しましたね」

予選はクオリティの高い回答を数多く求められる加点式、本戦はより多くの観客が面白いと思う一答が求められる印象式。それがEOTのルールである。加点ルールの経験が浅かったギャルは、本番の日直前に過去の動画を観て、どれくらいのペースで回答を出せば良いのかを研究した。

「今日を逃すとマジで終わる」。当時は本気でそう思っていた。気合を入れて大喜利に挑むことは間違いではないが、それで好成績を残せるかといえばまた別の話。苦手なお題が出るかもしれないし、何より空回りする可能性だってある。

本番当日。抽選により予選後半のHブロックに組み込まれたギャル。急遽猫を噛む、キャベツ、Kou、エビサワ、ステイゴールドといった面々を相手に、とにかく必死で食らいついた。1問3分を3問行い、3人の審査員全員が評価したら「一本」として5ポイントが加算される。彼女は3問の間に回答を12個出して、そのうちの9個が一本だった。回答の数こそ多くは無いが、クオリティが高く、安定して笑いと得点を積み重ねていた。

集計が終わり、結果が発表される。ギャルは合計51ポイントを獲得し、後半ブロック2位で予選を突破する。大喜利している最中に、周りの回答やウケ具合はおろか、「一本!」「続行!」などのアナウンスも聞こえていなかった彼女は、まさかここまで点を取れているとは思っていなかった。

本戦が始まる。ここから先は、予選を突破した者たちによる1対1のトーナメント。ギャルの相手は、様々な大会で好成績を残すいしだ。その時の心境的にはどうだったのか。

「ダサい試合にはしないようにしよう、くらいしか無かったかもです。勝とうとも考えてなかったかも。とにかく出すぞ!くらいかな。日和らずに戦おう、だけを考えてましたね」

結果的に、良い回答も出せたのだが、いしだの一撃が上回り、彼女は敗退してしまう。試合終了後、彼女はいしだの左肩を殴るというパフォーマンスを見せ、客席をざわつかせた。

「この日の占いの結果がとにかく良かったので、勝つなら今日なのかなって思ってたんですけど、全然負けたんで『負けるんかーい!』と思ってパンチしました」

最終的にいしだは準優勝になり、ギャルはベスト16。悔しい思いもしたが、入り過ぎた気合が良い方向に転がった第6章だった。それを表したのが、後日まとめられた、EOT全体のデータベース。合計点を回答数で割った「得点率」のランキングで、彼女はこれまでの大会の出場者を抜いて1位になった。第6章で彼女が打ち立てたこの記録は、今でも破られていない。

「得点率で1位がギャルってなった時に、自分が”ギャル”って名前にした面白さが活きて嬉しかったですね。”ギャル”が1位のランキングって面白くないですか(笑)いや~良い名前つけたな~って思いました」

宝剣蜥蜴杯優勝

ギャルが現在獲得している大喜利のタイトル。それが「宝剣蜥蜴杯 優勝」である。FANとくず鉄が元々オンラインで行っていた、大喜利に限らず様々な企画を楽しむ会「宝剣蜥蜴企画会」の大会バージョンが、宝剣蜥蜴杯だ。

2021年6月に行われた宝剣蜥蜴杯。はっきりと”大会”と銘打たれてはいたが、ギャルはまたいつものように企画会だと思い込んだままエントリーをして、後から大会であることを知った。

ルーレットで選ばれたお題に、ボードを使わず即座に一問一答で答える予選や、制限時間の3分を前半2分と後半1分に分けて、どちらかの時間で答えるかを選ぶ敗者復活戦など、他の大会では見られないルールに苦戦しながら、彼女はなんとか本戦に進出する。

本戦を勝ち上がれば、決勝に進むことが出来る。本戦のルールは、回答中にあるミュージシャンのPVが流れており、そのPVにちなんだお題が出るというもの。PVの上映時間が、そのまま制限時間にもなっている。2問行った結果、1問目で点は取れなかったが、2問目でウケて点を稼ぎ、ギャルは決勝へ進出した。

決勝戦。対戦相手はEOTで3度の本選進出経験があるかとじゅう。先攻後攻を決めて、一度答えるたびに5人に審査されて、3人に面白いと思われたら、相手に回答権が移る。自分のターンで回答できるチャンスは2回。その間に相手に回答権を移せなかったら敗北となる。

