見出し画像

【アマチュア大喜利プレイヤー列伝】星野流人-自らを動かす熱量-

影で界隈を支える

今回取材するのは「貢献」という言葉がよく似合うプレイヤーである。

その男は数々の大会を主催し、大喜利大会「EOT-extreme oogiri tournament-」の運営を務め、さらには大喜利の動画の編集にも携わっている。そんな誰もが認めるほど界隈に尽力している人物こそが、本記事の主役、星野流人(ほしのると)である。

関東を代表する「会を沢山開催している人」である星野流人。主催者として、これまで多くの大会で多くのプレイヤーの活躍を見届けてきた。また、回答者としても何度も結果を残しており、提示されたお題のシチュエーションを、時に声色を使い分けながら瞬時に演じる独自の回答スタイルは、彼にしか出せない魅力と爆発力がある。

さらに、今後の大喜利イベントのスケジュールを告知するTwitterアカウント「大喜利観戦記者 鵠」とも深い関係があるとかないとか。

実は、2020年4月の段階で、このインタビューシリーズの第1弾となるゴハの記事を上げた際に、一人のプレイヤーから星野流人を取材して欲しいというリクエストを受けていた。こちらとしても「まずこの人に取材したい」「この人の次はこの人だ」という段取りがあったため、なかなか取材は実現出来なかったが、今回ようやくインタビューを行うことが出来た。

TwitterのDMで許可を取り、日程を決める。様々な形で界隈内を動き、動かしてきた人物、トピックスは多い。どんな話が聴けるのか楽しみにしていた。この時はまだ、取材時間が2時間半を超えるとは思いもしなかった。

2021年4月9日21時、インタビュー開始。

居心地が良かった

星野流人が生大喜利を初めて行ったのは、2013年の秋。このシリーズにもたびたび登場している、かつて池袋に存在した、大喜利専門のスペース「喜利の箱」でのこと。そこで行われた初心者向け企画「ひなどり」が始まりだった。

星野流人は、4人目に取材したFAN同様に「ネット長文」出身という経歴がある。ネットにアップしたオリジナルの漫才やコントの台本を審査されるという活動をかつて行っていた。その界隈の知り合いが、喜利の箱に行くというので、着いて行ったのがきっかけである。

これまで取材してきたプレイヤーは、初大喜利の場が印象深い出来事として残っている者たちばかりだったが、星野流人に関しては「ひなどりの思い出はゼロ」とのこと。

「あんまり覚えていないんですよね、何があったか。普通の人ってデビューの時の『この回答でめちゃくちゃウケたからこの界隈に染まりました』みたいなのがあるんですけど、無いんですよ。ウケたかどうかも覚えてないし、多分ウケてないし」

その後も、喜利の箱に何度か通い、「長文界隈の知り合いがいるから」等の理由で大喜利会に参加するようになるが、特に大喜利にのめり込んだきっかけは存在せず、現在に至る。「居心地が良かったから(参加していた)」と本人は語る。

「なんで行ってたんだろうあんな負けてたのに。人と会えるからかな。俺の趣味が本読むことなんで、本読むことだけで生きてきたんで、人と関わるのが新鮮過ぎたのかもしれないですね」

印象的なイベント

「8年やってるんでね…それなりにいろんな印象深いのがあって絞れないですけどね」

これといってハマったきっかけが無いとはいえ、これまで星野流人は、全国各地の大喜利大会に出場し、結果を残してきた。印象的だった大会を訊くと、まず挙がったのが「東北大喜利杯ダブルス」という仙台で行われたタッグ戦である。星野流人の個人での初タイトルは、後述する「東北大喜利最強トーナメントT-OST 2枚目」だが、厳密な初優勝はこの大会である。

2016年12月に行われた本大会に、盟友・ばらけつと組んで出場した。その時は東北在住のプレイヤーのみならず、遠征した参加者もおり、出場タッグは10組を超えていた。星野流人・ばらけつタッグは、トーナメントを苦戦しながらも勝ち進み、決勝戦で田んぼマン・やまおとこタッグに大差を付けて勝利した。

「それまでは優勝したこと一回も無かったんで。ちっちゃい企画のトーナメントとか除いて。一日通してやる大会で優勝したのは無かったんで。まず一個優勝出来たのが印象深いかなって感じですね。最初だし、ばらけつさんと獲れたしっていうのが」

