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【アマチュア大喜利プレイヤー列伝】おーはら-楽しむために悩む-

はじめに

2023年11月03日。

新小岩地区センターのホールには、数々の大喜利プレイヤーに同人誌を渡す筆者の姿があった。この「アマチュア大喜利プレイヤー列伝」の、禁生大喜利部の座談会から、ニセ関根潤三の記事までを収め、序章と終章を書き加えたものに、島のイラストを収録した、同人誌の第2弾。受け取り希望者が多数いたため、地元の広島県から大量に冊子を持参した。

この場に大喜利プレイヤーが多数集まっていたのには理由がある。その日行われたのは、六角電波主催の大規模な大喜利大会「大喜利文化杯X(クロス)」。2020年から毎年文化の日に行っている、招待制の大規模な大会、通称・文化杯。2022年の文化杯は「真・大喜利文化杯」と銘打って、過去に何かしらの大会で優勝したことのある人だけを集めて開催された。

2023年の、大喜利文化杯Xの出場条件は「この1年間で優勝したプレイヤー」になった。私は関西で開かれたチーム戦「戦2023・大喜利団体対抗戦」で優勝したため、六角電波から出場のオファーが来た。

「優勝経験者のみ出場可能な大会」になってから、初めて優勝した者。要するに、真・大喜利文化杯の優勝者。それこそが、本記事の主役、おーはらである。

2019年から生大喜利を始めたおーはらは、大喜利歴10ヶ月で、後述する新人の大会で優勝。その後も調子の波は日によってあったものの、着実に実績を積み重ね、今や多くのプレイヤーが認める強豪である。

また、生大喜利歴3年以内の者のみが出場可能な大会「答龍門」の初代王者、ぐーがおと「水中トリック」というコンビを組み、社会人お笑いの活動も行うなど、日々精力的に動いている。

そんなおーはらに取材のオファーを行うと、快く引き受けてくれた。大喜利に出会う前の話も多少知っていたので、どんな話が聴けるのか楽しみにしながら、Discordを繋いだ。今回のルポでは、おーはらの話し方や醸し出す雰囲気すらも、”曖昧に”とは言わず、完全に”再現したい”と思っている。

2023年11月14日19時30分、インタビュー開始。

大学在学中

宮崎県出身のおーはら。高校卒業後、長崎の大学に進学する。”10代”の頃からお笑いは好きだったが、深夜ラジオを聴くようになったことで、いわゆる「面白いこと」に対する思いは過熱。番組で言うと、特に「いきものがかり吉岡聖恵のオールナイトニッポン」のヘビーリスナーだった。そこで彼は、何度もメールが読まれている「農機具」というハガキ職人の存在を知る。

「この農機具さんってめちゃくちゃ面白いなあって。どんな人なんだろうなあみたいな」

ラジオ界隈では有名ハガキ職人だった農機具。その正体は「宇多川どどど」として、関西を中心に活動する大喜利プレイヤーである。おーはらも、ラジオに投稿をした経験がゼロではないが、1、2回読まれて満足してしまったとのこと。

また、Twitterを始めて、俺スナやゴハといった面々をフォローすることで、東京や大阪のお笑いシーンの情報を、彼ら経由で仕入れていた。また、俺スナきっかけで、オオギリダイバーの動画を観るようになった。

「大学の頃から、田んぼマンとか、永久保存さんとか知ってて…。ああこういうカルチャーあるんだみたいな。でも、地方ですし、自分がやろうみたいなのはあんま無かったんですけど」

メジャーマイナー問わず、お笑いの知識を吸収していくうちに、元々持っていた「お笑いの現場に携わりたい」「芸人さんと仕事がしたい」という思いは強くなっていく。そして、彼は大学在学中にこんな行動に出る。

「マセキ芸能社の、通信の養成所みたいなのがあるんですよ。コント作家の」

放送作家の内村宏幸が講師を務める、通信講座に参加した。月に一度、コントの台本をメールで提出し、添削を受けるというのを半年間行う。そういった講座をおーはらは受けていた。

いざお笑いの現場へ

大学卒業後は、テレビ番組の制作会社にADとして入社する。ただ、ここでとある問題が発生する。

「今もそうですけど、やっぱり人とコミュニケーションが取れない…(苦笑)学生の頃からコミュニケーションは苦手で、『就職を機に変えれるかな』みたいな、淡い期待があったんですけど、そりゃ大学のコミュニティとかにも属することが出来ないのに、テレビ番組っていうゴリゴリの業界に入って、やっていけるわけないんですよ」

