G.C.D -4th,Apr-
2020/4/4 公開作品
⚠️Lost ver.でお届けします⚠️
日増しに陽射しが心地よくなり、春の訪れに心躍る4月...
それなのに僕は、鬱々とした日々を過ごしている。
毎日心配でそわそわしてばかり。
何をそんなに心配しているのかと言うと...
『ただいま。今帰ってきたよ』
あ...やっと帰ってきた!
「今日いつもより遅くない?」
「まさか誰か休んだとか?」
「もしかして感染者出た?」
矢継ぎ早にメッセージを送る僕。
『そうじゃなくて』
『お買い物して来たから遅くなっただけだよ』
という返信...僕はほっと胸を撫で下ろした。
「良かった」
「何かあったのかと思って」
『大丈夫だよ。ちゃんとマスクもしてるし、手洗いもしっかりして、念の為に毎日朝と夜に検温もしてるから』
「でもさ」
「ただ喉が痛いだけとかの人もいるんでしょ?」
「危ないから」
「店休みにしたらいいのに」
どうして僕がこんなに彼女の心配をしているのかというと…
彼女は病院での療養を経て、しばらく実家で静養の後、一人暮らしをする資金を貯めるために、カフェで働き始めた。
お父さんがそのくらいのお金は出す、お前の再出発への餞別だから受け取りなさいと言ってくれたらしいけど…。
彼女はそれを固辞した。
親の力に頼らずに自分で生きていけるようになりたい、そのために家出をしたのだから。
今お父さんに甘えたら、全てが無駄になる。
だから、一人暮らしができるくらいのお金が貯まるまでは実家から仕事に通わせて欲しいとお父さんにお願いをして、お父さんもそれを聞き入れた。
彼女の意志の強さは、本当に素晴らしいと思う。
だけど、、、僕はほんの少しだけ、不満に思っていた。
だって…彼女が実家暮らしをするということはさ…彼女に会える時間も場所も、限られてくるということ。
いくら僕が彼女のご両親に交際の許しを得ているとは言え、ご両親がいる実家に会いに行って家でデートするってやっぱりちょっと勇気がいるんだよなー。
気軽には行けないというか。
だから僕らの仲は全然進展していなかった。
なんとか彼女と会う時間を作りたい、そう思っても、彼女の働くカフェは通常どおり営業していて、帰りが遅い日もある。
こういう状況だから外でのデートも難しいし。
それに彼女のご両親も、
”万が一、娘が感染していた場合のことも考えて、家に訪ねてくるのは遠慮して欲しい”
と、僕に言った。
「これじゃ全然会えないじゃん…」
と僕が拗ねると、
『じゃあこうしない?早番の日に、他の人が休むことになったから通しで出ることになったって、両親には言って、仕事終わったらジョングクくんのおうちに行く。それでどう?』
「うちに来る?!」
『うん。あ、でも3時間くらいしかいられないけど…。それでも会えないよりはマシかなーって…』
「わかった!それでいい!」
そうは言ったものの…
彼女のお母さんが交通事故に巻き込まれて脚を怪我をしてしまい、嘘をついてデートなんかしてる場合じゃなくなってしまった。
お母さんの怪我の具合がやっと落ち着いてきて、明日やっと彼女がうちに来ることになった。
だから彼女の体調が気になって気になって、、、。
「ご飯食べないで来るでしょ?チキンかなんか頼む?」
『あの、、、そのことなんだけど、、、』
え…
「なに?」
「まさか」
「明日も無理とか言わないよね?」
「ね?」
めちゃくちゃ嫌な予感がした僕は、先回りして彼女が明日も無理だと言いづらい空気を必死で作ろうとした。
でも、そんな僕の先回りも虚しく
『ごめん、明日急に母方のおばあちゃんが来ることになっちゃって…』
最悪だ…。
なんでだよ…
明日は絶対に彼女の手を握って、ハグまでするって決めてたのに!
