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【アマチュア大喜利プレイヤー列伝番外編】ハチカイ警備員-表現者の新たな一歩-

あくまで番外編

最初に断っておくが、今回の記事は今までのものとは少し異なる。これまでのインタビューは、プロの芸人ではないにも関わらず、舞台やイベント等で大喜利やお笑いの活動を行っている人物から話を聴く、というものだった。「アマチュア大喜利プレイヤー列伝」というタイトルの中で、どれが一番重要かと聞かれたら、”アマチュア”の部分だと答えるだろうし、そう答えるべきだと思っている。

しかし、今回話を聴いたのは、現在フリーで活動中のプロの芸人である。2021年2月にトリオを組み、現在は主にライブでコントを披露している。その人はプロとしての活動を開始する前にも、学生芸人として大会に出場したり、コントユニットを組んで公演を行ったりと、精力的に動いていた。もちろん、大喜利イベントにも何度も参加しており、そのたびに印象に残る回答で会場を沸かせてきた。

ありとあらゆる形で、自分自身の面白さを表現してきた人物こそが、今回の記事の主役、警備員である。

山口県出身の警備員。10代の頃からネットの大喜利にのめり込み、現在はトリオ「ハチカイ」の一員として、ライブに出演したり、賞レースに挑んだりする日々を送っている。他にも、70人規模の大喜利大会で優勝するなど、実績も充分のプレイヤーである。

警備員に話を伺うことは、”アマチュア”の路線から外れてしまううえに、筆者と警備員は数回しか顔を合わせていない。そんな状態でも、基本的な人となりや、普段何を考えながら一つ一つの活動に挑んでいるのかといったことを知りたかった。

そして、ちゃんとした媒体から金銭のやり取りが発生する取材を受けるようなポジションになる前に、インタビューしておきたいという個人的な願望もあったので、意を決してオファーした。すると「あんまり喋れることないですけど、それで良ければ」と引き受けてくれた。警備員の心意気に感謝しなければならない。

2021年9月4日21時、インタビュー開始。

ネットで大喜利を知る

「ネット大喜利を2007年からやってて、(当時)中学生だったんですけど学校行ってなくて。ずっとインターネットとテレビを往復する毎日を過ごしてて…」

警備員が大喜利を知ったのは、今から14年前。学校に行かず、ずっと家にいる日々を過ごしていた。自分から能動的に動いたり、成し遂げたりする趣味が無いことに悶々とした気持ちを抱いていた警備員は、2ちゃんねる(当時)のとあるスレッドに目を惹かれた。

「『笑いに自信のあるやつ集まれ』っていうスレがあって、このタイトル何だろうと思ってクリックしたら、スレッド内で大喜利をやるっていうやつで。それが初めて大喜利やった入口ですね」

掲示板の中でお題を出し、それにレスポンスを書き込む形で答えるスレッドだった。回答を出すだけでなく、出題者が一番面白かった回答を選ぶ工程もあったとのこと。

その掲示板で行う大喜利をしばらくしていると、ある時名無しのユーザーがとあるURLをスレッドに貼り付けた。それこそが「大喜利CGI」という大喜利サイトだった。

大喜利サイトには、3分で回答を募集して、3分で投票して順位を決めて、1位のユーザーが次のお題を出す、という風に、3分間で回答と投票のプロセスを回していくものがある。現在は「大喜利たろう」が稼働中だが、以前は「大喜利プラス」「大喜利PHP」など、様々な名前と形のものが運営されていた。「大喜利CGI」は、その形式のサイトの元祖である。

「あっ(この掲示板の大喜利を)システムで出来る所あるんだと思って、そこからハマった感じですね」

サイトに登録するにあたり、現在まで使用しているハンドルネームである「警備員」を名乗り始める。当時ネットで頻繁に使われていた、ニートや引きこもりを表すスラング「自宅警備員」から取った。

大喜利CGIのユーザー自体は少なかったが、ある時2ちゃんねるに大喜利CGIのスレッドが立った。その中で、板(スレッド)対抗で大喜利をやるという企画が立ち上がり、警備員がよく見ていた「ニュー速VIP」の他に、お笑いのスレッドとアイドルのスレッドのユーザー達と、大喜利CGIで勝負することになった。