現在のテレビ業界の実態はわからないが、人との関わり方が重要なのは、今も昔も変わらないだろう。

おーはらは、某携帯会社のユーザのみ閲覧できる、当時人気絶頂だったアイドルグループ、のあまり有名ではないメンバーにスポットを当てた番組のADとして配属される。

ただ、その半年後に、番組は放送局ごと無くなってしまったため、次の現場に配属される。ただ、そこの環境が悪かったうえに、おーはら自身も適応することが出来なかった。

「入館証を部屋に置きっぱなしで外出て、閉め出されて、『すいません開けてください』みたいな(笑)それがもう一回じゃなくて、何回も繰り返されるから、ディレクターとかにも怒られて。そりゃそうなんだけど。スケジュール管理とかも出来ずに…」

パワハラが何度も発生するような環境に耐えられず、おーはらは、制作会社を辞めることになる。

お笑い養成所時代

その後は、現在も勤めている会社に就職し、働きながらワタナベエンターテインメントのお笑い養成所に入学する。そのあたりのことを詳しく聞いてみる。

「スタッフでやる能力がないなあっていうのに気づいて、趣味でお笑いやろうっていう風に切り替わったんですよね。大学お笑いから、趣味でお笑いをやっている人たちがいるっていうのを知ってたんで、養成所卒業したらそっちに行こうって」

いきなり社会人お笑いの世界に飛び込むことに躊躇したので、段階を踏むために、養成所に入学したとのこと。ちなみに、その時のコースは日曜日のみ授業があるコースで、平日に仕事をしながらでも通えたそうだ。

「今考えると意味わかんないんですけど、『男女コンビが熱い!』ってなって、男女コンビしか組みたくねえと思って。自分が面白い人間だと思えなかったので、破天荒な女の子と組めば面白いんじゃないかなみたいな。それで、女性ばっか声かけてたら『あいつヤバい奴なんじゃないか』ってなっちゃって…。なっちゃったっていうのも思い込みかもしれないですけど…」

今となっては当時のことはわからないが、ここでも浮いてしまったのは確かだった。ただ、それでも「養成所に通って良かった」と思えることが一つあるという。

「学内の大喜利のライブがあったんですよ。そこで一答だけめっちゃウケたんですよ。それまで笑ってもらうことなんてなかったのに。お題も覚えてるんですけど、いわゆるあんまりよくないお題で『くす玉から出てきたら嫌なもの30位は?』みたいな」

周りの生徒はもちろん、おーはらもフリップを使った大喜利は初めてだった。どう答えたらウケるかわからないこのお題に対し「若気の至り」と答えたら、爆笑が返ってきた。

「めちゃくちゃウケて、大喜利って楽しいんだなって。そこの経験があったんですよね。でも、『自分って大喜利得意なんだ』とかはあまり思わなかったんですけど、ボードを使った大喜利楽しいなっていう最初の体験ですね。これが無かったら大喜利やってないかもしれない」

そういった経験を経て、養成所を卒業するが、最後までコンビは組めなかったため、社会人お笑いの活動をしている人が出演するようなライブには出られなかった。高校の同級生と組んで、M-1グランプリに出場するなどの活動はしてみたものの、長続きはしなかった。

いよいよ「東京にいる意味がない」と思い始めるようになったおーはら。そんな折、虎猫主催の初心者向け大喜利会「始めの一歩」の告知ツイートを、俺スナのリツイートで見つけることになる。

始めの一歩

「(会のことは)あんまり分かってなかったですね…」

2018年の春から行われている、生大喜利の初心者に向けた会「始めの一歩」。2019年に2回目が開催されて、そこにおーはらは参加した。これまでもオオギリダイバーなど、一般人が大喜利をしている動画は観ていたが、「芸人じゃない人が会議室やライブハウスで大喜利をしている」という画が、いまいち想像出来なかった。始めの一歩に足を踏み入れる前は、いわゆる「大喜利界隈」のことは、何も知らなかったに等しい。会には知人や友人もおらず、主催の虎猫のことも知らなかった。

「(参加者は)全然知らない名前ばっかりだったんですけど、そこもあんまり考えてなかったですね。もう飛び込んじゃえって。残り一枠だったし、新しいことやんないと現状が変わんないなと思ったので」

