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【アマチュア大喜利プレイヤー列伝】永久保存-熱情は奥底に-

はじめに

前回の記事では、2023年4月に仙台で行われた「東北大喜利最強トーナメント T-OST~6枚目~」の優勝者である、ジョンソンともゆきが主役だった。

その大会には、予選2問目で審査員全員が票を投じて、本戦もストレートで決勝進出。ベスト3の成績を残して、普段の活動場所である大阪に帰還した人物がいる。

それが本記事の主役、永久保存である。

2014年に生大喜利デビューした彼女は、関西の大喜利大会で好成績を残し続ける、実績も充分なプレイヤーでありながら、前述のように他の地方の大会にも積極的に参加している。後述する「EOT第7章」では、同じく関西のプレイヤー・吉永と「染まるよ」というタッグを組んで出場し、準優勝という成績を収めた。

また、数年前からアマチュアお笑いの活動も積極的に行っており、現在では、五能 ファイアというプレイヤーと、漫才コンビ「ニルギリ」を組み、ライブ出演などの活動をしている。

私と永久保存は、接点自体は長いことあったのだが、これまで深く関わったことは無かった。しかし、最近になってようやく、出会う機会や会話する場が増えるようになった。不思議なものである。

私がインタビューのオファーをすると、彼女は快く引き受けてくれた。さすがこのシリーズをまとめた同人誌を購入してくれたうちの一人である。

2023年5月24日22時、インタビュー開始。

生大喜利デビューのきっかけ

Discordを繋ぎ、軽い雑談から入る。コロナが流行り始めた時期は、関西の生大喜利はほぼ休止状態にあったが、最近ようやく頻繁に大喜利会が開かれるようになり、新しく大喜利を始める人も増えるという、極めて活発に動き始めた関西生大喜利の話で軽く盛り上がる。

永久保存が生大喜利を始めたのは、2014年の上半期。それ以前もお笑いは好きだったが、もちろん見るだけのものであった。彼女は主に、吉本興業の若手が出演する劇場のライブや、大喜利イベントも頻繁に開かれている大阪のライブハウス「なんば紅鶴」でのインディーズライブに通っていた。

彼女の周りには、同じくお笑いファンの友人がいたのだが、彼女のあずかり知らぬ所で、その面々が彼女よりも先に大喜利を始めていた。

「(友人たちが)お笑いライブに最近あんまりいないなーと思って。で、Twitter見たら、ストロボライトさんだったりひらたいさんだったり、よくわからない人たちと仲良くしているっていうのを見て…」

友人たちに直接聞いてみると、ストロボライトやひらたいという人たちも大喜利をしている人で、自分たちも大喜利の大会に出て、日々勝ったり負けたりして楽しんでいるということを話してくれて、そこで「アマチュア大喜利」の存在を知った。

「私としては、よくわからない趣味で、よくわからない男の人たちと楽しんでるの『怖っ』と思って」

最初は大喜利界隈に対して怪訝な感情を持っていたが、同時にこんな気持ちも抱いていた。

「(生大喜利を)始める前だったので『絶対私の方が面白いと思うけどな』みたいな傲慢さもあって」

知らず知らずのうちに、友人たちに対抗意識を抱いていた。ただ、大喜利をすることに対して興味は湧いてきたものの、どこに行けば出来るのか、誰でも出来る場があるのかといった情報を得ることは、当時はとても難しかった。

その後、Twitterで「千日前大喜利チャンピオンシップ」(通称:SOC)という大喜利大会が定期的に開かれていることを知った。2014年当時のSOCは、奇数月が出場資格を設けている「テーマラウンド」、偶数月がフリーエントリーの「オープンラウンド」となっていた。

ある日、SOCのTwitterアカウントで、テーマラウンドの月に様々な出身地の出場者が集まる「ご当地ラウンド」という企画を行うという旨のツイートを見つけた。しかも、どうやら大阪府出身枠が空いており、飛び込みで参加してくれる大阪出身の人を募集していたそうだ。

「せっかくだし、今日パッと行けるなあと思って。その時は専門学校でエレキベースやってたんで、エレキベース背負って紅鶴に行ったんですね」

初めて人前で大喜利をした永久保存。今となっては、どんなお題が出たかといったことも覚えていない。ただただ緊張して、書いた回答をイレイサーではなく、手で消してしまったことは記憶に残っているとのこと。