「そこからなんかこう、初めて外に広がったというか、今で言うコミュニティが出来た感じがありますね。そこで知り合ったMAとかキルヒホッフとかともまだ交流がありますし、そこで初めて結構大人とコミュニケーションを取った気がしますね」

生大喜利デビュー

ネット大喜利を数年間続けて、初めて生大喜利を行ったのは2012年の時。警備員とネット上で繋がっていた関東の大喜利プレイヤーである虎猫が、大喜利会「重力、北京、ナポレオン」を福岡で開くにあたり、山口在住だった警備員に声をかけた。生大喜利に対して良いイメージを持っていなかった警備員だったが「虎猫さんからの誘いなら」と思い、参加することにした。

「インターネットの大喜利の感じでやって、ウケたので『これで大丈夫なんだ、生大喜利面白いな』ってなったのはありますね」

その後、福岡の大喜利会に何度か参加しながら、東京の会にもたまに顔を出していた。2015年には、虎猫が福岡で開催した「大喜利近代五種」で見事優勝。そこでは「意外と生大喜利出来るな」という印象を得ることが出来た。

そして2016年、大学進学を期に上京し、徐々に生大喜利をする機会が増える。その頃に参加した大喜利会で、特に印象的な出来事があるという。

その時参加していたのは、和室のスペースで行われた、競技ではない大喜利を楽しむ会だった。普通にお題に挑んでいた最中に、突然「果物」というお題が出題された。何の装飾も無いこの名詞だけのお題によって、警備員は今まで大喜利で味わったことの無い感覚を覚える。

「このお題に、みんなで『桃!』とか『Grapefruit!』とか答えてたのがめちゃくちゃ面白くて。何でこんな面白いんだろうって。そういうノリってあると思うんですけど、その時のグルーヴ感みたいなの初めてで。それちょっと衝撃でしたね。和室で果物の名前言ってるだけで、何でこんな畳の上を転がるほど面白いんだろうって思った記憶はあります」

また、”今”でこそイベントやライブで大喜利の経験を積んで自信も付いてきたが、上京してすぐはまだ生大喜利に慣れていない”ビギナー”の部分もあった。そんな警備員が、大きくウケて自分の大喜利に安心を得ることが出来たのが、蛇口捻流・博士の生い立ち・ぺるともによる「わくわくしてんだよ」が主催の会だった。

「そこで『BGM大喜利』っていう音楽に乗せて答えるみたいな大喜利をやって。それが関東で初めてめちゃくちゃウケて。それこそネットでも見たことあるみたいな人が会にいる中で『警備員の生大喜利ちゃんと面白いな』ってなった感じはありましたね」

文化杯優勝

2020年11月3日、北とぴあドームホールにて「大喜利・文化杯」が行われた。六角電波主催の本大会は、元々小規模で行う予定だったが、広い会場を使えるということで、最終的に70人の出場者が競い合うものとなった。

この大会で、警備員は見事優勝する。彼はこれまで大規模な大会での優勝経験が無く、目立ったタイトルも持っていなかった。

「14年くらい(大喜利を)やって、生大喜利も結構やってるんですけど、優勝したことがマジで無くて。近代五種とか、企画の一つとかではあるんですけど、何十人、百人近い規模の大会で優勝みたいなの無くて」

これまでも、鴨川杯や大喜利天下一武道会など、大きな大会に何度も挑んできた。自分はすぐ緊張してしまうと語る警備員は、舞台に上がった時に緊張が解けると調子が良く、緊張したままだと負けることが多いそうだ。

また、予選を勝ち上がって強いプレイヤーと当たるようになると、緊張が増し、縮こまったまま終わってしまうことが多々あった。しかし、文化杯に関しては、いつもと調子が違った。

「最初から緊張はしてたんですけど、舞台に出たら緊張収まって『あ、調子良い日だな』ってなって。予選勝ち抜いて、2回戦の時もなんか予選と同じ感じで出来たんですよ。それが続いて、準決勝でも全然緊張しなかったんで、逆に『今日優勝しておかないとヤバいな』と思って」