大会の動画が上がっていたので確認すると、優勝が決まった瞬間に、固い握手を交わす二人の姿を見ることが出来た。

「他に印象深いっていうとねえ…天下一かなあ」

このインタビューで何度も登場している「大喜利天下一武道会」(通称:天下一)。2018年の年末に大阪予選、2019年の頭に東京予選と横浜本戦が行われた第16回大会で、星野流人は本戦に進出している。予選と本戦の心境を熱く語る長文のnoteをアップしていたことに触れると、「書いてましたっけ俺?覚えてないな」という信じがたい言葉が返ってきたが、印象深いのは間違いない。

「出たくなかったんですよ、天下一」

他者の評価や実績は一旦置いておくと、星野流人は自分の大喜利にはっきりとした自信を持てていない。天下一に出場する前の年は特にそれが顕著で、内心かなり苦しんでいた。

「出たくない」「やらないでくれ」とネガティブ100%の状態で出場を決めた星野流人。4回ある東京予選の最後の回にエントリーしたのは、心が折れた時にいつでもキャンセルが出来ることを考えての選択だった。

「本気で挑んで負けたらショックじゃないですか」

星野流人が出場する東京予選4が行われるのは、2019年1月13日。本格的な準備をあまりしないでおこうという意味で、2018年の12月に行われた公式の予選対策練習会へのエントリーはしなかった。その代わり、年が明けてから一気に大喜利会に参加した。

そして迎えた当日。予選4と同日同会場で行われた予選3を観戦していたが、負けることばかりが頭から離れず、テンションも低かった。会場の隅の照明があまり当たっていない席で、誰とも喋らずにいた。

予選3が終了し、「もうここまで来たら腹をくくるしかない」という状況に追い込まれる。星野流人はテンションを上げるために、開演するまでの間に会場の最寄り駅まで戻り、アイドルマスターシンデレラガールズの楽曲「純情Midnight伝説」のライブ音源を聴いた。

繰り返しiPodで再生して、気分を高めた後、会場に戻った星野流人は、そこでようやく知り合いに話しかけ始めた。

抽選の結果、Aブロックに組み込まれた星野流人。天下一の予選は1stステージと2ndステージがあり、2ndステージで各ブロック2位以内に入れば本戦へと進出出来る。

星野流人は、1stステージでウケて、ブロックを2位で通過した。しかし、2ndステージでは、かなり苦しむことになった。1問目の文章お題でそれなりにウケて、突破の可能性も見えてきた所で、2問目に出たのが、広島東洋カープにまつわる画像お題だった。カープファンである星野流人は、知識がありすぎる故に攻め方を見失ってしまった。”詳しい”が有利に働くとは限らないのだ。

出番が終了し、完全に落ちたと思っていた星野流人。しかし、蓋を開けてみると、わずかに獲得した票数で2位通過。なんとか本戦進出を果たした。

「実績として、天下一本戦進出は残るじゃないですか。どうあれ。今後どんだけスベり散らかしても、天下一で本戦行ったことがあるという実績だけは残るんで。それは一個心のつかえが取れたかなっていう気持ちにはなりましたね」

ちなみに本戦では、3問お題を行った結果「自分もそこそこウケてるけど他がかなりウケてて、これちょっと通過ムズイなというテンション」のまま2問目を終えたが、3問目の最後で、十八番である一人二役の長尺回答を繰り出し、大きな笑いを取ることに成功した。

「負けたんですけど、本戦は自分らしい回答が一個出せたんで。第16回天下一通して、勝つ予選と楽しい本戦が出来たから良い思い出ですね」

もう一つ印象に残っている大会がある。関西で行われたチーム戦「戦2016-大喜利団体対抗戦-」である。この大会には、大喜利会や大会を一度でも行えば、それに参加したメンバーと共に出場することが出来る。星野流人は、オフィユカス、ネイノー、アスワンハイダム(現:阿諏訪 祀)といった面々と「悪答」という団体で戦に出場した。各団体が、様々なジャンルのお題に挑み、ポイントを取り合うのが戦の予選の簡単なルールである。