その後、もっと大喜利をしてみたいと思った彼女は、このインタビューシリーズでもたびたび登場している、関西で行われていた大規模な大喜利大会「大喜利鴨川杯」の存在を知る。それと同時に、初回に取材したゴハが主催の「ホシノ企画」が行っていた、時間いっぱいひたすら鴨川杯ルールで大喜利を行う会もTwitterで見つける。その会に参加したのが、いわゆる「大喜利界隈」に飛び込んだ最初である。

その会では、当然彼女にとって初対面の人ばかりで、合間に話せる相手もいなかった。自分の番が来たら前に出て、答えるだけ。ただ、会の終盤に、疑似ルールとはいえ彼女が勝ち抜けた後、「お先に失礼します」と部屋を出ようとした瞬間に、脳髄筋肉というプレイヤーに「勝ち逃げするんだもんな~」と、冗談交じりで声をかけられた。

「それが印象的で。初めての人に褒めながら話しかけるのって、初めての人は安心するよな~って思ったので、結構あの瞬間を見習って行動することが多いですね」

大喜利にハマるまで

元々「友人より自分の方が面白いのでは」という気持ちで、大喜利に挑んでいた永久保存。とはいえ「自分はもっと面白い」と思っていたとしても、最初のうちは面白い回答を出せずにいた。

「理想との乖離が著しくて、こんなはずではないって思いながら、初年度あたりは結構がむしゃらにやってた記憶がありますね」

最初のうちは”いばらのみち”だった生大喜利の世界。それでも続けていくと、実力が付いていくと共に、大喜利界隈に馴染んでいった。同じく大喜利が趣味の、年齢も出自も異なる人たちと、コミュニケーションが取れるようになる。

「やっぱり”人”ですね。このイベントに行ったら、この人と喋ったりも出来るしな~とか、今度会始まる前に、ご飯に誘ったりしようかなとか、そういうコミュニティ的な側面で、モチベーションになってるっていう所もありますし」

また「人の大喜利を見るのも楽しい」と語る彼女。数年前から、大喜利会に出向いた時は、人の回答をノートに逐一メモするようにしている。

「それをやっていると『この人ってこういう傾向の回答が多いな』とか、『この人の回答ノートに書ききれないけど、めちゃくちゃ面白かったな』とかが多くて、そういうのが楽しみの一つになったりしますね。観る側として。元々がお笑いファンだったので」

印象的なイベント

徐々に大喜利にハマっていった永久保存。関西を拠点に活動しているが、他の地方の大会にも遠征をしている彼女が、印象に残っているイベントは何か。

「昔のイベントで言ったら……名古屋の大喜利ライブ『禁じられた遊び』とかは印象深いですね。かなり大きな会場でやらせてもらってたんですけど」

出場者を各ブロックに分けて、回答が面白かったら1ポイント、特に面白かったら2ポイントと言った具合の、加点式の大会である禁じられた遊び。本大会は、以前までは名古屋で定期的に行われており、彼女は一度優勝している。

「2015年にも、タッグの大会みたいなのがあったんですけど。その時にポンこつさんとタッグで出させて頂いたりとかして、それも結構印象的ですね。タッグで大会に出るっていうのが初めてだったんで。一人で戦うよりも二人で戦う方が楽しいなーっていうのはそこで思いましたね。優勝とかは出来なかったんですけど、審査員特別賞を頂けて」

また、特定の回というわけではないが、永久保存が色んな意味で印象に残っている大会がある。

「BB大喜利というのがあって」

京都を中心に活動している、女性二人組の音楽ユニット「BBガールズ」。彼女たちは週に一度配信しているラジオ番組で、大喜利のコーナーを行っている。そこに投稿している人が中心に出場している大喜利大会が「BBガールズの師匠と呼ばせてください頂上決戦」である。その大会で、なぜか彼女は他の出場者にはない好待遇を受けている。

「ライブ独特のノリというか、音響の方、プロデューサーさんがえらい私のことを気に入ってくださったらしくて。私だけ入場と退場のテーマが付いてたりとか、皆が『永久保存様!』って言ったりするみたいなノリがあって。優勝はしてないんですけど、優勝したみたいな気持ちになって、楽しかったです(笑)」