そのブロックに出場していない人全員が審査する形式で、観戦している出場者にとにかくウケた。リラックスした状態で良い回答を出し続け、決勝まで進んだ。決勝戦は、画像お題と文章お題それぞれ1問ずつで勝負が決まる。1問目は自分も含めて全員が少し苦戦していたが、一発ウケることは出来た。

「2問目は本当にわかんなかったんですよ。全然俺よりウケてる人もいたので。総合でちゃんと見てくれていたらもしかしたらあるかな、ぐらいでしたね。『これ行っただろ』ってのは無かったです」

審査の結果、警備員が優勝であることが発表された瞬間、気が付くと天を仰ぎながらガッツポーズしていた。主催に促され、檀上に上がった警備員は、今日一日で戦ってきた出場者の顔を見て、喜びを噛みしめた。

「優勝した人この光景見てきたんだと思って。凄い感動しました。ぺるともってこういうの見てきたんだ、確かに優勝って良いなあと思いました。普通の感想ですけど(笑)」

大きな大会で優勝したことで「気は楽になった」と語る警備員。

「それこそぺるとも、虎猫さん、冬の鬼さんとかはバンバン優勝してるじゃないですか。そういう人たちと一緒に大喜利ライブ呼ばれるけど『俺そんな優勝してないな』って思ってて。これで『優勝』にチェックが入った感じがして、もうそんな焦んなくて良いやって思うようになりました」

学生コンビ「わりばしペロペロズ」

現在、「Conva」や「ハチカイ」(後述)としてお笑いの活動を行っている警備員だが、それらを開始する前は、学生芸人としてネタをしていた。2016年に大学に進学し、入学式の後の新入生を対象としたオリエンテーションで、とある学生コンビの漫才を見たことが、お笑いサークルに入るきっかけとなった。

「そこでお笑いサークルが漫才やってたんですよ。今も芸人さんやってるスナイパーほりさん(現在はコンビ「オラクルベリー」で活動中)っていう方のコンビが、町のヤバいおじさんの漫才やってて。そんなわけないじゃないですか。入学式の後の、キラキラした1年生に対して(そんなネタをやるって)。凄いなと思って」

些か奇抜で刺激の強い、人を選ぶネタだったが、それでお笑いサークルに興味を持ったのも事実である。そのままの勢いで、お笑いサークルと落語研究会に所属を決めた。ちなみに、そのサークルの先輩には、現在ゲーム実況などの配信の活動を行っている大喜利プレイヤー、しゅごしゅぎ(まるお)の姿があった。

思い切って舞台に立ち始めたものの、これまで大喜利だけで表現していた自分の面白さを、ネタに昇華させることは難しかった。自信のあるネタが書けたとしても、それを表現出来るだけの上手な所作や立ち振る舞いは、すぐには身に付かない。学生芸人の大会に出ても、簡単には笑いは取れなかった。そういったことが積み重なって、当時の相方と喧嘩になり、相方はサークルを辞めてしまった。

3年生になったある日、しゅごしゅぎに「お前らの代はお前らしかいないから、(大会に)出るだけ出てくれ」と言われて、同期の須永とのコンビ「わりばしペロペロズ」で、大学芸会という一番大きな大会に出場した。結果的に、見事決勝へと進出する。それが、名前を知られて、外部のライブに呼ばれ始めるきっかけとなった。

その後も、警備員のコンビは徐々に実績を積んでいく。3年生から本格的に始めたことで、周りの大学お笑いのコミュニティに入りにくかったという問題はあったものの、基本は「楽しかった」という。

「大喜利を人前でやってウケることはありましたけど、漫才でウケるってかなり嬉しかったですね、テレビとかで観てきたことだったので。大学お笑いのレベルの高さも知れたし。めちゃくちゃ楽しかったですね」

コントユニット「Conva」

「田野、警備員、吉原怜那という3人でコントライブをやります。」

2019年11月の、とあるアカウントのツイート。現在では、単独公演以外のライブ出演も精力的に行っている、コントユニット「Conva」の初回ライブの告知である。大喜利プレイヤーの田野、東大落研に所属し、ダウ90000のメンバーでもある吉原怜那、そして警備員の3人によって結成されたユニットだ。