なかなかポイントが取れなかったり、オフィユカスを事前に希望していたリズムお題で答えさせることが出来なかったりと、最初のうちは苦戦していた悪答。しかし、星野流人が「たたいてかぶってジャンケンポンのリズムで悲しいことを言って下さい」というお題で「笑ってコラえて打ち切りだ~」という回答を出して爆笑を取り、ポイントを獲得してからは、チームの調子も上がっていった。

そして、チームメイトの活躍も加わり、悪答は予選をぶっちぎりで通過することが出来た。結果的に優勝することは無かったものの、良い思い出として心に記録している。

「4人で力合わせて、デカい大会の予選を抜けられたっていうのはかなり良かったなっていう感じで。打ち上げでアスワンさんと隣で話してて『このチームで出れて良かったなあ』と思ってちょっと泣いてしまったんですよね。優勝はしてないけど、良い予選の勝ち方をしたので、印象に残ってます」

個人戦初タイトル

「(出場してるのは)羊狩りさんがやるからですね」

仙台で行われている、羊狩り主催の大喜利大会「東北大喜利最強トーナメント T-OST」。2017年7月に1枚目(第1回)が開催され、これまで合わせて5回行われてきた。羊狩りの親友でもある星野流人は、1枚目から出場し、2枚目では優勝している。

1枚目の出場者は28人だったが、2枚目以降は人も増えて、大規模な地方大会の一つとなっている。

1枚目では、当時勤めていた会社の社員旅行が直前まであったため、グアムから帰国して即東北へ向かうという強行スケジュールだった。さすがに、「東北で大喜利やるんで社員旅行行けません」とは言えなかった。

会場に遅れて到着した星野流人は、予選で敗退したものの、敗者復活を勝ち上がり、本戦へと進出した。社員旅行のバタバタの方が印象深い1枚目の4か月後に行われた2枚目で、優勝した時の話を詳しく聞いてみる。

「予選結構俺にしては珍しく手ごたえあって、『これ通ったな』と思って通ったんですよね」

T-OSTで優勝するには、予選と本戦と決勝のブロックで勝ち続けなければならない。ちなみに、途中で敗退しても、ある程度票を稼いでいれば、敗者復活に進むことが出来る。予選を1位で通過し、本戦進出を決めた星野流人は、とんとん拍子に決勝まで駒を進めた。

決勝に残ったメンバーは、チョム加藤、ひろちょび、お粥、田んぼマン、そして星野流人の5人。お題を3問行い、1問ごとに面白かった人に客席の全員が投票をして、一番票を稼いだ者が、栄えある優勝の称号が得られる。この形式だと、上手くいけば1問の得票数で逆転することも可能だ。

1問目は、星野流人の1答目でスタートした。次々と回答を出し、笑いを起こす他の出場者に対し、独自の路線で突き進む星野流人。2問目も大きく票を稼ぎ、他の出場者を大きく突き放す。

しかし、ここで勝負が決まる3問目にて、チョム加藤が大爆発。これまで安定して笑いを取っていた星野流人も、「もしかしたらチョムさんに刺されてるかも」と焦り始める。

3問目が終了し、最後の投票が完了する。5位から順に名前が読み上げられていく。星野流人とチョム加藤のどちらかが優勝という場面で、司会の羊狩りが叫ぶ。

「優勝は、32票…星野流人!!!」

念願の個人戦での初タイトル。2位のチョム加藤とはわずかに5票差だった。

「優勝した瞬間のことはあんまり覚えてないですね。優勝した瞬間テンパり過ぎちゃって」

その後も、T-OSTの全ての回に出場し、2度目の優勝こそしていないものの、好成績を残している。再び大会が開催できる状況になれば、いつでも東北には駆けつけるつもりでいる。会社の危機でも無い限り。

役割は”サポートの全部”

ここからは、プレイヤーではなく、主催者としての話題に移りたいと思う。まず外せないのが、星野流人は関東の大規模な大喜利大会「EOT」の運営であるということ。主催をばらけつが、MCを羊狩りが務める本大会で、予選の得点の集計など、様々な仕事を担当している。

EOTの第1章(第1回)が行われたのは、2017年3月。足立区の会議室で、49名の出場者がぶつかり合った。第2章以降はライブハウスへと舞台を変えて、参加人数も増加した。そうなると、より運営の面で気を遣う必要性が生じる。