1対1のラリーの末、かとじゅうを倒し優勝する。生大喜利では初めての優勝だった。

「優勝するんだって印象でした。優勝するのってこんな急なんだっていう。そういった大会の時は、服とか気合入れて選んでたんですけど、企画会だと思ってたんで、気軽なワンピースみたいなの着てて。もっと良い服着たかったなーとか思ってました。でも、今思うと良い意味で力が抜けていたのが、功を奏したのかなと思います」

その後の挑戦

新型コロナウイルスの影響により、不定期で開催されていたEOTは、およそ2年間休止状態となる。2年ぶりに行われたEOT第7章は、大喜利プレイヤーが二人一組で挑むタッグ戦だった。

禁生大喜利部の座談会の記事を読めばわかる通り、優勝したのはキャベツとジャージの顔のタッグ「ヤオクロ」である。この大会に、ギャルは生大喜利デビュー当時から第一線で活躍しているプレイヤーである、冬の鬼と「ファッションリーダーズ」というタッグで出場した。ちなみに、ファッションリーダーズは、2020年11月に六角電波主催で開催された「オオギリライジング リーフグリーン」にも出場している。

「(オオギリライジングでは)予選で敗退して、悔しいですねって話して、『一回勝つまでやりたいな』と思って、こっちから(EOTに出ましょうと)声かけました」

今回のEOTはタッグとはいえ、予選が加点式で、本戦が印象式のトーナメントであることは変わらない。結果的にファッションリーダーズは、後半ブロックの7位となり、1ポイント差で本戦には上がれなかった。

「めっちゃ悔しかったんですけど、タッグは楽しいですね」

彼女が個人的に平常心で挑めなかったのは、第7章の翌月、2022年4月に行われた第8章。途中でタッグ戦が挟まったことにより、プレッシャーも多少は和らいだが、”ココ”では過去の個人戦で良い結果を残している分、重圧も半端ではなかった。

「マリオカートのタイムアタックとかやったことありますか?」

「ゴースト」の話かと思ったら、やはりゴーストの話だった。タイムアタックモードで一番良い記録を残した時のキャラクターが、過去の走り通りにコースを走っているというのが、マリオカートのゴーストである。

「第6章の自分が、目前で走ってるんですよ。それにどう追いつきゃ良いんだって思って。本当に胃が痛かったですね。他の人の期待というより、自分への期待というか。勝手に感じちゃってたんですよね責任を。頑張らなきゃって」

結果が発表されると、上位には彼女と近しい人や、自分より後から大喜利を始めた人の名前が多数並んでいた。本戦進出圏内の位置に、ギャルの名前は無かった。スクリーンを見ながら、悔しさが爆発した。

「第6章の時に良かった自分が、第8章では勝てなくて、なおかつ自分の周りは勝ち進んでて、本当に自分が情けなくて悔しくて。結果発表の後は、ちょっと今でも思い出しても苦しいくらい、難しかったですね気持ちが」

精神的にも追い込まれたギャルは、観覧で来ていた短期記憶(デリシャストマト同様、大喜利を始める前から友人関係にあったプレイヤー)の隣に席を移動し、寄りかかるなどして、物理的に支えてもらいながら本戦を観戦した。

自らを「死ぬほど負けず嫌い」だと語るギャル。このまま会場を出て、帰宅することも考えたが「この悔しさは絶対自分のためになる」と思い、必死の思いで舞台上のきりまるや東堂の姿を見ていた。短期記憶の手を握りながら。

その翌月にも、EOTは開催された。「こんな○○は嫌だ」という形式のお題しか出題されない「嫌OT」と銘打たれた大会だった。事前に出場者の間で、「嫌だお題」をフリにした変則的なお題も出るのではないかなどと予測が立てられていたが、結果的には、本当に「こんな○○は嫌だ」の形式のお題しか出ない大会だった。

嫌OTにもギャルは出場し、またしても本戦には上がれなかった。ただ、本戦でMAや虎猫などのベテラン勢が勝ち進んでいく様を見た結果、「悔しかったけどいいもの見たな」という印象を心に残して、会場を出ることが出来た。

ギャルはそんなEOTを、「一番感情が動かされる大会」と語る。また開催されたらどうするかという”僕”の問いに、「多分出るんでしょうけど、胃が痛くなるとは思います(笑)でもやっぱり第6章を超えたいので、出るんでしょうね」と答えてくれた。