田野から声を掛けられ、当時まだ深い間柄では無かった吉原を「元子役でめちゃくちゃ演技上手いし面白い」と紹介されて、Convaは結成した。これまで「大喜利の人とネタをやる」経験が無かった警備員にとって、新鮮な誘いだった。「大学を卒業してもお笑いが出来る」ということも、結成を引き受けた一つの要因だ。しかし、結成当初は「まさかここまでやるとは思わなかった」とのこと。

これまで、大喜利やネタに限らず様々なライブに個人で出演してきたConvaの面々だが、自分たちで全てを背負って公演を行ったことは無かった。初回のライブは、何もかもが手探りだった。

「(これまで)主催側っていうのが無くて。本当にスケジュールとかもみんな分かんなくて。田野さんも(経験)無かったから。どこで練習したら良いのかとか、小道具をどのタイミングで調達してどうすれば良いのかとかわかんなくて。初回は本番でやるコントを、前の日にカラオケで22時くらいまでパソコン見てやってました。マジでギリギリでした」

そんな状態だった初回公演。結果的には、観客の期待に応えられるだけのコントを披露し、ライブは成功した。来場者からの評価も上々だった。

「初回公演なんて、どんなコントやるかとか分かんないじゃないですか。評判も無いし。興味本位というか、物珍しさで観に来てくれてた人とかも多分いたと思うんですけど、作品としてのコントをちゃんと丁寧に作ったので、良い反応もらえたのかなっていうのは今になって思いますね。それこそ田野さんをいじるとか、大喜利をコントに絡めるとかも一切やらなかったので。そういう独立したものとしてコントを作ったのが、良い経験になったと思います」

ちなみに、Convaのコントは、作り方がネタによって異なる。警備員が丸々一本完成させることも、田野、吉原のアイディアに肉付けしていくこともある。警備員が思うConvaの代表作は「サークル」というコントだ。警備員、吉原の演技が光る、評判も高い一本である。

「単純に俺がオタク役で、吉原が色んなサークルに入ってる女の子で、人格がめっちゃあってどれが本物かわかんないみたいなコントなんですけど。初回の公演やった時に反応もらったというか。吉原の演技をかなり見てもらう感じですね、色んな人を使い分けるみたいな。俺はいわゆるステレオタイプのオタクをやってるんですけど、そのオタクが自分が思ってるより気持ち悪かったみたいで、所作とかリアル過ぎたみたいで。それで反応もらったの嬉しかったですね。それで結構色んな人に褒めてもらって知ってもらったのはあるかな」

かつてのチームメイトからの誘い

「大学卒業して1年くらい経った時、ニシブチから電話があって『就職して1年経つけど、どうしてもお笑いやりたいから一緒にやんない?』って言われてって感じですね。それでこんぽんも誘ってみたいな。それが2021年の1月です」

現在警備員は、トリオ「ハチカイ」を組み、フリーの芸人として活動している。かつて大学お笑いの大会「NOROSHI」にチームを組んで出場したこともある、ニシブチとこんぽんがメンバーである。ニシブチからの誘いがきっかけで生まれたトリオは、最初から社会人の仕事と並行して行うことをせず、プロとして活動する道を選んだ。

「電話受けた時に、ちゃんとプロとしてやっていこうと思ってるっていう風に言われて。その誘いは嬉しいし、僕はニシブチのコント大好きだったんで、ニシブチがコント書いてくれるんだったら是非一緒にやりたいなと思って。ただ、一応今Convaっていうものをやってるから、そっちで一回プロとしてやって良いかどうか確認してから、Convaが(プロで)やらないんだったら、ハチカイをプロでやっていくって返事して」

新宿の長崎ちゃんぽんの店で”待ちあわせ”て、Convaで話し合った結果、Convaは今後もアマチュアで活動していくということが決まり、警備員はニシブチからの誘いを正式に引き受けた。

初舞台は「ゲレロンステージ」というフリーエントリーのライブ。40~50組の芸人が2分ネタを披露し、投票で優勝が決まるライブである。

「優勝したら、次の上位のライブに出られるみたいなやつで。そこで優勝させてもらって。だから『初ライブ優勝』ですね、形だけ言うと。一年目みたいな顔してますけど、やっぱり大学で4年やってますから、そこは上手く出たのかなって感じはありますけど」