特にどういう会なのか下調べもせず、会場に向かった。すると、実際に会で行われた企画は、おーはらが思い描いていた「大喜利の初心者会」と、少しギャップがあった。

「初心者会って(ツイプラに)書いてあるから、一から大喜利について教えてくれるのかな?みたいな(笑)それで行ったら、経験者の大喜利の後に『おーはらさん前へお願いします』って言われて。『嘘だろ⁉』って。『ウケるわけないじゃん』と思って。でも、周りがめっちゃ面白くて『初心者って聞いてたのになんでこんな面白いの?』ってびっくりしちゃって」

後から聞くと、これまでネット大喜利で経験値を積んだ人たちもいたため、そこの差が出たのだということがわかった。

おーはらは、過去にもお笑いの養成所で、「面白いことを表現しようとしている人たち」と出会っている。そこに通っていた人たちと、大喜利会で出会った人たちが目指す「面白いこと」は、それぞれ違って見えた。養成所時代は、おーはら自身が面白いと思わなかったものが高く評価されるといったギャップに苦しんでいたが。

「大喜利の現場に行った時に、この人たちの面白いって考えていることが『信用できる』というか。この界隈は確実に面白い所だなっていうのがありました」

当時はどうしても、養成所の生徒と大喜利の人たちを比べてしまったが、もちろん、今思えば養成所時代に出会った人たちも、面白いことをしていたことは理解できる。

始めの一歩で自分がウケることは出来なかったが、アマチュア大喜利の世界に悪い印象は持たなかった。とはいえ、その世界で自分も笑いが獲れるのかどうかといったことは、また別の話である。生大喜利の開催情報を上手く得られなかったこともあり、そこから何もすることなく、3か月ほど経過する。

火が付いた

再び動き出すきっかけとなったのは、六角電波主催の「大喜利夏季杯」。この大会に、おーはらは参加はしなかったが、本大会で、始めの一歩の同期が大活躍したのだった。

「夏季杯でジャスミンがめちゃくちゃウケたみたいなツイートが回ってきたんですよ。『ジャスミンって自分と同じ会で始めた人だよな』と思って。その人がめちゃくちゃ面白いって言われてて、悔しかったんですよね…(笑)」

夏季杯で好成績を残したジャスミンに触発されて「俺も頑張らなきゃ」と思えたおーはら。すぐに直近の大喜利会を調べたら、現在ピン芸人で活動している「阿久津大集合」主催の大喜利会「もいもい大喜利クラブ」を発見したので、すぐに参加を決めた。

「その時に、U.S.A.P.さんって人がいて。U.S.A.P.さんにせんだいさんの会を教えてもらったんですよ。『普段大喜利やられてますか?』って聞かれて、『情報とかも全然わかんなくて』って話をしたら、『せんだいさんって人が、毎週木曜日にやってますよ』って言われたから、じゃあ行こうと思って、すぐ調べて行ったのかな」

現在は「大喜利カフェ ボケルバ」という店舗で大喜利の場を提供しているせんだいは、2019年当時、場所を決めずに都内のフリースペースで大喜利会を定期開催していた。おーはらが参加し始めた頃は会の名前が「ボケルバ」になる前だった。

「まあもちろん、会に行っても最初はウケないんですけど、同じ養成所に通ってましたって人もいたりして、それで結構続けられたというか。続けていくうちに、常連だったいしださんとか、でんらくさんとかわんだーさんとかと友達になって」

「このまま大喜利を続けられれば」といった具合に、緩い気持ちで考えていた。ただ、ボケルバ以外の大喜利会や大会にも興味があったので「ボケルバ内の対決企画で優勝したら他の会にも参加する」という制約を自分の中で設けて、少しだけ真剣に取り組むようになった。優勝したのは、会に参加してからおよそ3か月後だった。

「自分が優勝した回には、俺スナさんがいて、EOT第5章で準優勝したラパスとかワールドスリーもいて。このメンツの中で優勝したんだったら、俺は面白いぞっていう自信になったんですよね。俺スナさんにもめちゃくちゃ褒めてもらったし」

その以降は、主に杉並区で開催されている様々な大喜利会に参加するようになる。ボケルバでは出会えないタイプの面白い人たちとも出会い、大喜利を介して知り合いや友人も増えていく。

「大喜利会にいる面白い人達と、面白いことが共有出来るっていうのに満足してた時期で…この時が一番大喜利楽しかったと思います(笑)邪念みたいなのが無いというか。みんな凄いし尊敬できるし、そういう人達に『面白い』って思ってもらえるっていうのが、本当に嬉しかった時期かな…」