印象的なイベント

EOT以外にも、これまで様々な大喜利イベントに参加してきたギャル。この章では、特に印象に残っているイベントについて語ってもらう。

最初に名前が挙がったのは「第7回アイドルマスターシンデレラガールズ大喜利会」。「初心者会」「〇.5回」などの装飾がない、星野流人が主催する本家のデレマス大喜利に彼女が参加するのは、この第7回が初めてだった。

この会の憑依大喜利で、ギャルは決勝まで勝ち進む。決勝で戦ったメンツは、優勝者であるゆうやと、蛇口捻流、ぺるとも、虎猫、闘魂チャンス、OGAKUZUZ。いずれも大喜利が強いプレイヤーだが、彼女からしたら「これまで観てきた人が多すぎる」という状態だった。

「その中で、結構フィジカル過ぎる回答を自分がしてて、『自分ってこういうこと出来るんだ』って知れた回ですね。ブルゾンちえみをオマージュした回答で、立って振り返ってボードを出すみたいなのをやって、めっちゃそれで湧いて。意外と振り切れるんだ自分って思って。しかもそれが結果に繋がったので、新しい自分に出会った感覚があります」

次に挙がったのは、2019年11月に行われた「世代杯」である。六角電波主催の会の中で、企画の一つとして行われた世代杯は、生大喜利歴がバラバラの参加者を「ルーキーチーム」「中堅チーム」「ベテランチーム」の三世代に分けて競い合うというものだった。

ルールはいわゆる印象式の勝ち残り戦で、それぞれのチームから一人ずつ檀上に出て大喜利をして、他の参加者に面白いと思われた一人が勝ち残り、負けた人は同じチームの違う人と交代するというもの。

この企画に、ルーキーチームとして出場したギャルは、中堅チームとベテランチームの強豪相手に2連勝を決めた。

「その(勝った)人たちの面白さを知ってる自分だからこそ、そこに勝ってるっていうのがめちゃくちゃ自信になって。かなり今後続けるモチベーションというか、希望になりました。(今後も)頑張ろうって思ったのが世代杯でしたね」

当然Twitterなどで、「ギャルの回答が面白かった」と周りから褒められ、残ったのは「大喜利楽しい~!」という感情だった。

最後に、今年の4月に開催された初心者会「大喜利研修会『OGT』」と、5月に開催された「デレマスP向け初心者大喜利会~Take me☆Take you~」を挙げてくれた。どちらも虎猫が主催として関わっており、どちらの会も、ギャルは経験者ゲストとしてオファーされた形で参加した。

「自分からしたら、デレマス大喜利初心者会でデビューして、なおかつ虎猫さんが主催したきっかけの一歩で、また新しく始めてっていう立場だったんで、そこで始めた自分が経験者ゲストとして呼ばれたっていうのが、ある種今まで自分がやってきた経験とかが、ちゃんと形になったって思って。めちゃくちゃ嬉しかったです」

「ソモサン・セッパ」と「優勝」

ギャルは今年に入ってから、大喜利会の主催者としても積極的に活動している。最初に行ったのは、3月に開催された「ソモサン・セッパ」である。彼女が初めて単独で主催した大喜利会で、参加者は彼女自ら声を掛けた人たちの、クローズドな会だった。

「初めて主催する前、半年くらい企画をずっと考えて、『いつかやりたい』ってずっと願って、やっと叶ったので。その時やった企画が4つくらいあったんですけど、全部成功して。参加者の一人に『今日は宝物だ!』って言ってもらえて。めっちゃ嬉しかったですね」

初の主催は成功体験となった。それだけでかなり満足したので、次回するとしたら当分先かなと思っていた所に、4月のEOT第8章での苦しみの体験がぶつかる。

自分がもっと大喜利強くなるにはどうすればいいのか。そう考えた時に、大喜利会「ボケルバ」を毎週開催しているせんだいを、「いろんな人の大喜利を観ているから強い」と褒めていた人物のことをふと思い出した。

「自分も他の人の大喜利をちゃんと見よう」そう決めた彼女は、そこから毎月大喜利会を開催するようになる。会場を押さえたのは、決心した日の夜だった。会のタイトルは、「いつか優勝するぞ」という意味を込めて、そのまま「優勝」とした。

