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アイドルか新海誠か百合が好きなら『花とアリス殺人事件』を観てくれ


ここ数年間、特に5年間のアニメのトレンドを振り返ってみると

・アイドルアニメが定着
・新海誠監督がブレイク
・百合が市民権を得た

……という点が挙げられると思う(※私調べ)。

そして、この3つをすべて網羅したアニメがちょうど5年前に公開された。
それが『花とアリス殺人事件』だ。
オタクは花アリを観てほしい。

※本記事には『花とアリス』『花とアリス殺人事件』に関するネタバレが一部含まれます。結末に関する描写には言及していません。



この記事は

「クソじゃないアニメ Advent Calendar 2020」1日目の記事です。

クリスマスに向けてリレー形式で記事を書いていく企画です。



花とアリス殺人事件とは

石ノ森学園中学校に転校してきた中学3年生のアリスこと有栖川徹子は、1年前に「ユダが、4人のユダに殺された」という3年1組に関するうわさを耳にする。彼女は自分の家の隣の屋敷が「花屋敷」と呼ばれ、この辺りの中学生たちを怖がらせていることも知る。隣家の住人のハナならユダについて何か知っていると聞かされたアリスは、花屋敷へ足を運び……。

花とアリス殺人事件 (2015) - シネマトゥデイ
https://www.cinematoday.jp/movie/T0019599


映像美あふれる作品で有名な映画監督・岩井俊二氏の唯一の長編アニメ映画。2015年公開。
花(荒井花)は鈴木杏、アリス(有栖川徹子)は蒼井優が演じた。
2人が出会い、”ユダ”を探して旅に出る(といっても東京都内だけど)。
あらすじを読んでなんとなく分かるかもしれないが、作中で本当の殺人事件は起きないので安心してください。主人公たち中学生だし。

殺人事件でない無印の『花とアリス』はキットカットのウェブサイトで公開された短編作品として2003年に配信。その後、長編映画として翌2004年にリメイクされた。
これは『花とアリス』の続編でありその前日譚にあたる。
といっても、実写の花とアリスを観たことが無くても大丈夫。私も初見のときは実写見てなかったし。

ただ、実写映画の監督がつくったアニメ映画なだけあって、
・作画に違和感(いわゆる萌え画ではない)
・キャストがプロの声優ではなく俳優(ジブリにありがちなやつ)、というか実写の配役そのまま
……といった点でとっつきにくいのは否めない。

だが、今作はそれを補って余りある、むしろこの(一見)欠点(に感じる点)こそが魅力なのだ。




ぬるぬる動く

今作は「ロトスコープ」という技術を用いて作画しているという。

実際に撮影した映像をトレースしてアニメーションを制作する手法。実写の動きをトレースしているために大変精巧な動きを見せることが出来る。 しかし、1コマ1コマを手作業で追いかけるため、非常に時間のかかる作業でもある。
ロトスコープとは - デジタルハリウッドの専門スクール(学校)


実写の映像が先にあり、それを基にアニメーションにしたので、やたらとぬるぬる動く。完成度は高いが、普通のアニメに見慣れていると違和感はぬぐえないし、事実、同じ手法でつくられた『惡の華』も同じような批判を受けた。

しかし、手法は全く違うが、同じようになめらかな動きのアニメは近年になって増えている。3DCGアニメだ。

アイマスやラブライブのライブパートも同じ。

私が花とアリス殺人事件を初めて観たときは、正直この作画は好きではなかった。
でも、けもフレやバンドリ、ラブライブを一通り観てから改めて見直すと、決して不自然ではなくなる。むしろこの描き方がいいと思えてくる。


あとこれもロトスコープでつくったらしい。書記がぬるっとしてる↓




新海誠

2010年代最大級のヒット作といえば『君の名は。』だろう(この間鬼滅が抜いちゃったけど)。
この君の名は。のエンドロールで、新海誠監督は”Special Thanks”に岩井俊二監督の名前を記している。

2人は何度かこのように対談している。美しい映像美や透き通るような世界観はそれぞれの共通点といえる。


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Youtubeより


花アリの背景画は新海作品に負けず劣らず美しい。新海誠作品が好きな人は花アリも楽しめると思うし、最新作『ラストレター』など岩井監督のほかの作品にもきっとはまる。




百合

2010年代後半は百合の時代になった(※個人の感想です)。

百合は女性同士の恋愛ととらえられることが多いが、その定義は多様だ(これを突き詰めると戦争が起きる)。
その中でも、一般的かつ広い定義に「女性同士の関係性を描いた作品・ジャンル」という考え方がある。

もちろん花とアリスは恋愛関係にないし、本作(中学生)の後の花アリ(無印=高校生)では1人の男子高校生の恋を巡って争うことになる。

ところで、岩井監督はなぜ11年越しに続編をつくったのかという問いに、こう答えている。

何となく、前作は『友情の終わり』を描いていた気がしており、そうしたら、『友情の始まり』はどうなるのか、自分の中で気になったんだと思います。

岩井俊二監督に聞く、『花とアリス』なぜ実写からアニメに? - クランクイン!

もうこれ百合じゃん。


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Youtubeより

この作品では2人が出会い、”ユダ”という「殺された」はずの男が生きているかを確かめるため、本人を探しに旅に出るという『スタンドバイミー』のような一種のロードムービーだ(もちろんドラ泣きじゃない方)。


そして、そもそも今作を実写ではなくアニメとして制作した理由として、監督は前出の記事の中でこう述べている。

「アニメを選んだ理由ですが、友情の始まりを描くにあたり、当初の花とアリスの設定は小学生でした。また、(蒼井)優や(鈴木)杏にお願いするにもアニメだと声だけでいいと思っていたので、最初からアニメを想定していました。僕は、アニメ全般が好きなわけではありませんが、元々アニメは好きでしたし、自分でも絵を描くので、やってみたい、動かしてみたい、という想いはずっと持っていました」

2015年2月の公開当時で蒼井優は29歳、鈴木杏は27歳。
小学生はもちろん、実際の設定である中学生を演じるのは難しい。
だが、アニメなら2人の「若さ」を映像作品として再現でき、映画として永遠に保存できる。エモじゃんこれ。




まとめ

あるとき私は映画を2本立てで上映する形式の名画座に行きました。
目当ては前半に流れる作品の方。
前半が終わって、次に始まったのが『花とアリス殺人事件』でした。

当時は岩井俊二の名前も知らず、入場料ももったいないしとりあえずいるだけいるかー、という程度の気持ちで観ました。
しかし、そこから美しい音楽と無限の可能性を感じるような背景描写、そして女子中学生2人のロードムービー、女子中学生2人の”””関係性”””が怒涛のように流れてきました。なんだこれは。この作品と出合ったときの”””感情”””をいつか伝えたい――そうずっと思っていました。

本作を観た後に『花とアリス』はもちろん、岩井監督の『打ち上げ花火』(アニメ化じゃない方)や最新作『ラストレター』を観て、(映画にはあまり詳しくないですが)岩井作品にもはまりました。

そして、この記事を書くにあたって花とアリス殺人事件を観返しました。
なんというかあの時の感情は色褪せないし青春映画だ。実写もそうだけど蒼井優さんも鈴木杏さんも若い。山里……。

アイドルアニメか新海誠作品か百合が好きなら、というかどれに当てはまらなくても一度は観てほしい。そう願っています。

花アリはいいぞ。




リンク

NetflixやHuluなどでも配信中。


↑実写の短編版『花とアリス』はYoutubeで公開されています。




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