そのライブでは、漫才を披露する組が多数を占める中で、小道具を使用したコントを行ったハチカイ。他のネタでも凝った小道具を使うことが多いのは、ニシブチがかつて大学で組んでいたコンビ「ヤスクニ」のネタの名残だという。警備員曰くニシブチは「こういうネタやりたいってなった時に、道具で諦めない人間」とのこと。

今年ハチカイは、日本一のコント師を決める大会「キングオブコント」にエントリーし、準々決勝に駒を進めた。

「まあウケはしたなーって感じで1回戦は通って。2回戦は『ダメだったなー』では全然ないし『絶対受かったなー』でもないからどうなんだろうって思ったら受かってて。それは凄い嬉しかったし、ニシブチのコントは間違ってないなって思って」

現在はニシブチ、こんぽんのハチカイ以外の仕事があるため、なかなかネタ以外の活動に時間を割けない状態にあるが、いずれは多様な活動をしていきたいという展望を語ってくれた。ハチカイの今後の動きにも注目だ。

この人の大喜利に驚いた

「僕がずっと言ってるのは2人いて、直泰さんとまな!さんです。その2人がずっと憧れというか、こうなりたいなみたいなのはずっとありますね」

この章では、警備員が特に面白い、凄いと思っているプレイヤーを聞いていく。開口一番に名前が挙がったのは、虎猫や店長の記事でも登場した2人である。

「直泰さんなんですけど、ある観点に対してどれくらい掘り下げられるかって言うのと、お題を見る角度みたいなものがあるじゃないですか。他の人は『どう掘り下げるか』とか『どう違う角度から見るか』みたいなのをやってるのに、直泰さんは『違う角度から見てそこを一番深くまで掘り下げる』みたいな大喜利をずっとやってて。それをあの生大喜利の短い時間でやれるっていうのがマジで凄いなって」

また、決して奇抜な回答を出しているわけではないことも、憧れに拍車をかけている。直泰のTwitterやnoteを見ても、普段から深い所で物事を考えていることが伺えるので、可能なら全ての発信にいいねをしたいくらい好きだという旨の発言をしてくれた。

「まな!さんはそうだな…元々ネット大喜利をやられている方で。ネット大喜利で投票とかしてると『これはこの人の回答だな』みたいなのがあるじゃないですか。俺はあんまり分かんないんですけど、まな!さんだけ本当に何回かわかるくらい、自分の中で入り方が違うんですよ。日常の切り取り方みたいなのが、実感としてあるあるなんだけど、こんな切り取り方普通はしないよなみたいなことをやってくる人だったり」

発想や描写力だけではなく「声も良い」「バカな回答をしている時のまな!さんの声が好き」だと警備員は語る。ネット大喜利で培った回答の強度を、全く別の環境である生大喜利でも発揮できるまな!の手腕は凄まじいものがある。

警備員は自らのプレイスタイルを、様々な回答を出すことよりも「一つの要素を見つけてそれを深く考えてどう表現するか」に重きを置いていると自己分析する。そんな自分とはタイプが真逆の「一つのお題から様々な要素を見つけて、多くの回答を出す」スタイルであるぺるとも、冬の鬼、俺スナ、六角電波に対して「本当に面白い人なんだろうな」と思っている。

「多答って言われてる人で、ちゃんとお題の真ん中を当ててくるみたいな人は、いわゆる”大喜利”というものとかなり相性が良い、親和性が高いみたいに思いますね。別ベクトルで尊敬してますね」

また、「タッグを組んでみたい人はいますか?」と尋ねた所、軽く悩んだ末に「アオリーカですかね」と答えてくれた。

「結構タイプも似てるし、コントチックみたいな回答をするので、それが2人で並んでやってるっていうのも面白いかなって思うし。あとお互いネット大喜利も、ちゃんと文章の大喜利も出来るので、片方がフィジカルみたいなのをやってる時に、隣で文字重視の大喜利もやって良いし。それは色々フレキシブルに出来ると思うんで、それはちょっと一回やってみたいですね」