ただ、起点は「他のプレイヤーの大喜利にふれる」ことだったが、今となっては、彼女がやりたいことを試す場と化している。

「こういった企画面白そうって、気軽に試せる場が出来たのは、自分にとって嬉しいですね」

しかし、「優勝」の第1回目は、「ソモサン・セッパを大成功させた」ということから来る油断があったのか、上手くいかない場面があった。その時参加していた六角電波などからアドバイスを受けた結果、「ちゃんとしなきゃ」と思い直した。

「自分が好き勝手自由にやるのなら、ちゃんと準備しなきゃと思って、第2回、第3回の優勝では気を配るようになりました。それこそ直近のソモサン・セッパでは本当に『自分の好きなことやるならば、とことんやったるで!』っていう気持ちで、小道具を死ぬ気で作りましたね」

参加者同士で安心して”笑いあうために"は、やはり事前準備が重要である。ちなみに、会の中で行われている企画をいくつか紹介すると、大喜利の勝利条件を最初から彼女が全て決めている「ギャル独裁国家」や、かにちゃんというプレイヤーをMCの川島明のポジションに据えて、TBSの朝のバラエティ番組「ラヴィット!」をそのまま行うというものなどが好評だという。ラヴィット!を再現する企画は、かにちゃんの負担が大きいが、そこには彼女のとある狙いがあった。

「かにちゃんって人は、他の大喜利会とかあまり積極的に参加しない人なんですけど、言葉に対する反射神経がめちゃくちゃ速くて、友達として最高の人なんですよ。もうみんな知っているとは思うけど、『かにちゃんの面白さを皆に知って欲しい』と思ってて」

彼女が主催する会は、現時点ではエントリーの枠が他の会よりも少なくなっている。それに関しては、「今は企画をストックしている段階で、自分の中で自信がある企画がいっぱい出来たら、枠を広げていきたいなと思っているので、ぜひお願いしますという感じです」といった言葉を聞けた。未来を見据えている限り、主催としても成長していけるだろうし、会自体もさらに面白いものになると勝手に思っている。いつかその輪に私が”マジル”日は来るのだろうか。

この人の大喜利に驚いた

この章では、ギャルが面白いと思っているプレイヤーを聞いていく。去年取材した星野流人に名前を挙げられた時は、「死ぬほど嬉しかった」と語る彼女。自分が過去に名前が挙がったこともあり、この質問に関しては「ずっと考えていた」とのこと。

「まず1人目は、まな!さんです。やっぱ憧れちゃいますよね、同じ女性で」

ギャルが大喜利を始める前から、大会などでその活躍を目にしてきた、関西のプレイヤーであるまな!。最近では、関東に来て大喜利をする頻度も増えている。

「やっぱり面白すぎます。本当にカッコイイって思っちゃうんですよね。まな!さんの回答って、鋭いんですけど淡々と変、というか。変な言葉だったりするんですけど、無駄な所が全然無いんですよね。完成されすぎているというか」

まな!はEOT第8章でも、予選で多くの爆笑を取っていた。その独自の視点から生み出される回答に、憧れを抱く者は多い。

「2人目は赤黄色さんです。面白すぎますよねあかきーさん。最近はより一層、この人ヤバすぎるって思うんですけど。それこそEOT第8章もそうですし、警備員30人組手の試合とか、ヤバっと思って」

EOT第8章では、予選から間違いなく彼にしか不可能なプレイスタイルで場を掌握し続け、見事優勝した赤黄色。自分の回答に被せる、対戦相手の名前を回答に入れ込むなど、普通ではあり得ない戦法をあり得ない速度で繰り出していた。正直私の目からしても「まともに正面からぶつかったら終わり」だと思っている。

「観客で見てる時と、実際大喜利を始めた後に見るのでは違うんですよ。自分だったらこんな回答出せませんって思っちゃいます。あかきーさんの凄い所って、大体全体の一答目に出すじゃないですか。あかきーさんが流れを作って、あかきーさんが回答をどんどん大きくして、あかきーさんがオチを付けるみたいな流れが多いんですよね。あかきーさんだから出来ることだし、そうなってくると『次何が出るんだ』ってあかきーさんを待ってる状態になっちゃうんですよね、見てる立場からすると」