「箱がデカくなってくると、やっぱり負担がデカくなるので」

少ない運営陣で、最大70人が出場する大会を仕切るのは、かなり大変だと見受けられるが、星野流人が行っている業務は、そこまで負担は多くないとのこと。

「大変なのは多分ばらけつさんなので。正直俺と羊狩りさんはその周りのことばっかりやってるので、動画編集とかデータとか。場所取りとかタイムスケジュールとか、そういう準備をしてるのはばらけつさんで、タイムスケジュールのチェックとかを俺がして、みたいな感じでやってるんですね」

ばらけつや羊狩りがスムーズに司会進行を行えるように、星野流人は徹底してサポートに回っている。”庶務”という役割も、便宜上付けたものだ。

これまでEOTは、タッグ戦だった第4章を除いて、基本的なルールをほぼ変えることなく、第6章まで開催されている。回を重ねるごとに、出場者のレベルも上がっている印象があるが。

「EOTの勝ち方みたいなのが分かってる人も出て来てるような気はしますよね。(予選は)加点だからとにかく出したもん勝ちみたいな感じで。手数を意図的に増やして、意識して勝ちに来てる人は多いんじゃないかなとは。当たり前っちゃ当たり前なんですけど。言っちゃなんですけど、レベルが上がってるのってEOTだけじゃないですよ。EOTだけじゃなくてどこの大会も更新されてると思います」

直近で行われた第6章が開催されたのは、2020年3月。コロナが日々の生活に侵食してくる直前だった。消毒や換気など、感染防止対策を徹底的に行い、大会終了後に全員感染することなく、無事に大会を終えることが出来た。

「まああれはやれて良かったですよ。EOT楽しかったねで自粛に入れたので。EOT中止になっちゃったねで引きずって一年以上待つの嫌じゃないですか」

今や「関東を代表する大規模な大喜利大会」となったEOT。まだまだ情勢的に先の見えない日が続くが、再び大会を開きたいという思いは、一切消える気配が無い。

「俺としては、続けたいなとは思ってる大会だし、あの運営3人で作るという形で続けられれば良いかなとは思ってますね。主催を自分は色々やってるんで、その中で一個デカいのがあるのは、張り合いがあって良いと思いますね」

ドラマが生まれるタイトル戦

2017年4月9日、喜利の箱にて、星野流人主催の大喜利大会「第一期大喜利名人戦」が開催された。20人の出場者が、審査員に回答を面白いと思われたらポイントが入るベストアンサー形式で競い合い、初代名人の座は、当時生大喜利デビューから1年経っていなかった急遽猫を噛むに贈られた。

その後も、「大喜利竜王戦」「大喜利王位戦」という将棋のタイトル戦をモチーフにした大会は定期的に行われ、毎回かなりの盛り上がりを見せている。この大喜利のタイトル戦は、星野流人が白鳥士郎のライトノベル「りゅうおうのおしごと!」という作品に影響を受けたことがきっけかで開催に至った。

「結構本格的に将棋のことが書いてあるんですね。本当に将棋の世界を細かく描いてて、将棋の世界が熱いっていうのは読んでて思って。将棋って大喜利に似ているなって読んでて思ったんですよ。頭で考えて戦うやつだから。将棋と違って1対1あんまり無いし、明確に勝ち負けが付くわけじゃないから、厳密に言うと違うんですけど、頭脳戦でバチバチやり合うみたいな感じが将棋と似ているなと思ってて、タイトル戦が大喜利にあったら面白いなと思ったのが最初ですね」

星野流人は、タイトル戦が将棋の世界と同様に、長く続く歴史のある大会になれば、ドラマが生まれて面白くなるだろうという思いで主催をしている。

「『あの人先代のチャンピオンなんだよ』みたいなのがあると面白いじゃないですか。『今回の名人戦、竜王と王位が直接対決するらしいぞ』とか、『名人が2連覇してる』とか『あの人2期前の竜王だった人だけど、今期かなり仕上がってるから、王位イケるんじゃないか』とか、物語が出来そうで面白いじゃないですか」

実際に、「この人は現竜王」「この人は初代王位」という共通認識が、界隈の中で出来つつあるのが感じられる。一度に競い合う人数はEOTほど多くないものの、主要な大喜利大会の一つとなっている。

