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月夜のインク

 その夜から月の記録屋は、ときどき流星の記録屋のところへやってくるようになった。月は一晩に一度だけ記録してしまえば暇になるから、と。流星の記録屋は月の記録屋がやってくることを不思議に思ったが、ときどき月の記録屋が話しかけてくることはあっても特に邪魔にはならないので何も言わなかった。

 あるとき月の記録屋は、月のインクと夜空のインクが混ざってしまわないのが不思議だと言った。流星の記録屋は、そう言われるまでそれが当たり前だと思っていたのだが。そのかわり流星の記録屋が持つペンでは、まだ夜空のインクが残っているうちに月のインクを足すと月のインクを使い切るまでは流星の行方を夜空の色で記録することはできなかった。

 ふと思いついて流星の記録屋が夜空のインクが残っているうちに羽ペンの先を月に浸して振ると、月のインクと夜空のインクは混ざり合って月夜の色に変わった。

 星が一つ、流れた。

 流星の記録屋が大きな桜色の本へ流星の行方を記録すると、月はよりいっそう輝いて月の記録者はうれしそうに笑った。

 月の記録屋が隣に座っていいかと尋ねたとき、流星の記録屋はそういえば月の記録屋はいつも立ったままだったと思い出した。流星の記録屋は月の記録屋のために少し場所を開けながら、月の記録屋に自分から座るように言えばよかったなと思った。


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