最終的に「大会で見たいが、戦いたくはない」と語ってくれた。

「3人目はFANさんです」

4人目に取材し、最近では千代園ジャンクションと「8月22日の彼女」というコンビで、フリーの芸人として活動することを発表したFAN。大喜利の実力はもちろん、主催するイベントも好評だ。

「FANさんの大喜利の回答って、自分が特に好きだなって思うのが、形がないというか、FANさん自身も楽しんでるような、実験みたいな回答をたまに出すことがあって。そんなボードの書き方したことないよみたいな。ボードの使い方だったり、回答の仕方だったり、FANさん自身も新たな可能性をどんどん試してるのかなって感じる時がたまにあって。そういうの自分もめっちゃ憧れるなって。めっちゃ好きですね」

ギャルが自分の自由に企画を行っているのも、FAN考案の斬新な企画を行う「大喜利メランコリー会」の影響が少し入っているとのこと。プレイヤーとしても、会の主催としても憧れを持っている。

「4人目が、手汗さんなんですけど、気付いたら関東で大活躍してませんでした?」

2018年に関西でデビューした手汗。当時から注目の新人の立ち位置にはいた。しかし、2020年に東京に移住し、関東の大喜利会に出始めると、関西の人が”何故だ!!!”と思うくらいプレイスタイルが大きく変わっていく。言葉を選ばずに言うと、「変な回答」を出すようになった。

「続大喜利文化杯」や「冠到杯~二人目~」での活躍も外せないが、ギャルがその存在を認識したのは「哄演児杯」の予選と「EOT第7章」である。

「何この人!?っていう衝撃が強くて。特にEOTの予選の手汗さんがとにかく面白くて。それで優勝の第1回から呼ばせてもらったりして。いやー、面白すぎますねあの人。なんなんだろう。『何この人の回答?』って思うんですけど、気付いたらめちゃくちゃファンになってるっていう。優勝の参加者みんな手汗さんのファンというか」

歴もスタイルもバラバラの4人だが、彼女の中で共通しているのは「挙手して指名された瞬間ワクワクしちゃう人」とのこと。そこは間違いないと私も思う。

どのような存在でありたい

いよいよ最後の質問。この時点で取材時間は2時間を超え、日付もまたいでいる。ギャルは、自分自身の今後についてどう思っているのか。

「考えた時に、”ありたい”よりも”なりたい”が多かったんですよね。なりたいっていう願望がめっちゃ多くて。それこそ面白くなりたい、強くなりたい、注目される存在になりたいっていう。それって、全部自分が負けず嫌いなんで、少しでも過去の自分を超えていきたいなって。そのために頑張ってるって感じなので。とにかく、『負けたくない』ですね。それは人に対してっていうよりは、自分に対して『負けたくない』って思いで、これからもやっていきたいです」

気合いを入れて大会に臨んだことも、会を主催していることも、全ては「自分に負けたくない」に繋がる。ちなみに、大喜利のお題に挑むにあたり、こんな目標が彼女にはある。

「絵が上手すぎることをオモシロにしていきたいなって。『絵回答といえば』みたいな存在になりたいなとは思います」

おわりに

きっかけの一歩でデビューした、EOTで得点率の記録を持つ、絵回答が上手な、期待の新人。そういったイメージがかすむほど、ギャルは大喜利に熱かった。

この記事を読んだ他のプレイヤーの、彼女を見る目が変わって欲しいような、そんな思いを抱かず、いつものように接して欲しいような、複雑な感情を持ってしまった。特にEOT第8章敗北後のエピソードは、個人的にも強烈だった。

それでも、2時間みっちり話を聞けて、非常に良かったと思う。主催の会の中ではふざけているが、実は”マジメと云う”には少し違う。そんな印象が残った。

これからも、様々なことをきっかけに、大喜利プレイヤーは増えていく。そんな中でも、彼女には自由に動いて欲しいし、自分のスタイルを貫いて欲しい。彼女が「面白い」と名前を挙げた4人は、オリジナリティの塊だが、彼女も充分見る者をワクワクさせる存在であることを忘れないで欲しい。

ちなみに、言わなくても良いことかもしれないが、彼女特有のくだけた喋り口調は、執筆の際にかなり修正した。「ギャルはそんな口調じゃない」という意見は、一切受け付けないのであしからず。

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