大喜利バトルタワー優勝

「大会に出るのは4回目…とかかな?」

2020年2月、六角電波主催の大会「大喜利バトルタワー」の第1回目が行われた。まず「ファイター」同士による予選を行い、勝ち抜いた者が、「ゲートキーパー」の役割を担うプレイヤーと挑み、勝った方が最後のトーナメントに進む。そのトーナメントで、最終的な優勝を決めるというのが、ざっくりとしたルールである。現在は不定期で行われる、主に新人のための大会だが、第1回目は「答龍門」という大会の抽選に落選したメンバーと、大喜利歴がまだ浅かった人達を招待して行っていた。ちなみに、新人であるファイターにも、経験豊富なゲートキーパーにも、どちらも同じように優勝のチャンスはある。

「まあそこまで『絶対勝つぞ』みたいなものは無かったですね。出れてラッキーって感じで。今は割と『勝ちたいな』っていうのが、大会における意気込みではあるんですけど」

バトルタワーの予選は、1周目と2周目がある。それぞれのブロックの1位がゲートキーパーとの対戦に進むことが出来るのだが、おーはらは1周目で負けてしまう。しかし、2周目の1問目で、満票を得て、予選を突破することになる。

「満票取った時の動画は今も見ちゃうな…(笑)」

続いてはゲートキーパー戦。同じく予選を突破した、ミツヲと共に歴戦の猛者に挑む。対戦相手は警備員。この時点でおーはらは、警備員のコントや漫才は見たことはあったが、大喜利は初見だった。

「あんなに凄い人とは思ってなくて…。やっぱ面白いんだってなって」

ゲートキーパー戦は、ファイター側は一人が文章お題、もう一人が画像お題で戦い、先に2勝した方が最終トーナメントに進む。もし2問で決着がつかなかった場合は、1対2の対戦になる。文章お題で挑んだおーはらは負けてしまうが、画像お題でミツヲが勝利。3問目にもつれ込んだ。

出されたお題は「あなたのクラスの『アニメくん』がよくアニメみたいだと言われている理由」。これに対しておーはらは「『あ』の口と『う』の口でしゃべってる」と回答して、大爆笑を獲る。この回答の力と、ミツヲの回答も合わさり、警備員に僅差で勝利した。

そこからはトーナメント。先ほどチームメイトだったミツヲ、ファイターとして勝ち上がってきた手すり野郎、ゲートキーパーだった風呂つんく、決勝では急遽猫を噛むといった面々と順に対戦する。

「ここまで来たら、自分がどういう人間かとか、分かった状態で皆見てくれるから、こんなウケるかっていう感覚でした。こんな笑ってくれるんだっていう嬉しさもあって、それが相乗効果で楽しめたし、良いモチベーションでやれてたのかなみたいなのはあります」

勝ち進むごとに、周りが驚いているのを感じていたという。決勝でもペースを落さず面白い回答を繰り出し、見事優勝して、バトルタワーを制覇する。

「びっくりの方が大きかったです。自分ってこんなこと出来るんだ、優勝って出来るんだって。こんな面白い人達の前で、評価してもらえるんだっていう喜びぐらいしか無かったな…」

優勝コメントを求められた彼は、信じられないといった表情で、嬉しさを全開にした。もちろん、ボケルバに繰り返し通うことで、自信を付けたことに触れるのも忘れなかった。

真・大喜利文化杯優勝

「規模もデカいし、今出ても優勝できないだろうって思ってたんで…びっくりしたかな優勝した瞬間は」

前述の通り、おーはらは生大喜利の大会での優勝経験者およそ70人を集めた大会「真・大喜利文化杯」で優勝している。1回戦と2回戦は各ブロック3位まで通過出来て、準決勝で2位以内に入れば決勝に進める。審査するのは会場にいる全員。Googleフォームを使用し、回答者一人ひとりに0点から3点を絶対評価で付けて、合計点で競い合う。

1回戦と2回戦は、3位通過だったおーはら。ギリギリの勝利だったものの、準決勝は1位で勝ち進み、決勝では2位のPATCHと2票差で勝利する。

「文化杯優勝」を「向こう10年での目標」の一つとして定めていたが、そのチャンスは”簡単に訪れる”のだった。

「1回戦2回戦は、決定打は打てずに、今までの経験したことで残れたのかなと。準決勝から、自分に追い風…お題との相性も良かったのもありますけど」

大会は時間が進むにつれて、敗退者が増えていく。それにより「大会を見るだけ」の人も増えることになる。それに伴い、出場者が持っていた緊張感が減り、笑い声が増えていったと分析する。