タイトル戦で優勝したプレイヤーは、基本的に次期の同大会に出場し、ディフェンディングチャンピオンとして大喜利に挑んでいる。予選を行い、成績の良かった上位2名が本戦でタイマンをするのがタイトル戦の共通のルールだが、いくら前大会優勝者とはいえ、30人規模の大会で再び本戦に進むのは難しく、ましてや連覇など不可能だろうと思われていた。しかし、風呂つんくの名人戦防衛、虎猫の竜王戦での連続本戦進出など、前期の優勝者が活躍する場面が多数存在した。

「各タイトル保持者の方々には頑張って頂いてるんで、こちらとしても運営のしがいがありますね。(タイトルを)獲ったこと嬉しいって言ってくれる方もいるんで、規模は小っちゃいんですけどやりがいはあります」

今までに開催されたタイトル戦のルールは、王位戦を除いてベストアンサー形式である。回答ごとに審査される加点でも、制限時間を通して面白かった人に票が入る印象でもない形式を選んだ理由は何か。

「一問ずっとウケ続けるのってセンスいるじゃないですか。でもベストアンサー選ぶってなると、一答ウケれば他の何答かはスベってても良いんですよ。そういう乱気流の激しい人、ずっとスベってたのに最後一答急にウケるのを出すような人でも勝てるルールにしたかったんですよね。その中で、安定して一問の中でベストアンサーを3個出してっていうのを5問続けていかないと、本戦には上がれないので。それだけ印象に残る回答をバンバン叩き出せるってことは、その日その人が面白かったっていうことになるので」

ちなみに、元々星野流人自身がベストアンサー形式を好きで、自分が勝てそうなルールにしたとも語ってくれた。しかし、複数回大会を行った結果、「簡単には勝てない厳しいルール」と思うようになったとのこと。

将棋には、現在8つのタイトル戦が存在する。いつか、8つ全てを開催したいというのが、星野流人が掲げた目標である。

大喜利とは別ジャンル

正直に言うと、異様な空間だった。

2020年12月19日、アイドルマスターシンデレラガールズ大喜利会(通称デレマス大喜利)が、オンラインで行われた。星野流人主催のデレマス大喜利は、2015年10月に産声を上げた、アイドルマスターシンデレラガールズに特化した大喜利会である。ちなみに、アイドルマスターシンデレラガールズとは、自身がプロデューサーとなり、アイドルをトップアイドルに育て上げることが目的の、バンダイナムコエンターテインメントとCygamesが開発・運営する人気コンテンツである。

デレマス大喜利は、元々オフラインで行われていた会だが、情勢によりオンラインでの開催となった。Discordと、大喜利用に改造したスプレッドシートを使用することで、自宅に居ながら参加が可能な会である。

私はデレマス大喜利に参加したことは無いが、噂は以前から聞いていた。アイドルマスターシンデレラガールズが好きな大喜利プレイヤーが集まり、デレマスに関するお題にデレマスの知識で回答し、さらに後半のトーナメントでは、アイドルになりきって大喜利をする、そんな大喜利会があるということは、Twitter経由で少しだけ耳に入っていた。

前述の通り、12月19日の会の段階で、星野流人への取材リクエストは届いていた。いつ取材するかは全く決めていなかったが、デレマス大喜利は星野流人を構成する重要なトピックの一つであると踏んで、少しでも会の実態を知っていた方が良いだろうということで、見学をすることにした。取材の一環であることは全く誰にも伝えずに。

都合により、Discordを繋いだのは会が始まった1時間後だった。取材であることがバレることなく、デレマス大喜利にシノびこむことに成功。見学開始から数分後、アキラかに通常の大喜利会とは空気が違うことに気付く。知らない人名や単語が並ぶお題に、知らない人名や単語で答える参加者。それでいて、普段の大喜利会と同じように起こる笑い。デレマスの知識をタクミに使い、カナらず着実に笑いを取っているのは理解できるが、デレマスに縁もユカリも無い私は、彼らのユウコとが全く分からず、アヤうくサクラん状態に陥りそうになりながら、デレマス愛ノアる彼らの熱量にとにかく圧倒された。もしかしたら、私はデレマス大喜利をミクびっていたのかもしれない。