この辺で最後の話題に移ろうと思った時「あと3人挙げても良いですか?」と言われたので、再び耳を傾ける。

「回答の温度感が好きなのは赤黄色さんで、あの人はお題が出て、大喜利始めて1か月くらいの人でも絶対捨てるような回答を、誰よりも早く出すんですよ。考えて無さ過ぎて大喜利じゃないんじゃないかくらいの回答を出していって、そこまでだったら誰でも出来るんですけど、そこからその軸をブレさせずにずっと微妙なずらし方をしてくるんですね。それがやっぱり面白いというか、とぼけてるバカっぽさみたいなのをずっと保ちながら、でもちゃんと誰も出せないような回答をしてくるみたいな。僕も結構(そのスタイルを)やりたかったりはするんですけど、あの人の感じは真似出来ないです」

そして、最後に名前が挙がったのは、社会人お笑いコンビ「デッサンビーム」としても活動している、FANと蛇口捻流の2人である。仲間内で時々行っているZOOMを使用した大喜利の中で、改めて面白いと思わされたとのこと。

警備員は蛇口捻流の大喜利を「ポップなキャラクターでごまかされてるけど、本当に気持ち悪い」と評する。「生々しいというか生理的な気持ち悪さというか。それをあの感じでポップに出されてみんな笑ってるけど、今まで人類が数えるくらいしか到達してない気持ち悪さの所に行ったりするんで、あの人の大喜利はめちゃくちゃ面白いですね。見てて飽きないです」

FANについては「ロジックの崩し方に違和感があってかなり好き」だと語ってくれた。9月3日にYouTubeにアップされた「大喜る人たち」の動画に出演しているFANは「お題の枠を崩しにいってて楽しい」とのことなので、気になった方は是非「キモイだるま落とし、どんなの?」というお題の動画を見て欲しい。

どのような存在でありたい

現在警備員は、大喜利プレイヤー、アマチュアのコントユニット、そしてプロの芸人と、3つの顔を持っている。現在掲げている一番の目標を聞くと「ハチカイで売れること」だと答えてくれた。

「ハチカイとして色んなことをやって、名前を知ってもらって、コントでご飯が食べられるようになるっていうのが大きな目標です。それに付随して、Convaを楽しめるものにしたいんで。やりたいネタを3人が楽しく出来るみたいな場所として、一緒にやっていけたら良いですね」

そして自分が大喜利の枠を超えた活動をしていった先で、アマチュア大喜利に還元させたいという。

「ハチカイが売れることで、自分の大喜利を色んな人に見てもらえると思うんで。たまに6人くらいでZOOM大喜利やってても『この面白さってこの6人だけで(楽しんで)良いのかな』ってたまに思うんですよ。この6人とかでやってるものを、たとえばハチカイが売れて、自分の大喜利を見てもらえるようになった時に、大勢の前に持っていった時に、どれくらいウケるのかとか、それを見てもらいたいって気持ちは凄くありますね。アマチュア大喜利というものに対してもっと光が当たれば、その前例になれば凄い嬉しいなと思います」

終わりに

最初に書いた通り、私と警備員はほぼ面識がなく、”仲良し”とはほど遠い関係性だった。しかし、今回じっくり話を聞けたことで、一つ一つの活動に対する胸の内を知ることが出来た。

この記事を書いている最中にも、ネタの出来によってランクが決まるライブで昇格するなど、快進撃を見せているハチカイ。芸歴は浅いが、もうすでに芸人の”たまご”という言葉が似合わなくなっている。

今回話を聞いて思ったのは、大喜利界隈や大学お笑いなどで出来た、様々な縁が活動を支えているということ。多くの人や環境と出会い、そこで生まれた”点と点”が繋がって、現在の警備員を形成している。きっかけはどうあれ、新たな世界に飛び込むことは、人生においてとても重要な意味を持つかもしれない。それを知れただけでも、良いインタビューになったと思う。

これから先、いくらでも金銭が発生するインタビューを受けることになるかもしれないのに、こんな素人の取材を引き受けてくれたことに、心から感謝する。ハチカイはまだまだ”旅の途中”だが、今後”テレビ”などのメディアで姿が見られる日が来るのも”夢じゃない”。「そういうことになれば良いな」と思う気持ちは今までもあったが、今回の取材でより強くなった。

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