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大津祐樹選手のつぶやきへの返信

(まずは初回の投稿から約8ヵ月の月日が経過してしまったことについてお詫びいたします。今後は頻度を上げてリーグの取り組みを中心にお伝えしていきます)

 先日、明治安田生命J2リーグを制しチャンピオンの栄誉に輝いたジュビロ磐田の大津祐樹選手からこんなtweetが発信されました。


 Jリーグの広報担当として各カテゴリーで数十回の表彰対応をしてきましたが、選手からこうした疑問を呈されたのは実は初めてでした。大津選手がつぶやいたように、確かに優勝決定の試合にケガなど何らかの理由でベンチ外となった選手たちは、初めてシャーレを掲げる瞬間に参加することができないのは紛れもない事実です(後述しますが、ベンチ入り18名以外の方がその日のピッチ上での喜びの場面に全く参加できないということではありません)。それまでチームの主力として活躍したプレーヤーが不運により最高の瞬間を享受できないことは気の毒以外の何物でもなく、大津選手が意見したくなる気持ちは理解できます。

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ベンチ入り18名と監督不在のため指揮を執る服部コーチによるシャーレアップ

 では、なぜ表彰式はベンチ入りの18名(正確には希望すれば監督も入ることができます)のみで行うのか?実は入社以来その理由を聞いたことがなく、それが当たり前のことと思いながら過ごしてきたのですが、振り返って考えてみた私なりの見解をここでお伝えすることで、大津選手への返信になればと思います。

 私が思う表彰式の目的は2つあります。一番の目的はもちろん優勝したクラブを称えること。これは何よりも大事にされることでありますが、もう一つの目的として大事にしているのは「優勝したという事実を後世に伝える」ことです。その場で称えるだけであれば、もしかしたら大津選手が思うようにクラブに関わる全員が立ち会う中でシャーレを掲げられることがベターだと思います。しかしながら、もう一つの目的である「後世に伝える」という目的を実現するためには、その試合で優勝を達成したことの証としてベンチ入りしたメンバーが明確になる必要があると思いますし、表彰時にはユニホームを着用した状態であることも必須となります。それが私が思う優勝時の表彰をベンチ入りの18人で行う最大の理由です。(もちろんテレビ中継やアウェイでの表彰式開催など実務上の理由もいくつか存在します)

 少し話は変わりますが、私が表彰式の担当として守り続けていることがあります。それは、「チャンピオンボードの後ろで記念撮影をする」ことです。Jリーグ本部のとある打合せスペースには1993年開幕からのJ1優勝クラブ表彰時の記念パネルが並んでいますが、いくつかチャンピオンボードの前に立って撮影されているものがあります。私はそのパネルを見て最初に思った事は「これって何年の優勝なんだろうか?」という疑問でした。そしてさらに思ったのは、記念写真は一目で見てそれがいつのものか分からないといけないということでした。もちろん、当事者やクラブのファン・サポーターにとってはチャンピオンボードの前に立ってもそれがいつの優勝であるかなど容易に判別できると思いますが、「100年先に誰が見てもそのシーンが何を表しているかが理解できるか」を考えると、上記のような考えに至りました。

 そう思って以来、表彰式のたびにシャーレ(優勝銀皿)を受け取る選手にはチャンピオンボードの前に出て1度目のシャーレアップを控えてもらうよう伝え続けています。当時サンフレッチェ広島のキャプテンだった佐藤寿人さんは前年にお願いしたことをしっかり憶えていて、連覇した2年目にはお願いをする前に「ボードの後ろですよね」と自ら笑顔で伝えてくれました。一方で、あるクラブの監督はどうしてもボードの前でシャーレを掲げたかったようで、記念撮影の前に数十秒間押し問答になったこともあります。

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チャンピオンボードの前に立ってシャーレを掲げる遠藤保仁選手(現ジュビロ磐田)

 話を戻しますが、大津選手が思う「チーム全員でこの瞬間を共有したい」という気持ちには心から共感しますし、いちファン・サポーターであれば私も同じことを思っていたと思います。ですが、後世に残るものを残すという責務を持った立場としては、やはり18名のユニホーム姿でシャーレアップをするのがベターであるという思いは変わらないのも、もう一つの事実です。

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私が関わった表彰式の中で一番好きなシーン。優勝の喜びに満ち溢れています。

 もちろん、クラブに関わる全ての方々に優勝の喜びを味わってほしいという気持ちは変わりませんので、我々のルールは記念撮影のファーストショットまでにして、それ以降はベンチ外の選手やスタッフ・関係者にピッチインしていただき何度もカップアップをしていただいていますし、優勝記念Tシャツなどユニホーム以外のものを着用することも認めています。川崎フロンターレは2カット目以降シャーレのデザインを模した「風呂桶」を掲げて、ファーストカットよりも報道されるという、いい意味で「してやられた」事例もありますし、実際に全員参加の2カット目以降の画像を使用するメディアは少なくありません。

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まさに「してやられた」川崎フロンターレによる風呂桶パフォーマンス

 とはいえ、現在行っている表彰式の形式が未来永劫正しいとは限りませんし、選手の思いやファン・サポーターの考えに沿って変化していく検討を止めていけませんので、引き続き全ての関わる方々にとって一番良い方法を追求していきたいと思います。

 今シーズンはあとJ3の優勝を残すのみとなっていますが、J3は15クラブという奇数編成のため、現在首位の宮崎(勝点53)が最終節に試合が開催されないという初の事象が発生しました。12月5日(日)の最終節、宮崎の選手・スタッフは宮崎市内に集合し、2位・盛岡(勝点52)と3位・熊本(勝点51)の試合を固唾をのんで見守ることとなりました。もし2位と3位の勝点が伸びず、宮崎が優勝となった場合、優勝クラブの表彰式はJリーグ史上初のスタジアム以外での開催となります。想定外の事態に若干戸惑っていますが、宮崎のクラブスタッフの全力の努力により会場の目途が立ち、多くの方々とともに優勝を祝う準備が着々と進んでいます。我々も前述した「クラブを称える」「後世に伝える」ことが最大限表現できるような表彰式にすべく、クラブとともにギリギリまで努力していく所存です。(たとえ優勝が叶わなかったとしても、参入初年度にトップ3入りした宮崎の偉業が色褪せることは決してありません)

 最後になりますが、表彰式を何よりも大事なものと考え、我々が当たり前だと思っていたことに疑問を呈して下さった大津選手に心より感謝致します。そして、J2優勝とJ1昇格おめでとうございます。大津選手ならびにジュビロ磐田が来シーズンJ1の舞台で活躍されることを期待しています。

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