なんでこうなるんだ…
僕はすっかり拗ねてしまい、
「もういい。約束なんかしたって一回も守ってくれたことないもん。もう約束なんかしない」
と、まるで女の子みたいな返信をした。
彼女が悪いわけじゃないことはわかってる。
だけど、こんなのあんまりだ…ひどすぎる…。
期待した分、僕の落胆も大きかった。
『ごめんね。一度も約束守れてないもんね…。じゃあ、、、じゃあ、今からはどうかな…?』
「今から?いやいや、無理でしょ。今何時だと思ってる?22時だよ?こんな時間になんて言って家出るの?」
『…こっそり抜け出すの』
「…できるの?」
『こう見えても昔は友達と夜遊びするためにこっそーり家を抜け出して、明け方に家に戻ったことが何度もあるんだから。自信あるよ』
「ほんとに?」
『うん』
「ほんとにほんと?」
『うん。父は私が帰ってきた時にはもう結構酔ってたし。母は肌のためにって22時前には寝るの。家政婦さんも今頃はお部屋で録画したドラマに夢中になってるはず。だから今から行く』
「じゃあ、、、待ってる」
『あとでね』
家を抜け出すなんて、そんなこと本当にできるんだろうか…とそわそわしながら待つこと20分。
『おうちのすぐ前まで来たよ。どうやって中に入ったらいいのかわからないんだけど…』
彼女からメッセージが届いた。
「僕が迎えに行く!」
僕は急いでアパートの敷地の外に彼女を迎えに走った。
「お待たせ!」
僕が駆け寄ると、彼女は僕を見てにっこり笑い、
『ねぇ、敷地に桜の木が植えてあるんだね。すごくきれい…』
と、傍にある桜の木を指差した。
「あぁ、うん。春は桜、秋には紅葉が綺麗らしいよ。ちゃんと見たことないからよくわかんないけど」
『そうなんだぁ…。今年はなんかバタバタしてて全然桜の花も見てないんだよね。こんなに咲いてたなんて…』
彼女はしみじみとそう言った。
『きれいだなぁ…』
微笑みながら桜の木を見上げるその横顔を見つめながら、
「…ヌナの方がずっときれいだよ…」
と、、、、心の中でつぶやいた。
「ねぇヌナ」
『ん?』
「ちょうど桜も見頃だしさ、今夜はふたりでお花見しよっか?」
『うん!いいね!』
彼女はにっこり笑って大きく頷いた。
「じゃあ、、、少し散歩しよ」
そう言って僕は彼女に手を差し出した。
『?』
「手…」
手繋ご、ってなぜか言えなかった。
改めて手を握るって、なんかすごく恥ずかく思えて…。
いつまでも僕が差し出した手を見つめている彼女に、僕はもう一度、小さな声で
「手…」
と言うことしかできなかった。
すると彼女はちょっと照れくさそうな顔をしながら、僕の手をそっと握りしめた。
僕らは指を絡めて手をつなぎ、敷地の中の小道をゆっくりと散策した。
桜の花が風に吹かれてひらひらと舞い落ちる中、好きな人とのんびり散歩をする。
ずっとずっと、こういうことをしてみたいと思っていた。
誰の視線を気にすることもなく、堂々と手をつないで歩く。
同世代のやつらと同じように、僕もデートをしているんだと思っただけで、胸が踊った。
『ジョングクくん』
「うん?」
『ひとつ相談があるんだけどね…』
「うん、なに?」
『私、一人暮らしするって言い張ってるけどね、本当はあんまり自信ないの…』
「???」
意外な告白だった。
自立することにこだわっているみたいだったから、自信ないなんて言葉が出てくるとは思わなくて。
「なんで?」
そう尋ねた僕に、彼女はぴたりと立ち止まり、
『…家を飛び出してからずっと、ひとりぼっちだったことはなかったから。いつもそばに、、、誰かがいたでしょ?でも一人暮らしを始めたら、私ひとりきり…。本当に大丈夫なのかなって…。ふとした時に、、、嫌な記憶が蘇ってきたりしたら、ひとりぼっちでどうしたらいいのかなぁって…』
そう呟いた。
あまりにも心細そうなその横顔に、僕は思わず、、、彼女を抱きしめた。
あの人のことを未だに思い出すことがあるだろうか。
彼女を支配し続けたあの人のことを思い出して、涙する日があるのだろうか…。
それを彼女に尋ねることは、あまりにも酷すぎて、、、できなかった。
僕にできることはただ、彼女を抱きしめることだけだったから。
『…もしも私が、思い出したくないことを思い出して、それで、、、辛くなったら。そしたら私ひとりじゃきっと耐えられない。だからね、、、』
「うん、、、」
『犬を飼おうかなと思って』
「犬?」
『うん』
「それはいいね!犬はほんとかわいいよ!うちの実家でも飼ってるけどさ、何かあるとちゃんと察してそばにいてくれたりするもん。犬飼うの、賛成!」
僕はにっこり笑ってそう言った。
『犬を飼うってすごく責任を伴うことだけど…私にできると思う?』
「もちろん!」
『じゃあ、、、ジョングクくんも一緒に選んでくれる?』
「うん!」
『カフェの同僚がね、彼氏と一緒に犬を飼い始めたって話してて、羨ましいなぁと思ってたの!』
「いつから飼うの?」
『実家にいるうちに飼い始めようと思って。その方が信頼関係もちゃんとできるかなーって』
「そうだね、確かに。あ!じゃあさ、散歩は僕も一緒にする!こうやって、、、夜にここを一緒に散歩しようよ。そしたらさ、ふたりで飼ってるみたいじゃない?」
『わー…なんか素敵…!いいね、そういうのちょっと憧れてたから…うふふ…』
彼女は嬉しそうに笑った。
僕はもう一度、彼女をぎゅうっと強く抱きしめ、
「僕も。そういうのしてみたいって思ってた。普通の恋、普通のデートがしたいって、ずっと思ってた…」
と囁いた。
『…普通の恋のご感想は?』
「うーん…いいね、めっちゃいい…」
『ふふふ…』
「ふふ…」
ずっとずっと、憧れていた「普通の生活」。
普通じゃない人生を歩んできた彼女と、普通の人とは違う日常を生きる僕が紡ぐ、「普通の恋」…
それは、今まで経験してきたどんな恋よりも暖かくて、甘くて、優しくて。
手をつなぐだけで、ドキドキが止まらなくなる。
抱きしめるだけで、心に幸せが満ちてくる。
新しい生活に思いを馳せながら、また少し「普通の男」に近づいた喜びに心踊る、土曜日の夜でした。
-おしまい-
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