Lover's Kiss ~RM編~

2020/6/9 公開作品


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『オッパ、これ!』

私はポケットからあるものを取り出した。

私が差し出したものを見たオッパは

「あー!それどこにあった??」

と首を傾げながら、なんだかやけに悔しそうな顔をした。

そして

「めちゃくちゃ探したのに見つからないからさ、これ、、、」

そう言って私にスマホの画面を見せた。

そこには、数万円する高価なイヤフォンの注文完了ページが表示されていた。

『…えっ!また買ったの?!』

「あー…うん。だってないと困るから…」

ちょっとバツが悪そうな顔で苦笑いをするオッパに

『ほんっっっっと、オッパは無駄遣いが多いんだから!一体何個買えば気が済むの?!』

私は呆れて大きなため息をついた。

「俺だって別に好きでなくしてるわけじゃないんだって…」

『それは知ってる!でもね、オッパ、オッパは不注意がすぎるよ!今年に入ってイヤフォン何個買ったの?』

「いや、今年は…まだ5個…」

『まだ5個?!もう、の間違いでしょ?!5個なんて普通の人の一生分だよっ!』

「そんなことはないだろ、だって性能がいいのが出れば買い換えることだってあるだろうし、それより何より人間の寿命が90年と考えるとイヤフォンの耐久年数から見て5個で済むはずが、、」

オッパは真剣な顔で反論してきた。

『は???!』

また始まった屁理屈にイラっとした私。

その空気を察したオッパは

「…なんでもない。これからはほんと気をつけます…」

そう言って私の手からイヤフォンを受け取り、ポケットにしまおうとした。

『ほらっ!それがダメなの!ポケットに入れたりしないで、どこか一箇所、決まった場所にしまわなきゃ!』

「決まった場所ったって…。出かけるときに持つバッグはその時の気分によって違うし、、、」

『じゃあポーチか何かに入れたらいいじゃない。お財布とポーチを必ず一緒に置いておいて、、、それをふたつ一緒にバッグに入れて出かければいいでしょ?』

「…それができたらなくしてないと思うけど…」

まぁね、確かに…。

ど正論すぎて白目剥きそうになったわ…。

「…えっと、あのさ、俺、今からコーヒーでも買ってこようかなと思うんだけど」

あ、オッパ、逃げようとしてるな…?

私に説教されるのがいやで、コーヒー買いに行くって言って逃げようとしてる…!

私は険しい顔をしてオッパを睨んだ。

でも…オッパのちょっと気まずそうな顔、、、かわいいんだよなぁ…。

単純な私はすぐにほだされてしまった。

でもこれだけ偉そうな態度取ったあとに、オッパのかわいい一面にコロっと堕ちたって思われるのは、なんかかっこ悪いし…

だから私はものすごく不機嫌な顔をして、

『ったくもう...。アイスカフェモカと、チーズケーキ、あとアーモンドマフィンがいい』

と、最大限の譲歩をしてあげた、、、フリをした。

オッパはぱぁっと笑顔になって

「わかった!すぐに行ってくる!」

って言ってバタバタと家を出ようとした。

『オッパ!待って、お財布忘れてる!!』

「おっと、、、危ない…!」

何回言わせるの、って言おうと思ったんだけど…オッパのえくぼと照れ臭そうな笑顔を見たらなんだか私まで笑顔になってしまって…

「いってきます!」

『…気をつけてね』

結局、私は苦笑いでオッパを送り出した。


オッパが出かけてから30分後。

「ただいま〜!」

やっとオッパが帰ってきた。

『あ、オッパおかえり…。あれ?その袋…』

私はオッパが手に持っている紙袋を見て、首をかしげた。

『いつものお店じゃないの?』

「あー、、、うん。オンマから電話が来て、電話しながら歩いてたら店の前通り過ぎちゃって…。ふと立ち止まって周り見回したらやけに人の出入りが多い店があったから。美味しいのかなと思ってそこで買ってきた」

『ふぅん、そう…』

「ちょっとトイレ行ってくるからさ、これ、皿に出してくれる?」

『わかった』

「悪い、じゃあ頼む…」

そう言ってオッパはそそくさとリビングからいなくなってしまった。

きっと私にまた何か言われると思って逃げたのね…。

オッパとオッパのお母さんは、それはそれはもう仲良しで…彼女である私が嫉妬するほどに仲がいい。

だから話に夢中になって店の前を通り過ぎるなんて、まぁオッパならありえない話ではない。

それにしても、、、どうしてこうもそそっかしいんだろう?