「元々、テーマを決めた大喜利会みたいな文化はあったんですよ。そういうの一回やりたいなと思ってて、何が出来るかなって思った時に、アイドルマスターシンデレラガールズかなあと思って。自分が好きだっていうのもあるんですけど、当時大喜利の知り合いでデレマス知ってる方が比較的多かったんで。誰がデレマスやってるのかは知らないけど、この人数とりあえず来てくれるんだったら会としては成立するだろうみたいな」

当初は10人程度の小規模な会としてスタートしたデレマス大喜利会。ちなみに、デレマスの知識が無いと答えられないお題が大半を占めるが、知識が無くても「蛍原枠」というポジションで参加可能である。(テレビ朝日「アメトーーク!」にて、取り上げられる漫画やアニメの内容を一切知らない立ち位置から番組に参加する雨上がり決死隊の蛍原に由来)

第1回目が盛り上がり、2回、3回と続けていくうちに、前半はデレマスに関するお題での大喜利をして、後半にアイドルになりきって大喜利をする「アイドル憑依大喜利」のトーナメントを行うという現在まで続く形が出来上がっていく。回を重ねるごとに、「大喜利はよくわからないけど、デレマスは好き」という人たちが初見で参加するようになり、規模が大きくなっていった。ちなみに、そういった面々の中に、スプレッドシート大喜利の考案者であるみくも、開発者である戯念がいる。そして、アイドル憑依大喜利では、ほぼ大喜利は未経験という出場者が、通常の大喜利大会で常勝しているようなプレイヤーに勝つことが珍しくないとのこと。

「(アイドル憑依大喜利は)アイドルを背負ってやるわけじゃないですか。どうしても、担当アイドルを勝たせたいとか、好きなアイドルでウケたいみたいなのが出てきて、俺らの熱もどんどん上がってて。俺も主催者なんですけど、優勝したさしか無いんですよ」

自身がゲーム内でプロデュースを担当しているアイドルで優勝したい、そんな普通の大喜利会では存在しないモチベーションが増していくと共に、デレマス大喜利自体も、独自の進化を遂げていった。

「こればっかりはもう現場に来たことのある人にしかわからない、特殊な熱だと思うんで。”大喜利”ではないですね、”デレマス大喜利”なんで。別ジャンルですね。大喜利で勝つのとデレマス大喜利で勝つのはやっぱり違うものだと思った方が良いので。あれは”デレマス大喜利”という一個の独立した何かになってしまったので」

普段やっている大喜利とは大きく異なるものになったとはいえ、この会がきっかけでデレマスにハマった人や、逆に大喜利を知った人が存在し、貢献度は高い。会を見学した時、初めて名前を見る人が多かったことも、重要なトピックである。

「これが無かったら、始めることが無かった人が始めるきっかけになったら、それは良いことだと思います」

この人の大喜利に驚いた

ここからは、星野流人が凄いと思うプレイヤーの話に移る。真剣に考えてもらった結果「絞り込めなかった」とのことで、8人もの名前が挙がった。全員取りこぼしなく書いていこうと思う。

「最初の、大喜利始めた頃に印象に残っているのは、家臣さん」

関東を中心に活動しているベテランプレイヤーの家臣。(家臣以外にも様々な名義で大会にエントリーしているが、ここでは界隈の中で広く使われている名前である”家臣”を使わせてもらう)普通に大喜利をすれば、非常に強いプレイヤーなのだが、大会で自身が答えるべき場面でスマホのリズムゲームに興じるなど、ルールの枠を超えてふざけに走ることが多々ある人物だ。

「単純にセンスがあって、その上で表現の幅が広いというか。見てて飽きないというか、全部面白いのが凄いと思って」

界隈に飛び込んだばかりで、右も左もわからなかった頃の星野流人は、家臣のぶっ飛んだ部分はもちろん、真っ当に強い時の大喜利を見て、衝撃を受けたそうだ。

「あとやっぱり、どうしても避けては通れないのが、鉛のような銀さんと店長さんかな」

直近の天下一の優勝者である鉛のような銀(通称:鉛銀(なまぎん))と、準優勝の店長。どちらも表現力と発想力が突出しているプレイヤーだ。

「鉛銀さんは元々凄いのは知ってたけど、天下一と(第2期)竜王戦でじっくり見て、さらに凄さを理解してしまったというか」

時に大きく動きながら、その場にいる全員の誰も予想出来ない方向性から回答をぶつけるスタイルを進化させ続けている鉛のような銀。星野流人が着目したのは、”普通の”回答をする時の彼だ。例えば、セリフで答える時は、常に声色を変えてくる鉛のような銀だが、単語で答える時も、少し声色が変わっているとのこと。