ちなみに、頂上決戦が最後に行われたのは、2022年の4月末である。優勝者には「師匠」の称号が与えられ、現在の師匠は(家本)とうふである。

関西以外の大会で印象的なのは、やはり「EOT」とのこと。2023年6月現在、第9章まで行われている、大規模な大会であるEOT。彼女は個人戦である第3章と、タッグ戦である第4章と第7章に出場している。まずは初出場で本戦進出して、ベスト8まで残った第3章の時のことを聴いてみる。

「EOTは予選終了から結果発表までに、長い休憩が入るんですね。その時間でずっと会場をうろうろしていましたね。同じブロックに、デリシャストマトさんとか強い人もいる中で、自分がウケてた感じが無かったので、(予選後半ブロック2位と)発表された時に、めちゃくちゃビックリしましたね」

また、EOTは出場者全員にキャッチフレーズと前口上が与えられる。永久保存には「思考する女傑」というキャッチフレーズが付けられたが、それが本人からしたらカッコよすぎて「こんなにカッコいいのもらって良いのかな」とまで思ったそうだ。

それから年数が経ち、開催された第7章では、同じく関西のプレイヤーである吉永と「染まるよ」というタッグを組み出場した。

第7章が行われたのは、2022年3月。今でこそもっと規模の大きい大会も行われているが、当時はまだコロナの影響力が強く、大喜利イベントも模索しながら行っている状態だった。「お互い出れなかったとしても恨みっこなし」という条件の元、タッグを組んだ。

EOTの予選は、個人戦だろうとタッグ戦だろうと加点式。”一筋縄ではいかない”が、結果的に染まるよは、予選前半1位で通過する。

「私は予選芳しくなかったんですけど、吉永君がやっぱりめちゃくちゃウケてくれたんで。吉永君に、本戦まで連れて行ってもらったって感じですね」

本戦トーナメントで最初に当たったのは、謹製といしだによる「同卓」というタッグ。出されたお題は、タッグの片方がお題に答えて、もう片方が回答者の母親もしくは父親となって回答にコメントをするという、タッグ戦ならではのコンビネーションが求められるものだった。ちなみにお題は「最強力士・無敵山のエピソード」という比較的シンプルなお題。

このお題に対して染まるよの二人は、吉永が普通に答えて、永久保存が「今日、食べて帰ってくんの?」「言ってなかったけど、明日から犬飼うから」などのコメントを入れるという、回答の内容関係なく、あくまで「母親」になりきってセリフを言う作戦に出た。

「こういう場合、皆回答は見ずに、その後のコメントの方を重きを置いて見るかなと思って。吉永君に普通に答えてもらって、回答無視してめっちゃドライなお母さんをやるっていうのをやったんですけど。一応吉永君にお父さんをやってもらったのもあったんですけど、どっちかって言うと、私がお母さんをやった方がウケるなと思ったんで、そっちを多めに出したような気がします」

準決勝に駒を進めた染まるよ。ここでの対戦相手は、蛇口捻流とジョンソンともゆきによる「エビチリチャーハン」。EOTではどちらも本戦進出の経験があるタッグである。

永久保存は、関西の時と遠征の時で、一つだけ明確にスタイルを変えている部分があるという。

「あんまり大阪ではそこまで積極的に出さないようにしてるんですけど、遠征の時は積極的に下ネタ言うようにしてるんですよ。期待値と飽きられてなさがちょうどいいので。(この試合でも)初手で思いっきり下ネタ言って、言いたいこと言った後に、割とじっくり取り組めたかなというのはありますね。あとここでも吉永君が隣でウケてて、それもあって平常心で変に力むことなく出来たなというのはあります」

”誰ニモ制御不能”となった一面を見せた彼女。ここでも勝利し、染まるよは決勝へ進出する。

決勝戦の対戦相手は、キャベツとジャージの顔による「ヤオクロ」。予選ではキャベツがポイントを稼ぎ、本戦ではジャージの顔が重たい一撃で勝負を決めるという戦法で決勝まで上がってきたヤオクロの二人。どちらが勝ってもおかしくはなかった。