ステージの上のオッパは、なんていうか…カリスマ的なオーラを放っていてすごくかっこいいのに。

なのに普段のオッパは落ち着きがなくて、ものをすぐに壊しちゃったり、忘れ物やなくし物が多くて…

”脳セク”なんて笑っちゃう。

私に言わせればただの5歳児でしかない。

だってオッパはかなりのママボーイだもん。

お酒飲んでちょっといい雰囲気になって、いざ、、、!ってときにお母さんから電話がかかってくると「あっ!オンマからだ!」って喜び勇んで電話に出ちゃうんだから。

そこはさ、電話は無視して続けようよ!って思ったことは数知れず…。

オッパの長電話に辟易してすっかり萎えた私は、怒ってオッパをリビングに残したまま寝室に立てこもり、ドアの前にものを置いてオッパが中に入れないようにしたこともある。

でも、オッパが無理やりドアを開けようとしてドアを壊して以来、それはやめることにした。

修理代がもったいないから。

ただでさえあれこれ壊して買い直してるんだし…。

オッパがお母さんと電話をしている最中に、なんとかして邪魔してやろうと試みたことだってある。

だけどそれは全て無駄でしかなかった。

結局何をしてもオッパはお母さんとの電話が始まると何も目に入らないし、耳にも届かない。

どうあがいてもお母さんには勝てないんだ、そう悟った私は無駄なあがきはしなくなった。

だから、オッパが電話に夢中になってお店の前を通り過ぎてしまった、という話を聞いても、なんというか…はいはい、オッパはお母さんが一番だもんね…ってくらいの気持ちにしかならなかった。

でもオッパは私に何か言われると思ったんだろうな。


…最近の私って、なんか彼女っていうよりもお母さんみたいだよなぁ。

しかも私の方が年下。

オッパがすごく真面目な話をすると、私は頭の中がハテナだらけになって、気づくと初めて聞く音に首をかしげる犬みたいになってることがある。

そういう時、オッパは私を抱き寄せておでこにちゅっとキスをして

「ふふ…」

って笑う。

『バカにしてるでしょ…』

と私が拗ねると

「全然」

そう言ってまた私のおでこにキスをしてぎゅうっと抱きしめてくれる。

オッパのがっちりとした胸に抱きとめられると、あぁ、私はオッパの彼女なんだなって改めて思ったりもする。


とは言え…。

そういう時間よりも、私がお小言をいう時間の方が圧倒的に多い。

それだけオッパは落ち着きがなくてそそっかしい。

いつもいつも、私はお小言ばっかり…。

だから、今もオッパは私にガミガミ言われるのがいやでトイレに逃げたに違いない。


…そう思ったら、なんだか急に悲しくなってきた。

だって…こういうのって、よくないよね。

彼女じゃなく母親みたいになっちゃうのって…ふたりの関係がマンネリ化してきた証拠のような気がするもん…。

もうオッパにガミガミいうの、やめようかな…。

私は母親じゃなくて彼女なんだから。

そうだよね、そうだよ。

私は母親じゃないんだから…。


唇を噛みながらオッパが買ってきてくれたケーキとマフィンをお皿に乗せてリビングのテーブルに運んだ。

『はぁ…』

と小さくため息をついて顔をあげると、

『わぁ…』

目の前には私の大好きなビタミンカラーのお花の大きな花束が…!