「鉛銀さんの声があるんですよ。サラッと回答出す時みんな普通の声じゃないですか。鉛銀さん回答出すとき、鉛銀さんの回答の声で聞こえるというか。いつも声作ってるのかなみたいな。パワフルだし、回答を上手く表現するためなら体全部使うみたいな。学もあるし」

動きで爆笑をかっさらう鉛のような銀に対し、店長は喋りを重視した大喜利で笑いを取っていく。一度の回答で長い一人喋りを行うのは星野流人も同様だが、店長には自分に無いものがあると感じているらしい。

「店長さんが最初に上京してきた時に初めて大喜利を見て、俺の完全上位互換みたいな人がいるみたいに思って。店長さん凄いですよね、サラサラサラサラ喋るじゃないですか。ホワイトボードに書いてないことも流暢にずっと喋って、綺麗にオチ付けるから。あれは自分のやりたい形の理想の一個だなとは思いますし」

星野流人は、そんな二人に対し「単純に見てて飽きないし、勉強になる」と語る。

「若手も言っていいですか?…アオリーカですね」

2017年に生大喜利デビューしたアオリーカ。大きな大会での優勝経験はないものの、EOTで2度本戦進出したり、T-OST3枚目で決勝進出するなど、様々な大会で好成績を残している。アオリーカも星野流人と同じく、与えられたシチュエーションを瞬時に演じる能力に長けたプレイヤーである。

星野流人がアオリーカと初めて出会ったのが、お粥主催の「第一回神奈川県大喜利大会」だった。その大会で決勝に進出していたアオリーカだが、その時は発想重視の大喜利をしていた。

その数か月後、FAN主催の「大喜利メランコリー杯~溜息~」という大会で、星野流人は再びアオリーカの大喜利を見ることになる。その大会の敗者復活戦で、長尺の回答を淀みなく演じ切り、爆笑を取る彼の姿を見て、驚愕することになる。アオリーカが大喜利を始めて数か月しか経過していない状態にあったことも込みで、強烈過ぎる出来事だった。

「こいつヤバいぞ!と思って。その年の末くらいにうどん杯とかもあって、どんどんフィジカル(生大喜利における表現力の部分の総称)が爆発していくのをリアルタイムで追ってたので。もうバケモンやないかと思って。で、ちゃんと大喜利が上手いし、長セリフ全部覚えて演じられるのは本当に凄い奴だなと思いました」

次に、「悪い意味で驚いた」と前置きしたうえで、つきしまの名前を挙げてくれた。名古屋在住のつきしまは、東京の大喜利大会に出る機会は少ないものの、いきなり大声で歌う、一人二役でコントを演じるなどの回答で、見る者に大きすぎるインパクトを与える。

「元々東京にいた頃は、そんな尖った大喜利をするイメージは無かったんですけど、都合で名古屋に移って、しばらくしてから名古屋の東海杯とかでお会いしたら、すげえ歌う回答を出す人になってて。名古屋で何があったの?と思って。東京居た時そんなんじゃなかったのに急にそうなってて。その時だけなのかと思ったら、出る大喜利会全部でやってるし、EOTでもデレマス大喜利でもやってるし」

出されたお題に対して、全観客が納得するほど綺麗な回答を出すプレイヤーもいれば、つきしまのように「やりたいようにやる」ことに特化したプレイヤーもいる。突拍子もない替え歌を歌い、ウケてもウケなくても本人は爆笑している。そんなつきしまを「あれが正解」と語る星野流人。

「アマチュアの大喜利なんて楽しんだもん勝ちだから、負けて良いんですよ。勝たなきゃ勝たなきゃでカリカリしてるのは、そんなもんプロがやってりゃ良いわけで。アマチュアの趣味なんだから、負けてゲラゲラしてるつきしまさんが大正解ですよ」