「自分のモチベーションとか、コンディションとかも上がっていって、勝ち切れたなみたいなのはありますね」

大会の場には、いわゆる「初心者」がいないため、出されるお題は、他では類を見ないほど難解なものがほとんどだった。ただ単に難しい語彙や、一般的に知られていないものを使ったお題というわけではなく、創作性の強く、どう答えたらウケやすいか、初心者には判断が難しいお題と言って良いかもしれない。

そんな、主催の六角電波や、大会に提供されたキャベツが作る難しいお題を「めちゃくちゃ良いフリ」と解釈するおーはら。

「ちゃんとウケれるようにジャンプ台が設置されてて、それをどう上手く使って高くジャンプするか的な感じではありますね。で、ものすごく良いフリだから、それをスカすことも出来るし。自分の大喜利の楽しみ方と、結構合致してるのかなっていうのはありますかね」

また、大規模な大会の準決勝や決勝で出題されるお題は、そこに行かないと経験出来ないと語る。

「良いお題とか気合入れたお題って、通常の会には出さないから…それがやりたいんですよね。それがやりたいのがモチベーションではありますよね。ネイノーさんとかキャベツさんとかが、気合入れて作ってくれたのに挑戦したいっていうのが…それは凄くありますね」

ただ、六角電波主催の大規模な大会で出されるお題は、回を重ねるごとに工夫が凝らされて、難しくなっているのは間違いない。おーはらの見立てでは、以前は「漫才」や「コント」の題材でもおかしくなかったものが、「文学」の領域になっているとのこと。六角電波の意図や文学の定義、お笑いのネタより文学の方が難解なのかといった議論は一旦置いておいて、その解釈には私も納得した次第である。

「もう一回同じことしてくださいって言われたら、絶対出来ないですよね。この前の文化杯Xも1回戦で負けちゃったし…」

そのようなことを言いつつも、「文化杯でもう一度優勝したい」という目標は、まだ胸の内にはある。

その他の印象的なイベント

他に印象に残っている大喜利イベントを聞いてみると、まず今年の5月に行われた「The OrderⅢ」を挙げてくれた。こちらも六角電波主催の大会で、5人一組のチームが16組出場する、大規模な団体戦である。Ⅲというナンバリングがある通り、過去にもThe Orderは行われていたが、おーはらが出場するのは、今回が初めてだった。

「僕、ヅカマゲドン、ぽこやかざん、ヨシダin the sun、Kキチで組めて、挑戦できるって時点で凄く嬉しかったですね。全員社会人お笑いやってるっていうコンセプトのあるチームで、大喜利の人に見てもらってちゃんと評価してもらったっていうのが、凄く嬉しかったなと思いますね」

この5人で挑み、見事に準優勝を果たす。良い結果を残したものの、プレッシャーを感じていた部分もあった。

「4人とも凄く面白い人だから、もし負けるとしたら自分のオーダーミスだろうなと思ってて」

The Orderは、チームメンバーのうち一人に事前にお題が公表される。それを見ながら、4問あるお題に対し、5人が必ず2問出場できるように、組み合わせを考える。その役割を、おーはらは担っていた。

「決勝はね~オーダーはミスっては無かったけど、やっぱり単純に相手の大喜利力が強くて負けちゃったんですけど」

また、The Orderを通して「敵わない」と思ったプレイヤーが二人いるという。それが、電子レンジと、優勝チームのメンバーのキャベツである。

「二人ともオーダー役だったんですよ。オーダー役って、どのメンバーをどのお題にするかっていうタスクがあるわけじゃないですか。プラス、お題を事前に見れるんで、自分が何を答えるかっていうのを考える時間もあるんですよ。この二つをこなさないといけないんですけど、俺はもうメンバーの配置にいっぱいいっぱいで、自分が出るお題全然考えらんなくて。なんですけど、キャベツさんと電子レンジは完璧にこなしてて。自分が出るお題は爆ウケしてたんですよ」