『オッパ…これは…?』

「プレゼント」

『いや、プレゼントなのはわかるけど…今日は何の日だっけ?』

「別に何の日ってわけでもないけど」

『じゃあどうして…?』

「ただ、、、きれいだったから…」

『きれいだったから買ってきたの?』

「この花見たらお前の笑顔が思い浮かんだ。だから、、、あぁ、もう、、、」

オッパは恥ずかしそうに微笑み、肩をすくめた。

オッパのほっぺのえくぼを見たら、私の中に渦巻いていたモヤモヤが一瞬で吹き飛んで…

『オッパ、ありがと…!』

私花束を持ったまま、オッパに抱きついた。

「おっ、、、」

『オッパ、ありがとう…。素敵なプレゼントありがと!嬉しい…!』

「ふふふ…なんか照れくさいな…」

私はオッパをぎゅうっと強く抱きしめながら

『大好き…』

と呟いた。

「ん?なんて?」

『だーいすきーって!言ったの!ちゃんと聞いててよね!!』

「ふふふ!ちゃんと聞こえてたよ、聞こえないフリしただけ〜…」

そう言ってオッパは、私の額に軽くちゅっとキスをした。

私がオッパを見上げると、オッパは私の顔を覗き込むようにちょっと背を丸めて…今度は唇にキスをしてくれた。

『オッパ…オッパは?私のこと、好き?』

「もちろん」

『…もちろん?』

「お前が一番…」

『…もぉ!オッパは女心が全然わかってないっ!!』

「え?いや、一番て言ったけど...?」

『いや、そうじゃなくて!こういう時は大好きだよとか、愛してるよとか!もっと分かりやすく言わなきゃ!』

「あぁ、ごめん…」

『ごめんじゃないよっ!もうっ!!』

また怒り出した私に、オッパは苦笑いをしながら再び私の額にキスをして

「…その怒った顔もかわいいよ」

って言って、私を強く抱きしめた。


空気が読めない、女心がわからないオッパに腹を立てていたはずだったのに。

オッパの力強いハグで、私の胸はきゅぅんと締め付けられて、、、ドキドキが止まらなくなってしまった。

『…オッパ、ずるい…』

私がそう囁くと、オッパは私の耳元で

「それはお互いさまだ...」

と言って小さく笑った。

そしてもう一度、私の額にキスをして

「ケーキ食べよっか」

と言ってにっこり笑った。

『うん!食べよ!』

私は花束をそっとテーブルの上に置き、オッパとふたり並んで座ってケーキを食べた。

『オッパ、あーん…』

「あ〜ん…」

『どう?』

「おぉ、、、お客が多かっただけある!めちゃくちゃうまい!」

『あっ、やだ、オッパ、口から飛んだよ、、、、』

「あ、ごめん…」

『もぉ〜…口に入れた直後に喋るからだよっ』

「いやぁ、この感動を一秒でも早く伝えたくて、、、」

そう言ってえくぼの出る笑顔を見せたオッパに、私はまた

『ふふっ、、、』

と笑い出してしまった。

そんな私に釣られたオッパも

「…ふふふ」

と笑い出して…

『うふふふふ…』

私も笑いが止まらなくなってしまった。

笑いが止まらなくなった私を抱きしめながら、オッパはまた、私の額にちゅっとキスをひとつ…。



くだらないことで怒ったり落ち込んだりすることもあるけれど、こんな風に不意打ちで”愛情表現”してくれるオッパが、私は大好きだ。


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(画像拠出:https://woman.mynavi.jp)


オッパはいつも、私のおでこにキスをする。

唇じゃなくおでこにキスをするのは、やっぱり私たちの関係が「恋人」から「親子」みたいになってきちゃった証拠なんじゃないかって、悩んだりもしたけれど。

でも、ねぇ、知ってる?

おでこにキスをするのは、恋愛感情だけじゃなく、親友みたいに相手を信頼する気持ちの現れなんだって。

それを聞いて

『やっぱ私は女としての魅力が足りないのかなぁ...』

と落ち込む私に、オンニが言った。

”男女の仲は、恋愛感情だけじゃ長続きしないものだよ。お互いに対する信頼があって初めて長続きするの。つまり、、それは理想の関係ってことだよ”

って。

オンニにそう言われた時はちょっとピンと来なかったけれど。

今なら、、、わかる気がする。


オッパみたいなお仕事をしている人と付き合うのって、本音を言えば…楽じゃない。

誰かに気軽に相談もできないし、我慢しなきゃいけないことも多い。

辛い時や悲しい時、落ち込んでいる時…声を聞きたい、抱きしめて欲しい、そう思うこともある。

私たちは会いたい時にすぐに会えないどころか、数ヶ月会えないことだって多くなった。

すごく寂しい、心細いって思うこともある。

それは私だけだと思っていた。

だけど...もしかしたらオッパも同じなのかなと思ったり。


理不尽なバッシングを受けたり、自分以外のメンバーが批難の対象になることだってある。

そういう時、リーダーであるオッパはきっとすごく辛いだろうな、そばにいてぎゅうって抱きしめててあげたいのに、それができないもどかしさ…

そんな切なくて苦しい、長い長い幾つもの夜を乗り越えて、私たちはここまでやってきた。

誘惑の多い世界で生きるオッパだから…

会えない時間が長い分、不安や寂しさを感じることもある。

でもね、私は知ってる。

オッパは誠実な人だから。

だからオッパを信じて、待ってるの。



頭が良くて、ステージの上ではカリスマオーラを放ちながらキラキラ輝く最高のリーダー。

でも、私の前では...落ち着きがなくて、忘れ物が多くて、空気の読めないママボーイ。

だけど...えくぼが最高にかわいくて、優しい私のオッパ。

おでこへのキスは”信頼の証”。

ふたりの絆を深める、魔法のキス...


ねぇ、あなたの彼氏はどう???



-おしまい-










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