大喜利は真似出来なくとも、少なくともマインドは真似出来る。つきしまの大喜利が気になった方は、EOTの第3章と第5章や、生大喜利デビュー3年以内のプレイヤーのみが出場できる大会の答龍門の動画を観て欲しい。

「あと、言っておきたいのが、ギャルさんですね。ギャルさんは凄いですよ」

デレマス大喜利の初心者会に「臨終」名義で参加し、憑依大喜利のトーナメントで決勝進出。その後、虎猫主催の初心者大喜利会「きっかけの一歩」から、本格的に生大喜利の世界に飛び込んだギャル。直近のEOTにて、予選後半ブロックを2位で通過したことは記憶に新しい。

「まず絵が上手いですよね。絵が上手くてホワイトボードにすぐ落とし込める人が俺は好きなので。それだけじゃなくて、結構実はフィジカルあるよなと思ってるんですよ。度胸が据わっているというか、結構物怖じしないで大声で回答出せるし。大喜利の発想もやっぱり凄いし、多分俺にはない引き出しを持ってるし、それを回答として分かりやすく伝える技術がフィジカルも絵回答もあるし、あの人は本当に素晴らしいと思いますよ」

ここまで6人。最後に名前が挙がった二人は、四つ葉の黒婆さんとプリンゴである。「俺が言っとかなきゃいけない人」とのこと。

四つ葉の黒婆さんは、ギャルと同様にデレマス大喜利の初心者会で初めて大喜利に触れたのち、きっかけの一歩に参加した。その後、生スプシ問わず、積極的に大喜利会を主催してきた。最近では、2020年の答龍門でベスト8、優勝未経験者のみが出場できる冠到杯で本戦進出するなど、メキメキと実力を付けている。

「俺が言うのもなんですけど、主催いっぱいする人って大喜利強くなりやすいんですよね。いっぱい見てるからか、それだけ熱意があるからなのかはわかんないですけど。色々吸収してて、きっかけの一歩の同期生とかとも仲が良くて。驚いたというか、今後にも期待している人ですね」

そして、同じくデレマス大喜利がきっかけで大喜利を始めたプリンゴ。憑依大喜利では、初心者でありながら爆笑を取っていたそうだ。

「この人はキャラが明るくてお調子者みたいな。わかりやすく愛されキャラなんですよね。そういう人の大喜利って面白いじゃないですか。プリンゴさんっていうキャラが一個乗ってるような状態で大喜利してるようなもんなんで。皆プリンゴさんがどんな回答出すんだろうなみたいに思ってるし。全然しょうもない回答も出したりするんですけど、それ含めて愛されてるのは素晴らしいことだと思うし。あの人が大喜利会に結構出入りするようになって技術付いたら、かなり化けるんじゃないかなと思ってるんでね、期待してますね」

常に進化し続けるベテランから、期待の新人まで、様々な顔ぶれの実力者が揃った。この記事が、8人全員に届くことを切に願うばかりである。

おわりに

今回の取材で、星野流人の熱い部分と、周りを冷静に見ている部分の両方を垣間見ることが出来た。

最後に私がした「どのような存在でありたいですか?」という質問に「出来るだけ、現場にいる人でいたい」と答えた星野流人。これからも主催を続けていくし、自らもボードとペンを持ち続けていきたいという熱意が見える返答だった。大喜利にハマったきっかけがこれといって無いとはいえ、曲がりなりにも続けてきた趣味である。その炎は消えることは無いだろう。

また、今回印象的だったのは、面白いと思う人全員の魅力を一定の熱量で語る姿である。8人もの人間の魅力を、言葉を重複させずに的確に評するのは、なかなか出来ることではない。

星野流人は、様々なものへの影響や憧れを隠さない。大会が開催されるのも、動画が上がっているのも、全ては大喜利への強い思い入れによるものだ。果たして私は、1年後も同じ熱量で、インタビューを行っているだろうか。もし熱が冷めてきたと感じたら、この記事を読み返そうと思う。自らの心に火を点ける、そんな記事になったのではないだろうか。

記事を読んで頂き、ありがとうございます。サポートして頂けるとさらに喜びます。