特に電子レンジは、一人でお題に挑み、出す回答が全て爆発的なウケを生むというとんでもないことをやってのけていたそうだ。

おーはらのチーム「チーム大煩悩」は、電子レンジのチーム「伊藤沙莉」と2回戦で対戦したわけだが、4問中3問を相手に取られてしまう。その場合、3問取られた方が4問目で会場の8割の票を獲得すれば、延長戦に持ち込めるというルールがある。

「4問目でぽこやかざん、ヅカマゲドン、Kキチがめちゃくちゃ頑張って、8割以上獲得して、延長戦で勝ったっていう。やっぱりここが一番頼もしかったですね」

延長戦に突入した瞬間は、会場がかなり盛り上がったと語る。

「あと印象的なのは…やっぱり天下一かなあ」

昨年10月に東京予選が行われた「第17回大喜利天下一武道会」。おーはらは、4回に分けて行われた東京予選の初回に出場し、見事本戦進出を決めた。

1回戦をブロック1位で通過するも、2回戦は2位。しかも、同じブロックの手すり野郎が3分2問で何度も爆笑を起こし、76票を獲得する横で、なんとか5票を取って2位に滑り込んだ形での勝ち抜けだった。

「本戦進出は嬉しいけど、もうちょい頑張りたかったなっていうのが、まずありますよねえ。手すりさんが爆ウケして、そこで俺は割とシフトチェンジして、ちょっとお題から遠かったり変だったりすること言って、差別化しようみたいな感じでやってたんですけど…まあ3分って時間だったらそうせざるを得ないよなあっていうのがあるんですけど。でもやっぱ次チャレンジするのであれば、ちゃんと予選は1位突破で、納得のいく大喜利でっていうのはありますね」

「ラッキーで本戦に行けた」という思いと、非常に嬉しい気持ちが両立していた。とはいえ、本戦進出は揺るがない事実。ただ、普段の大喜利では太刀打ちできない場だということを、ステージ上で初めて知る。

「本戦も本戦でやっぱね、ちょっと悔やみますよね…ぺるとも爆ウケはね…」

本戦は、東京予選通過者24人と、大阪予選通過者8人に、前回大会で優秀な成績を残したシード組4人を加えた36人を、6ブロックに分けて行う。Fブロックに組み込まれたおーはらは、調子は良かったものの、同じブロックのぺるともが、普通では考えられないペースで爆笑を獲り続けていたため、票はほとんどぺるともに集まっていた。

「まあ何回動画見返しても面白いですからね…いつもより凄すぎた」

また天下一が開催されたら、必ず出てリベンジしたいとのこと。

水中トリック

「生大喜利の現場がないから、お笑い始めたっていうのがあります」

2020年2月、おーはらは大喜利バトルタワーで優勝して、その後開催された「EOT第6章」に出場する。これからもっと大喜利がしたいと思った矢先、コロナの流行により、生大喜利の会がパタッと無くなってしまう。今でこそ様々な大会が活発に行われているが、当時はまだ「どうすれば大丈夫なのか」のラインが誰もわからなかったので、実施も難しかった。

大喜利の予定がなく、すっかり暇になっていた2020年の暮れ。ぐーがおから「一緒にお笑いやりませんか?」と誘われた。その誘いを承諾して、社会人漫才コンビ「水中トリック」が結成された。

その後は、ライブに出演したり、社会人芸人の賞レースに出場したりといった活動を行っているが、目立った活動を一つ挙げるとするならば、月に一度区民センターを借りて行っている「大喜利とネタ見せの会」の主催がある。

「俺とぐーがおさんって、ちゃんと関係性があってから結成したコンビではないので、二人でネタが作れないなっていうのがあったんで。だから、大喜利の人にネタを見てもらって、アドバイスを頂こうって会にしようと思って。で、大喜利の人でネタもやりたい人はやっても良いですよ的なスタンスで始めました」

全員で大喜利をした後に、希望者によるネタ披露の時間があるというのが、大まかな流れである。会をやってて大変なことは特にないとのこと。ただ「この人がネタをしに来るんだ!」という驚きは、今でもあるという。

「自分がモチベーションになってるのは、そういう意外な人が来てくれるっていうのが…そういう場になってるっていうのは凄く楽しいですね。大喜利の人が、大喜利以外のことをやるきっかけになれば良いなあと思って始めたので」

その他の活動で言うと、アマチュアお笑いのためのライブ「楽しいペチカ」に出演したり、他の社会人芸人にオファーされてライブでネタを披露したりしている。そして、不定期で「大喜利プレイヤーによるネタライブ」を主催している。