試合開始前に「東京のドラマ全部潰して帰ろうと思います」と、強気な”宣戦布告”をした彼女。独特の緊張感の中、いざ試合が始まると、4人ともが良い回答でウケるものの、ヤオクロの両者のウケ方が尋常ではなく、染まるよは敗北。準優勝となった。

「予選でも、キャベツさんがめっちゃくちゃ面白くて、私何回も手を叩いて笑ってたんですよ。なので、やっぱり警戒はしてたんですけど…結構自分の中でも『もうちょっと強いの出さないとな』って思いながらも、敵わずと言った感じでしたね」

準優勝した時の心境はどうだったのか。

「ここまで来れるんだったら優勝したかったなという気持ちもありましたけど…準優勝⁉という感じというか。『あ、そうか。ここは一回負けたけど、それ以外は全部勝ったから準優勝したんだ』みたいな感じでしたね。これでようやく、新しい東京の人に話しかけてもらえる、みたいな欲だったりとか、でもいっぱい喋りたいけど、新幹線があるから早く帰らなきゃとか、雑念がいっぱいありましたね」

初優勝

数々の大喜利イベントに出場してきた永久保存。初めて優勝したのは、なんば紅鶴で年に一度開催されている「水着下ネタ大喜利」である。関西の古参プレイヤーならもれなく知っているこのイベント。アマチュア大喜利プレイヤー列伝第18弾にして、ついに取り上げる時が来た。

「参加資格が、水着の女性。または褌を付けた童貞なんですね」

どういったイベントなのか改めて尋ねた所、彼女から出た言葉がこれだ。一言一句書き起こしたうえで、何も間違ったことは言っていない。そのような恰好をした男女が、下ネタのお題に挑む。それが水着下ネタ大喜利である。

「ただ、言ってしまえば大喜利イベントである前に紅鶴のイベントでもあるので、紅鶴側がオファーしたコスプレイヤーさんだったりとか、外から色々呼んでたりしてますね」

水着下ネタ大喜利が初めて行われたのは、2014年。彼女は初年度から出場していた。印象的だったことを聞いてみる。

「この紅鶴って、インディーズライブとかでちょいちょい行ってはいたんですけど『このライブ会場に、こんなにも人が入るのか』と思いました(笑)あと、やっぱり様々なジャンルの人が出てて、大喜利イベントというより、結構お祭りめいた感じというか…普段の会議室などでやる大喜利大会とは全然雰囲気の違った会でしたね」

彼女が初出場した時は、Bブロックでの出番だった。Aブロックは、女性コスプレイヤーなど、普段大喜利とは無縁の人がお題に答えることによる、特殊な盛り上がりが発生していたが。

「自分が出たブロックから、急にちゃんと”大喜利”の回答がウケるようになる空気になった、みたいなのを当時ある方がツイートしてくれて、それがすごく嬉しかったですね」

水着下ネタ大喜利で彼女が優勝したのは、2016年。その年から、回答終了後に、出場者が会場を練り歩き、架空のお金(チップ)を観客からもらって、その数で勝敗が決まるというシステムが導入された。

このルール改正により、女性の出場者に票が集まるような事態も散見されたが、そんな状況の中、きっちり大喜利でウケて、永久保存は優勝する。

「優勝するってこんな気持ちなんだと思って、気分が良かったですね。ただ、初優勝が水着下ネタ大喜利なのは、あまりに永久保存すぎるとは言われましたけど(笑)」

社会人お笑いの活動

2023年現在、永久保存は五能 ファイアという大喜利プレイヤーと「ニルギリ」というコンビを組み、月に数回ライブで漫才を披露している。

彼女が社会人お笑いの活動を始めたのは、2018年の上半期頃の時である。

数年前、精力的に活動していた、とうふと神聖な大木による「駅長の私服」というコンビ。そのコンビのネタをとても面白いと思っていた彼女は、彼らが出演するライブや、ネタを披露する会を観覧していた。そのネタ見せの会では、壁際のえりんぎという女性の大喜利プレイヤーが、自作の漫談を披露していた。

「その人が、めっちゃ変な漫談をやってたから、是非二人で漫才をやってみたいなと思って。私から声を掛けて承諾してもらった形ですね」

こうして結成に至ったのが「目深」というコンビである。当時はアマチュアでお笑いの活動をしている人が出られるライブが少なく、彼女が覚えている範囲で言うと、中岡フェニックス主催の「ブンブンライブ」や、かつて大学でお笑いサークルに所属していた大喜利プレイヤー・しょっぱいパンによるアマチュアお笑いの賞レース「アマ笑杯」(あまじょっぱい)などに出るのが主な活動だった。