「結構それを主軸にしている感じはありますね。『大喜利プレイヤーのネタのライブ』って銘打ってるのって、自分しかやってないんですよ。他がやってないから自分がやってるっていうのはありますね」

現在は30~40の客数で行っているが、次回行うとしたら、規模を少しでも大きくしたいと語ってくれた。

ライブ主催者としての目標はそこだが、コンビとしての目標は他にある。

「アマチュアの大会が年に2回あるんですよ。『全日本アマチュア芸人No.1決定戦』と『社会人漫才王』っていうのがあって、ここが大きい目標でやってる部分ではありますね。このどっちかで優勝したら、もう一つステージ上げて、フリーを名乗ってプロでやっても良いのかな、とは思ってはいるんですけど…今年の社会人漫才王はストレートで決勝行けなかったので…なかなかどうしようかなっていうのはあります」

趣味の延長線上にある、もしくはあったのは間違いないが、目標があるなら、そこに向かって真剣に取り組まなければならない。そして、アマチュアとはいえ芸人を名乗っている以上は、実績が欲しいと語るおーはら。

彼がそこにこだわるのは、今年のM-1グランプリで、同じライブに出演している社会人芸人の面々が、3回戦や準々決勝に進んだことが理由としてある。

「今年は本当に『他人事じゃないぞ』っていう風に…自分が仲良くしている人たちがこうやって結果残してるっていうのが、それは自分らがいる環境が、内々で盛り上がっているものじゃないっていう信用にはなるんですけど。けど、こんだけ皆頑張ってるんであれば、自分らも…まあ趣味だから、満足しても良いんですけど、でも続けるっていう選択をするのであれば、もうちょっと本腰入れてやんなきゃなって最近思い始めた感じはしますね」

元々「ライブシーンで活躍する好きな芸人さんがいるライブに出たい」という思いから始まってはいるものの、そういったライブに呼ばれるためには、賞レースで結果を残さないといけないという現実がある。

とはいえ、お笑いの活動を続けたいという気持ちは消えていない。また、ネタを披露する経験が、文化杯優勝に繋がったとも語る。

「自分自身を面白く見せるっていう。見てる側に、俺の大喜利で楽しんでもらう。そこまで頭が働いていたような気がしてて。でもそれが出来たのって多分、ネタをやってるからだろうなあっていうのがあるんで。俺はずっと、大喜利の人にネタをやって欲しいって言ってるんですけど。多分ネタやったら、もっと表現の幅とか…自分のこういうとこって面白いんだみたいなのに気付けるから、それが多分大喜利にも結び付いてくる。大喜利を面白くするために、ちょっとネタもチャレンジしてみたらどうかなっていうのも感じたりしますね」

好きなプレイヤー

質問も残り二つ。これまで全ての人物に聞いている「好きな大喜利プレイヤー」の話題に移る。まずおーはらが語ってくれたのは「敵わない」と思っている二人のプレイヤー、六角電波とパラドクスについて。

2023年4月30日に「ニコニコ超会議」で開かれた「マニアフェスタVol.7」内のイベントとして行われた「ジャンルごちゃまぜ大喜利最強決定戦2023」。MCを警備員とぺるともが務め、ピン芸人の寺田寛明や、ラッパーのハハノシキュウなど、文字通り様々なジャンルのゲストが大喜利を披露するライブだった。六角電波とパラドクスは、事前に行われた予選を勝ち上がり、このジャンルごちゃまぜ大喜利に出場していた。

「この二人が、一般から勝ち上がったプレイヤーとして、完璧な大喜利をやってて、ちょっと感動して。一般人で『大喜利が面白いですよ』っていう肩書きで出るわけだから、ちゃんと説得力のあることをやらないといけないっていうプレッシャーがあるわけですよ。お客さんいっぱいいましたけど、お客さんは基本ゲストを見に来ているから、そのお客さんの前でめちゃくちゃウケてるのが本当に凄いなと思って」

圧倒的な説得力を回答に持たせて勝負した六角電波、大喜利だけでなく、平場でも笑いを獲りにかかるパラドクスを見て「アマチュアでこんなこと出来るの⁉」と思ったそうだ。

「1時間集中力切らさずに、MCともコミュニケーションしながら、やれてるっていうのがもうアマチュアの域超えてるなって思って。敵わねえなって思いました」

他に好きなプレイヤーとして挙がったのは、ジョンソンともゆきとラパスとぽるすである。

「この3人は割と歴が近いっていうのもあるし、実力も本当にあって、どんなお題でも攻略してくれるっていう。見てて安心感があるし、見る側としてもわくわくする回答をする人で。同じ大喜利会にいると凄く嬉しいし、本当に勉強になります」