2018年12月には、駅長の私服とのツーマンライブ「けっさくのもり」をなんば紅鶴で行った。それぞれのコンビのネタに加えて、4人によるユニットコントや、シャッフル漫才など、そこでしか観られないネタを楽しむことが出来た。

「ユニットコントを大木さんが考えてくれて。自分たちは自分たちで、普段私はネタを書いていないんですけど、私が書いたネタをやったりとか、駅長の私服も、普段は漫才なんですけどコントをやったりして、趣向を凝らしたツーマンになったんではないかなと思いますね」

アマチュアお笑いの活動を続けていくうちに、普段は大喜利をしていない、同じ社会人芸人との繋がりも出来ていく。しかし、2020年、目深は諸事情により解散。そこからしばらくは、永久保存が一人で舞台に立ってネタをしていた。その後、普段はスレッジハンマーというコンビで活動し、ピンでも精力的に動いていた安藤という人物と「立てば芍薬」というユニットでの活動も行うようになる。

ニルギリが動き出したのは、2021年の頃。

「きっかけは、五能 ファイアさんから突然DMがあって」

元々ネット大喜利では名の知れた強豪だった五能 ファイア。生大喜利の場に足を踏み入れたのはここ数年のことだったため、当時は永久保存ともそこまで関わりがあるわけではなかった。

DMの詳細な文面は覚えていないが「自分とM-1グランプリに出て欲しい」という内容だった。

「当時、安藤君が忙しくなって、立てば芍薬の活動が出来なかったので、快諾したんですけど」

これにより、コンビが結成された。その年のM-1に「五能保存」という仮のコンビ名でエントリー。結果は1回戦敗退だったが、「楽しかった」という感想が残った。

「これは楽しいなと思ってて。それで、終わった時に五能さんから『やりたいネタの案が6つあるんで、もっとやってみたいです』と言ってくださったので、こっちも『私で良ければ、これからも続けていきたいです』って言って」

正式にコンビとして活動を行っていくことが決まった。それに伴い、コンビ名も考え直すことに。「英語っぽくない」「省略できない言葉」などの条件から考えた結果、五能 ファイアの案である「ニルギリ」に決定した。

現在では、関西の社会人芸人が多数出演している「口火」「二足のわらじ」などのライブに出演しているニルギリ。YouTubeにもライブ映像が数本上がっているので、どんなネタをしているのか気になる方は是非観て欲しい。

好きなプレイヤー

ここからは、これまで全員に共通で訊いている質問の一つ、好きな大喜利プレイヤーは誰か?という話題に移る。彼女が最初に名前を挙げたのは、ここ数年は大喜利をしていないが、その存在を知る者は皆共通して「あの人は強い」という認識を持っている、卵焼兄妹である。

「ずっと憧れになってるというか、名前出すのもおこがましいんですけど。奇をてらった言葉とかを使わずに、グッと引き込むというか。あの人の大喜利は凄いわくわくするんですよ」

YouTubeに上がっている、過去の「大喜利未来杯」などの関西の大会の動画でも、卵焼兄妹が独自の路線で爆笑を獲る姿を観ることが出来る。彼女曰く「私が名前を出すことで、卵焼さんがプレッシャーを感じていたらどうしよう」と思ってしまうとのこと。

「他の人で言うと、何回かお名前出させて頂いてますけど、やっぱり脳髄さんはずっと凄いなというか。かなり一緒に大喜利をやることが多いんですけど、どんな場でも外さないというか。自分の見られ方をよくわかってるからこそ、いじられてどう受け身を取るかみたいなのとか、自分が大きく反応すると面白くなるワードみたいなのを心得てるし」

5月に大阪で行われた「大喜る人たち」のライブにも、永久保存と共に出演した脳髄筋肉。BBガールズのラジオの大喜利コーナーや大会では「顧問」の役割を担い、回答の判定を行っている。「他の人に対するリスペクトも厚いし、他の人からの信頼も厚い」と彼女は語る。

「あと、私が初めて見た時に衝撃を受けたのは、おかきさんですね。あまりに面白すぎたというか」

関西の女性プレイヤーであるおかき。2022年12月に東京で行われた、30歳以上のプレイヤーのみが出場可能なトーナメント戦「SENIOR OOGIRI CLASSICS"MASTER=PIECE"2022」では、準決勝でディフェンディングチャンピオンのいしだを倒し、そのままの勢いで優勝を決めた。

「当時は、年上の人ばっかりやし、話しかけるのもままならない状態だったんですけど、その時は『さっき見てたんですけど、めちゃくちゃ面白かったです』って話しかけにいきましたね」

また、「自分が出来ない大喜利をする人が好き」と語る永久保存。

「東京のプレイヤーで言うと、おーはらさんとか、ヨシダin the sunさんとか…」

東京で社会人芸人としての活動も行っている、おーはらとヨシダin the sun。今年の5月に行われた「The OrderⅢ」という5人1組のチームで戦う大会で、彼らは社会人芸人仲間であるKキチ、ヅカマゲドン、ぽこやかざんとチームを組み、準優勝している。同じく本大会に出場し、彼らの大喜利を見た永久保存は、彼らのことを「めちゃめちゃ面白かった」と語っている。

「新しい方で言うと…私が最近凄く良いなと思ってるのは、3104さんですね」

2022年の5月。EOT第9章で初めて生大喜利に挑み、ベスト8まで残った、関西の新人である3104(さんいちぜろよん)。永久保存が主に大きく驚いているのは、彼の行動力の部分である。

「好きなものに対してのパワーというか…。私もお笑いとか大喜利とか好きですけど、あそこまで行動が出来て、尚且つあらゆる配慮が出来てっていうのは、同じこと出来るかって言われたら決して出来ないと思うので。大喜利もめちゃくちゃ面白くて、手数も多い中で、3104さんからでしか聞くことが出来ない単語というか、そういうのが上手いなというか。『○○みたいな△△があった』みたいなのをよく回答で使いはるんですけど、『○○みたいな』っていう比喩表現の所が『そんな言い回しある?』みたいな所から引っ張ってくるのがめっちゃ好きなんですよね」

「The OrderⅢ」の前日に同ルールで行われた「Another The OrderⅢ」という大会。私は本大会で3104、あかむつ、カタン、番茶が飲みたいとチームを組んで、ベスト4まで残った。その話が出た流れで、同じく関西の2022年デビュー組である、あかむつの話題になった。

「面白いですねあかむつも。自分のやりたいことをやってる時もあるし、丁寧にお題に沿ってることもあるけど、やりたいことをやってる時のあかむつが好きですね。面白い」

今後の展望

いよいよ最後の質問。これも全員に共通して訊いている、今後の展望についてである。様々な活動を行っている彼女は、これから先はどうなりたいと思っているのか。

「そうですね…私はもっといろんな人の大喜利が見たいなと思ってるというか。おこがましい話ではあるんですけど、私をきっかけに『生大喜利ってどんなんだろう?』みたいに思って欲しいですね。もちろん大喜利会とか大会とかもそうですけど、外向きの場に呼ばれるようになったらなっていうのはありますね」

2023年現在、様々な要因が重なり、関西や関東を中心に、大喜利の競技人口が増加している。いつ新しいプレイヤーが現れても、迎え入れる準備は出来ている。

「新しい人たちが来ても受け入れて、その人たちが定着していくような、そういう振る舞いが出来たらなって思いますね。まあ自分がいたりすることが、誰かのモチベーションになったりしたらなというのはあります」

おわりに

2時間に及ぶインタビューが終了した。最後に何か言っておきたいことはあるか尋ねると「いや、語り尽くしました」という言葉が返ってきた。それくらい濃密な時間だったと思う。

コロナの影響で、一時期関西の生大喜利はほぼ稼働していなかった。それでも様々な人たちが、徐々に大喜利会を開くようになり、それに伴って増えた新人が、さらにイベントを開き、界隈は再び盛り上がりを見せている。

単身で生大喜利の世界に飛び込んだ彼女だからこそ、新人のために行動したいと思うようになるのは、当たり前のことかもしれない。

彼女はこれから”何処へ往くのか”、非常に楽しみである。

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