また、新人のプレイヤーに関しては、近年増え続けていることもあり、全員は追い切れていないが、やや不安とカニの大喜利が凄く好きだと語ってくれた。

「カニさんは、社会人お笑いを彼女もやってて、そっちで先に知ったんですよ。その時にはもうつぼみの会に参加してたのかな。最初は、こんなに大喜利ハマるとは客観的には思ってなかったんですけど、メキメキとハマっていってて。元々ネタを見ていたから、表現する能力とかは凄くある人だなとは思ってたんですけど。今はめちゃくちゃ大喜利好きなんだろうなって思えるし、凄く勝負に熱いんで、応援できるというか」

カニに関しては「単純にファン」と語るおーはら。

「やや不安さんは、マジでなんでもできるんですよ。ロジック的なことも、フィジカル的なことも、めちゃくちゃふざけたこととかも、なんでも出来る人で。ちょっともう新人とは思えないですね。めちゃくちゃ周りを見れてる人で、この大喜利会ではこういうことが求められてる、とかが(わかってる)。人間性も凄く面白い人で」

2023年10月21日に開催された「大喜利双葉杯参」にて「多幸感」というタッグを組んで出場していた、やや不安とカニ。32組のタッグが競い合う中、見事ベスト4まで残った。そこでのコンビネーションも良かったとおーはらは評する。

「やや不安さんは…大喜利ライブとか出て欲しいなあって思います本当に。単純な大喜利力だけじゃなくて、タレント性もあるから、そこをフィーチャーされて欲しいし、多分もうみんな気付いてはいると思います」

今後の展望

最後の質問。大喜利でも、社会人お笑いでも良いので、やってみたいこと、成し遂げたいことなどを、何でも良いので語ってもらう。

「今後は…チーム戦で優勝したいっていうのがありますね」

これまでおーはらは、かさのば主催の「CL大喜利杯」、六角電波主催の「運命戦」というチーム戦で優勝しているが、いずれも抽選でチームメイトが決まる大会で、自分からメンバーを集めたり、誘われたりして出来たチームでは無かった。

「自分たちでタッグ組んだりとか、チーム組んだりで優勝したことが無いので、そこが一個目標ですね」

ちなみに、チームを組みたい人はいるのか聞いてみると、「絶対この人!」という人はいないとのこと。自分から誘うと、当日力を発揮出来ないケースが多いため、チーム戦の開催が発表された際には、誘いを”待つ”場合が多いらしい。The Orderで組んだチーム大煩悩は「社会人お笑い」というコンセプトがあったため、そこは組みやすかったそうだ。

「チーム大煩悩でもう一回結果残したいですね」

あとは、六角電波主催の大規模な大会で、もっと難しいお題を楽しみたいという強い思いがある。狙うのは、今年初めて開かれた「上半期王決定戦」と「大喜利文化杯」での優勝である。

「そこを獲りたいっていうのが、今後の展望ですかね」

おわりに

おーはらにインタビューする前の仮のサブタイトルは「大喜利楽しい!」だった。基本的にはのらりくらりとしているが、勝負の場では真剣になり、強い一撃を放つ。周囲を見渡すと、誰よりもその場を楽しんでいる。それが筆者によるおーはらの印象だった。

しかし、話を聞いてみると、大喜利やお笑いの活動を楽しんでいるのは間違いないが、つい周りと比べてしまい、悩むこともあるというのが、彼の本来の姿だった。

社会人お笑いの活動に関して話を聴いている時に、「あとは面白くなるだけ」というフレーズが飛び出した。大規模な大会で優勝したり、本戦に進出しても、今よりもっと面白くなるために悩み、精進している姿は、非常に逞しく思う。

The OrderⅢで結束力が生まれたチーム大煩悩によるライブが、12月16日土曜日の夜にある。この記事を読んで興味を持った方は、以下のポストのリンクからチケットを取って欲しい。まず一旦、ライブの”詳細見る”ところから始めてくれたら幸いである。

また、水中トリックがどんなネタをしているのか、一切書かずに記事の終わりまで来てしまったので、最後におーはらが自薦する漫才を見てもらって、ルポを終了させて頂こうと思う。

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